サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
## 五章 深夜の来訪者と狐の温もり
疲れが骨の髄まで染みている。
帰宅してからシャワーを浴びて、そのままベッドに倒れ込んだ。身体が鉛みたいに重い。分身斬りの反動が来ているのだろう。指先の痺れはまだ残っているし、肩関節がギシギシと鳴る。
天井の染みをぼんやりと眺める。
今日一日でいろいろなことがありすぎた。三大勢力の会談に化け物の襲撃。ジュウオウキングの初召喚。アザゼルとのやり取り。情報量が多すぎて脳が追いついていない。
「…眠い」
なのに目が冴える。身体は疲労で悲鳴を上げているのに、頭が止まらない。アザセルの表情。ミカエルの声。リアス・グレモリーの瞳。デスガリアンのメダル。次から次へと浮かんでは消える。
枕に顔を埋めた。
布団の冷たさが頬に気持ちいい。このまま意識を手放したい。だが目の裏で今日の光景がちらついて離れない。
カチリ。
微かな音が聞こえた。
窓だ。
俺は動かなかった。疲れすぎて首を回すのも億劫だ。だが感覚は研ぎ澄まされている。王国の駒の気配が、窓辺に何かが着地したことを告げている。
「…太郎さん」
小さな声。控えめで、少し申し訳なさそうな響き。
「ユキカゼか」
「はい。起こしてしまいましたか」
「いや。起きてた」
天井を見つめたまま答える。首を回す気力がないという本当のことは言わない。
ユキカゼが窓から音もなく降り立った。狐ジューマン特有の軽い足取り。床を歩く音すらほとんどしない。忍び足の達人だ。
「遅くに悪いんです。でも、太郎さんの様子が気になって」
「様子?」
「戦闘の後、ずっと肩を抱えていたでしょう。無理をしているのが分かりましたから」
(見てたのか。鋭いな)
ユキカゼは俺のベッドの傍らに立った。紫の髪が月光に照らされて銀色に光る。大きな狐耳が微かに動いている。心配そうにこちらを見下ろしているのが分かる。
「俺は王になる男だ。このくらいの疲れで弱音を吐くか」
「吐かないから心配なんです」
言い返せなかった。
図星だからだ。
* * *
ユキカゼはしばらく黙っていた。俺も黙っていた。部屋に時計の針の音だけが響いている。
「太郎さん」
「ん」
「横に座ってもいいですか」
「好きにしろ」
彼女がベッドの端に腰を下ろした。マットレスが微かに沈む。ユキカゼの体重は軽い。鳥の羽が乗った程度の変化だ。
「肩、見せてください」
「別に何も」
「太郎さん」
名前を呼ばれた。その声の響きに、有無を言わせないものがあった。静かだが、譲らない声。
俺は観念して上半身を起こした。
「…ほら」
シャツの襟を少しずらして肩を露わにする。ユキカゼの手が伸びてきて、俺の肩に触れた。
「っ」
冷たい。彼女の指先は冷たくて、逆に俺の肩は熱かった。分身斬りの反動で筋肉が微かに炎症を起こしているのだろう。
「ここ、腫れてます」
「…そうか」
「嘘をつかないでください。太郎さんはいつもこうです。自分のことは後回しにして」
ユキカゼの手が、肩から首筋へ滑った。指先が慎重に筋肉を解すように動く。的確だ。いや、正確には、ユキカゼだからこそ分かる場所なのだろう。王国の駒で繋がっている感覚が、俺の痛みを彼女にも伝えているのかもしれない。
「んっ…」
思わず声が漏れた。痛いのか気持ちいいのか分からない境界線。ユキカゼの指が丁寧に凝りを解いていく。
「強くやりすぎたら言ってくださいね」
「…大丈夫だ」
「我慢しないでください。それも嘘ですから」
「お前、今日やけに口うるさいな」
「あの時からずっと我慢してたんです」
あの時。戦闘が終わった後のことだろう。変身を解いてからも、俺は平気な顔をして仲間たちと話していた。肩が痛いことなんて一度も顔に出さなかったつもりだ。
(バレてたか)
「太郎さんは自分の弱さを隠そうとする。王だからって、痛いのが痛くないわけじゃないのに」
ユキカゼの声が、少し震えた。
「私たちがついてるのに」
俺は天井を見上げた。
彼女の言う通りだ。分かっている。王が倒れたら国が終わりだ。だからこそ無理をする。だが同時に、無理をして倒れた王は部下を困らせるだけだということも知っている。
矛盾している。
「…悪かった」
「謝らなくていいです。ただ、休んでください」
「休んでるだろ。こうしてベッドにいる」
「体が休まってないです。心も」
反論の余地がない。
* * *
ユキカゼの指が止まった。
「太郎さん。少し楽になってきましたか」
「…ああ。少しは」
嘘じゃない。肩の凝りは確かに幾分か和らいでいた。
「よかった」
ユキカゼが小さく息を吐いた。安堵のため息だ。その息が俺の首筋にかかる。近い。さっきより近い。いつの間にか彼女の身体が寄り添う距離まで近づいていた。
「ユキカゼ」
「はい」
「近い」
「近いですか」
「ああ」
「……近い方が、温かいですよね」
彼女は離れなかった。
むしろ、さらに距離を詰めた。ユキカゼの身体が俺の腕に触れる。柔らかい。彼女の体温は低めだったが、触れ合った面からじんわりと熱が伝わってくる。
「ユキカゼ?」
「疲れている時は、温もりが必要です」
彼女の顔が見えない。俺は横を向かなかった。見たら何かが変わってしまう気がしたからだ。
「狐ジューマンは昔からそうやって互いの体温を分け合うんです。群れで身を寄せ合って寒さを凌ぐんですよ」
「それは獣の話だろ」
「私たちはジューマンですけど、半分は獣ですから」
彼女の手が、俺の手に重ねられた。
細い指だ。戦場では鋭い爪を隠し持ち、敵の喉元を一瞬で掻き切るその手が今はただ柔らかく俺の手を包んでいる。
「太郎さんは温かいですね」
「…俺は人間だぞ」
「人間でも温かいです。特に太郎さんは」
「特別かよ」
「特別です」
即答された。
彼女の尻尾が、俺の腰に触れた。ふにふにとした感触。毛並みが柔らかい。尻尾が俺の腰に巻き付くように動く。
「…尻尾、何してる」
「暖かいでしょ」
「聞いてない」
「今聞かせました」
ユキカゼの身体がさらに近づいた。肩が触れ合う。彼女の頭が俺の肩に乗る。狐耳が微かにピクピクと動いて俺の頬をくすぐった。
「……重い」
「嘘ですね。私そんなに重くないです」
確かに重くない。むしろ軽い。でも肩に乗せられた彼女の頭の重みは、物理的なものじゃなく別の意味で俺の胸に響いた。
「太郎さん」
「ん」
「無理しないでくださいね」
「……ああ」
「王だからって、一人で全部背負わないでください」
「分かってる」
「分かってないから言ってるんです」
彼女は俺の肩から顔を上げた。近い。月光に照らされた彼女の瞳が、俺の目を真っ直ぐに見ている。
琥珀色の瞳。
揺れている。心配と、何か別の感情が混ざっている。
「私がいますから」
その言葉が、妙に直く胸に刺さった。
* * *
ユキカゼが動いた。
俺の身体を抱きしめた。
腕が俺の背中に回る。顔が胸元に埋められる。尻尾が腰にしっかりと巻き付いた。
温かい。
彼女の体温は低めだったはずなのに、抱きしめられている部分だけ火がついたように熱くなっている。
「……ユキカゼ」
「少しだけ。少しだけ、こうさせてください」
彼女の声がくぐもっている。胸元に顔を埋めたままだ。
「戦った後って、怖いんです。太郎さんが無茶をして壊れてしまうんじゃないかって。今日もずっと怖かったんです」
彼女の腕に力がこもった。
「だから少しだけ。確認させてください。太郎さんがここにいるって」
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア