サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
## 七章 終業式という名の戦場
目が覚めた時、俺の左腕には何もなかった。
当たり前だ。ユキカゼは夜明け前に窓から消えていた。音もなく。まるで最初からいなかったかのように。
残っていたのは枕元の微かな狐毛と、俺のパジャマに残った柔らかな香りだけだ。
(…夢じゃないよな)
左腕を握ったり開いたりする。感覚はある。ちゃんと動く。昨夜の温もりがまだ微かに残っているような気がするのは、たぶん気のせいじゃない。
まあいい。今はそれどころじゃない。
俺は枕元のスマートフォンを手に取り、画面を点灯させた。
日付が目に入った瞬間、背筋が凍った。
「…終業式」
今日だ。
駒王学園の終業式が、今日なんだ。
俺はベッドから弾かれたように飛び起きた。慌てて制服に着替える。ネクタイを締めながら階段を駆け下りる。トーストを口に挟みながら玄関のドアを開けた。
(王が遅刻するわけにはいかない)
だが王も電車遅延には勝てない。これはもう王権の及ばない領域だ。
* * *
駒王学園の正門を滑り込んだのは、始業ベルの三分前だった。
セーフだ。ギリギリセーフだ。
(王の余裕とはこういうことだ)
余裕なんて微塵もない。全力疾走のせいで息が切れているし、トーストの欠片が口の端にこびりついているかもしれない。
渡り廊下を歩く生徒たちの波に混じって、俺は校舎へ入った。周りの会話が耳に入ってくる。
「やっと夏休みだー」
「補講あるんだよなあ…」
「海行こうぜ海!」
夏休み。
その単語が耳に入った瞬間、足が一瞬止まった。
夏休み。
そうだ。今日は終業式だ。つまり今日が終われば、夏休みが始まる。
(夏休みか)
夏。
あの夏のことを、俺は忘れたことはない。
* * *
体育館での終業式は、いつもの通り退屈だった。
校長の訓話。生徒指導の注意事項。生徒会長の挨拶。どれも右から左へ流れていく。俺は前列から三列目の席に座り、ポーカーフェイスを保ちながら思考を別のところへ飛ばしていた。
夏休み。
その言葉が頭の中で何度も反響する。
数年前の夏。あの夏休みの最中だった。
俺と絶花は、異世界へ迷い込んだ。
ジューマンの世界。動物の耳を持つ者たちが暮らす、見知らぬ大地。空の色も風の匂いも違う、もう一つの宇宙。
あそこで俺たちは出会った。エレンに、ユキカゼに、タスクに、アムに。そしてデスガリアンという脅威と、王者の資格という運命と。
一夏の冒険。
たった一夏の間に、俺たちの世界は変わった。
* * *
(絶花)
宮本絶花。俺の幼馴染みで、俺が最も信頼する侍。
あいつは今、出身地にいる。駒王学園の中等部に転入したはずだが、本拠地はあっちだ。夏休みになれば、帰るだろう。
あいつもまた、あの夏を覚えているはずだ。
剣を握るあの手が、異世界で何度も血に濡れた。小心者のくせに、誰かを守る時だけは前に出る、矛盾した女だ。
強くなれば友達ができると信じていた時期があった。だが強くなるほど周囲が離れていった。だから今は友達を作りたがっている。
(馬鹿だな。お前くらいの強さがあれば、俺の国に入れるのに)
いや、もう入る。俺の最強の侍として。
夏休みになれば、会えるかもしれない。いや、会わなきゃいけない。デスガリアンのメダルの件もある。ジュウオウジャーとしての動きも説明しなきゃならない。
それに。
(あいつ一人で、また無理してないか)
絶花は一人で背負い込むタイプだ。俺が隣にいないと、すぐに孤独の方へ歩き出す。王として、家臣を放置するわけにはいかない。
* * \
式が終わった。
生徒たちが体育館から溢れ出してくる。歓声。笑い声。夏の始まりを告げる喧騒。
俺は人波を避けて渡り廊下を歩いていた。教室に戻ってHRを受けなきゃならないが、足取りは軽い。
夏休みが始まる。
部活の予定も、補講の日程もどうでもいい。俺にはやるべきことがある。メダルの破壊。ジューマンたちとの再会。そして。
「あいつに会う」
夏休みになれば、絶花のところへ行く。それが最初の行動になるだろう。
(絶花。待ってろよ)
夏が始まる。
俺の夏が。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア