※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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床に落ちた銀の円盤

黒歌が口を開いた。

 

地下の研究室で、青い炎が揺れている。黒い着物の裾が床を払う。黄色い目が俺たちをゆっくりと眺めた。

 

「もう一つ、伝えたいことがあるの」

 

「何だ」

 

「この屋敷の主が研究を始めた理由。それはね、悪魔の中にジューマンを狙う存在がいるからよ」

 

俺は息を止めた。

 

背後でユキカゼの息が止まる音がした。エレンの尻尾がピンと張る。絶花が刀の柄を握り直す。シンジが一歩下がる。

 

「ジューマンを狙う? 悪魔が?」

 

「ええ。正確には、ジューマンの本能と力を手に入れようとする悪魔がいる。この屋敷の主はその一人。ジューマンの因子を人間に移植する研究をしていた。なぜならジューマンの力は悪魔の力とは根本的に異なるから。悪魔がジューマンの力を手に入れたらどうなるか。それを知りたがる悪魔は少なくない」

 

「馬鹿な。ジューマンの力はジューマンのものだ。悪魔が手に入れていいもんじゃない」

 

「当然よ。でも全員がそう思うわけじゃない。力を欲しがる悪魔はいる。家系の権威に縛られずに力を手に入れたい悪魔はいる。この屋敷の主はその筆頭だった」

 

黒歌の声が低くなった。猫の喉で鳴るような低音だ。

 

「そしてね。この屋敷の主が堕ちた後、研究を引き継いだ誰かがいる。その誰かが、メダルを使っている可能性がある」

 

「メダルだと」

 

「デスガリアンのコンティニューメダル。生物を巨大化させる装置。でもそれだけじゃない。メダルは生物の潛在能力を強制的に引き出す。ジューマンの因子を持つ生物にメダルを与えたらどうなるか。想像つくでしょ」

 

俺は想像した。最悪だ。ジューマンの因子を持つ生物がメダルで巨大化する。ただでさえジューマンの身体能力は人間の比じゃない。それが巨大化したら。

 

「やばいでござる」

 

ユキカゼが呟いた。尻尾が完全に膨らんでいる。

 

「やばいわね。全員がそう思うでしょ」

 

黒歌はそう言って、一歩前に出た。靴音が石の床に響く。

 

「太郎。あなたがメダルを追っているのは知ってる。でもこの冥界でメダルを追う意味は、人間界とは違うわよ。冥界にはジューマンの因子を持つ生物がいるかもしれない。この屋敷の主が実験に使った生物が、まだどこかに生きているかもしれない」

 

「何だと」

 

「被験体は五人。でも実験には生物も使われていた。魔獣とか使い魔とか。それらにジューマンの因子を移植した痕跡がある。もし生きていたら」

 

黒歌の言葉が途切れた。

 

黒歌ではない。黒歌が足を止めたのだ。

 

黄色い目が、床に向いている。

 

俺も視線を落とした。

 

床に、何かがあった。

 

銀色の円盤。

 

コンティニューメダル。

 

*  *  *

 

時間が止まった。

 

いや止まってはない。だが全員が動きを止めた。

 

メダルは床に落ちていた。銀色の円盤。中心には不気味な紋章。金属の表面が青い炎を反射して鈍く光っている。

 

「いつからそこにあったでござる」

 

ユキカゼの声が震えている。狐耳が伏せている。尻尾が丸まっている。

 

「いつからよ。私は知らなかった。さっきまであそこになかった」

 

「なかったのか」

 

「なかった。私はこの地下室に何度も来ている。後始末の時も。その後も。でもメダルはなかった。今ここに落ちたの。今。私たちが話している間に」

 

「誰かが置いたという事か」

 

「それしかないわ。誰かがこの地下室に、私たちがいる間に、メダルを置いた」

 

俺はメダルを見た。

 

銀色の円盤。コンティニューメダル。デスガリアンの再生装置。そして生物の潛在能力を強制的に引き出す装置。

 

(誰かが俺たちのいる間に置いた。俺たちが気づかない間に)

 

背筋が凍る。

 

だが凍ってる場合じゃない。

 

メダルが、動いた。

 

「おい」

 

メダルが微かに振動している。低い唸り声が中から漏れている。あの時と同じ音だ。メダルは生きている。生きているのだ。

 

「太郎さん! メダルが動いてるでござる!」

 

「見てる! 全員下がれ!」

 

俺が叫んだ時にはもう遅かった。

 

メダルが跳ねた。

 

銀色の円盤が床から跳ね上がる。空中で一回転する。そして飛んだ。

 

飛び先は、部屋の隅だ。

 

隅に何かがいる。影だ。小さな影。暗がりに潛んでいた何か。俺たちは気づかなかった。メダルはそれに向かって飛んだ。

 

メダルが影に重なった瞬間、光が爆発した。

 

*  *  *

 

銀色の光が地下室を覆った。

 

影が膨らむ。小さな影が、急速に膨らんでいく。骨が軋む音。肉が引き伸ばされる音。筋肉が断裂しては再構築される音。グチュ。ギチ。ドクン。

 

「あああああ!」

 

レイスが悲鳴を上げた。

 

影が巨大化している。元のサイズが何だったか分からない。だが今はもう人間のサイズを超えている。二メートル。三メートル。四メートル。まだ伸びている。

 

壁が軋む。天井が粉砕される音がする。巨大化した何かが地下室の天井にぶつかって壁を押し上げている。

 

「出るぞ! 全員外へ!」

 

俺は叫んだ。

 

同時に走った。階段へ。来た道を戻る。石段を駆け上がる。

 

「ユキカゼ! エレン! 走れ!」

 

「分かってるでござる!」

 

「うるさい! 走ってる!」

 

「絶花! シンジ! 先に行け!」

 

「太郎が後ろなら大丈夫」

 

「僕は先に行きます」

 

シンジが先に走った。速い。臆病の速さは本物だ。

 

「レオーネ! マンモスマン! ガーフィール! 移動だ!」

 

「分かってるぜ大将!」

 

「オレが最後だ。先に行け」

 

マンモスマンが最後尾についた。四〇〇キロの巨体が石段を駆け上がる。一段ごとに階段が軋む。

 

背後で壁が砕ける音がした。巨大化した何かが地下室の壁を突破したのだ。

 

「黒歌!」

 

「私も行くわよ! 猫だって走れる!」

 

黒歌が俺の横をすり抜けていった。速い。着物の裾を翻して階段を駆け上がる。猫の身軽さだ。

 

「おい猫! 案内役が先に逃げるな!」

 

「案内役は生き残らないと案内できないでしょ!」

 

正論だ。だが腹立つ。

 

石段を駆け上がる。三十段。二十段。十段。あと少しだ。

 

背後から轟音が響く。地下室が崩壊している。巨大化した何かが壁を押し潰しながら地上へ迫っている。

 

隠し扉を蹴破った。

 

廊下に出る。一階だ。だが止まらない。玄関ホールを駆け抜ける。鉄の門を押し開ける。

 

外に出た瞬間、屋敷が揺れた。

 

*  *  *

 

紫の空の下、全員が吐息を吐いていた。

 

屋敷の壁が、内側から押し破られている。亀裂が走る。窓が割れる。屋根瓦が崩れる。

 

そして、壁が砕けた。

 

巨大な何かが、屋敷の壁を突破して姿を現した。

 

巨大化した生物。だが何の生物かは判別がつかない。元の姿が分からないほど変形している。元は小さな何かだったのだろう。だが今は。

 

「デカいでござる」

 

ユキカゼが震える声で言った。

 

デカい。屋敷の二階の高さを超えている。全身が歪んでいる。本来あるべき姿から外れている。筋肉が異常に発達し骨が不自然に伸びている。皮膚が裂けて中から筋肉が覗いている箇所もある。だが動いている。生きている。

 

そして何より。

 

「目が」

 

絶花が呟いた。

 

目が六つ。いや八つ。いやもっとだ。全身に目が生えている。人間の目ではない。獣の目だ。色が違う。赤、黄、緑、紫。ジューマンの目だ。

 

「ジューマンの因子を持ってるでござる」

 

ユキカゼが叫んだ。

 

「あれにはジューマンの因子が入ってるでござる! あのメダルがジューマンの因子を持った生物を巨大化させたんでござる!」

 

「メダルと研究が繋がった」

 

俺は呟いた。

 

黒歌の言葉が頭の中で反響する。

 

『デスガリアンのメダルとこの研究が繋がっている可能性がある』

 

繋がった。現に繋がった。目の前で。

 

「太郎さん! あれ動くでござる!」

 

巨大化した生物が、砕けた屋敷の中から一歩踏み出した。

 

地面が揺れた。

女王は誰にする?

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