サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
黒歌が消えた。
霧だけが残った。紫の空の下に、白い霧がゆっくりと流れている。何も言わずに消えた。答えもくれなかった。俺の質問に、黒歌は何も答えなかった。
「行っちゃったでござるね」
ユキカゼがぽつりと言った。
「ああ。行っちまった」
俺は黒歌が消えた場所を見つめていた。霧が濃い。もう黒歌の匂いも残っていない。
「太郎さん。黒歌さん、何か知ってるみたいでしたけど」
「そうだな。確信犯だ。あいつは全部知ってて俺たちをここへ連れてきた。そして霧で逃げた」
「追いますか」
「無理だ。あれだけの霧を作れる猫又を追うのは骨が折れる。それに」
俺は拳を握った。
「あいつは敵じゃない。逃げる理由があるなら、追う必要もない」
「太郎様」
マンモスマンが低く言った。
「判断は正しい。だが、あの猫又は危険だ。知識があり過ぎる」
「分かってる。だが今は優先順位がある」
俺は仲間たちを見回した。
ユキカゼ、エレン、マンモスマン、ガーフィールレイス、レオーネ絶花、シンジ。全員が俺を見ている。紫の空の下で、それぞれの表情がある。
* * *
「一度、話し合いをしよう」
俺は言った。
場所は屋敷の残骸の前。黒歌が案内した屋敷はもうない。砕けた木材と石が散乱している。メダルが砕けた後、屋敷も一緒に崩れたらしい。
全員が円を作るように集まる。俺は真ん中に立った。
「まず現状確認だ。ここは冥界。俺たちが本来いるべき場所じゃない」
「そうでござるな」
ユキカゼが頷く。尻尾が落ち着きなく揺れている。
「俺たちはデスガリアンのメダルを追って、気づいたら冥界に来ていた。だがここで長く活動するのは危険だ」
「三大勢力の目があるから?」
レイスが問う。
「それもある。だがもっと単純な問題がある」
俺は全員を見た。
「俺たちは、この世界の人間じゃない。もともと」
重い沈黙。
誰もが知っている事実だ。俺たちは異世界から来た。デスガリアンとの戦いが終わった後、元の世界へ戻るはずだった。だが戻れなかった。理由は分からない。だが現実としてここにいる。
「冥界は三大勢力の一つ。悪魔の領域だ。俺たちのような異世界の存在が長く留まれば、必ず問題になる」
「リアス・グレモリーに見つかったら?」
レオーネが問う。獣耳が微かに動いた。
「説明が難しい。彼女は駒王学園の上級悪魔だ。俺たちの存在をどう受け取るか分からない」
「太郎は正体を隠すつもりでござるか」
ユキカゼの声が少しだけ寂しそうだった。
「隠すというより、今はまだ明かす時じゃない。デスガリアンのことを説明するには、ジューマンの存在も話さなければいけない。そうなれば、俺たちが異世界の出身だと確実にバレる」
「それが何か問題なの?」
絶花が口を開いた。刀を納めながら、静かな声で問う。
「問題になる。この世界にはこの世界の秩序がある。俺たちが突然異世界から来て、勝手にメダルを破壊すると言えば混乱する。最悪、敵として扱われる」
「味方に見えるのに?」
「見えるだけだ。三大勢力は俺たちを信用しているわけじゃない。ただ、目の前で巨大な敵を倒したから手を出さなかっただけだ」
絶花は黙った。何か言いたそうだったが飲み込んだ。刀の柄を握る指が微かに動いている。
俺は続けた。
「だから今後の方針を決めたい。このまま冥界に残るか、人間界へ戻るか」
「冥界に残るメリットは」
マンモスマンが短く問う。
「デスガリアンの本拠地がこの近くにある可能性がある。屋敷の研究資料もまだ残っているかもしれない。調査を続けるなら冥界が最前線だ」
「デメリットは」
「敵地に長く滞在することになる。三大勢力とのトラブル、悪魔の巡回何より俺たちの消耗だ。長期滞在すれば体力も魔力も削られる」
マンモスマンは頷いた。理解した。
「人間界に戻るメリットは」
今度は俺が答えた。
「安全。情報収集もできる。デスガリアンの拠点が人間界にあるならそこを探れる。なにより、俺たちが人間界にいれば三大勢力も直接は手を出せない」
「デメリットは」
「メダルの動きが読めない。あいつらが人間界にいるならいいが、冥界に残っていると追えない」
全員が考え込んだ。
静かな夜だった。冥界の夜は暗い。星がない。紫の空が暗闇に沈みかけている。
「太郎」
エレンが口を開いた。気だるげな声。だが、いつもより少し真剣な響きがある。
「エレン、何かあるか」
「一つ、忘れてない?」
「何をだ」
エレンは俺を見た。赤い瞳が眠そうに細まっている。
「不法入国」
「……は?」
「私たち、この世界の人間じゃないんでしょ」
「そうだが」
「冥界に入るのに許可取った?」
「取ってない」
「入国の手続きもしてない」
「してないな」
「なら」
エレンは小さく息を吐いた。
「不法入国で、不法滞在じゃない」
沈黙。
ユキカゼが尻尾をピンと立てた。マンモスマンが腕を組んだ。ガーフィールが口を開けて固まった。
「……それ、今言うことか」
俺は思わず言った。
「今言わないと、いつ言うの」
「戦いの後すぐだろ。もっと早く言えよ」
「言うタイミングなかった。戦ってた」
「戦ってる間に言えばよかっただろ」
「戦闘中に不法滞在の話をするの、変でしょ」
「そりゃそうだが」
エレンの理屈は正しい。戦闘中に現実的な話をする奴はいない。だが戦いが終わった今、その言葉は妙に現実的で妙に刺さった。
「つまり私たちは」
レイスが呟く。
「この世界で、不法に滞在している犯罪者予備軍ってこと?」
「そういうこと」
エレンが頷いた。
「だから長くいれば、いつか見つかる。三大勢力が動く前に、一度戻るべき」
「エレンの言う通りでござる」
ユキカゼが賛成した。
「不法滞在はまずいでござる。お天道様に顔向けできないでござるよ」
「異世界に天道様があるかは分からないが」
俺は言った。
「エレンの意見は正しい。ここに長くいるのはリスクが高い」
「それに」
エレンが続ける。
「寝たい」
「それもか」
「それもある。冥界は寝心地が悪い」
エレンの本音が混ざったが、理屈は間違っていない。
* * *
「決まりだな」
俺は全員を見た。
「このまま人間界へ戻る。冥界の調査は一端中断。リンクキューブを使う」
「分かったでござる」
「了解」
「任せるよ、太郎」
「おうよ! 早く帰ろうぜェ! この森暗いし!」
ガーフィールが腕を振り回す。
「異議なし」
マンモスマンが短く言った。
「私も、戻るのがいいと思う」
絶花が口を開いた。刀の柄から手を離している。
「戻ったらどうするの?」
「状況次第だが、まずは情報の整理だ。三大勢力との連携もあるし、メダルの動きも追わないといけない」
「それと」
絶花が続けた。
「学校。私たち、駒王学園に通ってるんでしょ」
「あ」
忘れていた。
確かにそうだ。絶花は中等部の転入生だ。俺も高等部に所属している。長期欠席すれば確実に問題になる。三大勢力どころか、学校にも目をつけられる。
「エレンの不法滞在だけじゃない。俺たちには学校がある」
「そうよ」
絶花が少しだけ笑った。その笑顔は、いつもの臆病な彼女のものではなかった。あの夏を共に戦った剣士の顔だった。
「戻らないと。変な噂が立つ」
「同感だ。帰るぞ」
俺は腰のチェンジャーを操作した。
『リンクキューブ、スタンバイ』
チェンジャーの音声が響く。青い光が展開し、周囲に四角いキューブが形成される。立方体の内部に全員が収まる。青い光が俺たちを包み込む。
「いくぞ!」
『リンクキューブ! 転送!』
* * *
一瞬、世界が歪んだ。
冥界の紫の空が消える。森の匂いが消える。黒歌の残した霧の感触も消える。全てが光となって流れていく。
目を開けると、見慣れた景色があった。
駒王学園の外れ。森の木々。青い空。日本の空だ。太陽の光が木の葉を通り抜けて、俺たちの上に降り注ぐ。
「戻ったでござる!」
ユキカゼが嬉しそうに尻尾を振った。
「日本の空だ。やっぱりこっちの方が落ち着く」
レイスが翼を広げた。鳥の声が聞こえる。
「寝心地はこっちの方がいい」
エレンが地面に直接座り込んだ。背中の鋏が土に刺さる。欠伸をしている。
「おいエレン、まだ戦闘服のままだぞ」
「知ってる。でも今は寝たい」
「後で着替えろよ」
「分かってる」
エレンは目を閉じてしまった。まあいい。今は誰も責めない。
俺は仲間たちを見た。全員が無事だ。怪我もない。冥界での戦いを終えて、人間界へ戻ってきた。これで一区切りだ。
「太郎さん」
ユキカゼが近づいてきた。
「黒歌さん、戻ってくるでしょうか」
「分からない。だが、あいつの言ったことは気になる」
「太郎ならば壊してくれる、でしたか」
「そうだ。俺のことを知っている。確信犯だ。黒歌は何かを知っている。いつか、また会った時に聞く」
「その時は、ユキカゼも一緒でござるよ」
「ああ。そうだな」
俺は空を見た。
駒王学園の屋上だろうか人影が見えた。誰かがこっちを見ている。だが、すぐに消えた。
気のせいかもしれない。だが今は、誰でもいい。
俺たちは戻ってきた。この世界に。
戦いは終わっていない。だが、今日は終わりだ。
「全員、解散。各自、休め。また明日」
俺は言った。
「はいでござる!」
「うぃ〜」
「了解」
「はーい」
「分かったわ」
「任せな」
「ああ」
「分かった」
全員の返事が重なる。それぞれの声で、それぞれの返事が。
俺は仲間たちの背中を見送った。ユキカゼが「明日はマッサージでござるよ」と言ってきたので、本気で逃げようと思った。
女王は誰にする?
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ララ·サタリン·デビルーク
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