※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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悲しみの理由と拳の理由

巨大化した怪物が屋敷の残骸を踏み砕いて前進してくる。

 

一歩ごとに地面が沈む。ズシン。ズシン。六つ目の目玉がそれぞれ別の方向を向いている。だが全ての目が俺たちを捉えている。異常だ。生理的嫌悪感が背筋を這い上がる。

 

「太郎さん!」

 

ユキカゼが叫ぶ。

 

「あれは動くでござる! 止まらないでござる!」

 

「分かってる!」

 

俺は腰のジュウオウチェンジャーに手を伸ばした。

 

だが、その前に視界の端に黒歌が映った。

 

*  *  *

 

黒歌は動いていなかった。

 

着物の裾を風に揺らしながら、ただ立っている。巨大化した怪物を見上げている。

 

その横顔が、悲しそうだった。

 

黄色い目が潤んでいるわけじゃない。涙を流しているわけじゃない。だが確かに、悲しんでいる。猫が雨の日に窓の外を眺めるような、静かでどうしようもない悲しみだ。

 

「黒歌」

 

俺は声をかけた。

 

黒歌は俺を見ない。怪物を見たままだ。

 

「知ってるのか。あれを」

 

「知ってるわよ」

 

黒歌の声は静かだった。

 

「あれは、この屋敷の主が実験に使った生物の一つ。元は小さな使い魔だった。猫の姿をしていたの」

 

「猫」

 

「そう。私と同じ猫。でも猫又じゃない。ただの猫。賢い猫だったけど、ただの猫」

 

黒歌の声が微かに震えた。

 

「主がその猫にジューマンの因子を移植した。猫にライオンの因子を。小さな体に百獣の王の力を詰め込もうとしたの」

 

「成功したのか」

 

「しなかった。猫は苦しんだ。何日も何日も。そして主は猫を地下室に放置した。他の被験体と同じように。その後始末を私が依頼された時、猫はもういなかった。死んだと思っていた」

 

黒歌はゆっくりと怪物を見た。

 

「でも生きていたのね。あそこに。あの姿で」

 

怪物の六つ目の目玉が、黒歌を捉えた。

 

グルルル、という低い唸りが怪物の喉から漏れる。目が合った。怪物の目と、黒歌の目が。かつて同じ主に仕えた猫同士が。

 

黒歌が一歩前に出た。

 

「待て」

 

俺が止めた。

 

「何をする」

 

「何もしないわよ。ただ見ているだけ。あの子が、どれだけ苦しんだかを」

 

「お前が行っても意味がない。あれはもう自我を失っている」

 

「分かってる。でも見届けるくらいはさせて」

 

黒歌の声に力がなかった。

 

俺は拳を握った。

 

(黒歌が悲しんでいる。あの怪物はかつて黒歌と同じ主に仕えた猫だった。ジューマンの因子を移植されて、苦しんで、放置されてそして今メダルで巨大化した)

 

(倒すしかない。あれを楽にしてやるしかない)

 

俺は黒歌の背中を見た。

 

「黒歌」

 

「何」

 

「あれを倒す」

 

黒歌が振り返った。黄色い目が俺を見ている。

 

「楽にしてやる。あれはもう猫じゃない。苦しみ続けるだけの塊だ。なら終わらせる」

 

黒歌は何も言わなかった。ただ俺を見ている。

 

「お前が悲しむのは分かる。でも止まれない。あれがここにいる限り、俺の仲間も、お前も危険だ」

 

「分かってるわよ」

 

黒歌の声が少しだけ戻った。ふざけた調子ではない。だが芯のある声だ。

 

「やってちょうだい。王様」

 

「王様じゃない。王になる男だ」

 

「もうなってるわよ。こんな時に戦う選択をするなら」

 

「それ、褒めてるのか」

 

「褒めてるのよ。私の基準では」

 

黒歌は微かに笑った。悲しみの上に浮かぶ、小さな笑みだった。

 

*  *  *

 

俺はチェンジャーを掲げた。

 

「全員聞け!」

 

仲間たちが俺の声に反応する。ユキカゼ、エレン、レオーネマンモスマン、ガーフィールレイス、絶花、シンジ。全員が俺を見ている。

 

「ジュウオウキューブを出す。巨大化したあれには、巨大な力で対抗する」

 

「了解でござる!」

 

ユキカゼが尻尾を立てた。

 

「どのキューブを出す」

 

エレンが短く問う。

 

「イーグル、シャーク、フォックス。まずはこの三体だ」

 

「私とユキカゼと太郎さんか」

 

「ああ。俺がイーグル。エレンがシャーク。ユキカゼがフォックス」

 

「分かったでござる」

 

ユキカゼの手がチェンジャーに伸びる。エレンもチェンジャーを構える。

 

「他の奴らは周囲の警戒を頼む。メダルが他にもあるかもしれない。黒歌が屋敷から出てきた以上、ここは安全じゃない」

 

「承知した」

 

マンモスマンが低く言った。

 

「任せな大将!」

 

ガーフィールが拳を叩きつける。

 

「アタシたちは周りを固めるよ」

 

レオーネが笑った。

 

「群れも呼んでおく。周囲に散らしておけば安心でしょ」

 

レイスが翼を広げた。

 

「私も戦う」

 

絶花が刀を抜いた。抜刀の音が紫の空に響く。刀身が青い炎の光を反射する。

 

「ああ。お前は俺の後ろで。何かあったら頼む」

 

「任せて」

 

絶花が構えた。刀の切っ先が怪物に向いている。その瞳はもう震えていない。あの夏を共にした剣士の目だ。

 

シンジが俺の横に立った。一拍遅れて。でも立った。

 

「僕も」

 

「お前はジュウオウザワールドで後詰めを頼む。何かあったらトウサイジュウオーを出せ」

 

「…分かった」

 

シンジは小さく頷いた。不安はある。でも立っている。それでいい。

 

俺はチェンジャーのボタンを押した。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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