※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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森の中のテントと懐かしい匂い

翌朝、俺たちは動いた。

 

故郷の山道を少し登り、人里離れた場所へ向かう。目的は一つ。ジューマンワールドへの接続点だ。

 

あの夏、俺と絶花が迷い込んだ入り口。王者の資格と融合した王国の駒があれば、自在に行き来できる。俺が王になった証のようなものだ。

 

「太郎さん」

 

ユキカゼが隣を歩きながら小声で言った。

 

「あとどのくらいでござるか」

 

「もう少しだ。あの杉林の先だ」

 

「待ちきれないでござる」

 

ユキカゼの足取りが弾んでいる。狐耳がピコピコと動き尻尾がブンブン振れている。故郷の空気に触れてすっかり野生化が進んでいる。

 

エレンは後ろを無言でついてきている。だが尻尾の揺れ方がいつもより大きい。表情は眠そうだが歩幅は速い。あれは期待している時の動きだ。

 

絶花は俺の左側を歩いていた。

 

刀を腰に帯びたまま静についてくる。何も言わないが、その歩調が俺と同じなのは昔からの癖だ。

 

「ここだ」

 

杉林を抜けた先に、それはあった。

 

空気が、変わる。

 

人間の世界の空気じゃない。もっと濃く、もっと生きた匂い。土の匂いが深い。木々の緑が鮮やかだ。風の音が違う。

 

ジューマンワールドへの接続点。

 

俺は王国の駒に意識を集中させた。掌に温かい光が集まる。チェスの駒のような形をした光が空中に浮かび、円を描いて門を形成する。

 

光の輪が広がり、向こう側に景色が見えた。

 

森だ。

 

ジューマンワールドの森。

 

*  *  *

 

足を踏み入れた瞬間、全身が包まれた。

 

空気が全然違う。東京でも故郷でもない。ジューマンワールド独特の、濃密な自然の息吹。肺の奥まで満たされる感覚が懐かしい。

 

「あぁ…」

 

ユキカゼが息を漏らした。

 

狐耳がピーンと立ち上がり、尻尾がふわっと膨らんだ。全身の毛並みが逆立つような反応だ。

 

「この匂い…忘れていたでござる」

 

「忘れるかよ」

 

「忘れてたでござる。体が覚えてるけど、頭が忘れてたでござる」

 

「どういう意味だ」

 

「分からないでござるか? 太郎さんは人間だから仕方ないでござるけど」

 

ユキカゼは地面に裸足を押し付けた。靴を脱ぎ捨てて土を踏んでいる。

 

「やっぱり、ここでござるね。私の足が一番しっかりするのは」

 

「家臣が裸足で歩くのを見て王としてどう思えばいいのか分からん」

 

「王は黙って楽しんでいてください」

 

「言うことを聞かない家臣だな」

 

「忠義と命令は別でござる。太郎さんの教えでござるよ」

 

言い返せなかった。俺の言葉で封じられた。

 

エレンは木の幹に手を触れていた。

 

「ここ…」

 

「ん?」

 

「前、来た時と同じ匂いがする」

 

エレンの声が珍しく柔らかい。眠そうな目が細められ、サメの尻尾がゆっくりと揺れている。

 

「あの夏以来だな」

 

「うん。久しぶり」

 

「懐かしいか」

 

「…別に。ちょっとだけ」

 

「素直じゃないな」

 

「うるさい」

 

エレンは木から手を離して、深呼吸をした。息を吸い込む時、彼女の鰓が微かに動いたのが見えた。鮫ジューマンの本能が、この世界の空気を受け入れているのだろう。

 

*  *  *

 

森の中を歩いた。

 

ジューマンワールドの森は人間の世界のそれとは根本から違う。木々が巨大い。一本一本がビルみたいな高さだ。葉の色が深い。緑の中に青や紫が混ざったような不思議な色彩。

 

地面には苔が生えていて、歩くとふにふにと沈む。柔らかい。足裏に伝わる感触が心地いい。

 

「太郎」

 

絶花が後ろから声をかけてきた。

 

「ん」

 

「ここ、前と少し変わってない?」

 

「変わってない。ジューマンワールドの森は数年じゃ変わらんよ」

 

「そうか。何だか、あの時より木が大きく見える」

 

「お前が小さくなったんだろ」

 

「ひどい言い方」

 

「事実だ」

 

「太郎!」

 

絶花が軽く俺の背中を叩いた。痛くはない。むしろ久しぶりの感触に、少しだけ懐かしさを覚える。

 

ユキカゼが前方を駆けている。

 

裸足のまま森の中を走り回っている。木の根を飛び越え、苔の上を滑るように、低い枝の下をくぐる。狐ジューマンの本来の姿だ。

 

「ユキカゼ、あまり遠くへ行くな」

 

「大丈夫でござる! この森の匂い、覚えているでござるよ! あっちに川があったはずでござる!」

 

「分かってるけど遠くなるな」

 

「はーい」

 

返事だけは元気がいい。

 

エレンは木陰に入って、幹に背を預けた。帽を取って日差しを顔に受けている。サメの尻尾が地面に垂れ下がってゆったりと揺れている。

 

「気持ちいい」

 

「そうか」

 

「ここ、日当たりがいい。昼寝に最適」

 

「寝るな。移動するぞ」

 

「あと五分」

 

「五秒だ」

 

「…三十分」

 

「五秒と言った」

 

「交渉決裂」

 

エレンは目を閉じた。交渉決裂で寝るな。

 

まあいい。少しぐらいなら。

 

*  *  *

 

森を抜けて進んだ。

 

ユキカゼが先行して道を見つけ、エレンは半分寝ながらついてきて、絶花は俺の隣を黙って歩いている。

 

「太郎」

 

「ん」

 

「ここからどのくらい?」

 

「もう少しだ。あの丘の向こうだ」

 

「何があるの?」

 

「テントが一つあるはずだ」

 

「テント?」

 

「ああ。前回ここに来た時、拠点として使っていた。まだ残ってるか分からないが」

 

「あのテントか。懐かしいな」

 

「お前も覚えてるか」

 

「忘れるわけない。あの中で何日寝たか」

 

「ああ。あのテント、小さかったな」

 

「小さかった。四人で寝ると肩がぶつかるサイズ」

 

「五人だったら地獄だな」

 

「あの時は五人だったけど、タスクは外で寝てたね」

 

「あいつは頑丈だからな。外でも平気だ」

 

「笑えるね」

 

絶花がふふっと笑った。楽しそうだ。

 

あの夏の記憶が、二人の間で共有される。

 

丘を越えた。

 

視界が開ける。

 

目の前に、それがあった。

 

テント。

 

一つだけ。

 

森の開けた場所に、ひっそりと設置された一張のテント。色褪せた緑のキャンバス地。ペグが地面に打ち込まれロープが張られている。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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