※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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黒き王者、三つの顔

八人が地を蹴った瞬間、森が爆ぜた。

 

メーバの群れが襲いかかってくる。十体いや二十体。チャリリリンという金貨の音が森中に響き渡り、触手を鞭のように振り回しながら一斉に突っ込んでくる。

 

「数が多いでござる!」

 

ユキカゼが叫ぶ。紫の影がメーバの群れに滑り込む。狐の俊敏さで触手を紙一重でかわし、爪で一撃を叩き込む。だが数が多い。

 

「エレン、右!」

 

「分かってる」

 

エレンが青い槍を振るう。水流を纏った一撃がメーバ三体をまとめて弾き飛ばす。だが後ろからも来る。

 

レオーネが拳を叩き込む。黄色い装甲に獅子の意匠が光り、メーバを一撃で吹き飛ばす。百獣王の拳は爆発のような衝撃を生む。

 

「ハハッ! 雑魚なんざ雑魚だね!」

 

レオーネが笑いながらメーバの頭を掴み、地面に叩きつける。豪快だ。姉御の戦い方は荒っぽい。

 

ガーフィールがメーバの群れに飛び込む。白い装甲の虎の戦士が、爪で触手を切り裂きながら突進する。

 

「うらァ! 邪魔だ邪魔だァ! 『腹の虫が居座る』ってなァ!」

 

謎慣用句と共にメーバを殴り飛ばす。意味は分からないが勢いはある。

 

マンモスマンが、歩みを止めない。メーバの触手が緑の巨体に当たるが、弾かれる。四〇〇キロの体重はそう簡単には動かない。

 

「雑魚か。時間がかかるな」

 

マンモスマンが鼻を振るう。メーバ三体がまとめて吹き飛ぶ。一撃だ。

 

レイスが橙色の姿で群れの先頭に立つ。オーストリッチフェザーを展開し、メーバの触手を受け流す。

 

「全員、私の後ろに! ここから先は一羽も通さねえ!」

 

レイスの背後でダチョウ獣人たちが陣形を組み始める。だがそれはまだ序盤だ。

 

俺はイーグライザーを振るう。赤い斬撃がメーバの触手を切り裂く。鷹の目で敵の動きを読み、急降下で間合いを詰める。だが数が多すぎる。

 

(メーバは雑魚だ。問題はバングレイだ。だがまずはこの群れを片付けないとバングレイに近づけない)

 

その時だった。

 

黒い影が、俺の横を抜いていった。

 

*  *  *

 

シンジだった。

 

ジュウオウザワールドの黒い装甲が月光を弾く。ライノスフォームの重量感のある体が、メーバの群れに向かって突っ込んでいく。

 

速い。

 

いや、速くはない。だが止まらない。

 

メーバの触手がシンジの身体を叩く。だが弾かれる。ライノスフォームの装甲は分厚い。触手程度では傷一つ付かない。サイの皮膚は鋼よりも硬い。

 

シンジがメーバの群れに突っ込んだ。

 

そのまま体当たりだ。

 

ズドン。

 

メーバが五体、まとめて吹き飛んだ。ライノスフォームの突進力は、列車と変わらない。触手が千切れ、体が砕け、チャリリリンの声が断末魔に変わる。

 

「…一発」

 

シンジが呟く。小さな声だ。だが手応えはあったはずだ。

 

だがメーバは止まらない。後ろからも横からも、次々と襲いかかってくる。

 

シンジの右手が、ジュウオウザライトに伸びた。

 

*  *  *

 

カチリ。

 

スイッチを押す音が、戦場の中で小さく響いた。

 

シンジの指が、キューブ部分を回し始める。

 

カチ。カチ。カチ。

 

回転するキューブ。六面のマークが高速で入れ替わる。ライノスのマークが過ぎ去り、次のマークが来るまで指が止まらない。

 

カチ。

 

止まった。

 

狼のマーク。ウルフ。

 

シンジがスイッチをもう一度押す。カチリ。

 

光が、変わった。

 

黒い光が銀色に変わり、シンジの全身を包み込む。重量感のあるライノスフォームの装甲が砕け、軽量な装甲へと重組される。狼の耳を模したマスクが頭部に形成され、銀のラインが身体を走る。爪が鋭く伸びる。

 

ジュウオウザワールド。ウルフフォーム。

 

速くなった。

 

シンジの身体が、消えた。

 

いや消えたわけじゃない。速すぎて見えないだけだ。ウルフフォームの速度は、イーグルの飛行速度に匹敵する地上戦の速度だ。一瞬でメーバの背後に回り込む。

 

「っ…!」

 

シンジの爪が、メーバの背後から一撃を叩き込む。メーバが前のめりに倒れる。だがシンジは止まらない。次の敵の背後に回り込む。次。次。次。

 

狼の戦い方は、正面からぶつかるのではない。群れの背後を取る。弱い箇所を狙う。逃げ道を塞ぐ。

 

(あいつ、狼の本能で戦ってる)

 

俺は感心した。ライノスフォームの突進力とは別の戦い方だ。速度と位置取りで敵を翻弄する。正面から突っ込むだけがシンジの戦いじゃない。

 

だがメーバの数は減らない。増える一方だ。森の奥から次々と湧いてくる。

 

「キリがない!」

 

ガーフィールが怒鳴る。メーバを殴り飛ばしながら、だが数が多すぎる。

 

「殿! こいつらどこから湧いてやがるンだ!」

 

「分からん。だが止まない」

 

俺はイーグライザーでメーバを切り裂きながら、状況を確認する。全員が戦っている。だがジリ貧だ。メーバを倒しても倒しても湧いてくる。

 

(このままじゃ消耗するだけだ。何とかしないと)

 

その時、シンジの動きが変わった。

 

*  *  *

 

シンジが、走った。

 

ウルフフォームのまま、メーバの群れの外周を回り込む。逃げるのではない。狙いをつけるためだ。

 

右手のジュウオウザライトを、前に構える。ロッドを振るような重い動作。釣り糸を張るような、ピンと張った構え。

 

カチリ。

 

スイッチを押す。

 

キューブが回る。カチカチカチ。

 

シンジの指が、回転するキューブの上を滑る。狼のマークが過ぎ、次のマークを選ぶ。

 

カチ。

 

鱷のマーク。クロコダイル。

 

再びスイッチを押す。カチリ。

 

光が変わる。銀色の光が、深い青緑色へ。ウルフフォームの軽量装甲が砕け、鱗状の装甲へと重組される。鰐の顎を模したマスクが頭部に形成され、背中に魚のような意匠が浮かぶ。

 

ジュウオウザワールド。クロコダイルフォーム。

 

シンジが立ち止まった。いや、止まったのではない。構えたのだ。

 

ジュウオウザライトを、前に向ける。ロッドを振るうような重い動作。釣り糸を投げるように、ライトの先端をメーバの群れに向ける。

 

光の糸が、放たれた。

 

*  *  *

 

釣り糸だ。

 

ジュウオウザライトから放たれる光の糸が、メーバの群れの中に飛び込む。正確に。一匹のメーバに絡みつく。

 

「っ…!」

 

シンジがロッドを引く。メーバが、糸に引かれて宙に浮く。振り回される。そのまま別のメーバにぶつかる。二体がまとめて吹き飛んだ。

 

(釣りかよ。あいつメーバを釣ってるのか)

 

だが効いている。クロコダイルフォームの糸は、遠距離から敵を引き寄せ、あるいは拘束する。近づかずに倒せる。数が多い時、これは有効だ。

 

シンジが再び糸を放つ。別のメーバに絡みつく。引く。引き寄せる。近づいたところを、爪で一撃。

 

倒す。

 

次。糸を放つ。引く。倒す。

 

次。次。次。

 

リズムができてきた。

 

(あいつ、三つの形態を使い分けてる)

 

俺は戦いながらシンジの動きを見ていた。

 

メーバが密集している時は、ライノスフォームで突っ込む。突進力で数を減らす。

 

散らばった時は、ウルフフォームで背後を取る。速度で個体を狩る。

 

遠距離に敵がいる時は、クロコダイルフォームで釣る。糸で引き寄せて倒す。

 

三つの形態。三つの戦い方。それを、状況に応じて切り替えている。

 

*  *  *

 

カチリ。

 

またスイッチの音が響く。

 

キューブが回る。カチカチカチ。

 

鱷のマークが過ぎ、ライノスのマークが来る。カチ。

 

スイッチを押す。カチリ。

 

光が変わる。青緑色の光が、漆黒へ。クロコダイルフォームの鱗装甲が砕け、重量感のあるライノス装甲へと戻る。

 

シンジが、正面からメーバの群れに突っ込んだ。

 

ズドン。

 

先頭のメーバ三体が吹き飛ぶ。ライノスフォームの突進力は、正面からの衝突において無類の強さを誇る。

 

シンジがメーバの群れの中央に突っ込んだ瞬間、回りを囲まれた。

 

四面から触手が迫る。

 

だがシンジは、止まらない。

 

カチリ。

 

スイッチを押す音が、戦場に響く。

 

キューブが回る。カチカチカチ。

 

ライノスのマークが過ぎ、狼のマークが来る。カチ。

 

スイッチを押す。カチリ。

 

光が変わる。漆黒が銀色へ。装甲が軽量化し、狼の姿へと変わる。

 

シンジの身体が、消えた。

 

メーバの触手が空を切る。シンジは既に包囲の外にいる。ウルフフォームの速度で、囲みを突破したのだ。

 

「…はぁ」

 

シンジの息が漏れる。だが手は止まらない。

 

銀色の爪が、背後からメーバを切り裂く。一体。二体。三体。全て背後からだ。狼は正面から戦わない。背後を取る。喉元を狙う。それが狼の本能だ。

 

カチリ。

 

またスイッチだ。

 

キューブが回る。カチカチカチ。

 

狼のマークが過ぎ、鱷のマークが来る。カチ。

 

スイッチを押す。カチリ。

 

光が変わる。銀色が青緑色へ。鱗の装甲が身体を覆い、鱷の姿へと変わる。

 

シンジが立ち止まり、ジュウオウザライトを構える。釣り糸を張るような、ピンと張った構え。遠距離に散らばったメーバに向けて、光の糸を放つ。

 

糸が飛ぶ。絡みつく。引く。引き寄せる。爪で一撃。

 

倒す。

 

(あいつ、戦い方が変わった)

 

あの夏、シンジは怖かった。戦うことが。傷つけることも、傷つくことも。変身はしたが、いつも誰かの後ろにいた。自分から前に出ることはなかった。

 

だが今のシンジは、自分で選んで前に出ている。三つの形態を使い分け、状況に応じて戦い方を変える。迷いはまだある。だが足は止まらない。

 

*  *  *

 

「太郎さん!」

 

ユキカゼの声が響く。俺は視線を戻した。

 

「シンジさん、前に出すぎてるでござる! 右が空いてる!」

 

「…分かってる」

 

シンジの声が返る。短い。だがユキカゼの指示に従い、右へ回り込む。ウルフフォームの速度で、一瞬で位置を変える。

 

ユキカゼとシンジの連携だ。ユキカゼが索敵し、シンジが動く。狐の目と狼の足。合わさると、戦場の死角が消える。

 

「エレン、左の三体を頼む」

 

「了解」

 

エレンの青い槍が水流を纏う。メーバ三体をまとめて薙ぎ払う。その隙にシンジが背後から飛び込み、クロコダイルフォームの糸で一体を引き寄せて爪で倒す。

 

「レオーネ、正面を任せていいか」

 

「任せな! 正面はアタシが一番得意な距離だよ!」

 

レオーネが拳を叩き合わせる。百獣王の拳がメーバを次々と砕いていく。その後ろをマンモスマンが追い、逃げたメーバを鼻で叩き潰す。

 

「逃がさない」

 

マンモスマンが低く言う。巨体でメーバの退路を塞ぐ。四〇〇キロの壁は、触手程度では崩せない。

 

ガーフィールが、メーバの群れに飛び込む。

 

「おらァ! 『猫に小判』じゃねェが、雑魚に用はねェ!」

 

謎慣用句と共にメーバを殴り飛ばす。白い虎の爪が触手を切り裂く。

 

レイスがオーストリッチフェザーを展開し、味方の前で壁を作る。メーバの触手が羽根に当たるが、弾かれる。

 

「ここから先は一羽も通さねえって言ったでしょ!」

 

レイスの声が響く。ダチョウ獣人の群れが、彼女の後ろで陣形を維持している。

 

*  *  *

 

シンジが、また形態を変えた。

 

カチリ。

 

スイッチを押す。キューブが回る。カチカチカチ。

 

鱷のマークが過ぎ、ライノスのマークが来る。カチ。

 

スイッチを押す。カチリ。

 

光が変わる。青緑色が漆黒へ。重量感のある装甲が身体を覆い、サイの姿へと戻る。

 

シンジが、正面からメーバの群れに突っ込んだ。

 

ズドン。

 

五体が吹き飛ぶ。ライノスフォームの突進力は、密集した敵を一撃で粉砕する。だがシンジは止まらない。突進の勢いのまま、次の群れへ向かう。

 

カチリ。

 

スイッチを押す。キューブが回る。カチカチカチ。

 

ライノスのマークが過ぎ、狼のマークが来る。カチ。

 

スイッチを押す。カチリ。

 

光が変わる。漆黒が銀色へ。軽量な装甲が身体を覆い、狼の姿へと変わる。

 

シンジが、散らばったメーバの背後を次々と取っていく。速い。一撃で倒し、次へ。次へ。次へ。

 

カチリ。

 

スイッチを押す。キューブが回る。カチカチカチ。

 

狼のマークが過ぎ、鱷のマークが来る。カチ。

 

スイッチを押す。カチリ。

 

光が変わる。銀色が青緑色へ。鱗の装甲が身体を覆い、鱷の姿へと変わる。

 

シンジが立ち止まり、ロッドを振るうような動作でジュウオウザライトを構える。光の糸が放たれ、遠距離のメーバを引き寄せる。

 

引き寄せて。爪で一撃。

 

倒す。

 

カチリ。カチカチ。カチ。カチリ。

 

カチリ。カチカチ。カチ。カチリ。

 

カチリ。カチカチ。カチ。カチリ。

 

三つの形態が、回転する。

 

ライノスで突進し。ウルフで背後を取り。クロコダイルで釣り上げる。

 

切り替えのたびに、スイッチの音が戦場に響く。カチリという小さな音が、シンジの戦い方を変える。

 

(速い。切り替えが速くなってる)

 

最初は一つの形態で長く留まっていた。だが今は、数秒で切り替える。状況に合わせて、瞬時に形態を選ぶ。

 

迷いが消えたわけじゃない。だが手が止まらない。

 

*  *  *

 

メーバの数が、減り始めた。

 

シンジが中心で三形態を回転させ、周囲の仲間が外周を固める。中央で黒い影が三色に変わるたびに、メーバが倒れていく。

 

「…はぁ、はぁ…」

 

シンジの息が荒い。だが手は止まらない。

 

最後のメーバが、クロコダイルフォームの糸に絡め取られた。引き寄せられ、爪で一撃。

 

チャリリリンという声が、断末魔に変わる。

 

森が、静かになった。

 

メーバの群れは、全滅した。

 

*  *  *

 

シンジが、ライノスフォームに戻った。

 

カチリ。カチカチ。カチ。カチリ。

 

最後の切り替え。漆黒の装甲が身体を覆い、サイの姿へと戻る。

 

「…終わった」

 

小さな声だった。

 

膝が微かに震えている。だが倒れない。立っている。

 

俺はイーグライザーを下ろした。

 

「碇」

 

「…はい」

 

「いい動きだった」

 

シンジが顔を上げた。一拍遅れて。

 

「…別に。やらなきゃいけなかったから」

 

「やらなきゃいけない、か。それでいい」

 

「いいんですか」

 

「ああ。理由なんて何でもいい。前に出たお前は強かった。それが全てだ」

 

シンジは何も言わなかった。だが肩が少しだけ下がった。力が抜けたのだ。

 

「全員無事か」

 

「無事でござる!」

 

ユキカゼ。元気だ。

 

「別に」

 

エレン。相変わらずだ。

 

「元気だよ! まだやれるね!」

 

レオーネ。元気すぎる。

 

「時間がかかった。だが問題ない」

 

マンモスマン。相変わらず時間にうるさい。

 

「おォ! 雑魚なんぞ俺様一人で十分だァ!」

 

ガーフィール。謎慣用句が出ないと逆に不安になるな。

 

「はいはい、無事無事。でも足疲れた」

 

レイス。ダチョウの足でも疲れるらしい。

 

「…大丈夫」

 

シンジ。短い。だが大丈夫と言った。嘘であってほしくないが。

 

全員無事だ。だが戦いは終わっていない。

 

バングレイが、まだいる。

 

俺はバングレイの方を向いた。六つの目が、こちらを見ている。バリブレイドを肩に担いだまま、ニヤニヤと笑っている。

 

「バリバリ。メーバくらいで息を切らすとはな。バリカユ〜」

 

「うるさい。次はお前だ」

 

「バリカユ〜。来いよ、王様。お前の国ごと、俺様が沈めてやる」

 

八人が、バングレイに向き直った。

 

森が、再び震え始めた。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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