※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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不法滞在という名の現実

黒歌が消えた。

 

霧だけが残った。紫の空の下に、白い霧がゆっくりと流れている。何も言わずに消えた。答えもくれなかった。俺の質問に、黒歌は何も答えなかった。

 

「行っちゃったでござるね」

 

ユキカゼがぽつりと言った。

 

「ああ。行っちまった」

 

俺は黒歌が消えた場所を見つめていた。霧が濃い。もう黒歌の匂いも残っていない。

 

「太郎さん。黒歌さん、何か知ってるみたいでしたけど」

 

「そうだな。確信犯だ。あいつは全部知ってて俺たちをここへ連れてきた。そして霧で逃げた」

 

「追いますか」

 

「無理だ。あれだけの霧を作れる猫又を追うのは骨が折れる。それに」

 

俺は拳を握った。

 

「あいつは敵じゃない。逃げる理由があるなら、追う必要もない」

 

「太郎様」

 

マンモスマンが低く言った。

 

「判断は正しい。だが、あの猫又は危険だ。知識があり過ぎる」

 

「分かってる。だが今は優先順位がある」

 

俺は仲間たちを見回した。

 

ユキカゼ、エレン、マンモスマン、ガーフィールレイス、レオーネ絶花、シンジ。全員が俺を見ている。紫の空の下で、それぞれの表情がある。

 

*  *  *

 

「一度、話し合いをしよう」

 

俺は言った。

 

場所は屋敷の残骸の前。黒歌が案内した屋敷はもうない。砕けた木材と石が散乱している。メダルが砕けた後、屋敷も一緒に崩れたらしい。

 

全員が円を作るように集まる。俺は真ん中に立った。

 

「まず現状確認だ。ここは冥界。俺たちが本来いるべき場所じゃない」

 

「そうでござるな」

 

ユキカゼが頷く。尻尾が落ち着きなく揺れている。

 

「俺たちはデスガリアンのメダルを追って、気づいたら冥界に来ていた。だがここで長く活動するのは危険だ」

 

「三大勢力の目があるから?」

 

レイスが問う。

 

「それもある。だがもっと単純な問題がある」

 

俺は全員を見た。

 

「俺たちは、この世界の人間じゃない。もともと」

 

重い沈黙。

 

誰もが知っている事実だ。俺たちは異世界から来た。デスガリアンとの戦いが終わった後、元の世界へ戻るはずだった。だが戻れなかった。理由は分からない。だが現実としてここにいる。

 

「冥界は三大勢力の一つ。悪魔の領域だ。俺たちのような異世界の存在が長く留まれば、必ず問題になる」

 

「リアス・グレモリーに見つかったら?」

 

レオーネが問う。獣耳が微かに動いた。

 

「説明が難しい。彼女は駒王学園の上級悪魔だ。俺たちの存在をどう受け取るか分からない」

 

「太郎は正体を隠すつもりでござるか」

 

ユキカゼの声が少しだけ寂しそうだった。

 

「隠すというより、今はまだ明かす時じゃない。デスガリアンのことを説明するには、ジューマンの存在も話さなければいけない。そうなれば、俺たちが異世界の出身だと確実にバレる」

 

「それが何か問題なの?」

 

絶花が口を開いた。刀を納めながら、静かな声で問う。

 

「問題になる。この世界にはこの世界の秩序がある。俺たちが突然異世界から来て、勝手にメダルを破壊すると言えば混乱する。最悪、敵として扱われる」

 

「味方に見えるのに?」

 

「見えるだけだ。三大勢力は俺たちを信用しているわけじゃない。ただ、目の前で巨大な敵を倒したから手を出さなかっただけだ」

 

絶花は黙った。何か言いたそうだったが飲み込んだ。刀の柄を握る指が微かに動いている。

 

俺は続けた。

 

「だから今後の方針を決めたい。このまま冥界に残るか、人間界へ戻るか」

 

「冥界に残るメリットは」

 

マンモスマンが短く問う。

 

「デスガリアンの本拠地がこの近くにある可能性がある。屋敷の研究資料もまだ残っているかもしれない。調査を続けるなら冥界が最前線だ」

 

「デメリットは」

 

「敵地に長く滞在することになる。三大勢力とのトラブル、悪魔の巡回何より俺たちの消耗だ。長期滞在すれば体力も魔力も削られる」

 

マンモスマンは頷いた。理解した。

 

「人間界に戻るメリットは」

 

今度は俺が答えた。

 

「安全。情報収集もできる。デスガリアンの拠点が人間界にあるならそこを探れる。なにより、俺たちが人間界にいれば三大勢力も直接は手を出せない」

 

「デメリットは」

 

「メダルの動きが読めない。あいつらが人間界にいるならいいが、冥界に残っていると追えない」

 

全員が考え込んだ。

 

静かな夜だった。冥界の夜は暗い。星がない。紫の空が暗闇に沈みかけている。

 

「太郎」

 

エレンが口を開いた。気だるげな声。だが、いつもより少し真剣な響きがある。

 

「エレン、何かあるか」

 

「一つ、忘れてない?」

 

「何をだ」

 

エレンは俺を見た。赤い瞳が眠そうに細まっている。

 

「不法入国」

 

「……は?」

 

「私たち、この世界の人間じゃないんでしょ」

 

「そうだが」

 

「冥界に入るのに許可取った?」

 

「取ってない」

 

「入国の手続きもしてない」

 

「してないな」

 

「なら」

 

エレンは小さく息を吐いた。

 

「不法入国で、不法滞在じゃない」

 

沈黙。

 

ユキカゼが尻尾をピンと立てた。マンモスマンが腕を組んだ。ガーフィールが口を開けて固まった。

 

「……それ、今言うことか」

 

俺は思わず言った。

 

「今言わないと、いつ言うの」

 

「戦いの後すぐだろ。もっと早く言えよ」

 

「言うタイミングなかった。戦ってた」

 

「戦ってる間に言えばよかっただろ」

 

「戦闘中に不法滞在の話をするの、変でしょ」

 

「そりゃそうだが」

 

エレンの理屈は正しい。戦闘中に現実的な話をする奴はいない。だが戦いが終わった今、その言葉は妙に現実的で妙に刺さった。

 

「つまり私たちは」

 

レイスが呟く。

 

「この世界で、不法に滞在している犯罪者予備軍ってこと?」

 

「そういうこと」

 

エレンが頷いた。

 

「だから長くいれば、いつか見つかる。三大勢力が動く前に、一度戻るべき」

 

「エレンの言う通りでござる」

 

ユキカゼが賛成した。

 

「不法滞在はまずいでござる。お天道様に顔向けできないでござるよ」

 

「異世界に天道様があるかは分からないが」

 

俺は言った。

 

「エレンの意見は正しい。ここに長くいるのはリスクが高い」

 

「それに」

 

エレンが続ける。

 

「寝たい」

 

「それもか」

 

「それもある。冥界は寝心地が悪い」

 

エレンの本音が混ざったが、理屈は間違っていない。

 

*  *  *

 

「決まりだな」

 

俺は全員を見た。

 

「このまま人間界へ戻る。冥界の調査は一端中断。リンクキューブを使う」

 

「分かったでござる」

 

「了解」

 

「任せるよ、太郎」

 

「おうよ! 早く帰ろうぜェ! この森暗いし!」

 

ガーフィールが腕を振り回す。

 

「異議なし」

 

マンモスマンが短く言った。

 

「私も、戻るのがいいと思う」

 

絶花が口を開いた。刀の柄から手を離している。

 

「戻ったらどうするの?」

 

「状況次第だが、まずは情報の整理だ。三大勢力との連携もあるし、メダルの動きも追わないといけない」

 

「それと」

 

絶花が続けた。

 

「学校。私たち、駒王学園に通ってるんでしょ」

 

「あ」

 

忘れていた。

 

確かにそうだ。絶花は中等部の転入生だ。俺も高等部に所属している。長期欠席すれば確実に問題になる。三大勢力どころか、学校にも目をつけられる。

 

「エレンの不法滞在だけじゃない。俺たちには学校がある」

 

「そうよ」

 

絶花が少しだけ笑った。その笑顔は、いつもの臆病な彼女のものではなかった。あの夏を共に戦った剣士の顔だった。

 

「戻らないと。変な噂が立つ」

 

「同感だ。帰るぞ」

 

俺は腰のチェンジャーを操作した。

 

『リンクキューブ、スタンバイ』

 

チェンジャーの音声が響く。青い光が展開し、周囲に四角いキューブが形成される。立方体の内部に全員が収まる。青い光が俺たちを包み込む。

 

「いくぞ!」

 

『リンクキューブ! 転送!』

 

*  *  *

 

一瞬、世界が歪んだ。

 

冥界の紫の空が消える。森の匂いが消える。黒歌の残した霧の感触も消える。全てが光となって流れていく。

 

目を開けると、見慣れた景色があった。

 

駒王学園の外れ。森の木々。青い空。日本の空だ。太陽の光が木の葉を通り抜けて、俺たちの上に降り注ぐ。

 

「戻ったでござる!」

 

ユキカゼが嬉しそうに尻尾を振った。

 

「日本の空だ。やっぱりこっちの方が落ち着く」

 

レイスが翼を広げた。鳥の声が聞こえる。

 

「寝心地はこっちの方がいい」

 

エレンが地面に直接座り込んだ。背中の鋏が土に刺さる。欠伸をしている。

 

「おいエレン、まだ戦闘服のままだぞ」

 

「知ってる。でも今は寝たい」

 

「後で着替えろよ」

 

「分かってる」

 

エレンは目を閉じてしまった。まあいい。今は誰も責めない。

 

俺は仲間たちを見た。全員が無事だ。怪我もない。冥界での戦いを終えて、人間界へ戻ってきた。これで一区切りだ。

 

「太郎さん」

 

ユキカゼが近づいてきた。

 

「黒歌さん、戻ってくるでしょうか」

 

「分からない。だが、あいつの言ったことは気になる」

 

「太郎ならば壊してくれる、でしたか」

 

「そうだ。俺のことを知っている。確信犯だ。黒歌は何かを知っている。いつか、また会った時に聞く」

 

「その時は、ユキカゼも一緒でござるよ」

 

「ああ。そうだな」

 

俺は空を見た。

 

駒王学園の屋上だろうか人影が見えた。誰かがこっちを見ている。だが、すぐに消えた。

 

気のせいかもしれない。だが今は、誰でもいい。

 

俺たちは戻ってきた。この世界に。

 

戦いは終わっていない。だが、今日は終わりだ。

 

「全員、解散。各自、休め。また明日」

 

俺は言った。

 

「はいでござる!」

 

「うぃ〜」

 

「了解」

 

「はーい」

 

「分かったわ」

 

「任せな」

 

「ああ」

 

「分かった」

 

全員の返事が重なる。それぞれの声で、それぞれの返事が。

 

俺は仲間たちの背中を見送った。ユキカゼが「明日はマッサージでござるよ」と言ってきたので、本気で逃げようと思った。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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