サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
「ま、名乗ってなかったな」
男が言った。まるでコンビニで会計した後「あ、ポイントカード忘れた」と言うくらいの軽さだ。
「俺はアザゼル。堕天使の総督をしてる」
一瞬、時が止まった。
アザゼル。
その単語が脳髄を直接ハンマーで殴られたように響いた。堕天使の総督。三大勢力の一つ、堕天使のトップ。そんな化け物が、なんでこんな宵越しの銭湯帰りみたいな格好で、深夜の住宅街に立っているんだ?
「は…?」
喉から空気が漏れる音しか出ない。冗談だろ。嘘だろ。だが男の目は笑っている。俺の魂が凍りついて震え上がるのを楽しんでいるような、冷酷でいて爛々とした目だ。
「神器の研究が好きでね。いろんな種類のを集めてるんだよ。で、お前のその『王国の駒』とやらは、俺のコレクションリストの最上位に君臨しそうな逸品だ」
コレクション。俺の神器を、俺の存在を、モノ扱いしやがった。この野郎。だが反撃できない。目の前の男は暴力の塊だ。俺が息を吸い込むよりも早く、俺の首をへし折り、腹を抉り、四肢を引きちぎる能力を持っている。それが本能が告げている。
「証明してやるよ。俺が堕天使だってことを」
男が背中を向けた。いや、背中を見せた。
次の瞬間、背中が裂けた。
グチャリという肉が千切れる音と共に、浴衣が内側から爆ぜた。月光を背に、黒い影が膨張する。コウモリの翼。漆黒の、禍々しい、そして恐ろしく美しい翼が、男の背中から生え揃った。
月光が翼の膜を透かす。血管が浮き出たその翼は、生物学の枠を超越した暴力的な造形だ。夜空を切り裂くような威圧感。人間が絶対に到達できない領域に棲む捕食者の証明。
「…ッ!」
背後でユキカゼが息を呑むのが分かった。狐耳が痙攣するように震え、尻尾が怯えて足に巻き付いた。俺も同じだ。足が震えている。失禁しそうだ。それくらいの恐怖だ。これは次元が違う。デスガリアンとも、今までの敵とも、生き物としての格が違う。
「じゃあな、ジュウオウイーグル。また会おう」
翼がはためいた。
ドォン!!
風圧が俺たちを叩きつけた。砂埃が舞い、目が開けられない。俺とユキカゼは無様に腕で顔を覆うしかなかった。
風が止んだ。
恐る恐る目を開けると、男はもういなかった。
夜空の遥か彼方、月を背にした小さな黒い点だけが、ゆっくりと夜の闇へと溶け込んでいく。
呆然とした。
ただ呆然と、空を見上げることしかできない。
「…行ったでござるか」
ユキカゼの声が、震えていた。
「ああ…行った」
俺の声も震えていた。
街灯の下に残されたのは、俺とユキカゼと、砕け散ったプライドと、底冷えする恐怖だけだ。
堕天使の総督アザゼル。三大勢力の一角。そんな化け物が、俺の正体を知っている。俺の神器を狙っている。
「クソッ…」
震える拳を握りしめた。
夜はまだ長い。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア