※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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黒き巨獣、三つの牙

コカビエルが動いた。

空中の巨体から光弾が放たれる。赤黒い光球が雨のように降り注いできた。森が焼ける。木々が爆ぜる。地面が砕ける。

「シンジ! 避けろ!」

 

シンジが操縦席で応じる。トウサイジュウオーの巨体が横へ滑った。

ドドドドッ!

光弾が地面を叩く。だがトウサイジュウオーは止まらない。重い。だが速い。巨体の慣性を殺さずそのまま回避に転じている。

(あいつ、巨体の扱い方が上手くなってる)

ライノスフォームでの突進戦闘の経験が生きているのだろうか。巨体を動かす感覚がシンジの身体に染み付いている。

 

「シンジ、突っ込め!」

 

「…うん!」

 

トウサイジュウオーが地を蹴った。

ズシン! ズシン! ズシン!

一歩ごとに森が揺れる。黒い巨体がコカビエルに向かって突進する。足裏が地面を削り衝撃波が前へ前へと伝わる。

コカビエルが光弾を連射する。だがトウサイジュウオーは止まらない。光弾が肩に当たる。胸に当たる。だが弾かれる。ワニの鱗装甲が光弾を弾きサイの重量が衝撃を殺す。

「バリカユ〜じゃないが、今の俺たちには効かない」

俺は呟いた。シンジが応えるように操縦席を握りしめる。

トウサイジュウオーがコカビエルの懐へ飛び込んだ。

 

*  *  *

 

まずは肩だ。

トウサイジュウオーの大きく張り出した右肩がコカビエルの胸板に叩きつけられた。

ドガアアッ!

衝撃波が空気を裂く。コカビエルの巨体が空中で揺らぐ。体勢が崩れた。翼がバタつきバランスを取ろうとするが間に合わない。

「今だ! シンジ!」

 

「…掴む!」

 

右腕のビッグクロコダイルジョーズが展開した。金色の大顎がガガガッと開く。ワニの顎だ。そのままコカビエルの右翼を挟み込む。

ガギィン!

金属音が響く。顎が閉じる。コカビエルの翼根を掴んだ。挟み込んだ。動きを封じた。

コカビエルが暴れる。残った左翼でトウサイジュウオーを殴りつける。ドガッ。頭部が揺れる。だが右腕は離さない。

「離さないでござるか…!」

シンジの声が震えている。だが手は離さない。ワニの顎は一度食らいついたら離れない。それがクロコダイルの本能だ。

「いいぞシンジ。そのまま左腕を!」

 

「…うん!」

 

左腕が動く。サイの角を備えたタスクシールドが握りしめられる。コカビエルの体が右腕で固定されている。逃げられない。

左腕のパンチがコカビエルの腹部を捉えた。

ズガアアン!

サイの角が突き刺さる。いや突き刺さってはいない。だが押し込んでいる。巨体ごと叩きつける重い一撃だ。コカビエルが空中で仰け反る。

「バリ…!…くそっ…!」

コカビエルが光弾を至近距離で放つ。トウサイジュウオーの胸板に直撃。爆発。黒煙。

「ぐっ…!」

シンジが呻く。だが倒れない。トウサイジュウオーの装甲は厚い。ワニの鱗が衝撃を吸収する。

「シンジ、大丈夫か」

 

「…大丈夫。まだやれる」

 

声は震えている。だが目は前を向いている。

俺は頷いた。

 

*  *  *

 

コカビエルが距離を取った。

右翼を挟まれたまま無理やり引き剥がす。鱗装甲の表面が削れる音がする。ギギギッ。だがコカビエルは引き剥がした。翼を犠牲にして後退する。

空中に浮かぶ巨体。片翼が千切れかけ、腹部にサイの角で抉られた跡が残っている。だがまだ飛んでいる。堕天使の力は底知れない。

光弾の連射が再開される。今度は密度が濃い。雨ではなく弾幕だ。

「シンジ、避けながら近づけ」

 

「…分かってる」

 

トウサイジュウオーが走る。ズシン。ズシン。一歩ごとに大地が鳴る。光弾が右肩を掠める。胸を掠める。だが当たらない。シンジが巨体を微細に操作して弾幕の隙間を縫っている。

(オオカミの巧みさか)

ウルフフォームで培った位置取りの感覚が巨体の操作に生きている。力だけの戦いじゃない。動きに狡猾さがある。

 

トウサイジュウオーがコカビエルの真下へ入った。

死角だ。光弾は上に向かって撃てない。

「肩だ!」

 

シンジが反応する。トウサイジュウオーの左肩がコカビエルの脚を下から叩き上げる。

ドガッ!

コカビエルの体勢が崩れる。空中で回転しかける。

「右腕!」

 

ビッグクロコダイルジョーズが再び開く。今度はコカビエルの左翼を掴む。ガギン! 顎が閉じる。

「左腕!」

 

左腕のサイの角がコカビエルの胸板を正面から殴りつける。

ズドオン!

三連撃。肩で崩して右腕で掴んで左腕で打つ。その流れが一息で完結する。

コカビエルが吹き飛んだ。地上に墜落する。ズガアアッ! 森の木々がなぎ倒され地面が裂ける。

「追撃だ」

 

「…うん!」

 

トウサイジュウオーが地を蹴る。ズシン。ズシン。一歩ごとに加速する。巨体の突進は列車だ。止まらない。

 

*  *  *

 

だがコカビエルは立ち上がった。

墜落した体を起こす。傷だらけだ。だが堕天使の目はまだ光っている。記憶から実体化した偽物だとしてもその執念は本物だ。

「…黙れ」

コカビエルの声が響く。低い。抑揚がない。だが殺意だけは本物だ。

「黙れ黙れ黙れ! 貴様らごときが! 堕天使たるこの私を!」

光弾ではない。光の槍だ。コカビエルの手から無数の光槍が放たれる。速度が違う。光弾の比じゃない。

「シンジ!」

 

「っ…!」

光槍がトウサイジュウオーの右腕に突き刺さる。ドスッ! 金色の装甲に亀裂が入る。ビッグクロコダイルジョーズの顎が開きかける。

「くっ…!」

もう一本。左肩に突き刺さる。ズガッ! 黒い装甲が砕ける。

「シンジ、距離を取れ!」

 

「…分かってる!」

 

トウサイジュウオーが後退する。ズシン。ズシン。だが光槍は追ってくる。三本四本五本。空中から雨のように降り注ぐ。

(このままじゃ削られる。一発で決めるしかない)

 

「シンジ」

 

「…はい」

 

「やるか」

 

「…やる」

 

短いやり取り。だそれで十分だ。

 

*  *  *

 

トウサイジュウオーが距離を取った。

コカビエルから百メートル。光槍の射程ギリギリ外。だが油断はできない。

シンジが操縦席で息を整えるのが分かる。肩の震えが止まった。覚悟を決めた時の呼吸だ。

「トウサイトリプルザビースト」

 

シンジの声が静かに響いた。

 

トウサイジュウオーの両足が地面を踏ん張った。ズシン! 大地が陥むほどの踏み込み。巨体が固定される。右腕のビッグクロコダイルジョーズが前に向けられる。金色の大顎が開く。

顎の奥に光が集まり始めた。

黒い光。金色の光。銀色の光。

三色の光が螺旋を描いて大顎の奥へ集束していく。

サイの力。突進力。破壊力。

ワニの力。頑強さ。捕縛力。

オオカミの力。巧みさ。狙い澄まし。

三つの力が一つに溶け合う。大顎の奥で回転する三色の光が、一つの奔流へと変わり始めた。

「トウサイトリプルザビースト!」

 

シンジが叫んだ。

右腕の大顎から三色の光が放たれた。

三つ巴のアニマルビーム。

黒・金・銀の三色が螺旋を描きながら空中を突き進む。空気が焼ける音がする。ビームの周囲の木々が熱風でしなる。

ドゴオオオン!

ビームがコカビエルの巨体を捉えた。

三色の光がコカビエルの胸板を正面から貫く。

光の奔流が身体を貫通し背中から抜ける。黒い翼が砕ける。堕天使の光が散る。

「…嘘だ」

コカビエルの声が最後に響いた。

偽物の声だ。記憶から引きずり出された影の声。

爆発した。

三色の光がコカビエルの巨体を内側から粉砕する。光の粒子となって砕け散る。堕天使の翼も光の槍も全てが光となって霧散する。

爆風が森を薙ぎ払う。トウサイジュウオーが風を受けても動かない。両足で大地を踏ん張り右腕を下ろさない。

爆発の光が収まった。

空に何もない。

コカビエルの巨体は消えた。

 

*  *  *

 

「…終わった」

シンジの声が操縦席から聞こえた。

小さな声だ。だが確かにそう言った。

トウサイジュウオーの巨体がゆっくりと構えを解く。右腕の大顎がガクリと閉じる。両足の力が抜け膝が微かに沈む。

俺は空を見上げた。

何もない空だ。

偽物とはいえコカビエルの力は本物だった。メダルで巨大化されていればその威力は計り知れない。だが倒した。トウサイジュウオーの三つの力で粉砕した。

(だが、これは始まりに過ぎない)

バングレイはまだ生きている。俺の記憶を読み取ったあいつは、また別の記憶から敵を実体化させるだろう。

次は何を出してくるか分からない。

だが今は、この勝利を受け取っておくべきだ。

 

「シンジ」

 

「…はい」

 

「よくやった」

 

シンジは何も答えなかった。だが操縦席の中で肩の力が抜けたのが分かった。

 

トウサイジュウオーが大地を踏みしめたまま、静かにそこに立っていた。

黒い巨体に月光が照らされる。

だが夏は、まだ始まったばかりだ。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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