サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
目を開けると、世界が変わっていた。
空が、紫だ。
それが最初に目に入った。紫色の空。人間界の夕暮れとも夜とも違う。ジューマンワールドの淡い紫とも違う。もっと深く、もっと濃い紫。葡萄の皮を重ねたような色だ。
「…すごい色だ」
絶花が呟いた。刀を握る手が少し緩んでいる。警戒していたはずだが、目の前の景色に気を取られている。
「空が紫でござる」
ユキカゼが仰ぎ見た。狐耳がピンと立っている。尻尾がゆらゆらと揺れる。好奇心だ。
「紫色の空。これは…冥界か」
俺は足元を見た。地面は草だ。緑の草が生えている。普通の草だ。人間界の草と変わらない。だが空が紫だから、その緑が妙に鮮やかに見える。紫と緑。補色の関係だ。目に刺さる。
「森がある」
エレンが言った。目を細めて前方を見ている。
ある。森だ。紫の空の下に広がる森。木々がある。背の高い木々。だがジューマンワールドの巨大な木とは違う。もっと人間界に近い。普通のサイズの木だ。だが幹の色が微妙に違う。赤みがかっている。
「山も見えるでござる」
ユキカゼが遠くを指差した。狐ジューマンの視力は鷹並みだ。遠方の山の稜線が紫の空に黒く浮かんでいる。
「川もあるね」
レイスが翼を少し広げて風を感じた。
「湿気がある。水はあるってことだね」
「町があるのか」
マンモスマンが低く問うた。鼻が動いている。匂いを探っているのだろう。
「ある。遠くだが煙が見える。誰かが住んでいる」
「冥界に町があるのかよ」
ガーフィールが珍しく驚いた声を出した。
「あんだァ。死者の世界って言うから墓場しかねェかと思ったぜェ」
「俺もそう思ってた。だが違うらしい」
俺は周囲を見回した。
森。山。川。草。木々。風。鳥の声。
鳥がいる。紫の空を鳥が飛んでいる。人間界の鳥と少し形が違うが、鳥だ。生きている。
(死者の世界って言うけど、生き物がいる。木が生えてる。水が流れてる。普通の世界じゃないか)
だが空は紫だ。それだけが、ここが人間界ではないことを告げている。
「風が温かいでござる」
ユキカゼが目を細めた。尻尾が気持ちよさそうに揺れている。
「人間界の風と変わらないでござるよ」
「いや。少し違う」
マンモスマンが鼻を鳴らした。
「匂いが違う。人間界の土の匂いじゃない。もっと古い。堆積した土の匂いだ」
「堆積した土って何だ」
「長い時間が積み重なった土だ。人間界の土より遥かに古い」
「お前鼻だけは一流だな」
「戦士の鼻だ。戦場では役に立つ」
「役に立つシーンが限定されすぎだろ」
マンモスマンは鼻を鳴らすだけだった。
* * *
レイスが地面にしゃがみ込んだ。
翼の先で土を触っている。ダチョウの脚で地面をぺたりと踏みしめる。
「土は普通だね。柔らかい。草木も生えてる。結構住みやすそうじゃない」
「住みやすそうでござるか」
ユキカゼが首を傾げる。
「死者の世界でござるよ? 住みやすいなんて変でござる」
「変じゃないよ。冥界だって一つの世界だ。世界には生き物がいる。生き物がいれば環境が整ってる。それだけの話だね」
「レイスは冷静でござるな」
「ダチョウは環境適応力が高いからね。どこでも生きられるのさ」
「ダチョウってすごいでござるな」
「でしょ? 見直したでしょ?」
「見直したでござる」
「よし」
レイスが立ち上がった。満足げに翼を広げる。ダチョウ獣人の自信はどこから来るのだろうか。まあ悪くはない。
「太郎」
絶花が俺の横に立った。刀を腰に戻している。警戒は解いていないが、景色に圧倒されて少し緊みが緩んでいる。
「ん」
「ここが冥界なんだね」
「ああ。紫の空。それが証拠だ」
「空以外は普通の世界に見えるよ」
「見えるな。だがここは人間界じゃない。悪魔の領域だ」
「悪魔の領域…」
絶花が空を見上げた。紫の空が彼女の黒髪を紫色に染める。
「どこに黒歌さんはいるんだろう」
「分からん。だが待てば来るだろう。あいつが呼んだんだ。放置するとは思えない」
「来るかな」
「来る。来なかったら探す。それだけだ」
「太郎らしいね」
「俺は王になる男だ。呼ばれて来た場所で立ち尽くしてるだけの王はいない」
「立ち尽くしてる今はどうなの」
「…探索の準備中だ」
「言い訳だね」
「うるさい」
* * *
シンジが少し離れた場所に立っていた。いつものだ。皆から一歩離れた位置。だが帰らない。ついてきている。
俺はシンジの方を見た。黒い装甲のジュウオウザワールドの姿から、変身を解いて人の姿に戻っている。変身を解いたシンジは紫の空を見上げていた。
「碇」
「…はい」
「どうだ」
「…紫の空。きれいだなと思って」
「きれいか」
「はい。怖いと思ってた。冥界って聞いて。でもきれいだなって。変ですか」
「変じゃない。俺もそう思った」
シンジが少しだけ振り返った。俺を見る。一拍遅れて。だが目が合った。
「…よかった」
「何がだ」
「太郎さんもそう思ったなら。変じゃないなら。よかった」
「お前は変じゃない。ただ臆病なだけだ」
「…それは否定できないです」
シンジが少しだけ笑った。微かな笑みだ。だが確かに笑った。
紫の空の下、冥界の風が吹く。
温かい風だ。人間界の夏の風と変わらない。だが空が紫であることが、ここが別の世界であることを告げている。
俺は風を感じながら考えた。
黒歌が呼んだ。冥界に来いと。理由はまだ分からない。だがここに来た。王として、前に進むだけだ。
「全員、警戒しながら待機する。黒歌が来るまで動く」
「了解でござる」
ユキカゼが頷く。
「はいはい」
レイスが翼を畳む。
「分かったでござるか」
マンモスマンが座り込む。
「おォ。待つのは苦手だァ」
ガーフィールが地べたに寝転がる。
「別に」
エレンが目を閉じる。
「…はい」
シンジが小さく頷く。
冥界。紫の空の下。
俺たちは、そこにいた。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア