サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
焚き火が爆ぜた。
パチリという音が静かな森に響く。ユキカゼが火のそばで丸くなり、エレンが柱にもたれて目を閉じている。絶花は刀を膝に置いたまま、炎を見つめていた。
俺はメダルの件を話していた。
「デスガリアンのメダルがこの世界にもばら撒かれている可能性がある。さっきアザゼルにも言ったが、俺たちだけで全部は回りきらないかもしれない」
「太郎がそれを言うの?」
絶花が炎から目を離さずに言った。
「お前、全部自分で背負うタイプでしょ」
「背負ってない。仲間に頼るって決めた」
「口で言うのは簡単だね」
「やってるよ。お前の前でこうして話してるだろ」
「…そうだね。まあ、そうだね」
絶花は少しだけ笑った。
メダルの話を続けようとした時だ。
気配が、あった。
王国の駒の感覚が反応していない。敵じゃない。だが確かに何かがいる。森の奥から、こちらへ近づいてくる足音。極めて軽い。ほとんど音がない。
「誰か来る」
俺が声を低くすると、ユキカゼの耳がピクリと立った。エレンは目を開けていないが、尻尾がぴんと張った。絶花は静かに刀に手を添えた。
足音は止まった。
焚き火の光が届くぎりぎりの位置。闇と光の境界線。そこに人影があった。
細い影だ。
小柄な体格で木の幹の影に半分隠れるように立っている。いつでも離れられる位置。逃げ道を確保した立ち方だ。
「…誰だ」
俺が声をかけると、影がビクリと震えた。
一拍。
二拍。
それからゆっくりと、一歩だけ前に出た。
焚き火の光が顔を照らした。
短い黒髪。青白い顔立ち。伏せた視線。両手を身体の前で握りしめている。痩せた少年だった。
見覚えがある。
いや、覚えがある。
「…碇」
俺は名前を口にした。
少年が顔を上げた。一拍遅れて。まるで名前を呼ばれたことが信じられないというように。
「…久しぶり」
碇シンジが、そこにいた。
ジュウオウザワールドの変身者。
あの夏、デスガリアンとの戦いで共に戦った最後の仲間。
だがシンジは焚き火に近づこうとしなかった。木の幹のそばに立ち、視線を地面に落としている。来るべきか帰るべきか迷っているような、中途半端な位置だ。
「…何してる」
「別に」
短い答えだった。声は小さい。だが拒絶ではない。ただ短い。
「別に、とは何だ。ここまで来たんだから用があるんだろ」
「…用件だけ、伝えに来た」
シンジは視線を上げない。握った手が膝のあたりで小さく震えている。
「ユキカゼさんから連絡が来たから。皆がここにいるって聞いて」
「で?」
「…僕には関係ないと思うけど」
言葉が途切れた。
そこで言い止した。続きがあるはずだ。だがシンジは口を閉じた。俺の反応を待っている。
「で、用件って何だ」
俺は本題を促した。シンジはこういうタイプだ。放っておくと用件だけ言って消える。そうなる前に聞いておくべきだ。
シンジは一瞬黙った。それから口を開いた。
「…メダルのこと」
「知ってるのか」
「うん。向こうで、何度か見た」
「向こうってジューマンワールドでか」
「…うん」
シンジは視線を少し上げた。焚き火の光が目に入らない角度を見ている。
「ここ数週間で三つ見た。全部破壊したけど」
「お前一人で?」
「…うん」
「危険だろ。一人でメダルを相手にするのは」
「でも、誰もいなかったから」
シンジの声がまた小さくなった。「誰もいなかったから」という言葉の中に、いくつもの意味が含まれている気がした。
誰もいなかった。だから自分がやった。他に人がいなかったから。自分がやらなくてもいいことだったかもしれないが、目の前にあったからやった。
そういうことだろう。
「座れよ。話がある」
俺は焚き火の空いている場所を指した。
シンジは動かなかった。
一拍。
二拍。
それから少しだけ首を横に振った。
「…立ってるのでいい」
「座れ」
「でも」
「王の命令だ。座れ」
シンジの肩がビクリと跳ねた。「王の命令」という言葉に反応したのか。それとも俺の声の強さに驚いたのか。
だが命令には逆らわなかった。ゆっくりと焚き火のそばまで歩いてきて、一番端の位置に腰を下ろした。皆から少し離れた場所。いつでも立ち上がって離れられる位置。
(…相変わらずだな)
あの夏もそうだった。シンジは常に集団の端にいた。中心には来ない。輪の中に入れないわけじゃない。入るのが怖いだけだ。
「メダルの話を詳しく聞かせろ」
俺は言った。シンジは膝に視線を落としたままで口を開いた。
「…森の中で見つけた。銀色の円盤。中心に紋章が刻まれてる」
「コンティニューメダルだな」
「うん。触れた瞬間に化け物が出た」
「それを一人で倒したのか」
「…ジュウオウザワールドで変身して、倒した」
「怪我は」
「…少し」
「見せろ」
「別に大したことない」
「見せろと言ってるんだ」
シンジは躊躇してから、左腕の袖を少しずらした。
焚き火の光に照らされた腕には、包帯が巻かれていた。素人の巻き方だ。上手ではない。だが丁寧ではある。
「…これくらい。もう殆ど治ってる」
「馬鹿かお前。一人でメダルを相手にして怪我して、放置してるのか」
「放置じゃないよ。ちゃんと手当てした」
「下手くそな手当てだな」
「…上手じゃないから」
「ユキカゼ」
「はいでござる」
ユキカゼが立ち上がった。尻尾を振りながらシンジのそばへ歩いていく。
「シンジさん、私が巻き直します。動かないでくださいね」
「あの、いいよ、別に」
「いいじゃないでござる。座ってください」
ユキカゼの声には有無を言わせない温かさがある。シンジは諦めて左腕を差し出した。
ユキカゼが丁寧に包帯を巻き直していく。手際がいい。戦場での応急処置の経験があるからだ。
シンジは黙ってそれを見ていた。だがその肩が少しずつ下がっていくのが分かった。ユキカゼの手当てを受けて、力が抜けている。
「…ありがとう」
小さな声だった。聞き逃しそうなほど小さい。
包帯を巻き直してもらった後、シンジはまた端の方に座り直した。皆から一歩分遠い位置。
「碇」
「…はい」
「お前に聞きたいことがある」
シンジの視線が一瞬泳いだ。「聞きたいこと」という言葉に緊張しているのが分かる。何を聞かれるのか。責められるのか。叱られるのか。そういう不安が見える。
(勘違いするなよ。俺は叱るために呼んだんじゃない)
「メダルは三つ見つけたんだな」
「…うん」
「場所は」
「一つは川のそば。一つは山の中腹。一つは…ここからあまり遠くない場所」
「近いのか」
「うん。徒歩で半日くらい」
俺は眉をひそめた。近い。あまりにも近い。
「その三つとも破壊したんだな」
「…うん」
「化け物は出たか」
「出た。三体とも」
「一体ずつか」
「一体ずつだったから何とか。でも二体目は少し手こずって…」
シンジは左腕の包帯に視線を落とした。
(三体を一人で片付けてるのか。あいつ、腕を上げてるな)
あの夏、シンジは強くなかった。変身能力はあったが、戦い方に自信がなかった。怖かったのだ。戦うことが。傷つけることも傷つくことも。
だが今のシンジは、一人でメダルを破壊している。怪我をしながらも、逃げずに戦っている。
成長している。確かに。
「碇」
「…はい」
「俺たちと一緒に動かないか」
シンジの肩が跳ねた。
視線が上がた。俺の顔を見ている。だがすぐにまた目を逸らした。
「…どうして僕なんですか」
「は?」
「僕じゃなくてもいいんじゃないですか。太郎たちには、ユキカゼさんもエレンもいるし、宮本さんもいるし。僕がいなくても」
言葉が途切れた。
そこで言い止した。続きを言うのが怖いのか。「僕がいなくてもどうにかなる」と言って、肯定されるのが怖いのか。
俺は焚き火を見つめたまま言った。
「お前がメダルを三つ見つけて三つとも壊した。その情報が必要だ。場所を知ってるのはお前だけだろ」
「…それは、そうだけど」
「情報だけ渡して帰ることもできる。だが、お前が一人で回り続けたら次は怪我じゃ済まないかもしれない」
シンジは黙った。
俺は続けた。
「それに、メダルは三つ見つかったってことは、まだあるかもしれない。一人で全部回るのは無理だ」
「…でも」
「でも何だ」
「僕にできることなんて限られてると思う。僕は太郎みたいに強くないし、ユキカゼさんみたいに勘もよくないし、エレンみたいに身体も強くない」
「知ってるよ」
「…知ってるなら」
「知ってるから呼んでるんだろ。強い奴だけが必要なら俺はここにいない」
シンジが顔を上げた。俺を見ている。驚いたような顔だ。
俺は肩をすくめた。
「俺は王になる男だ。王は必要な駒を見る目を持ってる。お前が必要だと言ってるんだ」
「…でも、僕なんか」
「なんか、とは何だ。自分で自分の価値を決めるな。王が決める」
シンジは口を閉じた。
沈黙が流れた。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア