※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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紫霧の中の猫と案内人

森を進んで二時間。

 

紫の空の下、冥界の木々は赤みを帯びた幹と緑の葉でできている。不思議な色彩だ。紫と緑と赤。目が慣れない。

 

「太郎さん、何か匂うでござる」

 

ユキカゼが立ち止まった。狐耳がピクリと動く。鼻が空気を震わせている。

 

「何だ」

 

「猫でござる」

 

「猫?」

 

「猫の匂いでござる。一つじゃない。いや、一つでござるか。紛らわしいでござる」

 

ユキカゼの鼻が混乱している。珍しい。狐の嗅覚が混乱するとは。

 

「どういう意味だ」

 

「猫の匂いがするでござる。でもそれは、ただの猫じゃないでござる。何ていうか…人間の匂いも混じってるでござる」

 

「猫又か」

 

「たぶん。あの時の黒猫と同じ匂いでござるよ」

 

黒歌だ。

 

俺は足を止めた。全員が止まる。

 

「警戒しろ。黒歌だ」

 

「了解でござる」

 

ユキカゼの尻尾が膨らむ。戦闘態勢。

 

エレンが尻尾をピンと張る。レオーネが拳を握る。マンモスマンが鼻を唸らせる。ガーフィールが牙を見せる。レイスが翼を広げる。絶花が刀に手を添える。シンジが一歩下がる。いつもの位置だ。

 

紫の霧が森の中を流れている。視界が悪い。五メートル先が見えない。

 

その霧の中から、影が現れた。

 

ゆっくりと。音もなく。猫のように足音を消して。

 

「やっと見つけたわ」

 

声がした。低く、少し掠れた声。あの時と同じ声。

 

霧が晴れる。

 

黒い着物。長い黒髪。黄色い目。

 

黒歌が、木の幹に寄りかかって立っていた。

 

「…黒歌」

 

俺は名前を呼んだ。

 

黒歌は微笑んだ。妖艶な笑みだ。口元だけが緩んで、目は細められている。猫が餌を見つけた時のような顔だ。

 

「ご無沙汰ね、王様」

 

「王様じゃない。王になる男だ」

 

「あら、言い直したのね。根に持つタイプかしら」

 

「根に持つんじゃない。訂正してるだけだ」

 

「同じようなものでしょ」

 

「お前の基準はどうでもいい」

 

俺は一歩前に出た。黒歌との距離は五メートル。霧が俺たちの間を流れている。

 

「何の用だ。俺たちをここへ呼んだのはお前だろ」

 

「そうよ。呼んだのは私」

 

「理由を聞く」

 

「ここじゃなんだから。もう少し落ち着いた場所へ案内するわ」

 

「案内だと」

 

「ええ。冥界を知らない人間がうろつくのは危険よ。私が案内してあげる」

 

黒歌はそう言って、体を幹から離した。着物の袖が揺れる。黒髪が風に流れる。黄色い目が俺をじっと見ている。

 

「ついて来てくれるかしら」

 

「信用できるのか」

 

絶花が俺の後ろから声を上げた。刀の柄に手をかけたままだ。

 

「信用できない相手についていくなんて、危険すぎるよ」

 

「お前がそう思うのは当然よ。宮本絶花、でしょう? 剣士の子孫」

 

絶花が息を呑んだ。自分の名前を知られていることに驚いている。

 

「何で私の名前を」

 

「冥界にも噂は届くのよ。英雄の血筋は目立つもの」

 

黒歌は絶花を見て、ふふっと笑った。

 

「安心して。あなたの剣に興味はあるけど、今は奪いに来たんじゃないから」

 

「…本当か」

 

「本当よ。私が今興味があるのは、そこの王様だけ」

 

俺を指差した。黄色い目が俺を捉えている。

 

「王様の記憶。王様の力。それに…王様の仲間たち。色々と知りたいことがあるの」

 

「知りたいこと。それが俺を冥界に呼んだ理由か」

 

「一つはね」

 

「もう一つは何だ」

 

「ついて来れば分かるわ」

 

黒歌は背を向けた。霧の中へ歩き出す。黒い着物が紫の霧に溶け込みそうになる。

 

「待て」

 

「何? ついて来るの?」

 

「条件がある」

 

俺は黒歌の背中に声をかけた。

 

「俺の仲間を傷つけるな。それが条件だ」

 

黒歌は振り返った。半分だけ。肩越しに。黄色い目が俺を覗き込む。

 

「私がそんなことすると思ってるの?」

 

「思わない。だが約束はしておく。お前が俺たちを裏切らない保証が欲しい」

 

「保証なんてないわよ。言葉だけ」

 

「言葉だけでいい。お前が嘘をつく女じゃないことは、あの時の目で分かった」

 

黒歌は一瞬止まった。それから微かに笑った。

 

「面白い人ね。本当に面白い」

 

「面白くない」

 

「面白いのよ。私の基準では」

 

「お前の基準はどうでもいいと言っただろ」

 

「ふふ。じゃあ約束する。あなたの仲間には手を出さない。私の言葉で足りる?」

 

「足りる」

 

「じゃあ行くわよ。ついてきて」

 

黒歌が歩き出した。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
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