※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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止まった秒針と来たる影

会議は、順調に進んでいた。

 

順調に、というのは俺たちにとって都合が良かったという意味だ。三大勢力の代表者がそれぞれの勢力の現状を報告し、相互の非干渉項目を確認し、今後の協定の更新について議論する。俺たちは第四の代表として、発言こそ少ないものの、円卓の一角に席を得ていた。

 

(悪くない)

 

ヘルメットの中で、俺は少しだけ安堵していた。異世界の代表として認められた。中立の立場を維持する。それが俺たちの方針だ。ユキカゼもエレンも静かに控えている。ユキカゼは時折狐耳が動いて周囲の気配を探知している。エレンは壁に寄りかかりそうになりながらも、一応の礼儀を保っている。

 

リアス・グレモリーが駒システムの運用方針について説明を続けている。アザゼルが茶々を入れる。ミカエルがそれを諌める。円滑なやり取りだ。三大勢力の会議。この世界の秩序を決める場。俺はその一角にいる。

 

だが。

 

違和感が、あった。

 

最初は気のせいだと思った。

 

蝋燭の火が、揺れていない。

 

いや揺れている。揺れているはずだ。だがその揺れが、何かおかしい。同じリズムで、同じ角度で、まるで録画された映像をループ再生しているように揺れている。

 

(何だ)

 

視線を上げた。

 

円卓の向こう。リアス・グレモリーの紅髪が、揺れずに静止していた。

 

空中に浮かんでいる。髪の毛一本一本が重力を忘れたように、ふわりと浮いている。

 

ミカエルの翼の羽根が、一枚一枚空中に固定されている。アザゼルが頬杖をついたまま動かない。瞬きすらしない。

 

(止まった)

 

全身が総毛立った。

 

時間が、止まった。

 

「」

 

声が出ない。いや出ているはずだ。だが空気が震えない。音が伝わらない。俺の声はヘルメットの中で反響するだけで、外に出ていない。

 

足音もない。心臓の音だけが、ヘルメットの中でドクドクと響いている。

 

(何が起きた。時が止まったのか。誰が止めた)

 

パニックが喉の奥から噴き上がってくる。だが飲み込む。飲み込んで、周囲を確認する。

 

ユキカゼ。止まっていた。黄色いアーマーを纏った姿が、一歩前に出た状態で固まっている。狐の装飾が静止している。尻尾ブレードが空中で止まっている。

 

エレン。止まっていた。壁に寄りかかりそうな姿勢で。気だるげな表情が、ヘルメット越しに見える。その表情が固定されている。

 

俺だけが動いている。俺だけが、この停止した世界で意識を持っている。

 

なぜ。

 

「落ち着け」

 

声が、来た。

 

円卓の向こうから。

 

アザゼルの声だ。だがアザゼルの体は動いていない。頬杖をついたまま。動いていない。

 

なのに声だけが聞こえる。

 

「これ、俺の仕業じゃないぞ」

 

アザゼルの声だった。だが唇は動いていない。思考が直接伝わってきているのか。いや違う。アザゼルの声は、この停止した空間の中で何らかの手段で俺に届けられている。

 

「アザゼル!お前なのか」

 

「ああ。俺も動けない。だが思考だけは残ってる。お前も同じ状態だろ」

 

「何が起きている」

 

「分からない。だが一つだけ分かる」

 

アザゼルの声が変わった。軽薄な研究者の声ではない。堕天使の総督の声だ。戦場で部下に命令を下す指揮官の声。

 

「禍の団だ」

 

禍の団。

 

その名前が、俺の背筋を凍らせた。聞いたことはない。だがアザゼルの声色が、その名前の重さを雄弁に語っていた。

 

「禍の団だと? 何だそれは」

 

「この世界の全勢力の敵だ。三大勢力のどれにも属さない。全てを引っ掻き回す連中。和平会議を狙うなら今しかない」

 

「和平会議を狙う? この会議をか?」

 

「そうだ。三大勢力が一堂に会する機会なんて滅多にない。ここを潰せば、この世界の秩序は崩壊する。奴らにとっては絶好の機会だ」

 

(会議を潰す。つまり俺たちごと全員を殺すってことか)

 

考えがまとまる前に、感覚が先に反応した。足元の石床が、微かに振動している。時間が止まっているのに振動だけが伝わってくる。おかしい。矛盾している。だが確実に揺れている。

 

「来るぞ」

 

アザゼルの声が低くなった。

 

「何が?」

 

「知らん。だがデカい。俺の感知能力が悲鳴を上げてる。お前も感じてるんだろ。足元の揺れ」

 

感じている。確かに感じている。だがその揺れは、時間停止の世界でどうやって伝わっている。

 

「時間が止まってるのに振動だけ伝わる。それが意味するのは」

 

「発生元が、この時間停止の規模すら上回る力を持ってるってことだ」

 

アザゼルの声に、初めて焦りが混じった。

 

「ちっ。禍の団のバカ共が。こんな時に」

 

振動が強くなった。

 

石床が軋む音が聞こえる。だが蝋燭の火はまだ止まったままだ。時間は止まったまま。だが揺れだけが、狂ったように強くなっていく。

 

ギギギギ。

 

石床に亀裂が走った。

 

亀裂から光が漏れている。いや光じゃない。闇だ。漆黒の闇が、床の亀裂から噴き出している。

 

「来る」

 

アザゼルの声が切迫した。

 

「おいジュウオウイーグル。お前の戦士としての本能を信じろ。何が来るか分からないが、今から俺が時間停止を解く。解いた瞬間に備えろ」

 

「備えろって何にだ。何が来るんだ」

 

「俺にも見えない。だがデカい。デカすぎる。お前の鷹の目でも捉えきれないくらいデカい」

 

鷹の目でも捉えきれない。

 

その言葉が、俺の脳髄を焼いた。

 

鷹の目は、索敵能力の頂点だ。それでも捉えきれない。それが来る。

 

「準備はいいか」

 

「いつでも」

 

「解くぞ。三、二、一――」

 

カチッ。

 

音が、戻った。

 

蝋燭の火が揺れた。リアス・グレモリーの髪が落ちた。ミカエルの翼が動いた。アザゼルが頬杖を解いた。ユキカゼが「何でござる」と叫びながら体勢を立て直した。エレンが「…え、今何か止まってませんでした」と呟いた。

 

全員の意識が戻った。だが戻った瞬間に、全員が気づいた。

 

足元が揺れている。

 

亀裂が走っている。

 

闇が噴き出している。

 

「何だこれは!」

 

リアス・グレモリーが叫んだ。

 

「禍の団だ!」

 

アザゼルが立ち上がった。堕天使の総督の顔だ。浴衣の合わせから光が溢れている。臨戦態勢。

 

「全員迎撃態勢! 来るぞ!」

 

来る。

 

何が。

 

その何かが、来た。

 

広間の天井が、砕けた。

 

石の天井が、内側から爆砕された。粉砕された石片が雨のように降り注ぐ。蝋燭の火が一斉に消えた。暗闇。

 

だが暗闇の中で、何かが見えた。

 

上から、何かが覗いている。

 

目だ。

 

一つの目だ。

 

いや違う。目は一つじゃない。目が、たくさんある。暗闇の中に、無数の光点が浮かんでいる。それが全部目だ。赤い目。黄色い目。青い目。緑色の目。大小様々まざり合った目が、天井の破壊された穴から覗き込んでいる。

 

デカい。

 

デカいなんてもんじゃない。

 

巨大だ。

 

広間の天井を破壊して覗き込んでいるのに、まだ全体が見えない。穴の向こうに、もっと先がある。もっと上がある。もっと大きい体がある。見えているのはほんの一部だ。氷山の一角どころじゃない。氷山の角の先っちょくらいしか見えていない。

 

(何だこいつ)

 

思考が凍りついた。鷹の目がフル稼働している。ジュウオウイーグルの索敵能力を最大まで引き上げている。だが、全体像が見えない。大きすぎて、視野に入りきらない。

 

「馬鹿な…」

 

ミカエルが息を呑んだ。天使長が言葉を失っている。

 

「こんな個体が存在するはずがない」

 

「だが存在してる」

 

アザゼルが歯を食いしばった。

 

「禍の団が隠し持ってた兵器か。それとも誰かが作り出したのか。どちらにせよ」

 

アザゼルが、背中からコウモリの翼を展開した。翼が闇の中で光る。

 

「全員構えろ。でかいぞ」

 

「やるしかないか」

女王は誰にする?

  • アルファ
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