※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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夏のテント

あの夏、俺たちが使った拠点だ。

 

風化していなかった。誰かが手入れしているのか、それともジューマンワールドの物がそう簡単に朽ちないのか。どちらにせよ、あの日のままの姿でそこにあった。

 

「あ」

 

ユキカゼが立ち止まった。

 

耳が伏せて、尻尾が止まった。

 

「これ…」

 

「覚えてるか」

 

「忘れるわけないでござる。ここで、私…初めて太郎さんの手料理を食べたでござる」

 

「料理っていうか適当に煮込んだだけだぞ」

 

「それが料理でござる。味は覚えてるでござるよ」

 

「何か言いたいことありそうだな」

 

「いいえ。美味しかったでござる。本当に」

 

エレンがテントの前に立った。眠そうな目でじっと見つめている。尻尾が小さく揺れた。

 

「ここで寝た時、朝起きたらタスクが既に鍛えてた」

 

「あいつは朝四時起きだからな」

 

「うるさかった。地面が揺れるくらい」

 

「あいつの鍛錬は地震級だ」

 

エレンはテントの入り口を開けて中を覗いた。

 

「狭い」

 

「ああ。狭い」

 

「でも」

 

「でも?」

 

「…悪くない」

 

エレンはそう言って、入り口を閉じた。

 

俺はテントの前に座り込んだ。

 

地面は柔らかい。苔が生えていて座り心地がいい。懐かしい感触だ。

 

空を見上げる。

 

ジューマンワールドの空。

 

人間の世界より少し紫がかっている。雲が少ない。太陽の光が柔らかい。

 

「ここで、待つか」

 

「何を?」

 

絶花が隣に座った。

 

「あいつらを。ジューマンたちを。ここに来れば会えるかもしれない」

 

「連絡は?」

 

「ユキカゼが飛ばした。向こうの仲間に」

 

「じゃあ、待つだけだね」

 

「ああ」

 

「久しぶりに全員揃うのかな」

 

「さあな。あいつらもそれぞれ忙しいだろ」

 

「でも来るよ。太郎が呼べば」

 

「何故そう思う」

 

「太郎は王だから」

 

絶花は少しだけ笑って、膝を抱えた。

 

「王の呼びかけに応えない家臣はいない」

 

「まだ王じゃない」

 

「もう王でしょ。太郎は十分」

 

「…そうかよ」

 

風が吹いた。

 

テントのキャンバスがはためく。

 

森の中で虫の声が聞こえた。鳥の声もする。ジューマンワールドの音。人間の世界とは違う旋律。

 

「太郎」

 

「ん」

 

「今年の夏は、ここで終わるのかな」

 

「さあな。まだ始まったばかりだ」

 

「だね」

 

絶花は空を見上げた。

 

俺も同じ空を見た。

 

夏が始まったばかりだ。メダルの破壊も、仲間との再会も、全部これからだ。

 

だがこの場所に戻ってきたことは、確かに意味がある。

 

あの夏の始まりの場所に、今また立っている。

 

「太郎さん」

 

ユキカゼが戻ってきた。手に何か持っている。果実だ。

 

「これ、食べられるでござるよ。近くの木になってたでござる」

 

「お前、勝手に採ってきたのか」

 

「この森は誰のものでもないでござる」

 

「まあそうだが」

 

「甘いでござるよ。ほら」

 

ユキカゼが俺の口に果実を押し込んできた。

 

甘い。確かに甘い。そして懐かしい味だ。

 

「…美味いな」

 

「でござろう?」

 

ユキカゼが得意げに尻尾を振る。

 

「エレンにもあげるでござる」

 

「寝てるでござる」

 

「起こしてあげるでござる」

 

「やめとけ。寝てる鮫に触るな」

 

「何が起きるでござるか」

 

「噛まれる」

 

「…やめとくでござる」

 

テントの前で俺たちは夕方を迎えた。

 

ユキカゼが焚き火を始めた。手際がいい。あの夏と同じ手つきだ。

 

エレンは結局起きて、焚き火のそばに座り込んでいる。暖かいのが好きだ。鮫なのに。

 

絶花は刀を膝に置いて火を見つめている。

 

「静かだね」

 

「ああ」

 

「この前の夏も、こうやって火を囲んだね」

 

「囲んだな。あの時はもっと騒がしかったが」

 

「まぁ、あいつらと鍛えてたからね」

 

「あいつがうるさかった」

 

「笑えるね」

 

「笑えなかった。朝五時に腹筋一千回の音で起きるのは」

 

「やっぱり笑える」

 

「笑うな」

 

絶花はくすくす笑いながら、火を見つめている。

 

俺も火を見た。

 

炎が揺れている。懐かしい光景。

 

この夏は、ここから始まる。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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