※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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夏の夜の転校報告

コカビエルが消えた後、俺たちはテントに戻った。

 

焚き火を囲む。夜はまだ深い。だが空の端がほんの少しだけ白み始めている。もうすぐ夜が明ける。

 

全員が火のそばにいた。ユキカゼが火を薪で突ついている。エレンは木の根元で丸くなっている。レオーネが何かをかじっている。マンモスマンが黙って座っている。ガーフィールが寝転がって星を数えている。レイスが翼を広げて風を浴びている。

 

そして俺の隣に絶花がいた。

 

少し離れた場所にシンジがいた。

 

焚き火が爆ぜる音だけが響いている。静かな夜だ。戦いの後の静けさは心地いい。

 

「ねえ太郎」

 

絶花が口を開いた。火を見つめたまま。声が少し小さい。何か言いにくいことのある時の声だ。

 

「ん」

 

「私、転校するんだ」

 

「は?」

 

言葉が出なかった。転校。いや待てよ。聞き間違いか。

 

「転校って…どこへ」

 

「駒王学園。中等部」

 

俺は瞬きをした。

 

駒王学園。中等部。

 

俺が通っているのは駒王学園の高等部だ。あそこに中等部があることは知っている。だが。

 

「お前、駒王学園の中等部に?」

 

「うん。親の都合で」

 

親の都合。その言葉に特別な含みはない。ただの転校だ。だい。

 

いや、待てよ。駒王学園に。あの駒王学園に。

 

あそこは悪魔のテリトリーだ。リアス・グレモリーの庭先だ。そこに絶花が来る。剣の才能のある小心者が来る。天聖を持った人間が来る。

 

(麻雀で言えば役満を狙う手に、危険牌を自分から放り込むようなもんだ)

 

「太郎、大丈夫? 顔が変」

 

「大丈夫じゃない。お前、分かってるのか。駒王学園がどういう場所か」

 

「知ってる。オカルト研究部とかいう部活があるんでしょ。変な美人の先輩がいるって」

 

「変な美人ってリアス・グレモリーのことか。あいつは美人じゃない。紅髪の魔王だ」

 

「魔王って。太郎らしい誇張表現だね」

 

「誇張じゃない」

 

「誇張だよ。リアス・グレモリーは悪魔の家系の一角だけど、魔王本人じゃないでしょ」

 

「まあそうだが。俺の言いたいのはそこじゃない」

 

俺は言いよどんだ。言いにくい。だが言わなきゃいけない。

 

「あそこは危険だ。お前が思ってるよりずっと」

 

「知ってる」

 

絶花は火を見つめたまま言った。

 

「でも、親の都合だから。私の意思じゃないんだ」

 

「断れないのか」

 

「断ったら。もう行く場所がない」

 

その声が小さくなった。絶花は膝を抱えるようにして座り直した。

 

(行く場所がないか)

 

親の都合。転校。断れない。それが絶花の置かれた状況なんだろう。宮本家の事情。剣士の家系のしがらみ。それが彼女を動かしている。

 

「太郎」

 

「ん」

 

「私は、友達を作りに行くんだよ。普通に。学園生活を送りに」

 

「友達を作りに、悪魔の庭先にか」

 

「悪魔の庭先じゃないよ。学校だよ」

 

「オカルト研究部のある学校だぞ」

 

「入部するわけじゃないでしょ」

 

「入るかもしれない。あそこは勧誘がしつこい」

 

「大丈夫だよ。私は剣士だし。変な話には巻き込まれない」

 

「お前は巻き込まれる体質だろ」

 

「ひどい言い方」

 

「事実だ」

 

「事実じゃない」

 

「あの夏も巻き込まれただろ。異世界に」

 

「あれは太郎が原因でしょ」

 

「俺のせいかよ」

 

「半分は太郎のせい」

 

「どっちだよ」

 

絶花はふふっと笑った。笑いながらも目が少し寂しそうだった。

 

*  *  *

 

「あの」

 

声がした。小さな声。焚き火のそばからではない。もっと端の方から。

 

シンジだ。

 

「…僕も」

 

シンジが口を開いた。膝を抱えたまま。火を見ないで地面を見ている。

 

「僕も、転校するんです」

 

俺は振り返った。

 

「お前もか」

 

「はい。親の都合で」

 

「どこへ」

 

「駒王学園の、中等部です」

 

「…は?」

 

もう一度だ。今日二度目の「は?」だ。俺の語彙力が疑われるが、こういう時は「は?」以外の言葉が出ない。

 

「お前も駒王学園か」

 

「はい。偶然ですけど」

 

「偶然かよ」

 

「偶然です。親の仕事の都合で。来月から」

 

来月。夏休みが終われば来月だ。新学期。駒王学園の中等部に、絶花とシンジが来る。

 

(マジかよ)

 

俺は頭を抱えた。駒王学園。高等部に俺がいる。中等部に絶花とシンジが来る。同じ学園だ。同じキャンパスだ。

 

「太郎さん、大丈夫でござるか」

 

ユキカゼが心配そうに顔を覗き込んできた。尻尾がぴたりと止まっている。

 

「大丈夫じゃない」

 

正直に言った。

 

「お前ら二人とも揃って駒王学園に来るのか」

 

「二人とも、ですか」

 

シンジが絶花を見た。絶花もシンジを見た。二人の間に気まずい沈黙が流れる。

 

「知らなかった。碇くんも来るんだ」

 

「はい。宮本さんも、でしたか」

 

「うん。偶然だね」

 

「偶然ですね」

 

二人が顔を見合わせて少しだけ笑った。似たような事情の二人が、同じ場所に行く。悪くない。いや、悪いのか。分からない。

 

(駒王学園に二人が来る。あそこは悪魔と天使と堕天使が入り交じってる場所だ)

 

だが。

 

(俺がいる)

 

俺が高等部にいる。王の駒がある。ジュウオウチェンジャーがある。メダルの件もある。

 

あいつらが中等部に来れば、俺の目が届く範囲にいる。守れる。いや、守る必要があるかもしれない。いや、絶対にある。

 

「分かった」

 

俺は言った。

 

「二人とも駒王学園に来るんだな」

 

「うん」

 

「はい」

 

「来月からだな」

 

「うん」

 

「はい」

 

「なら、俺がいる」

 

二人が顔を上げた。

 

「高等部に俺がいる。何かあったら言え。何もなくても言え。困ったら俺のところへ来い」

 

絶花が目を丸くした。シンジが一拍遅れて顔を上げた。

 

「太郎、それは」

 

「俺は王になる男だ。王は家臣を見捨てない。お前らが俺の家臣かどうかはまだ決めてないが」

 

「決めてないの」

 

「まだだ。だが俺の幼馴染みと俺の戦友が同じ学園に来るなら、俺がいないよりいた方がいいだろ」

 

「…それはそうだけど」

 

「それに」

 

俺は焚き火を見た。

 

「駒王学園は普通の学園じゃない。お前らが思ってるより、ずっと」

 

「変な美人の先輩がいるくらいでしょ」

 

「変な美人の先輩どころじゃない。悪魔がいる。天使がいる。堕天使がいる。全部一つの学園の中にいる」

 

「…嘘だよね」

 

「嘘じゃない」

 

絶花の顔が硬くなった。

 

「それにメダルの件もある。バングレイがまだ生きてる。お前らが巻き込まれる可能性は十分にある」

 

「巻き込まれないように気をつけるよ」

 

「気をつけて済むなら俺は苦労しない」

 

「太郎は心配性だね」

 

「心配性じゃない。王としての義務だ」

 

「はいはい。王様の義務ね」

 

絶花は呆れたように笑った。だがその笑みの中に少しだけ安心の色が見えた。

 

「太郎さんがいるなら、少しは安心でござる」

 

ユキカゼが火のそばから言った。尻尾がゆらりと揺れる。

 

「安心できるでござるよ。太郎さんは王だから。家臣を守るのが王の仕事でござる」

 

「お前まで」

 

「私もそう思うでござる。碇さんも宮本さんも、太郎さんがいれば大丈夫でござる」

 

「ユキカゼさんまで。僕は別に」

 

シンジが言いかけたが、途中で止めた。言い返す元気がなかったのか。それともユキカゼの言葉に少し救われたのか。

 

「…ありがとうございます」

 

小さな声だった。だが確かにそう言った。

 

*  *  *

 

夜が明け始めた。

 

空の端が白くなる。星が少しずつ消えていく。焚き火が小さくなった。

 

「来月か」

 

俺は空を見上げた。

 

「来月、お前らが駒王学園に来る」

 

「来るよ」

 

「来ます」

 

「なら、迎えてやる。王の家臣として」

 

「まだ家臣って決まってないでしょ」

 

「決める」

 

「勝手に決めないでよ」

 

「王が決める」

 

「太郎」

 

「何だ」

 

「もういいよ。分かったから」

 

絶花は笑った。諦めたような、でも悪くないような、そういう笑い方だ。

 

シンジは端の方で膝を抱えたまま小さく頷いていた。不安と安堵が混じった顔だ。

 

「来月、駒王学園で」

 

「ああ。来月な」

 

「来月ですね」

 

「来月でござる」

 

ユキカゼまでが乗っかった。尻尾が揺れている。

 

夏の朝が来る。

 

空が白む。森が目を覚ます。

 

俺は火を見つめた。

 

来月。新学期。駒王学園。

 

絶花とシンジが来る。

 

悪魔と天使と堕天使がいる学園に、剣士と臆病な少年が来る。

 

(面倒だ。だが)

 

俺は王になる男だ。

 

面倒なことがあろうと、俺の国に来る者は守る。それが王だ。

 

「おーい、朝ごはんにするでござるよ」

 

ユキカゼが焚き火に鍋をかけた。

 

「何を作った」

 

「お粥でござる。具材は近くの川で採った魚でござる」

 

「また魚か」

 

「新鮮でござるよ。太郎さん食べて元気を出すでござる」

 

「元気はある」

 

「ないでござる。顔が疲れてるでござる」

 

「色々あってな」

 

「色々あったでござるね。でも朝が来たでござる。新しい一日でござるよ」

 

ユキカゼが笑った。朝の光に照らされて尻尾がふさふさと揺れる。

 

俺は空を見上げた。

 

夏の空が、青くなっていく。

 

来月、新しい夏が始まる。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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