サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
翌朝、俺たちは動いた。
故郷の山道を少し登り、人里離れた場所へ向かう。目的は一つ。ジューマンワールドへの接続点だ。
あの夏、俺と絶花が迷い込んだ入り口。王者の資格と融合した王国の駒があれば、自在に行き来できる。俺が王になった証のようなものだ。
「太郎さん」
ユキカゼが隣を歩きながら小声で言った。
「あとどのくらいでござるか」
「もう少しだ。あの杉林の先だ」
「待ちきれないでござる」
ユキカゼの足取りが弾んでいる。狐耳がピコピコと動き尻尾がブンブン振れている。故郷の空気に触れてすっかり野生化が進んでいる。
エレンは後ろを無言でついてきている。だが尻尾の揺れ方がいつもより大きい。表情は眠そうだが歩幅は速い。あれは期待している時の動きだ。
絶花は俺の左側を歩いていた。
刀を腰に帯びたまま静についてくる。何も言わないが、その歩調が俺と同じなのは昔からの癖だ。
「ここだ」
杉林を抜けた先に、それはあった。
空気が、変わる。
人間の世界の空気じゃない。もっと濃く、もっと生きた匂い。土の匂いが深い。木々の緑が鮮やかだ。風の音が違う。
ジューマンワールドへの接続点。
俺は王国の駒に意識を集中させた。掌に温かい光が集まる。チェスの駒のような形をした光が空中に浮かび、円を描いて門を形成する。
光の輪が広がり、向こう側に景色が見えた。
森だ。
ジューマンワールドの森。
* * *
足を踏み入れた瞬間、全身が包まれた。
空気が全然違う。東京でも故郷でもない。ジューマンワールド独特の、濃密な自然の息吹。肺の奥まで満たされる感覚が懐かしい。
「あぁ…」
ユキカゼが息を漏らした。
狐耳がピーンと立ち上がり、尻尾がふわっと膨らんだ。全身の毛並みが逆立つような反応だ。
「この匂い…忘れていたでござる」
「忘れるかよ」
「忘れてたでござる。体が覚えてるけど、頭が忘れてたでござる」
「どういう意味だ」
「分からないでござるか? 太郎さんは人間だから仕方ないでござるけど」
ユキカゼは地面に裸足を押し付けた。靴を脱ぎ捨てて土を踏んでいる。
「やっぱり、ここでござるね。私の足が一番しっかりするのは」
「家臣が裸足で歩くのを見て王としてどう思えばいいのか分からん」
「王は黙って楽しんでいてください」
「言うことを聞かない家臣だな」
「忠義と命令は別でござる。太郎さんの教えでござるよ」
言い返せなかった。俺の言葉で封じられた。
エレンは木の幹に手を触れていた。
「ここ…」
「ん?」
「前、来た時と同じ匂いがする」
エレンの声が珍しく柔らかい。眠そうな目が細められ、サメの尻尾がゆっくりと揺れている。
「あの夏以来だな」
「うん。久しぶり」
「懐かしいか」
「…別に。ちょっとだけ」
「素直じゃないな」
「うるさい」
エレンは木から手を離して、深呼吸をした。息を吸い込む時、彼女の鰓が微かに動いたのが見えた。鮫ジューマンの本能が、この世界の空気を受け入れているのだろう。
* * *
森の中を歩いた。
ジューマンワールドの森は人間の世界のそれとは根本から違う。木々が巨大い。一本一本がビルみたいな高さだ。葉の色が深い。緑の中に青や紫が混ざったような不思議な色彩。
地面には苔が生えていて、歩くとふにふにと沈む。柔らかい。足裏に伝わる感触が心地いい。
「太郎」
絶花が後ろから声をかけてきた。
「ん」
「ここ、前と少し変わってない?」
「変わってない。ジューマンワールドの森は数年じゃ変わらんよ」
「そうか。何だか、あの時より木が大きく見える」
「お前が小さくなったんだろ」
「ひどい言い方」
「事実だ」
「太郎!」
絶花が軽く俺の背中を叩いた。痛くはない。むしろ久しぶりの感触に、少しだけ懐かしさを覚える。
ユキカゼが前方を駆けている。
裸足のまま森の中を走り回っている。木の根を飛び越え、苔の上を滑るように、低い枝の下をくぐる。狐ジューマンの本来の姿だ。
「ユキカゼ、あまり遠くへ行くな」
「大丈夫でござる! この森の匂い、覚えているでござるよ! あっちに川があったはずでござる!」
「分かってるけど遠くなるな」
「はーい」
返事だけは元気がいい。
エレンは木陰に入って、幹に背を預けた。帽を取って日差しを顔に受けている。サメの尻尾が地面に垂れ下がってゆったりと揺れている。
「気持ちいい」
「そうか」
「ここ、日当たりがいい。昼寝に最適」
「寝るな。移動するぞ」
「あと五分」
「五秒だ」
「…三十分」
「五秒と言った」
「交渉決裂」
エレンは目を閉じた。交渉決裂で寝るな。
まあいい。少しぐらいなら。
* * *
森を抜けて進んだ。
ユキカゼが先行して道を見つけ、エレンは半分寝ながらついてきて、絶花は俺の隣を黙って歩いている。
「太郎」
「ん」
「ここからどのくらい?」
「もう少しだ。あの丘の向こうだ」
「何があるの?」
「テントが一つあるはずだ」
「テント?」
「ああ。前回ここに来た時、拠点として使っていた。まだ残ってるか分からないが」
「あのテントか。懐かしいな」
「お前も覚えてるか」
「忘れるわけない。あの中で何日寝たか」
「ああ。あのテント、小さかったな」
「小さかった。四人で寝ると肩がぶつかるサイズ」
「五人だったら地獄だな」
「あの時は五人だったけど、タスクは外で寝てたね」
「あいつは頑丈だからな。外でも平気だ」
「笑えるね」
絶花がふふっと笑った。楽しそうだ。
あの夏の記憶が、二人の間で共有される。
丘を越えた。
視界が開ける。
目の前に、それがあった。
テント。
一つだけ。
森の開けた場所に、ひっそりと設置された一張のテント。色褪せた緑のキャンバス地。ペグが地面に打ち込まれロープが張られている。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア