サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
女は笑ったまま、俺の隣に腰を下ろした。
川岸の岩の上。俺との距離が近い。肩が触れそうなほどに。黒い着物の袖が風に靡いて、俺の腕を掠める。
近い。わざと近い。
「お前、距離が近い」
「にゃあに。嫌なの?」
女が小首を傾げて俺を見上げた。黄色い目が細められている。楽しむような目だ。
「嫌とかじゃなく。正体も分からない女にいきなり寄られても対応に困る」
「ふふ。正体が分かったら寄ってもいいのかしら」
「そういう話じゃない」
「じゃあどういう話なの」
俺はため息をついた。
この女、話が通じるような通じないような。ペースが完全に向こうにある。俺は王になる男だが、こういうタイプは苦手だ。ユキカゼとは違う種類の掴みどころがない。
「名前くらい教えろ」
「名前」
女が指を口元に当てた。すぐには答えず、俺の顔を眺めている。
「黒歌」
「……黒歌、か」
「そう。覚えておいてね」
黒歌は口元を緩めた。
聞き覚えがあるような気もする。どこで耳にしたのか、思い出そうとしても出てこない。
「黒歌。お前は何者だ」
「何者、か。難しい質問ね」
「難しくないだろ。人間か、悪魔か、天使か、堕天使か。どれかだろ」
「どうしてその四つだけなの? 他にもいろいろいるのに」
「他? 何がある」
「秘密」
また秘密だ。ユキカゼと同じだ。年齢も秘密、正体も秘密。秘密だらけの女たちに囲まれるのが俺の運命なのか。
「お前、さっきの黒猫だろ。なぜそこだけ認めない」
黒歌は瞬きをした。一度。ゆっくりと。猫の仕草そのままだ。
「認めてないわけじゃないわよ。ただ、猫から人間になったなんて言ったら、あなたが驚くでしょ」
「もう驚いてる。とっくに驚いてる」
「ふふ。素直なのね。王様って割と正直なのかしら」
「王様じゃない。王になる男だ」
「同じようなものでしょ」
「同じじゃない。まだなってないからな」
「なろうとしてる時点で王様よ。私の基準では」
「お前の基準を知らん」
「知りたい?」
黒歌が少し身を乗り出した。着物の襟が開いて、白い鎖骨が見える。わざとだ。いや、わざとなのか。自然なのか。分からない。だが近い。近すぎる。
俺は少し身体を引いた。
「知りたくない」
「冷たいのね」
「冷たいんじゃない。警戒してるだけだ」
「何に警戒してるの? 私が何かすると思ってる?」
「さっきから正体を隠してる時点で警戒して当然だろ」
「正体は隠してないわよ。黒歌って言ったでしょ」
「名前だけだ。種族も所属も目的も言ってない」
「細かいのねえ」
黒歌はふふっと笑って、少しだけ距離を取った。少しだけだ。まだ近い。だがさっきよりはマシだ。
「あなた、面白いわね」
「面白くない」
「面白いのよ。王になりたいって言ってたでしょ。この時代に王を目指す人間なんて珍しいわ」
「珍しいだけだ。面白くはない」
「珍しいものは面白いの。私の基準では」
「お前の基準はどうでもいい」
「ひどいわねえ」
黒歌は口を尖らせた。猫が拗ねたような顔だ。いや、猫そのものか。
女王は誰にする?
-
アルファ
-
ララ·サタリン·デビルーク
-
エミリア