サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
黒歌が口を開いた。
地下の研究室で、青い炎が揺れている。黒い着物の裾が床を払う。黄色い目が俺たちをゆっくりと眺めた。
「もう一つ、伝えたいことがあるの」
「何だ」
「この屋敷の主が研究を始めた理由。それはね、悪魔の中にジューマンを狙う存在がいるからよ」
俺は息を止めた。
背後でユキカゼの息が止まる音がした。エレンの尻尾がピンと張る。絶花が刀の柄を握り直す。シンジが一歩下がる。
「ジューマンを狙う? 悪魔が?」
「ええ。正確には、ジューマンの本能と力を手に入れようとする悪魔がいる。この屋敷の主はその一人。ジューマンの因子を人間に移植する研究をしていた。なぜならジューマンの力は悪魔の力とは根本的に異なるから。悪魔がジューマンの力を手に入れたらどうなるか。それを知りたがる悪魔は少なくない」
「馬鹿な。ジューマンの力はジューマンのものだ。悪魔が手に入れていいもんじゃない」
「当然よ。でも全員がそう思うわけじゃない。力を欲しがる悪魔はいる。家系の権威に縛られずに力を手に入れたい悪魔はいる。この屋敷の主はその筆頭だった」
黒歌の声が低くなった。猫の喉で鳴るような低音だ。
「そしてね。この屋敷の主が堕ちた後、研究を引き継いだ誰かがいる。その誰かが、メダルを使っている可能性がある」
「メダルだと」
「デスガリアンのコンティニューメダル。生物を巨大化させる装置。でもそれだけじゃない。メダルは生物の潛在能力を強制的に引き出す。ジューマンの因子を持つ生物にメダルを与えたらどうなるか。想像つくでしょ」
俺は想像した。最悪だ。ジューマンの因子を持つ生物がメダルで巨大化する。ただでさえジューマンの身体能力は人間の比じゃない。それが巨大化したら。
「やばいでござる」
ユキカゼが呟いた。尻尾が完全に膨らんでいる。
「やばいわね。全員がそう思うでしょ」
黒歌はそう言って、一歩前に出た。靴音が石の床に響く。
「太郎。あなたがメダルを追っているのは知ってる。でもこの冥界でメダルを追う意味は、人間界とは違うわよ。冥界にはジューマンの因子を持つ生物がいるかもしれない。この屋敷の主が実験に使った生物が、まだどこかに生きているかもしれない」
「何だと」
「被験体は五人。でも実験には生物も使われていた。魔獣とか使い魔とか。それらにジューマンの因子を移植した痕跡がある。もし生きていたら」
黒歌の言葉が途切れた。
黒歌ではない。黒歌が足を止めたのだ。
黄色い目が、床に向いている。
俺も視線を落とした。
床に、何かがあった。
銀色の円盤。
コンティニューメダル。
* * *
時間が止まった。
いや止まってはない。だが全員が動きを止めた。
メダルは床に落ちていた。銀色の円盤。中心には不気味な紋章。金属の表面が青い炎を反射して鈍く光っている。
「いつからそこにあったでござる」
ユキカゼの声が震えている。狐耳が伏せている。尻尾が丸まっている。
「いつからよ。私は知らなかった。さっきまであそこになかった」
「なかったのか」
「なかった。私はこの地下室に何度も来ている。後始末の時も。その後も。でもメダルはなかった。今ここに落ちたの。今。私たちが話している間に」
「誰かが置いたという事か」
「それしかないわ。誰かがこの地下室に、私たちがいる間に、メダルを置いた」
俺はメダルを見た。
銀色の円盤。コンティニューメダル。デスガリアンの再生装置。そして生物の潛在能力を強制的に引き出す装置。
(誰かが俺たちのいる間に置いた。俺たちが気づかない間に)
背筋が凍る。
だが凍ってる場合じゃない。
メダルが、動いた。
「おい」
メダルが微かに振動している。低い唸り声が中から漏れている。あの時と同じ音だ。メダルは生きている。生きているのだ。
「太郎さん! メダルが動いてるでござる!」
「見てる! 全員下がれ!」
俺が叫んだ時にはもう遅かった。
メダルが跳ねた。
銀色の円盤が床から跳ね上がる。空中で一回転する。そして飛んだ。
飛び先は、部屋の隅だ。
隅に何かがいる。影だ。小さな影。暗がりに潛んでいた何か。俺たちは気づかなかった。メダルはそれに向かって飛んだ。
メダルが影に重なった瞬間、光が爆発した。
* * *
銀色の光が地下室を覆った。
影が膨らむ。小さな影が、急速に膨らんでいく。骨が軋む音。肉が引き伸ばされる音。筋肉が断裂しては再構築される音。グチュ。ギチ。ドクン。
「あああああ!」
レイスが悲鳴を上げた。
影が巨大化している。元のサイズが何だったか分からない。だが今はもう人間のサイズを超えている。二メートル。三メートル。四メートル。まだ伸びている。
壁が軋む。天井が粉砕される音がする。巨大化した何かが地下室の天井にぶつかって壁を押し上げている。
「出るぞ! 全員外へ!」
俺は叫んだ。
同時に走った。階段へ。来た道を戻る。石段を駆け上がる。
「ユキカゼ! エレン! 走れ!」
「分かってるでござる!」
「うるさい! 走ってる!」
「絶花! シンジ! 先に行け!」
「太郎が後ろなら大丈夫」
「僕は先に行きます」
シンジが先に走った。速い。臆病の速さは本物だ。
「レオーネ! マンモスマン! ガーフィール! 移動だ!」
「分かってるぜ大将!」
「オレが最後だ。先に行け」
マンモスマンが最後尾についた。四〇〇キロの巨体が石段を駆け上がる。一段ごとに階段が軋む。
背後で壁が砕ける音がした。巨大化した何かが地下室の壁を突破したのだ。
「黒歌!」
「私も行くわよ! 猫だって走れる!」
黒歌が俺の横をすり抜けていった。速い。着物の裾を翻して階段を駆け上がる。猫の身軽さだ。
「おい猫! 案内役が先に逃げるな!」
「案内役は生き残らないと案内できないでしょ!」
正論だ。だが腹立つ。
石段を駆け上がる。三十段。二十段。十段。あと少しだ。
背後から轟音が響く。地下室が崩壊している。巨大化した何かが壁を押し潰しながら地上へ迫っている。
隠し扉を蹴破った。
廊下に出る。一階だ。だが止まらない。玄関ホールを駆け抜ける。鉄の門を押し開ける。
外に出た瞬間、屋敷が揺れた。
* * *
紫の空の下、全員が吐息を吐いていた。
屋敷の壁が、内側から押し破られている。亀裂が走る。窓が割れる。屋根瓦が崩れる。
そして、壁が砕けた。
巨大な何かが、屋敷の壁を突破して姿を現した。
巨大化した生物。だが何の生物かは判別がつかない。元の姿が分からないほど変形している。元は小さな何かだったのだろう。だが今は。
「デカいでござる」
ユキカゼが震える声で言った。
デカい。屋敷の二階の高さを超えている。全身が歪んでいる。本来あるべき姿から外れている。筋肉が異常に発達し骨が不自然に伸びている。皮膚が裂けて中から筋肉が覗いている箇所もある。だが動いている。生きている。
そして何より。
「目が」
絶花が呟いた。
目が六つ。いや八つ。いやもっとだ。全身に目が生えている。人間の目ではない。獣の目だ。色が違う。赤、黄、緑、紫。ジューマンの目だ。
「ジューマンの因子を持ってるでござる」
ユキカゼが叫んだ。
「あれにはジューマンの因子が入ってるでござる! あのメダルがジューマンの因子を持った生物を巨大化させたんでござる!」
「メダルと研究が繋がった」
俺は呟いた。
黒歌の言葉が頭の中で反響する。
『デスガリアンのメダルとこの研究が繋がっている可能性がある』
繋がった。現に繋がった。目の前で。
「太郎さん! あれ動くでござる!」
巨大化した生物が、砕けた屋敷の中から一歩踏み出した。
地面が揺れた。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア