サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
黒歌が、玄関ホールの中央に立った。
着物の袖を静かに揺らしながら、周囲を見回す。全員がホールに集まっている。ユキカゼ、エレンレオーネ、マンモスマンガーフィール、レイス絶花、シンジ。それから俺。
「調べ終えた?」
「ああ。大方な」
「なら、そろそろ答えを言うわね」
黒歌は壁にもたれかかった。腕を組んで、黄色い目を俺たち全員に向ける。
「ここは、とある上級悪魔の屋敷よ」
「上級悪魔」
「ええ。冥界の中でも相当な位階の悪魔の所有物。今は誰も住んでいないけど、所有権はまだその悪魔にあるわ」
「誰だ」
「名前は言えない」
「また言えないのか」
「言えないの。名前を口にすると、その悪魔に気づかれるから」
俺は眉をひそめた。
「気づかれる? 俺たちがここにいることをか」
「そういうことよ。上級悪魔は自分の屋敷に感覚を張り巡らせている。誰かが入れば分かる。でも私が名前を呼ばなければ、あいつも誰が入ったかまでは特定できない」
「お前、その悪魔とどういう関係だ」
黒歌は少しだけ間を置いた。
「かつての依頼人よ」
「依頼人」
「猫又は色々な仕事をするの。暗殺も、諜報も、護衛も。その中で私は一度この屋敷に雇われた」
「何の仕事で」
「中身の掃除よ」
黒歌の声が低くなった。
「この屋敷で行われていた実験の後始末。私が来た時にはもう実験は終わっていた。残されていたのは、一階の手術台と二階の拘束部屋と、地下の何かと屋根裏の資料だけ」
「お前は何を見た」
「全てよ」
黒歌は腕を組んだまま、天井を見上げた。
「五つの台。五人同時に何かをされていた。管で体から何かを抜き出して、瓶に集めていた。二階のベッドには鎖で拘束された痕があった。地下には…」
言葉が途切れた。
「地下には何がある」
「まだ見てないでしょ。あなたたち」
「ああ。マンモスマンが床の補強を確認しただけだ」
「なら、地下は見ない方がいいかもしれない」
「なぜ」
「見ると後戻りできなくなるから」
黒歌の黄色い目が、静かに俺を見ている。冗談じゃない。警告だ。
「俺たちはもう触れてしまったんだろ。お前が言った」
「そうね。触れたわね」
「なら後戻りできない。地下を見る」
黒歌は微かに息を吐いた。ため息に近い。猫が諦めた時のような息だ。
「分かったわ。でも覚悟してから行きなさい」
「覚悟はできてる」
「本当に?」
「俺は王になる男だ。覚悟のない王はいない」
黒歌は少しだけ笑んだ。その笑みは、いつもの妖艶なものじゃなかった。
「そう。なら行きましょう」
* * *
「待って太郎」
絶花が声を上げた。ホールの端から俺へ歩み寄る。刀を握る手が微かに震えている。
「地下に行く前に確認したいことがあるの」
「何だ」
「この屋敷は上級悪魔の所有物なんでしょ。なら私たちが勝手に地下に入っていいのかな。所有者の許可なく」
「今更だろ。もう一階も二階も屋根裏も調べた」
「それは…そうだけど」
「なら地下も同じだ。どうせ怒られるなら全部見てからだ」
「太郎らしいね。無茶だけど」
「無茶じゃない。調査だ」
絶花は少しだけ笑った。緊張の中の笑みだ。
ユキカゼが俺の横に来た。尻尾が落ち着きなく揺れている。
「太郎さん。地下から匂いがするでござる」
「何の匂いだ」
「血でござる。それと…何か、生々しい匂いでござる。薬品と、それから…女の匂いでござる」
「女の匂い」
「はい。複数の女の匂いでござる。でも古いでござる。今そこにいる匂いじゃないでござるよ」
ユキカゼの鼻が正確だ。複数の女の匂い。古い血。生々しい何か。
(地下には何がある)
俺はマンモスマンを見た。
「床の補強は地下の構造を支えるためだと言ったな」
「ああ。相当な重量物を支える補強だ。オレの体重でも抜けなかった」
「何か大きなものがあるということだな」
「間違いない」
俺は黒歌を見た。
「案内しろ」
「分かったわ」
黒歌が廊下の奥へ歩き出す。隠し扉の前に立つ。
ガーフィールが見つけた隠し扉だ。壁と同化していて、普通に見れば気づかない。だが虎の爪で叩けば空洞の音がする。
黒歌が壁に手を当てた。微かに魔力を流す。すると壁が動いた。石の壁が横へ滑り、地下への階段が現れる。
暗い。石段が下へ続いている。青い炎の燭台が壁に沿って点々と並んでいる。
「行くわよ」
黒歌が最初に階段を降りた。
俺が続く。絶花ユキカゼ、エレンレオーネ、マンモスマンガーフィール、レイスシンジが後ろからついてくる。
階段は長かった。
十段、二十段、三十段。まだ続く。地下深くだ。空気が冷たくなる。湿った匂いが強くなる。薬品の匂いも濃くなる。
四十段目で、階段が終わった。
女王は誰にする?
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エミリア