サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
「転生、でござるか?」
俺の問いかけに、ユキカゼは深く頷いた。
「左様。元々人間であった者が悪魔となる。それを『転生』と呼んでおるようでござる」
ユキカゼは指を一本立て、説明を続ける。オンミツ部隊筆頭としての、一分の隙もない報告口調だ。
「近年、この転生悪魔が増えておるらしいでござる。元人間であるがゆえに、人間社会への適応力が高い。かくして悪魔は人間社会の深部へと根を張っておるのでござるよ」
「…マジかよ」
背筋に冷たいものが走った。ただでさえ人間と同じ外見だと言うのに、元人間だと? 価値観も常識も人間と同じで、しかも魂を刈り取る目的で街を歩いているのだ。
(あいつらにとっても、俺たちもまた「獲物」に見えているってことか)
ふと、自分の家臣たちの顔が浮かんだ。エレンにレオーネ、マンモスマンにガーフィール、レイス。彼らもまた人間社会に溶け込んで生活している。正体を隠して、日常を装って。その境遇がどこか重なりそうで、俺は無意識に拳を握りしめた。
「ですが安心なされよ、太郎殿。誰もが悪魔を視認できるわけではないでござる」
「どういうことだ?」
「悪魔という存在は、欲望の強い者、あるいは極限の困窮の中にいる者ほど強く認識できるのでござる」
「…つまり、足元がおぼつかなかったり、喉から手が出るほど欲しがってる奴の方が、悪魔の姿がハッキリ見えるってことか?」
俺は眉をひそめた。なんて嫌らしい仕組みだ。弱っている人間ほど、悪魔の甘い言葉が耳に入りやすいってわけか。まるで追い詰められた人間の弱みに漬け込む寄生虫みたいじゃないか。
「まあ、危険なのは間違いねえな」
「加えて、身体的な特徴も申しておきましょう」
ユキカゼが背中を反らした。
「彼らは背中にコウモリのような翼を持っておる。空を飛ぶことも可能でござる」
「コウモリの翼?」
「左様。ただし普段は体内に引っ込めておるらしいでござる。戦闘時以外は見えぬようにな」
「…体内に引っ込める?」
俺は呆気にとられた。
「便利だな、おい! 飛びたい時に飛べて、要らない時はスッカリ隠せるってか? ズルいだろ、それ」
半分呆れ、半分感心する。鳥人間でもない限り、背中から翼が生えてるのがバレるのがオチだろうに、出し入れ自由とはたげたげな奴らだ。ジューマンの本能覚醒とはまた違う、術式的な身体操作ってやつだろうか。
「そして最後に、言語能力についてでござる」
ユキカゼが人差し指を立てた。
「彼らは全ての言語を共通のものとして捉える能力を持っておるでござる。どこの国の言葉も、彼らにとっては母国語のように聞こえ、話せるらしいでござるよ」
「はっ」
俺は短く息を吐き出した。
「なるほどな。それでユキカゼ、お前がこの世界の言葉に支障なく対話できたのも、あるいは俺がお前とこうして話せているのも、そういう類いの理屈が働いているからなのか?」
「さようでござる。拙者たちが話す言葉も、この世界の基準に合わせて自動的に変換されておる可能性が高いでござるな」
納得がいった。異世界から来たはずのユキカゼが、日本語だろうが何だろうが普通に会話できていた違和感が、これで氷解したというわけだ。翻訳機付きの生命体、それが悪魔ってやつか。
「転生による社会浸透、欲望に反応する認識機構、出し入れ自由の飛行翼、そして言語の完全互換」
俺は机の上の資料を指先で弾いた。薄っぺらい紙切れの山が、今は少しだけ分厚くなった気がした。
「悪魔の実態と特性、ざっとこんなところでござる」
ユキカゼが締めくくった。
俺は大きく息を吐き出し、椅子の背もたれに深く体を沈めた。
(情報が足りないと思っていたが、一気に重い情報が降ってきやがったな)
悪魔。人間社会に紛れ込み、欲望に食らいつき、自由に空を飛び、言葉を操る。童話の怪物とは訳が違う。現実に根を下ろした捕食者だ。
情報の整理は、一応ついた。
俺はユキカゼを見据え、報告が終わったことを合図するように小さく頷いた。
「……もう一つ、気になることがあるでござる」
ユキカゼの狐耳が、ふわりと伏いた。
明るかった声がひとつ低くなる。まるで夜の帳が下りるように、部屋の空気がきゅっと締まった。俺の背筋もそれにつられて伸びる。
「悪魔の中には、他の種族から悪魔になる者もおる。それは先ほど話した転生とは少し違うでござる」
「少し違う?」
「左様。人が悪魔になるのではなく、元々別の種族だった者が悪魔の……ええと、力か器かそういったものを得て、悪魔となる場合があるのでござる」
ユキカゼは、自分の言葉を選ぶように数回まばたきした。オンミツ部隊筆頭がこれほど慎重になるのは相当に核心へ近い話だからだ。
「その際に与えられるのが、『悪魔の駒』でござる」
――駒。
その単語が鼓膜を叩いた瞬間俺の全身が凍りついた。比喩ではない。指先の感覚が引いていき、心臓が一瞬止まったようにすら感じた。
(悪魔の、駒?)
「悪魔の駒は、その者の資質や特性に合わせて適正数が与えられるらしいでござる。適正が高い者ほど与えられる数は少なくて済む。これによって、悪魔は自分の眷属……いや、配下を増やしていくのでござる」
ユキカゼの声が、静かに続く。だが俺の耳には遠い場所から響いてくるようにしか聞こえない。
「そして、その駒を得た者は悪魔としての力を得る。元の種族の特性を残したまま……でござる」
一拍。
ユキカゼが、青緑色の瞳でまっすぐに俺を見た。
「太郎殿。これは拙者の推測にすぎぬが」
狐耳が、そっと前に傾く。
「その悪魔の駒は、太郎殿の王国の駒と……似ておるように感じるのでござる」
呼吸が、止まった。
頭の奥で、何かがパチンと音を立てる。いや繋がったのだ。断片的だった情報のピースが、無理やりに一つの絵を描き始めようとしている。悪魔。駒。種族の力を保ったままの転生。資質に応じた適正。
(俺の、王国の駒も……)
胸の奥が、ざわざわと騒ぐ。体が熱くなる。額に薄く汗が浮かんだ。俺の神器・王国の駒。王者の資格と融合しジューマンの本能と力を引き出す、王としての力。俺が仲間と共に戦うための絶対の証明。
それが、もし。
悪魔の駒と同じような理で動いているのなら。俺がやってきたことは、何を意味する?
「……根拠は、あるのか」
やっとの思いで、声を搾り出した。掠れた声だ。王として情けない。
ユキカゼは小さく首を傾げた。
「確たる証拠はないでござる。ただ、情報を集めれば集めるほど似ていると思えたのでござる。資質を見抜くこと、力を託すこと種族や個の力を活かすこと……」
ユキカゼが言葉を切った。
机の上に並んだ薄い資料の山が無言の圧力を放っている。ここに載っているのは断片だ。だが、その断片が今俺の神器に静かに突き刺さろうとしている。
俺は、自分の胸に手を当てた。
王国の駒の気配はいつも通り静かだ。だがその静けさが、妙に重い。
「悪魔の駒と似ている、か」
喉から絞り出した声が、静かな部屋に溶けていく。
時計の秒針が、チチチチ、と刻む音だけがやけに大きく響いた。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア