サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
敵の巨体が動いた。
ぐちゃり、と。
粘液質の表皮が軋むような音を立てて無数の目が一斉に俺たちを捉える。その瞬間、背筋を走る悪寒。心臓が一つ跳ねた。
「……来る」
ユキカゼの声が、チェンジャー越しに響く。震えを必死に隠そうとしているのが手に取るように分かった。
「ああ、来るな」
俺は操縦席で手綱を握り直す。ジュウオウキングの全身に、ギュッと力が漲る感覚。まるで自分の身体が何倍にも膨れ上がったような、不思議な一体感だ。
「エレン、ユキカゼ。援護を頼む」
「……了解」
「任せるでござる!」
エレンの声は短い。だが、その短さの中に覚悟が滲んでいた。
* * *
敵の触手が迫る。
太い。太すぎる。電柱どころか、ビルの支柱みたいな太さだ。それが五本六本、いや十本以上。全方位から迫ってくる。
「ちっ――」
俺はキングソードを逆手に構え直した。正面から受けるんじゃない。流すんだ。相手の力を、殺すんじゃなく逃がす。
最初の触手が来た。
タイミングは、触手の先端が最も速くなる瞬間。そこを狙う。
ジュウオウキングの巨体がふわり、と滑った。まるで舞うように。触手の側面に沿って身体を回転させ、その勢いのまま剣を走らせる。
ザシュッ!
触手の一本が、付け根から切り落とされた。切り口から紫の体液が噴き出す。だが俺は止まらない。二本目が来る。三本目も。
「遅い」
身体を低く沈めて、二本目の触手の下をくぐる。そのまま膝で床を滑り、三本目の攻撃を紙一重でかわす。巨体なのに、動きは軽い。まるで忍者だ。いや忍者ってこんなにデカくないか。
四本目、五本目。連続で来る。
俺は剣を横薙ぎに振る。触手の先端だけを切り落とし、勢いを殺す。切り落とされた触手が床に落ちて、ビチビチと跳ねた。
「太郎さん、右!」
ユキカゼの叫び。同時に、右側から新たな触手。
見えない。しかし
「分かってる」
王国の駒の感覚が、ユキカゼの位置を教えてくれる。彼女が見ている方向。彼女が危険だと感じた方向。それが、俺の頭の中に直接流れ込んでくる。
剣を逆手に持ち替え、右へ踏み込む。振り向きざまに一閃。
ザンッ!
触手が真っ二つに裂けた。
「……すごい」
エレンの呟きが聞こえた。気だるげな声の中に、微かな感嘆が混ざっている。彼女はジュウオウシャークの姿で、長槍を構えていた。その槍が青い光を帯びている。水流のエネルギーが、槍先に集まっている。
「エレン、援護頼む」
「……分かった」
彼女の槍が、銃撃形態へ変形した。水流を纏った銃口が敵の巨体へ向けられる。
ダダダダッ!
放たれた水流弾が敵の無数の目を次々と撃ち抜く。赤、青、黄、緑。光点が一つまた一つと消えていく。だが敵は怯まない。新しい目が、どんどん生えてくる。
「キリがない……」
ユキカゼが呟く。彼女のジュウオウフォックスは、その名の通り狐の俊敏さで敵の周囲を駆け回り、攪乱している。だが決定打にはならない。
俺は操縦席で、歯を食いしばった。
敵の巨体が、大きく膨れ上がった。
まずい。何か来る。
「二人共、下がれ!」
叫んだ瞬間、敵の全身から無数の触手が一斉に放たれた。先ほどとは比べ物にならない数。五十本、いや百本以上。全方位隙間なく。
「くそっ――!」
俺はキングソードを上段に構えた。逃げ場はない。なら、斬る。全部、斬る。
チェンジャーが、俺の意思に応えるように輝いた。
『ジュウオウキング! 必殺!』
「ジュウオウ――」
俺は腰を落とす。全身のバネを、限界まで圧縮する。
「分身斬りッ!」
瞬間、ジュウオウキングの巨体が、三つに分かれた。
赤、青、紫。三体のジュウオウキングが、それぞれ別の方向へ跳ぶ。触手の隙間を縫うように、三方向から敵の巨体へ迫る。
一体目は、正面から。
二体目は、左の死角から。
三体目は、右の背後から。
三体のキングソードが、同時に閃いた。
ザシュウウウウッ!
三方向からの斬撃が、敵の巨体を同時に捉える。深紅の斬線が巨体の表面に走る。十字に。いや、三つ巴に。
敵の動きが、止まった。
無数の目が、光を失っていく。
ゆっくりと、巨体が傾く。
ドシャアアアアッ!
盛大な音を立てて、敵は倒れた。床を揺らし粉塵を巻き上げ、そして動かなくなった。
「はぁ……はぁ……」
操縦席で、俺は肩で息をしていた。分身斬りは想像以上に消耗する。全身の力を使い切ったような感覚。指先が痺れている。
だが、勝った。
ジュウオウキングの巨体が三つから一つに戻る。光の粒子が集まり、元の姿へ。
「太郎さん!」
ユキカゼが駆け寄ってくる。ジュウオウフォックスの姿のまま、尻尾をふりふりと振っている。どうやら無事らしい。
「無事か、ユキカゼ」
「はい! おかげさまで!」
「……よくやった」
エレンの声。ジュウオウシャークの姿のまま、彼女は倒れた敵を見下ろしていた。
「まさか、本当に一人で決めるとは思わなかった」
「一人じゃない。お前たちがいたからだ」
俺は正直に言った。
「援護がなければ、あの数の触手は防げなかった。二人が目を引きつけてくれたから、俺は集中できた」
エレンは少しだけ目を細めた。照れ隠しなのか、それとも単に眩しかっただけなのか。サメの尻尾が、ぴくりと動く。
「……別に。私は言われた通り動いただけ」
「それで十分だ」
俺は操縦席から手を振った。ジュウオウキングの巨体が、その動きをトレースする。ぶんぶんと大きな手が振られる。
「戻るぞ。報告しないと」
「そうですね」
ユキカゼが頷く。
「みんな、待ってますから」
「……早く帰りたい。眠い」
エレンの呟きに、俺は思わず笑った。
「同感だ」
ジュウオウキングの巨体が、ゆっくりと歩き出す。倒した敵を背に三人は元の場所へ戻っていく。
背後で、倒れた巨体が最後の光を放って消滅した。だが、もう振り返らない。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア