サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
会議は、順調に進んでいた。
順調に、というのは俺たちにとって都合が良かったという意味だ。三大勢力の代表者がそれぞれの勢力の現状を報告し、相互の非干渉項目を確認し、今後の協定の更新について議論する。俺たちは第四の代表として、発言こそ少ないものの、円卓の一角に席を得ていた。
(悪くない)
ヘルメットの中で、俺は少しだけ安堵していた。異世界の代表として認められた。中立の立場を維持する。それが俺たちの方針だ。ユキカゼもエレンも静かに控えている。ユキカゼは時折狐耳が動いて周囲の気配を探知している。エレンは壁に寄りかかりそうになりながらも、一応の礼儀を保っている。
リアス・グレモリーが駒システムの運用方針について説明を続けている。アザゼルが茶々を入れる。ミカエルがそれを諌める。円滑なやり取りだ。三大勢力の会議。この世界の秩序を決める場。俺はその一角にいる。
だが。
違和感が、あった。
最初は気のせいだと思った。
蝋燭の火が、揺れていない。
いや揺れている。揺れているはずだ。だがその揺れが、何かおかしい。同じリズムで、同じ角度で、まるで録画された映像をループ再生しているように揺れている。
(何だ)
視線を上げた。
円卓の向こう。リアス・グレモリーの紅髪が、揺れずに静止していた。
空中に浮かんでいる。髪の毛一本一本が重力を忘れたように、ふわりと浮いている。
ミカエルの翼の羽根が、一枚一枚空中に固定されている。アザゼルが頬杖をついたまま動かない。瞬きすらしない。
(止まった)
全身が総毛立った。
時間が、止まった。
「」
声が出ない。いや出ているはずだ。だが空気が震えない。音が伝わらない。俺の声はヘルメットの中で反響するだけで、外に出ていない。
足音もない。心臓の音だけが、ヘルメットの中でドクドクと響いている。
(何が起きた。時が止まったのか。誰が止めた)
パニックが喉の奥から噴き上がってくる。だが飲み込む。飲み込んで、周囲を確認する。
ユキカゼ。止まっていた。黄色いアーマーを纏った姿が、一歩前に出た状態で固まっている。狐の装飾が静止している。尻尾ブレードが空中で止まっている。
エレン。止まっていた。壁に寄りかかりそうな姿勢で。気だるげな表情が、ヘルメット越しに見える。その表情が固定されている。
俺だけが動いている。俺だけが、この停止した世界で意識を持っている。
なぜ。
「落ち着け」
声が、来た。
円卓の向こうから。
アザゼルの声だ。だがアザゼルの体は動いていない。頬杖をついたまま。動いていない。
なのに声だけが聞こえる。
「これ、俺の仕業じゃないぞ」
アザゼルの声だった。だが唇は動いていない。思考が直接伝わってきているのか。いや違う。アザゼルの声は、この停止した空間の中で何らかの手段で俺に届けられている。
「アザゼル!お前なのか」
「ああ。俺も動けない。だが思考だけは残ってる。お前も同じ状態だろ」
「何が起きている」
「分からない。だが一つだけ分かる」
アザゼルの声が変わった。軽薄な研究者の声ではない。堕天使の総督の声だ。戦場で部下に命令を下す指揮官の声。
「禍の団だ」
禍の団。
その名前が、俺の背筋を凍らせた。聞いたことはない。だがアザゼルの声色が、その名前の重さを雄弁に語っていた。
「禍の団だと? 何だそれは」
「この世界の全勢力の敵だ。三大勢力のどれにも属さない。全てを引っ掻き回す連中。和平会議を狙うなら今しかない」
「和平会議を狙う? この会議をか?」
「そうだ。三大勢力が一堂に会する機会なんて滅多にない。ここを潰せば、この世界の秩序は崩壊する。奴らにとっては絶好の機会だ」
(会議を潰す。つまり俺たちごと全員を殺すってことか)
考えがまとまる前に、感覚が先に反応した。足元の石床が、微かに振動している。時間が止まっているのに振動だけが伝わってくる。おかしい。矛盾している。だが確実に揺れている。
「来るぞ」
アザゼルの声が低くなった。
「何が?」
「知らん。だがデカい。俺の感知能力が悲鳴を上げてる。お前も感じてるんだろ。足元の揺れ」
感じている。確かに感じている。だがその揺れは、時間停止の世界でどうやって伝わっている。
「時間が止まってるのに振動だけ伝わる。それが意味するのは」
「発生元が、この時間停止の規模すら上回る力を持ってるってことだ」
アザゼルの声に、初めて焦りが混じった。
「ちっ。禍の団のバカ共が。こんな時に」
振動が強くなった。
石床が軋む音が聞こえる。だが蝋燭の火はまだ止まったままだ。時間は止まったまま。だが揺れだけが、狂ったように強くなっていく。
ギギギギ。
石床に亀裂が走った。
亀裂から光が漏れている。いや光じゃない。闇だ。漆黒の闇が、床の亀裂から噴き出している。
「来る」
アザゼルの声が切迫した。
「おいジュウオウイーグル。お前の戦士としての本能を信じろ。何が来るか分からないが、今から俺が時間停止を解く。解いた瞬間に備えろ」
「備えろって何にだ。何が来るんだ」
「俺にも見えない。だがデカい。デカすぎる。お前の鷹の目でも捉えきれないくらいデカい」
鷹の目でも捉えきれない。
その言葉が、俺の脳髄を焼いた。
鷹の目は、索敵能力の頂点だ。それでも捉えきれない。それが来る。
「準備はいいか」
「いつでも」
「解くぞ。三、二、一――」
カチッ。
音が、戻った。
蝋燭の火が揺れた。リアス・グレモリーの髪が落ちた。ミカエルの翼が動いた。アザゼルが頬杖を解いた。ユキカゼが「何でござる」と叫びながら体勢を立て直した。エレンが「…え、今何か止まってませんでした」と呟いた。
全員の意識が戻った。だが戻った瞬間に、全員が気づいた。
足元が揺れている。
亀裂が走っている。
闇が噴き出している。
「何だこれは!」
リアス・グレモリーが叫んだ。
「禍の団だ!」
アザゼルが立ち上がった。堕天使の総督の顔だ。浴衣の合わせから光が溢れている。臨戦態勢。
「全員迎撃態勢! 来るぞ!」
来る。
何が。
その何かが、来た。
広間の天井が、砕けた。
石の天井が、内側から爆砕された。粉砕された石片が雨のように降り注ぐ。蝋燭の火が一斉に消えた。暗闇。
だが暗闇の中で、何かが見えた。
上から、何かが覗いている。
目だ。
一つの目だ。
いや違う。目は一つじゃない。目が、たくさんある。暗闇の中に、無数の光点が浮かんでいる。それが全部目だ。赤い目。黄色い目。青い目。緑色の目。大小様々まざり合った目が、天井の破壊された穴から覗き込んでいる。
デカい。
デカいなんてもんじゃない。
巨大だ。
広間の天井を破壊して覗き込んでいるのに、まだ全体が見えない。穴の向こうに、もっと先がある。もっと上がある。もっと大きい体がある。見えているのはほんの一部だ。氷山の一角どころじゃない。氷山の角の先っちょくらいしか見えていない。
(何だこいつ)
思考が凍りついた。鷹の目がフル稼働している。ジュウオウイーグルの索敵能力を最大まで引き上げている。だが、全体像が見えない。大きすぎて、視野に入りきらない。
「馬鹿な…」
ミカエルが息を呑んだ。天使長が言葉を失っている。
「こんな個体が存在するはずがない」
「だが存在してる」
アザゼルが歯を食いしばった。
「禍の団が隠し持ってた兵器か。それとも誰かが作り出したのか。どちらにせよ」
アザゼルが、背中からコウモリの翼を展開した。翼が闇の中で光る。
「全員構えろ。でかいぞ」
「やるしかないか」
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア