サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
巨大化した怪物が屋敷の残骸を踏み砕いて前進してくる。
一歩ごとに地面が沈む。ズシン。ズシン。六つ目の目玉がそれぞれ別の方向を向いている。だが全ての目が俺たちを捉えている。異常だ。生理的嫌悪感が背筋を這い上がる。
「太郎さん!」
ユキカゼが叫ぶ。
「あれは動くでござる! 止まらないでござる!」
「分かってる!」
俺は腰のジュウオウチェンジャーに手を伸ばした。
だが、その前に視界の端に黒歌が映った。
* * *
黒歌は動いていなかった。
着物の裾を風に揺らしながら、ただ立っている。巨大化した怪物を見上げている。
その横顔が、悲しそうだった。
黄色い目が潤んでいるわけじゃない。涙を流しているわけじゃない。だが確かに、悲しんでいる。猫が雨の日に窓の外を眺めるような、静かでどうしようもない悲しみだ。
「黒歌」
俺は声をかけた。
黒歌は俺を見ない。怪物を見たままだ。
「知ってるのか。あれを」
「知ってるわよ」
黒歌の声は静かだった。
「あれは、この屋敷の主が実験に使った生物の一つ。元は小さな使い魔だった。猫の姿をしていたの」
「猫」
「そう。私と同じ猫。でも猫又じゃない。ただの猫。賢い猫だったけど、ただの猫」
黒歌の声が微かに震えた。
「主がその猫にジューマンの因子を移植した。猫にライオンの因子を。小さな体に百獣の王の力を詰め込もうとしたの」
「成功したのか」
「しなかった。猫は苦しんだ。何日も何日も。そして主は猫を地下室に放置した。他の被験体と同じように。その後始末を私が依頼された時、猫はもういなかった。死んだと思っていた」
黒歌はゆっくりと怪物を見た。
「でも生きていたのね。あそこに。あの姿で」
怪物の六つ目の目玉が、黒歌を捉えた。
グルルル、という低い唸りが怪物の喉から漏れる。目が合った。怪物の目と、黒歌の目が。かつて同じ主に仕えた猫同士が。
黒歌が一歩前に出た。
「待て」
俺が止めた。
「何をする」
「何もしないわよ。ただ見ているだけ。あの子が、どれだけ苦しんだかを」
「お前が行っても意味がない。あれはもう自我を失っている」
「分かってる。でも見届けるくらいはさせて」
黒歌の声に力がなかった。
俺は拳を握った。
(黒歌が悲しんでいる。あの怪物はかつて黒歌と同じ主に仕えた猫だった。ジューマンの因子を移植されて、苦しんで、放置されてそして今メダルで巨大化した)
(倒すしかない。あれを楽にしてやるしかない)
俺は黒歌の背中を見た。
「黒歌」
「何」
「あれを倒す」
黒歌が振り返った。黄色い目が俺を見ている。
「楽にしてやる。あれはもう猫じゃない。苦しみ続けるだけの塊だ。なら終わらせる」
黒歌は何も言わなかった。ただ俺を見ている。
「お前が悲しむのは分かる。でも止まれない。あれがここにいる限り、俺の仲間も、お前も危険だ」
「分かってるわよ」
黒歌の声が少しだけ戻った。ふざけた調子ではない。だが芯のある声だ。
「やってちょうだい。王様」
「王様じゃない。王になる男だ」
「もうなってるわよ。こんな時に戦う選択をするなら」
「それ、褒めてるのか」
「褒めてるのよ。私の基準では」
黒歌は微かに笑った。悲しみの上に浮かぶ、小さな笑みだった。
* * *
俺はチェンジャーを掲げた。
「全員聞け!」
仲間たちが俺の声に反応する。ユキカゼ、エレン、レオーネマンモスマン、ガーフィールレイス、絶花、シンジ。全員が俺を見ている。
「ジュウオウキューブを出す。巨大化したあれには、巨大な力で対抗する」
「了解でござる!」
ユキカゼが尻尾を立てた。
「どのキューブを出す」
エレンが短く問う。
「イーグル、シャーク、フォックス。まずはこの三体だ」
「私とユキカゼと太郎さんか」
「ああ。俺がイーグル。エレンがシャーク。ユキカゼがフォックス」
「分かったでござる」
ユキカゼの手がチェンジャーに伸びる。エレンもチェンジャーを構える。
「他の奴らは周囲の警戒を頼む。メダルが他にもあるかもしれない。黒歌が屋敷から出てきた以上、ここは安全じゃない」
「承知した」
マンモスマンが低く言った。
「任せな大将!」
ガーフィールが拳を叩きつける。
「アタシたちは周りを固めるよ」
レオーネが笑った。
「群れも呼んでおく。周囲に散らしておけば安心でしょ」
レイスが翼を広げた。
「私も戦う」
絶花が刀を抜いた。抜刀の音が紫の空に響く。刀身が青い炎の光を反射する。
「ああ。お前は俺の後ろで。何かあったら頼む」
「任せて」
絶花が構えた。刀の切っ先が怪物に向いている。その瞳はもう震えていない。あの夏を共にした剣士の目だ。
シンジが俺の横に立った。一拍遅れて。でも立った。
「僕も」
「お前はジュウオウザワールドで後詰めを頼む。何かあったらトウサイジュウオーを出せ」
「…分かった」
シンジは小さく頷いた。不安はある。でも立っている。それでいい。
俺はチェンジャーのボタンを押した。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア