サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
八人が地を蹴った瞬間、森が爆ぜた。
メーバの群れが襲いかかってくる。十体いや二十体。チャリリリンという金貨の音が森中に響き渡り、触手を鞭のように振り回しながら一斉に突っ込んでくる。
「数が多いでござる!」
ユキカゼが叫ぶ。紫の影がメーバの群れに滑り込む。狐の俊敏さで触手を紙一重でかわし、爪で一撃を叩き込む。だが数が多い。
「エレン、右!」
「分かってる」
エレンが青い槍を振るう。水流を纏った一撃がメーバ三体をまとめて弾き飛ばす。だが後ろからも来る。
レオーネが拳を叩き込む。黄色い装甲に獅子の意匠が光り、メーバを一撃で吹き飛ばす。百獣王の拳は爆発のような衝撃を生む。
「ハハッ! 雑魚なんざ雑魚だね!」
レオーネが笑いながらメーバの頭を掴み、地面に叩きつける。豪快だ。姉御の戦い方は荒っぽい。
ガーフィールがメーバの群れに飛び込む。白い装甲の虎の戦士が、爪で触手を切り裂きながら突進する。
「うらァ! 邪魔だ邪魔だァ! 『腹の虫が居座る』ってなァ!」
謎慣用句と共にメーバを殴り飛ばす。意味は分からないが勢いはある。
マンモスマンが、歩みを止めない。メーバの触手が緑の巨体に当たるが、弾かれる。四〇〇キロの体重はそう簡単には動かない。
「雑魚か。時間がかかるな」
マンモスマンが鼻を振るう。メーバ三体がまとめて吹き飛ぶ。一撃だ。
レイスが橙色の姿で群れの先頭に立つ。オーストリッチフェザーを展開し、メーバの触手を受け流す。
「全員、私の後ろに! ここから先は一羽も通さねえ!」
レイスの背後でダチョウ獣人たちが陣形を組み始める。だがそれはまだ序盤だ。
俺はイーグライザーを振るう。赤い斬撃がメーバの触手を切り裂く。鷹の目で敵の動きを読み、急降下で間合いを詰める。だが数が多すぎる。
(メーバは雑魚だ。問題はバングレイだ。だがまずはこの群れを片付けないとバングレイに近づけない)
その時だった。
黒い影が、俺の横を抜いていった。
* * *
シンジだった。
ジュウオウザワールドの黒い装甲が月光を弾く。ライノスフォームの重量感のある体が、メーバの群れに向かって突っ込んでいく。
速い。
いや、速くはない。だが止まらない。
メーバの触手がシンジの身体を叩く。だが弾かれる。ライノスフォームの装甲は分厚い。触手程度では傷一つ付かない。サイの皮膚は鋼よりも硬い。
シンジがメーバの群れに突っ込んだ。
そのまま体当たりだ。
ズドン。
メーバが五体、まとめて吹き飛んだ。ライノスフォームの突進力は、列車と変わらない。触手が千切れ、体が砕け、チャリリリンの声が断末魔に変わる。
「…一発」
シンジが呟く。小さな声だ。だが手応えはあったはずだ。
だがメーバは止まらない。後ろからも横からも、次々と襲いかかってくる。
シンジの右手が、ジュウオウザライトに伸びた。
* * *
カチリ。
スイッチを押す音が、戦場の中で小さく響いた。
シンジの指が、キューブ部分を回し始める。
カチ。カチ。カチ。
回転するキューブ。六面のマークが高速で入れ替わる。ライノスのマークが過ぎ去り、次のマークが来るまで指が止まらない。
カチ。
止まった。
狼のマーク。ウルフ。
シンジがスイッチをもう一度押す。カチリ。
光が、変わった。
黒い光が銀色に変わり、シンジの全身を包み込む。重量感のあるライノスフォームの装甲が砕け、軽量な装甲へと重組される。狼の耳を模したマスクが頭部に形成され、銀のラインが身体を走る。爪が鋭く伸びる。
ジュウオウザワールド。ウルフフォーム。
速くなった。
シンジの身体が、消えた。
いや消えたわけじゃない。速すぎて見えないだけだ。ウルフフォームの速度は、イーグルの飛行速度に匹敵する地上戦の速度だ。一瞬でメーバの背後に回り込む。
「っ…!」
シンジの爪が、メーバの背後から一撃を叩き込む。メーバが前のめりに倒れる。だがシンジは止まらない。次の敵の背後に回り込む。次。次。次。
狼の戦い方は、正面からぶつかるのではない。群れの背後を取る。弱い箇所を狙う。逃げ道を塞ぐ。
(あいつ、狼の本能で戦ってる)
俺は感心した。ライノスフォームの突進力とは別の戦い方だ。速度と位置取りで敵を翻弄する。正面から突っ込むだけがシンジの戦いじゃない。
だがメーバの数は減らない。増える一方だ。森の奥から次々と湧いてくる。
「キリがない!」
ガーフィールが怒鳴る。メーバを殴り飛ばしながら、だが数が多すぎる。
「殿! こいつらどこから湧いてやがるンだ!」
「分からん。だが止まない」
俺はイーグライザーでメーバを切り裂きながら、状況を確認する。全員が戦っている。だがジリ貧だ。メーバを倒しても倒しても湧いてくる。
(このままじゃ消耗するだけだ。何とかしないと)
その時、シンジの動きが変わった。
* * *
シンジが、走った。
ウルフフォームのまま、メーバの群れの外周を回り込む。逃げるのではない。狙いをつけるためだ。
右手のジュウオウザライトを、前に構える。ロッドを振るような重い動作。釣り糸を張るような、ピンと張った構え。
カチリ。
スイッチを押す。
キューブが回る。カチカチカチ。
シンジの指が、回転するキューブの上を滑る。狼のマークが過ぎ、次のマークを選ぶ。
カチ。
鱷のマーク。クロコダイル。
再びスイッチを押す。カチリ。
光が変わる。銀色の光が、深い青緑色へ。ウルフフォームの軽量装甲が砕け、鱗状の装甲へと重組される。鰐の顎を模したマスクが頭部に形成され、背中に魚のような意匠が浮かぶ。
ジュウオウザワールド。クロコダイルフォーム。
シンジが立ち止まった。いや、止まったのではない。構えたのだ。
ジュウオウザライトを、前に向ける。ロッドを振るうような重い動作。釣り糸を投げるように、ライトの先端をメーバの群れに向ける。
光の糸が、放たれた。
* * *
釣り糸だ。
ジュウオウザライトから放たれる光の糸が、メーバの群れの中に飛び込む。正確に。一匹のメーバに絡みつく。
「っ…!」
シンジがロッドを引く。メーバが、糸に引かれて宙に浮く。振り回される。そのまま別のメーバにぶつかる。二体がまとめて吹き飛んだ。
(釣りかよ。あいつメーバを釣ってるのか)
だが効いている。クロコダイルフォームの糸は、遠距離から敵を引き寄せ、あるいは拘束する。近づかずに倒せる。数が多い時、これは有効だ。
シンジが再び糸を放つ。別のメーバに絡みつく。引く。引き寄せる。近づいたところを、爪で一撃。
倒す。
次。糸を放つ。引く。倒す。
次。次。次。
リズムができてきた。
(あいつ、三つの形態を使い分けてる)
俺は戦いながらシンジの動きを見ていた。
メーバが密集している時は、ライノスフォームで突っ込む。突進力で数を減らす。
散らばった時は、ウルフフォームで背後を取る。速度で個体を狩る。
遠距離に敵がいる時は、クロコダイルフォームで釣る。糸で引き寄せて倒す。
三つの形態。三つの戦い方。それを、状況に応じて切り替えている。
* * *
カチリ。
またスイッチの音が響く。
キューブが回る。カチカチカチ。
鱷のマークが過ぎ、ライノスのマークが来る。カチ。
スイッチを押す。カチリ。
光が変わる。青緑色の光が、漆黒へ。クロコダイルフォームの鱗装甲が砕け、重量感のあるライノス装甲へと戻る。
シンジが、正面からメーバの群れに突っ込んだ。
ズドン。
先頭のメーバ三体が吹き飛ぶ。ライノスフォームの突進力は、正面からの衝突において無類の強さを誇る。
シンジがメーバの群れの中央に突っ込んだ瞬間、回りを囲まれた。
四面から触手が迫る。
だがシンジは、止まらない。
カチリ。
スイッチを押す音が、戦場に響く。
キューブが回る。カチカチカチ。
ライノスのマークが過ぎ、狼のマークが来る。カチ。
スイッチを押す。カチリ。
光が変わる。漆黒が銀色へ。装甲が軽量化し、狼の姿へと変わる。
シンジの身体が、消えた。
メーバの触手が空を切る。シンジは既に包囲の外にいる。ウルフフォームの速度で、囲みを突破したのだ。
「…はぁ」
シンジの息が漏れる。だが手は止まらない。
銀色の爪が、背後からメーバを切り裂く。一体。二体。三体。全て背後からだ。狼は正面から戦わない。背後を取る。喉元を狙う。それが狼の本能だ。
カチリ。
またスイッチだ。
キューブが回る。カチカチカチ。
狼のマークが過ぎ、鱷のマークが来る。カチ。
スイッチを押す。カチリ。
光が変わる。銀色が青緑色へ。鱗の装甲が身体を覆い、鱷の姿へと変わる。
シンジが立ち止まり、ジュウオウザライトを構える。釣り糸を張るような、ピンと張った構え。遠距離に散らばったメーバに向けて、光の糸を放つ。
糸が飛ぶ。絡みつく。引く。引き寄せる。爪で一撃。
倒す。
(あいつ、戦い方が変わった)
あの夏、シンジは怖かった。戦うことが。傷つけることも、傷つくことも。変身はしたが、いつも誰かの後ろにいた。自分から前に出ることはなかった。
だが今のシンジは、自分で選んで前に出ている。三つの形態を使い分け、状況に応じて戦い方を変える。迷いはまだある。だが足は止まらない。
* * *
「太郎さん!」
ユキカゼの声が響く。俺は視線を戻した。
「シンジさん、前に出すぎてるでござる! 右が空いてる!」
「…分かってる」
シンジの声が返る。短い。だがユキカゼの指示に従い、右へ回り込む。ウルフフォームの速度で、一瞬で位置を変える。
ユキカゼとシンジの連携だ。ユキカゼが索敵し、シンジが動く。狐の目と狼の足。合わさると、戦場の死角が消える。
「エレン、左の三体を頼む」
「了解」
エレンの青い槍が水流を纏う。メーバ三体をまとめて薙ぎ払う。その隙にシンジが背後から飛び込み、クロコダイルフォームの糸で一体を引き寄せて爪で倒す。
「レオーネ、正面を任せていいか」
「任せな! 正面はアタシが一番得意な距離だよ!」
レオーネが拳を叩き合わせる。百獣王の拳がメーバを次々と砕いていく。その後ろをマンモスマンが追い、逃げたメーバを鼻で叩き潰す。
「逃がさない」
マンモスマンが低く言う。巨体でメーバの退路を塞ぐ。四〇〇キロの壁は、触手程度では崩せない。
ガーフィールが、メーバの群れに飛び込む。
「おらァ! 『猫に小判』じゃねェが、雑魚に用はねェ!」
謎慣用句と共にメーバを殴り飛ばす。白い虎の爪が触手を切り裂く。
レイスがオーストリッチフェザーを展開し、味方の前で壁を作る。メーバの触手が羽根に当たるが、弾かれる。
「ここから先は一羽も通さねえって言ったでしょ!」
レイスの声が響く。ダチョウ獣人の群れが、彼女の後ろで陣形を維持している。
* * *
シンジが、また形態を変えた。
カチリ。
スイッチを押す。キューブが回る。カチカチカチ。
鱷のマークが過ぎ、ライノスのマークが来る。カチ。
スイッチを押す。カチリ。
光が変わる。青緑色が漆黒へ。重量感のある装甲が身体を覆い、サイの姿へと戻る。
シンジが、正面からメーバの群れに突っ込んだ。
ズドン。
五体が吹き飛ぶ。ライノスフォームの突進力は、密集した敵を一撃で粉砕する。だがシンジは止まらない。突進の勢いのまま、次の群れへ向かう。
カチリ。
スイッチを押す。キューブが回る。カチカチカチ。
ライノスのマークが過ぎ、狼のマークが来る。カチ。
スイッチを押す。カチリ。
光が変わる。漆黒が銀色へ。軽量な装甲が身体を覆い、狼の姿へと変わる。
シンジが、散らばったメーバの背後を次々と取っていく。速い。一撃で倒し、次へ。次へ。次へ。
カチリ。
スイッチを押す。キューブが回る。カチカチカチ。
狼のマークが過ぎ、鱷のマークが来る。カチ。
スイッチを押す。カチリ。
光が変わる。銀色が青緑色へ。鱗の装甲が身体を覆い、鱷の姿へと変わる。
シンジが立ち止まり、ロッドを振るうような動作でジュウオウザライトを構える。光の糸が放たれ、遠距離のメーバを引き寄せる。
引き寄せて。爪で一撃。
倒す。
カチリ。カチカチ。カチ。カチリ。
カチリ。カチカチ。カチ。カチリ。
カチリ。カチカチ。カチ。カチリ。
三つの形態が、回転する。
ライノスで突進し。ウルフで背後を取り。クロコダイルで釣り上げる。
切り替えのたびに、スイッチの音が戦場に響く。カチリという小さな音が、シンジの戦い方を変える。
(速い。切り替えが速くなってる)
最初は一つの形態で長く留まっていた。だが今は、数秒で切り替える。状況に合わせて、瞬時に形態を選ぶ。
迷いが消えたわけじゃない。だが手が止まらない。
* * *
メーバの数が、減り始めた。
シンジが中心で三形態を回転させ、周囲の仲間が外周を固める。中央で黒い影が三色に変わるたびに、メーバが倒れていく。
「…はぁ、はぁ…」
シンジの息が荒い。だが手は止まらない。
最後のメーバが、クロコダイルフォームの糸に絡め取られた。引き寄せられ、爪で一撃。
チャリリリンという声が、断末魔に変わる。
森が、静かになった。
メーバの群れは、全滅した。
* * *
シンジが、ライノスフォームに戻った。
カチリ。カチカチ。カチ。カチリ。
最後の切り替え。漆黒の装甲が身体を覆い、サイの姿へと戻る。
「…終わった」
小さな声だった。
膝が微かに震えている。だが倒れない。立っている。
俺はイーグライザーを下ろした。
「碇」
「…はい」
「いい動きだった」
シンジが顔を上げた。一拍遅れて。
「…別に。やらなきゃいけなかったから」
「やらなきゃいけない、か。それでいい」
「いいんですか」
「ああ。理由なんて何でもいい。前に出たお前は強かった。それが全てだ」
シンジは何も言わなかった。だが肩が少しだけ下がった。力が抜けたのだ。
「全員無事か」
「無事でござる!」
ユキカゼ。元気だ。
「別に」
エレン。相変わらずだ。
「元気だよ! まだやれるね!」
レオーネ。元気すぎる。
「時間がかかった。だが問題ない」
マンモスマン。相変わらず時間にうるさい。
「おォ! 雑魚なんぞ俺様一人で十分だァ!」
ガーフィール。謎慣用句が出ないと逆に不安になるな。
「はいはい、無事無事。でも足疲れた」
レイス。ダチョウの足でも疲れるらしい。
「…大丈夫」
シンジ。短い。だが大丈夫と言った。嘘であってほしくないが。
全員無事だ。だが戦いは終わっていない。
バングレイが、まだいる。
俺はバングレイの方を向いた。六つの目が、こちらを見ている。バリブレイドを肩に担いだまま、ニヤニヤと笑っている。
「バリバリ。メーバくらいで息を切らすとはな。バリカユ〜」
「うるさい。次はお前だ」
「バリカユ〜。来いよ、王様。お前の国ごと、俺様が沈めてやる」
八人が、バングレイに向き直った。
森が、再び震え始めた。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア