サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
キャンプを設営した。
リンクキューブを中心に、周囲にテントを張る。あの夏に覚えた手順で、ペグを打ち、ロープを張る。俺と絶花とシンジで手分けして、残りの連中は周囲の警戒と資材集めだ。
「ここ、地面が柔らかいでござる。ペグがよく刺さるでござるよ」
ユキカゼが尻尾を揺らしながらテントの角を固定していく。冥界の土は確かに柔らかかった。マンモスマンの言う通り、長い時間をかけて積み重なった土は、ふかふかの布団みたいにペグを飲み込んでいく。
「張り終わったら周辺の探索だ。水場の確認と、食料の確保。あの夏と同じだ」
「了解でござる!」
「食料は任せな。この鼻は餌を探すのに長けてるからね」
レオーネが自分の鼻を指差した。
「お前の鼻は酒場を探すのに長けてるだろ」
「酷いよ大将! アタシの鼻は食い物と酒と危険、全部察知するんだよ!」
「二割が酒の気がするがな」
「六割だよ」
「自分で言うな」
レオーネはけらけら笑いながら森の方へ走っていった。冥界の森へ、一人で。だが心配はいらない。あいつの強さはこの目で見てきた。百獣王・ライオネルの名は飾りじゃない。
* * *
夕方までに、調査はある程度進んだ。
まず水場。リンクキューブから川を下った場所に、澄んだ川が流れていた。冥界の川だ。水の色が少し青みがかっているが、冷たくて清らかだ。ユキカゼが一口飲んで「美味いでござる」と太鼓判を押した。狐の味覚が安全を保証するなら、まあ大丈夫だろう。
次に食料。レオーネが戦果を持って帰ってきた。
「大将! 果物っぽいのと、なんか鳥っぽいの獲ってきたよ!」
「鳥っぽいのって何だよ」
「鳥だったよ。たぶん」
「たぶんって何だよ」
「冥界の鳥だから、ちょっと羽の色が紫だったけど。味は…まだ焼いてないから分かんない」
紫の鳥。冥界ならではだ。人間界の鳥と形は変わらないが、羽が紫灰色をしている。食えるのかこれ。
「毒は」
「ないと思う。匂いで分かるよ。腐敗臭とか毒々しい匂いとかがない」
「レオーネの鼻に免じて信じるぞ」
そして、一番の収穫は魚だった。
川で釣ったのだ。釣り竿は現地調達。餌は森で拾った虫。ジューマンワールドで培った釣りの技術を、冥界で試す。
糸を垂らして十分もしないうちに、強い引きが来た。
「来た!」
「釣れたでござるか!」
ユキカゼが水面を覗き込む。
銀色の魚だ。だがよく見ると、鱗の一つ一つに紫の光沢がある。人間界のアユに似た形だが、サイズが一回り大きい。ヒレの縁がほんのり発光していた。
「光ってるでござる」
「発光魚か。冥界の川魚か」
「食べられるんでござるかね」
「焼いてみるまで分からん。だがこの匂い…悪くない」
俺は魚を岸に引き上げた。三匹。十分な獲物だ。
* * *
夜、焚き火を囲んだ。
紫の空の下、炎が揺れる。冥界の夜だ。空は紫のまま、濃くなっただけ。星が見える。人間界の星座とは配列が違う。見知らぬ星図だ。
(ここは別の世界なんだな)
空を見上げると、実感する。紫の空。知らない星。冥界。
ユキカゼが紫の魚を塩焼きにしていた。塩は人間界から持ってきたものだ。
じゅっ、と魚の表面が焼ける音。脂が滴って炎に落ちる。香ばしい匂いが立ち上る。
「いい匂いでござる」
「ああ。だが食えるのかこれ」
「私が一番に味見するでござる。毒見は信頼の証でござるよ」
「お前が毒見役だと俺が逆に心配なんだが」
「失礼でござるな! 狐の舌は繊細なんだから!」
魚が焼き上がった。ユキカゼが一番大きな身をほじくり、口に運ぶ。
もぐもぐ。
全員の視線がユキカゼに集まる。
「…っ! 美味いでござる!」
「本当か」
「淡白でござるが旨味が強いでござる! 人間界の魚より深い味でござるよ! 紫の分だけ味に深みがあるんでござるか」
「紫と味は関係ないだろ」
「じゃあ太郎さん食べてみるでござる。ほら、あーん」
「自分で食えるから口に突っ込むな」
俺は魚の身を口に運んだ。
……旨い。
ユキカゼの誇張じゃない。淡白なのに旨味が濃い。冥界の川の水を浴びて育った魚の味は、人間界のものとは明らかに違った。噛むほどに味が滲み出てくる。
「旨いなこれ」
「でござろう?」
「豆アユっぽいが、もっと濃い。何だこの旨味は」
「冥界パワーでござるかね」
「適当なこと言うな」
レオーネが紫の鳥の肉を裂いて頬張っている。
「こっちもいけるよ大将! 鶏みたいな味だけど、ちょっとスパイスが効いてるみたいな」
「スパイスは入れてないだろ」
「入れてないね。でもそんな味がするんだよ。冥界ってのは味付けが凝ってるね」
「凝ってるんじゃない。素材が違うだけだ」
マンモスマンが大量の魚を無言で食べている。四〇〇キロの巨体は炊事担当の天敵だ。
「美味いな」
「お前もう十匹目だろ」
「戦士は食うことが仕事の一部だ」
「戦士の仕事に食うは入ってない」
「入ってる。腹が減っては戦はできぬ。古い言葉だ」
「お前が今作っただろその言葉」
ガーフィールが紫の果物をかじっている。
「んァ? これ酸っぱ甘くて癖になる味だぜェ。『口に合う木は育つ』ってなァ!」
「それ何の慣用句だよ」
「知らねェよォ! 今の俺様の心から湧き出た言葉だァ!」
レイスが果物を翼の先で器用に皮むきしている。
「これ美味しいね。ダチョウの群れにも分けてやりたいよ。みんな紫の空に興奮してるんだ。故郷の高原には紫の実なんてなかったからね」
「群れは元気か」
「元気だよ。リンクキューブの周りで陣取ってる。ちょっと狭いけど、まあ我慢してもらってる」
エレンは焚き火から少し離れた場所で、魚を静かに食べていた。
「……」
「エレン、魚どうだ」
「……美味しい」
「そうか」
「……帰ったら寝る」
「まだ食ってる最中だろ」
「先の予定を立ててるだけ」
エレンらしい予定だ。
絶花は刀を膝に置きながら、ゆっくりと魚を食べていた。
「どうした絶花。箸が止まってるぞ」
「ううん。只是…こんなふうに皆で火を囲んでご飯を食べるの、久しぶりだなって」
「ああ。そうだな」
「あの夏も、こんなふうだったね。ジューマンワールドで。みんなで釣った魚を食べて」
「覚えてるよ。あの時はタスクが山ほど食ってて困ったが」
「ふふっ。今も同じことが起きてるね」
絶花はマンモスマンの方を見て、小さく笑った。マンモスマンは十五匹目に入っていた。
シンジは火の輪から少し離れた場所で、魚を持ったまま炎を見つめていた。
「碇。食わないのか」
「…食べます。ただ」
「ただ?」
「こういうの、慣れてないから。みんなで火を囲んで笑ってる時間」
「慣れてなくても飯は食える。食え。冷めるぞ」
「…うん」
シンジは小さく頷いて、魚に口をつけた。一口食べて、目を少し丸くした。
「…美味しい」
「だろうな」
「…冥界のご飯って、美味しいんだ」
「冥界が悪い場所とは限らない。空が紫なだけだ」
シンジはまた一口食べた。今度はゆっくりと、味わうように。
* * *
腹が満たされたところで、俺は本題を切り出した。
「今後の方針を確認する」
焚き火を挟んで、全員の視線が集まる。
「第一。黒歌を待つ。あいつは俺たちをここへ呼んだ。何かを知っているはずだ。ここに来た以上、接触は必須だ」
「黒歌さんが来なかったらでござるか」
「探す。冥界広いだろうが、あいつは猫又だ。猫のネットワークってやつがあるかもしれん」
「猫にネットワークがあるんでござるか」
「あるんだろ。多分」
「根拠のない自信でござるな」
「第二。バングレイの動向だ。あいつは俺の記憶を読める。コカビエルを出してきたように、次は別の記憶から何かを出してくる可能性がある」
ここで俺は少し声を落とした。
「俺たち全員の記憶の中には、強敵との戦いがある。バングレイがお前たちに触れれば、ジューマンワールドの戦いも再現されるかもしれない」
焚き火の周りの空気が、変わった。
デスガリアンとの戦い。思い出したくない記憶もあるだろう。だが全員が頷いた。
「第三。メダルの破壊を続ける。冥界にメダルがばら撒かれている可能性はまだ潰せてない。調査を並行する」
「了解でござる!」
ユキカゼが尻尾を立てた。
「大将の方針なら異存ねェぜェ!」
ガーフィールが拳を叩きつける。
「ボスの命令だ。従う」
マンモスマンが短く告げる。
「アタシたちは大将の家臣だからね。指図は任せるよ」
レオーネが笑う。
「群れも好きに使ってくれ。兵団長として言ってるよ」
レイスが翼を軽く広げた。
「別に」
エレンが火を見たまま言った。
「……付いていく」
シンジが小さく言った。
全員、揃っていた。
(あの夏と同じだ)
焚き火を見つめながら、そう思った。
俺は王になる男だ。だが王は一人では成り立たない。家臣がいるから王だ。こいつらがいるから、俺は前に進める。
「よし。方針は決まった。夜警は交代で。ユキカゼとガーフィールが初勤だ」
「了解でござる!」
「へいへい、勤務でござるよォ」
ガーフィール、それは俺の真似だろうか。やめろ。似てない。
焚き火が爆ぜた。
紫の空の下、冥界の夜が更けていく。
明日からは、この紫の世界での調査が始まる。
俺は炎を見つめながら、焼け残った魚の最後の一切れを口に放り込んだ。
(……やっぱり旨いや、この魚)
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア