サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
コカビエルが動いた。
空中の巨体から光弾が放たれる。赤黒い光球が雨のように降り注いできた。森が焼ける。木々が爆ぜる。地面が砕ける。
「シンジ! 避けろ!」
シンジが操縦席で応じる。トウサイジュウオーの巨体が横へ滑った。
ドドドドッ!
光弾が地面を叩く。だがトウサイジュウオーは止まらない。重い。だが速い。巨体の慣性を殺さずそのまま回避に転じている。
(あいつ、巨体の扱い方が上手くなってる)
ライノスフォームでの突進戦闘の経験が生きているのだろうか。巨体を動かす感覚がシンジの身体に染み付いている。
「シンジ、突っ込め!」
「…うん!」
トウサイジュウオーが地を蹴った。
ズシン! ズシン! ズシン!
一歩ごとに森が揺れる。黒い巨体がコカビエルに向かって突進する。足裏が地面を削り衝撃波が前へ前へと伝わる。
コカビエルが光弾を連射する。だがトウサイジュウオーは止まらない。光弾が肩に当たる。胸に当たる。だが弾かれる。ワニの鱗装甲が光弾を弾きサイの重量が衝撃を殺す。
「バリカユ〜じゃないが、今の俺たちには効かない」
俺は呟いた。シンジが応えるように操縦席を握りしめる。
トウサイジュウオーがコカビエルの懐へ飛び込んだ。
* * *
まずは肩だ。
トウサイジュウオーの大きく張り出した右肩がコカビエルの胸板に叩きつけられた。
ドガアアッ!
衝撃波が空気を裂く。コカビエルの巨体が空中で揺らぐ。体勢が崩れた。翼がバタつきバランスを取ろうとするが間に合わない。
「今だ! シンジ!」
「…掴む!」
右腕のビッグクロコダイルジョーズが展開した。金色の大顎がガガガッと開く。ワニの顎だ。そのままコカビエルの右翼を挟み込む。
ガギィン!
金属音が響く。顎が閉じる。コカビエルの翼根を掴んだ。挟み込んだ。動きを封じた。
コカビエルが暴れる。残った左翼でトウサイジュウオーを殴りつける。ドガッ。頭部が揺れる。だが右腕は離さない。
「離さないでござるか…!」
シンジの声が震えている。だが手は離さない。ワニの顎は一度食らいついたら離れない。それがクロコダイルの本能だ。
「いいぞシンジ。そのまま左腕を!」
「…うん!」
左腕が動く。サイの角を備えたタスクシールドが握りしめられる。コカビエルの体が右腕で固定されている。逃げられない。
左腕のパンチがコカビエルの腹部を捉えた。
ズガアアン!
サイの角が突き刺さる。いや突き刺さってはいない。だが押し込んでいる。巨体ごと叩きつける重い一撃だ。コカビエルが空中で仰け反る。
「バリ…!…くそっ…!」
コカビエルが光弾を至近距離で放つ。トウサイジュウオーの胸板に直撃。爆発。黒煙。
「ぐっ…!」
シンジが呻く。だが倒れない。トウサイジュウオーの装甲は厚い。ワニの鱗が衝撃を吸収する。
「シンジ、大丈夫か」
「…大丈夫。まだやれる」
声は震えている。だが目は前を向いている。
俺は頷いた。
* * *
コカビエルが距離を取った。
右翼を挟まれたまま無理やり引き剥がす。鱗装甲の表面が削れる音がする。ギギギッ。だがコカビエルは引き剥がした。翼を犠牲にして後退する。
空中に浮かぶ巨体。片翼が千切れかけ、腹部にサイの角で抉られた跡が残っている。だがまだ飛んでいる。堕天使の力は底知れない。
光弾の連射が再開される。今度は密度が濃い。雨ではなく弾幕だ。
「シンジ、避けながら近づけ」
「…分かってる」
トウサイジュウオーが走る。ズシン。ズシン。一歩ごとに大地が鳴る。光弾が右肩を掠める。胸を掠める。だが当たらない。シンジが巨体を微細に操作して弾幕の隙間を縫っている。
(オオカミの巧みさか)
ウルフフォームで培った位置取りの感覚が巨体の操作に生きている。力だけの戦いじゃない。動きに狡猾さがある。
トウサイジュウオーがコカビエルの真下へ入った。
死角だ。光弾は上に向かって撃てない。
「肩だ!」
シンジが反応する。トウサイジュウオーの左肩がコカビエルの脚を下から叩き上げる。
ドガッ!
コカビエルの体勢が崩れる。空中で回転しかける。
「右腕!」
ビッグクロコダイルジョーズが再び開く。今度はコカビエルの左翼を掴む。ガギン! 顎が閉じる。
「左腕!」
左腕のサイの角がコカビエルの胸板を正面から殴りつける。
ズドオン!
三連撃。肩で崩して右腕で掴んで左腕で打つ。その流れが一息で完結する。
コカビエルが吹き飛んだ。地上に墜落する。ズガアアッ! 森の木々がなぎ倒され地面が裂ける。
「追撃だ」
「…うん!」
トウサイジュウオーが地を蹴る。ズシン。ズシン。一歩ごとに加速する。巨体の突進は列車だ。止まらない。
* * *
だがコカビエルは立ち上がった。
墜落した体を起こす。傷だらけだ。だが堕天使の目はまだ光っている。記憶から実体化した偽物だとしてもその執念は本物だ。
「…黙れ」
コカビエルの声が響く。低い。抑揚がない。だが殺意だけは本物だ。
「黙れ黙れ黙れ! 貴様らごときが! 堕天使たるこの私を!」
光弾ではない。光の槍だ。コカビエルの手から無数の光槍が放たれる。速度が違う。光弾の比じゃない。
「シンジ!」
「っ…!」
光槍がトウサイジュウオーの右腕に突き刺さる。ドスッ! 金色の装甲に亀裂が入る。ビッグクロコダイルジョーズの顎が開きかける。
「くっ…!」
もう一本。左肩に突き刺さる。ズガッ! 黒い装甲が砕ける。
「シンジ、距離を取れ!」
「…分かってる!」
トウサイジュウオーが後退する。ズシン。ズシン。だが光槍は追ってくる。三本四本五本。空中から雨のように降り注ぐ。
(このままじゃ削られる。一発で決めるしかない)
「シンジ」
「…はい」
「やるか」
「…やる」
短いやり取り。だそれで十分だ。
* * *
トウサイジュウオーが距離を取った。
コカビエルから百メートル。光槍の射程ギリギリ外。だが油断はできない。
シンジが操縦席で息を整えるのが分かる。肩の震えが止まった。覚悟を決めた時の呼吸だ。
「トウサイトリプルザビースト」
シンジの声が静かに響いた。
トウサイジュウオーの両足が地面を踏ん張った。ズシン! 大地が陥むほどの踏み込み。巨体が固定される。右腕のビッグクロコダイルジョーズが前に向けられる。金色の大顎が開く。
顎の奥に光が集まり始めた。
黒い光。金色の光。銀色の光。
三色の光が螺旋を描いて大顎の奥へ集束していく。
サイの力。突進力。破壊力。
ワニの力。頑強さ。捕縛力。
オオカミの力。巧みさ。狙い澄まし。
三つの力が一つに溶け合う。大顎の奥で回転する三色の光が、一つの奔流へと変わり始めた。
「トウサイトリプルザビースト!」
シンジが叫んだ。
右腕の大顎から三色の光が放たれた。
三つ巴のアニマルビーム。
黒・金・銀の三色が螺旋を描きながら空中を突き進む。空気が焼ける音がする。ビームの周囲の木々が熱風でしなる。
ドゴオオオン!
ビームがコカビエルの巨体を捉えた。
三色の光がコカビエルの胸板を正面から貫く。
光の奔流が身体を貫通し背中から抜ける。黒い翼が砕ける。堕天使の光が散る。
「…嘘だ」
コカビエルの声が最後に響いた。
偽物の声だ。記憶から引きずり出された影の声。
爆発した。
三色の光がコカビエルの巨体を内側から粉砕する。光の粒子となって砕け散る。堕天使の翼も光の槍も全てが光となって霧散する。
爆風が森を薙ぎ払う。トウサイジュウオーが風を受けても動かない。両足で大地を踏ん張り右腕を下ろさない。
爆発の光が収まった。
空に何もない。
コカビエルの巨体は消えた。
* * *
「…終わった」
シンジの声が操縦席から聞こえた。
小さな声だ。だが確かにそう言った。
トウサイジュウオーの巨体がゆっくりと構えを解く。右腕の大顎がガクリと閉じる。両足の力が抜け膝が微かに沈む。
俺は空を見上げた。
何もない空だ。
偽物とはいえコカビエルの力は本物だった。メダルで巨大化されていればその威力は計り知れない。だが倒した。トウサイジュウオーの三つの力で粉砕した。
(だが、これは始まりに過ぎない)
バングレイはまだ生きている。俺の記憶を読み取ったあいつは、また別の記憶から敵を実体化させるだろう。
次は何を出してくるか分からない。
だが今は、この勝利を受け取っておくべきだ。
「シンジ」
「…はい」
「よくやった」
シンジは何も答えなかった。だが操縦席の中で肩の力が抜けたのが分かった。
トウサイジュウオーが大地を踏みしめたまま、静かにそこに立っていた。
黒い巨体に月光が照らされる。
だが夏は、まだ始まったばかりだ。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア