※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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冥界キャンプと紫空の晩餐

キャンプを設営した。

 

リンクキューブを中心に、周囲にテントを張る。あの夏に覚えた手順で、ペグを打ち、ロープを張る。俺と絶花とシンジで手分けして、残りの連中は周囲の警戒と資材集めだ。

 

「ここ、地面が柔らかいでござる。ペグがよく刺さるでござるよ」

 

ユキカゼが尻尾を揺らしながらテントの角を固定していく。冥界の土は確かに柔らかかった。マンモスマンの言う通り、長い時間をかけて積み重なった土は、ふかふかの布団みたいにペグを飲み込んでいく。

 

「張り終わったら周辺の探索だ。水場の確認と、食料の確保。あの夏と同じだ」

 

「了解でござる!」

 

「食料は任せな。この鼻は餌を探すのに長けてるからね」

 

レオーネが自分の鼻を指差した。

 

「お前の鼻は酒場を探すのに長けてるだろ」

 

「酷いよ大将! アタシの鼻は食い物と酒と危険、全部察知するんだよ!」

 

「二割が酒の気がするがな」

 

「六割だよ」

 

「自分で言うな」

 

レオーネはけらけら笑いながら森の方へ走っていった。冥界の森へ、一人で。だが心配はいらない。あいつの強さはこの目で見てきた。百獣王・ライオネルの名は飾りじゃない。

 

*  *  *

 

夕方までに、調査はある程度進んだ。

 

まず水場。リンクキューブから川を下った場所に、澄んだ川が流れていた。冥界の川だ。水の色が少し青みがかっているが、冷たくて清らかだ。ユキカゼが一口飲んで「美味いでござる」と太鼓判を押した。狐の味覚が安全を保証するなら、まあ大丈夫だろう。

 

次に食料。レオーネが戦果を持って帰ってきた。

 

「大将! 果物っぽいのと、なんか鳥っぽいの獲ってきたよ!」

 

「鳥っぽいのって何だよ」

 

「鳥だったよ。たぶん」

 

「たぶんって何だよ」

 

「冥界の鳥だから、ちょっと羽の色が紫だったけど。味は…まだ焼いてないから分かんない」

 

紫の鳥。冥界ならではだ。人間界の鳥と形は変わらないが、羽が紫灰色をしている。食えるのかこれ。

 

「毒は」

 

「ないと思う。匂いで分かるよ。腐敗臭とか毒々しい匂いとかがない」

 

「レオーネの鼻に免じて信じるぞ」

 

そして、一番の収穫は魚だった。

 

川で釣ったのだ。釣り竿は現地調達。餌は森で拾った虫。ジューマンワールドで培った釣りの技術を、冥界で試す。

 

糸を垂らして十分もしないうちに、強い引きが来た。

 

「来た!」

 

「釣れたでござるか!」

 

ユキカゼが水面を覗き込む。

 

銀色の魚だ。だがよく見ると、鱗の一つ一つに紫の光沢がある。人間界のアユに似た形だが、サイズが一回り大きい。ヒレの縁がほんのり発光していた。

 

「光ってるでござる」

 

「発光魚か。冥界の川魚か」

 

「食べられるんでござるかね」

 

「焼いてみるまで分からん。だがこの匂い…悪くない」

 

俺は魚を岸に引き上げた。三匹。十分な獲物だ。

 

*  *  *

 

夜、焚き火を囲んだ。

 

紫の空の下、炎が揺れる。冥界の夜だ。空は紫のまま、濃くなっただけ。星が見える。人間界の星座とは配列が違う。見知らぬ星図だ。

 

(ここは別の世界なんだな)

 

空を見上げると、実感する。紫の空。知らない星。冥界。

 

ユキカゼが紫の魚を塩焼きにしていた。塩は人間界から持ってきたものだ。

 

じゅっ、と魚の表面が焼ける音。脂が滴って炎に落ちる。香ばしい匂いが立ち上る。

 

「いい匂いでござる」

 

「ああ。だが食えるのかこれ」

 

「私が一番に味見するでござる。毒見は信頼の証でござるよ」

 

「お前が毒見役だと俺が逆に心配なんだが」

 

「失礼でござるな! 狐の舌は繊細なんだから!」

 

魚が焼き上がった。ユキカゼが一番大きな身をほじくり、口に運ぶ。

 

もぐもぐ。

 

全員の視線がユキカゼに集まる。

 

「…っ! 美味いでござる!」

 

「本当か」

 

「淡白でござるが旨味が強いでござる! 人間界の魚より深い味でござるよ! 紫の分だけ味に深みがあるんでござるか」

 

「紫と味は関係ないだろ」

 

「じゃあ太郎さん食べてみるでござる。ほら、あーん」

 

「自分で食えるから口に突っ込むな」

 

俺は魚の身を口に運んだ。

 

……旨い。

 

ユキカゼの誇張じゃない。淡白なのに旨味が濃い。冥界の川の水を浴びて育った魚の味は、人間界のものとは明らかに違った。噛むほどに味が滲み出てくる。

 

「旨いなこれ」

 

「でござろう?」

 

「豆アユっぽいが、もっと濃い。何だこの旨味は」

 

「冥界パワーでござるかね」

 

「適当なこと言うな」

 

レオーネが紫の鳥の肉を裂いて頬張っている。

 

「こっちもいけるよ大将! 鶏みたいな味だけど、ちょっとスパイスが効いてるみたいな」

 

「スパイスは入れてないだろ」

 

「入れてないね。でもそんな味がするんだよ。冥界ってのは味付けが凝ってるね」

 

「凝ってるんじゃない。素材が違うだけだ」

 

マンモスマンが大量の魚を無言で食べている。四〇〇キロの巨体は炊事担当の天敵だ。

 

「美味いな」

 

「お前もう十匹目だろ」

 

「戦士は食うことが仕事の一部だ」

 

「戦士の仕事に食うは入ってない」

 

「入ってる。腹が減っては戦はできぬ。古い言葉だ」

 

「お前が今作っただろその言葉」

 

ガーフィールが紫の果物をかじっている。

 

「んァ? これ酸っぱ甘くて癖になる味だぜェ。『口に合う木は育つ』ってなァ!」

 

「それ何の慣用句だよ」

 

「知らねェよォ! 今の俺様の心から湧き出た言葉だァ!」

 

レイスが果物を翼の先で器用に皮むきしている。

 

「これ美味しいね。ダチョウの群れにも分けてやりたいよ。みんな紫の空に興奮してるんだ。故郷の高原には紫の実なんてなかったからね」

 

「群れは元気か」

 

「元気だよ。リンクキューブの周りで陣取ってる。ちょっと狭いけど、まあ我慢してもらってる」

 

エレンは焚き火から少し離れた場所で、魚を静かに食べていた。

 

「……」

 

「エレン、魚どうだ」

 

「……美味しい」

 

「そうか」

 

「……帰ったら寝る」

 

「まだ食ってる最中だろ」

 

「先の予定を立ててるだけ」

 

エレンらしい予定だ。

 

絶花は刀を膝に置きながら、ゆっくりと魚を食べていた。

 

「どうした絶花。箸が止まってるぞ」

 

「ううん。只是…こんなふうに皆で火を囲んでご飯を食べるの、久しぶりだなって」

 

「ああ。そうだな」

 

「あの夏も、こんなふうだったね。ジューマンワールドで。みんなで釣った魚を食べて」

 

「覚えてるよ。あの時はタスクが山ほど食ってて困ったが」

 

「ふふっ。今も同じことが起きてるね」

 

絶花はマンモスマンの方を見て、小さく笑った。マンモスマンは十五匹目に入っていた。

 

シンジは火の輪から少し離れた場所で、魚を持ったまま炎を見つめていた。

 

「碇。食わないのか」

 

「…食べます。ただ」

 

「ただ?」

 

「こういうの、慣れてないから。みんなで火を囲んで笑ってる時間」

 

「慣れてなくても飯は食える。食え。冷めるぞ」

 

「…うん」

 

シンジは小さく頷いて、魚に口をつけた。一口食べて、目を少し丸くした。

 

「…美味しい」

 

「だろうな」

 

「…冥界のご飯って、美味しいんだ」

 

「冥界が悪い場所とは限らない。空が紫なだけだ」

 

シンジはまた一口食べた。今度はゆっくりと、味わうように。

 

*  *  *

 

腹が満たされたところで、俺は本題を切り出した。

 

「今後の方針を確認する」

 

焚き火を挟んで、全員の視線が集まる。

 

「第一。黒歌を待つ。あいつは俺たちをここへ呼んだ。何かを知っているはずだ。ここに来た以上、接触は必須だ」

 

「黒歌さんが来なかったらでござるか」

 

「探す。冥界広いだろうが、あいつは猫又だ。猫のネットワークってやつがあるかもしれん」

 

「猫にネットワークがあるんでござるか」

 

「あるんだろ。多分」

 

「根拠のない自信でござるな」

 

「第二。バングレイの動向だ。あいつは俺の記憶を読める。コカビエルを出してきたように、次は別の記憶から何かを出してくる可能性がある」

 

ここで俺は少し声を落とした。

 

「俺たち全員の記憶の中には、強敵との戦いがある。バングレイがお前たちに触れれば、ジューマンワールドの戦いも再現されるかもしれない」

 

焚き火の周りの空気が、変わった。

 

デスガリアンとの戦い。思い出したくない記憶もあるだろう。だが全員が頷いた。

 

「第三。メダルの破壊を続ける。冥界にメダルがばら撒かれている可能性はまだ潰せてない。調査を並行する」

 

「了解でござる!」

 

ユキカゼが尻尾を立てた。

 

「大将の方針なら異存ねェぜェ!」

 

ガーフィールが拳を叩きつける。

 

「ボスの命令だ。従う」

 

マンモスマンが短く告げる。

 

「アタシたちは大将の家臣だからね。指図は任せるよ」

 

レオーネが笑う。

 

「群れも好きに使ってくれ。兵団長として言ってるよ」

 

レイスが翼を軽く広げた。

 

「別に」

 

エレンが火を見たまま言った。

 

「……付いていく」

 

シンジが小さく言った。

 

全員、揃っていた。

 

(あの夏と同じだ)

 

焚き火を見つめながら、そう思った。

 

俺は王になる男だ。だが王は一人では成り立たない。家臣がいるから王だ。こいつらがいるから、俺は前に進める。

 

「よし。方針は決まった。夜警は交代で。ユキカゼとガーフィールが初勤だ」

 

「了解でござる!」

 

「へいへい、勤務でござるよォ」

 

ガーフィール、それは俺の真似だろうか。やめろ。似てない。

 

焚き火が爆ぜた。

 

紫の空の下、冥界の夜が更けていく。

 

明日からは、この紫の世界での調査が始まる。

 

俺は炎を見つめながら、焼け残った魚の最後の一切れを口に放り込んだ。

 

(……やっぱり旨いや、この魚)

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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