※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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紫の空の下で

目を開けると、世界が変わっていた。

 

空が、紫だ。

 

それが最初に目に入った。紫色の空。人間界の夕暮れとも夜とも違う。ジューマンワールドの淡い紫とも違う。もっと深く、もっと濃い紫。葡萄の皮を重ねたような色だ。

 

「…すごい色だ」

 

絶花が呟いた。刀を握る手が少し緩んでいる。警戒していたはずだが、目の前の景色に気を取られている。

 

「空が紫でござる」

 

ユキカゼが仰ぎ見た。狐耳がピンと立っている。尻尾がゆらゆらと揺れる。好奇心だ。

 

「紫色の空。これは…冥界か」

 

俺は足元を見た。地面は草だ。緑の草が生えている。普通の草だ。人間界の草と変わらない。だが空が紫だから、その緑が妙に鮮やかに見える。紫と緑。補色の関係だ。目に刺さる。

 

「森がある」

 

エレンが言った。目を細めて前方を見ている。

 

ある。森だ。紫の空の下に広がる森。木々がある。背の高い木々。だがジューマンワールドの巨大な木とは違う。もっと人間界に近い。普通のサイズの木だ。だが幹の色が微妙に違う。赤みがかっている。

 

「山も見えるでござる」

 

ユキカゼが遠くを指差した。狐ジューマンの視力は鷹並みだ。遠方の山の稜線が紫の空に黒く浮かんでいる。

 

「川もあるね」

 

レイスが翼を少し広げて風を感じた。

 

「湿気がある。水はあるってことだね」

 

「町があるのか」

 

マンモスマンが低く問うた。鼻が動いている。匂いを探っているのだろう。

 

「ある。遠くだが煙が見える。誰かが住んでいる」

 

「冥界に町があるのかよ」

 

ガーフィールが珍しく驚いた声を出した。

 

「あんだァ。死者の世界って言うから墓場しかねェかと思ったぜェ」

 

「俺もそう思ってた。だが違うらしい」

 

俺は周囲を見回した。

 

森。山。川。草。木々。風。鳥の声。

 

鳥がいる。紫の空を鳥が飛んでいる。人間界の鳥と少し形が違うが、鳥だ。生きている。

 

(死者の世界って言うけど、生き物がいる。木が生えてる。水が流れてる。普通の世界じゃないか)

 

だが空は紫だ。それだけが、ここが人間界ではないことを告げている。

 

「風が温かいでござる」

 

ユキカゼが目を細めた。尻尾が気持ちよさそうに揺れている。

 

「人間界の風と変わらないでござるよ」

 

「いや。少し違う」

 

マンモスマンが鼻を鳴らした。

 

「匂いが違う。人間界の土の匂いじゃない。もっと古い。堆積した土の匂いだ」

 

「堆積した土って何だ」

 

「長い時間が積み重なった土だ。人間界の土より遥かに古い」

 

「お前鼻だけは一流だな」

 

「戦士の鼻だ。戦場では役に立つ」

 

「役に立つシーンが限定されすぎだろ」

 

マンモスマンは鼻を鳴らすだけだった。

 

*  *  *

 

 

 

レイスが地面にしゃがみ込んだ。

 

翼の先で土を触っている。ダチョウの脚で地面をぺたりと踏みしめる。

 

「土は普通だね。柔らかい。草木も生えてる。結構住みやすそうじゃない」

 

「住みやすそうでござるか」

 

ユキカゼが首を傾げる。

 

「死者の世界でござるよ? 住みやすいなんて変でござる」

 

「変じゃないよ。冥界だって一つの世界だ。世界には生き物がいる。生き物がいれば環境が整ってる。それだけの話だね」

 

「レイスは冷静でござるな」

 

「ダチョウは環境適応力が高いからね。どこでも生きられるのさ」

 

「ダチョウってすごいでござるな」

 

「でしょ? 見直したでしょ?」

 

「見直したでござる」

 

「よし」

 

レイスが立ち上がった。満足げに翼を広げる。ダチョウ獣人の自信はどこから来るのだろうか。まあ悪くはない。

 

「太郎」

 

絶花が俺の横に立った。刀を腰に戻している。警戒は解いていないが、景色に圧倒されて少し緊みが緩んでいる。

 

「ん」

 

「ここが冥界なんだね」

 

「ああ。紫の空。それが証拠だ」

 

「空以外は普通の世界に見えるよ」

 

「見えるな。だがここは人間界じゃない。悪魔の領域だ」

 

「悪魔の領域…」

 

絶花が空を見上げた。紫の空が彼女の黒髪を紫色に染める。

 

「どこに黒歌さんはいるんだろう」

 

「分からん。だが待てば来るだろう。あいつが呼んだんだ。放置するとは思えない」

 

「来るかな」

 

「来る。来なかったら探す。それだけだ」

 

「太郎らしいね」

 

「俺は王になる男だ。呼ばれて来た場所で立ち尽くしてるだけの王はいない」

 

「立ち尽くしてる今はどうなの」

 

「…探索の準備中だ」

 

「言い訳だね」

 

「うるさい」

 

*  *  *

 

 

 

シンジが少し離れた場所に立っていた。いつものだ。皆から一歩離れた位置。だが帰らない。ついてきている。

 

俺はシンジの方を見た。黒い装甲のジュウオウザワールドの姿から、変身を解いて人の姿に戻っている。変身を解いたシンジは紫の空を見上げていた。

 

「碇」

 

「…はい」

 

「どうだ」

 

「…紫の空。きれいだなと思って」

 

「きれいか」

 

「はい。怖いと思ってた。冥界って聞いて。でもきれいだなって。変ですか」

 

「変じゃない。俺もそう思った」

 

シンジが少しだけ振り返った。俺を見る。一拍遅れて。だが目が合った。

 

「…よかった」

 

「何がだ」

 

「太郎さんもそう思ったなら。変じゃないなら。よかった」

 

「お前は変じゃない。ただ臆病なだけだ」

 

「…それは否定できないです」

 

シンジが少しだけ笑った。微かな笑みだ。だが確かに笑った。

 

紫の空の下、冥界の風が吹く。

 

温かい風だ。人間界の夏の風と変わらない。だが空が紫であることが、ここが別の世界であることを告げている。

 

俺は風を感じながら考えた。

 

黒歌が呼んだ。冥界に来いと。理由はまだ分からない。だがここに来た。王として、前に進むだけだ。

 

「全員、警戒しながら待機する。黒歌が来るまで動く」

 

「了解でござる」

 

ユキカゼが頷く。

 

「はいはい」

 

レイスが翼を畳む。

 

「分かったでござるか」

 

マンモスマンが座り込む。

 

「おォ。待つのは苦手だァ」

 

ガーフィールが地べたに寝転がる。

 

「別に」

 

エレンが目を閉じる。

 

「…はい」

 

シンジが小さく頷く。

 

冥界。紫の空の下。

 

俺たちは、そこにいた。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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