サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
日本の空の下、森を抜けた。
駒王学園の裏山。俺たちがリンクキューブの転送地点として使っている場所だ。木々の間から夕日が差し込んでいる。冥界の紫の空とは違う。橙色の光だ。懐かしい光だ。
「やっぱり日本の空はいいでござる」
ユキカゼが空を見上げた。狐耳がリラックスしている。尻尾がふさふさと揺れている。
「紫も悪くなかったけどね」
レイスが翼を広げた。
「ダチョウは紫の空も好きだよ。でもやっぱり故郷の空が一番」
「故郷はここじゃないでござるよ」
「今はここが故郷でしょ。住んでる場所が故郷なの」
「なるほどでござる。レイスは哲学者でござるな」
「ダチョウに哲学者は珍しいね」
「珍しいでござるな」
和やかな会話だ。戦いの後の平和だ。俺は息を吐いた。肩の力が抜ける。
「太郎さん肩凝ってるでござるよ」
「ユキカゼ。マッサージの話はしなくていい」
「でも凝ってるでござる。王の肩は国の柱でござるから」
「国の柱は腰じゃないか」
「肩も大事でござる。剣を振るのも肩でござるよ」
「剣は振かない。チェンジャーを操作するだけだ」
「チェンジャー操作も肩でござる」
「お前の理屈には勝てん」
「王は部下の理屈に勝つ必要がないでござる」
「それどういう理屈だよ」
俺たちは笑いながら歩いた。
森の小道を歩いていく。駒王学園の裏山には俺たち以外は来ない。人がいない。静かだ。
だが。
「何か変でござる」
ユキカゼが立ち止まった。狐耳がピクリと動く。尻尾が膨らみ始めた。
「何がだ」
「匂いでござる。何かの匂いがするでござる」
「何の匂いだ」
「…狸でござる」
「狸?」
「狸の匂いでござる。でも普通の狸じゃないでござる。ジューマンの匂いでござるよ」
狸ジューマン。俺は眉をひそめた。
狸ジューマン。あの夏、何度か出会った種族だ。狐狸類のジューマンは知略に長ける。中でも狸ジューマンは、変装と幻術の達人だ。
「狸ジューマンがここに?」
「はい。間違いないでござる。でもどこにいるかは分からないでござる。匂いだけが漂ってるでござるよ」
「変なの」
レオーネが鼻を動かした。
「私も何かの匂いをするよ。花みたいな匂い。でも花じゃない」
「花?」
「花のようだけど花じゃない。人工的な匂いだね。香水か何かかも」
「香水? こんな森の中で?」
「変だね」
変だ。
俺は周囲を見回した。木々。下草。苔。鳥の声。風の音。
だが。
足元に何かがあった。
「…何だこれ」
俺は足元を見た。
花だ。花が落ちている。造花だ。ピンクの造花が、地面に散らばっている。
「造花でござるか」
ユキカゼが覗き込む。
「造花でござるな。でも誰がこんなところに」
「待て。これだけじゃない」
俺は視線を動かした。造花が点々と続いている。森の小道に沿って。まるで花を散らしながら歩いたような。
「道案内でござるか」
「案内だと? 誰が」
「分からないでござる。でも匂いはこの先に続くでござるよ」
俺は造花の道を辿った。ユキカゼが続く。エレンが後ろで欠伸をしながらついてくる。マンモスマンが黙って従う。ガーフィールが周囲を警戒する。レイスが翼を畳んで歩く。レオーネが鼻を動かしながら。絶花が刀に手を添えながら。シンジが一番後ろで。
造花の道は、森の奥へと続いていた。
「太郎さん。これを見るでござる」
ユキカゼが木の根元を指差した。
文字だ。木の幹に何かが書いてある。
『王様、迷いましたか?』
「…何だこれ」
俺は眉をひそめた。
「誰が書いたんでござるか」
「分からない。だが」
俺は次の木を見た。そこにも文字があった。
『迷子の子狐、耳がいいね』
「迷子の子狐でござる!? 私は迷子じゃないでござる!」
ユキカゼが怒った。尻尾がブンブン膨らんでいる。
「誰だ! 私を迷子扱いするのは!」
「落ち着けユキカゼ。挑発に乗るな」
「でも迷子は心外でござる!」
「分かってる。だがこれは誰かの悪戯だ」
俺は周囲を見た。
造花。木の幹の文字。そして。
「あれを見ろ」
俺は頭上を指差した。
木の枝に、何かがぶら下がっている。風車だ。色とりどりの風車が、枝に結びつけられている。風に回っている。
「風車でござるか」
「風車。誰がこんなところに」
「太郎さん。これも見るでござる」
ユキカゼが地面を指差した。
罠だ。いや罠じゃない。落とし穴だ。だが落とし穴の中には水が入っている。そして水には花が浮いている。
「落とし穴に水と花でござるか」
「意味が分からん」
「何かの儀式でござるかね」
「儀式じゃない。悪戯だ」
俺は断言した。
「悪戯だ。誰かが俺たちをからかってる」
「からかう? 何のために?」
「分からない。だが」
俺は足元を見た。また造花。そして文字。
『王様、足元にご注意』
「足元?」
俺は地面を見た。何もない。普通の地面だ。
だが。
「太郎さん!」
ユキカゼが叫んだ。
足元が揺れた。いや揺れてない。揺れたように感じた。幻覚だ。
「幻術でござる!」
ユキカゼが叫ぶ。
「誰かが幻術を使ってるでござる! 狸ジューマンの匂いが強くなってるでござる!」
「狸ジューマンの幻術か」
俺は周囲を見回した。何も変わっていない。いや何も変わっていないように見える。だが何かがおかしい。
「全員、警戒しろ。幻術だ。何が真実か分からないぞ」
「真面目にやれよ大将! 誰だこんなことする奴!」
ガーフィールが叫ぶ。だがガーフィールの足元にも何かがあった。
「ガーフィール。お前の足」
「あ? 足がどうしたンだァ」
ガーフィールが足を見た。
靴紐が結ばれていた。いや結び直されていた。左右の靴紐が互いに結ばれている。
「あァ!? いつの間に!?」
ガーフィールが転んだ。ドガッ。
「うわァ! 誰だ! 俺様の靴紐を結びやがったのは!」
「ガーフィール転んだでござる」
「見れば分かるでござるよ!」
「転んだでござる」
「もういいでござる!?」
俺は笑いを堪えた。いや堪めきれなかった。
「太郎まで笑ってるでござる!? ひどいでござる!」
「いや笑くしかないだろ。お前のその反応は」
「太郎さん!?」
俺はガーフィールの手を差し出した。掴ませて立たせる。ガーフィールは顔を赤くして靴紐を解いていた。
「次は誰だでござるか」
ユキカゼが周囲を警戒している。だが次の被害者はユキカゼだった。
「きゃっ!」
ユキカゼが小さく声を上げた。
尻尾に何かが巻き付いていた。リボンだ。白いリボンがユキカゼの尻尾に結ばれている。
「何でござる!? いつの間に!?」
ユキカゼが尻尾を振り回す。だがリボンは解けない。結び方が複雑だ。
「誰だ! 私の尻尾に勝手にリボンを結ぶのは!」
「お前の尻尾は絶景だな」
「太郎さん!? 今何と言いました!?」
「何も言ってない。幻術のせいだ」
「嘘でござる! 今確かに」
「幻術だ。聞かなかったことにしろ」
俺はユキカゼの尻尾からリボンを解いてやった。手際よく解けた。不思議なほど器用に結ばれていた。狸ジューマンの手先の器用さか。
「次はマンモスマンでござるか」
「いや。オレには何も起きない」
マンモスマンが淡々と言った。
「何も起きないのか」
「起きない。オレの体重で罠は壊れる。幻術もオレには効かない」
「さすがでござるな。四〇〇キロは無敵でござる」
「無敵だ。重量は正義だ」
「重量が正義って何でござるか」
「オレの哲学だ」
「また哲学でござるか」
俺は笑った。だが警戒は解いていない。
「エレンは何ともないか」
「…何も」
エレンが欠伸をした。
「寝てたから」
「寝てる間に悪戯されなかったのか」
「された。でも寝てたから気づかなかった」
「何されたか知らんままか」
「知らない。後で見る」
「見てから反応するでござるよ」
ユキカゼが呆れている。
「エレンの背中に何か書いてあるでござるよ」
「何も」
「あるでござるよ。ほら」
ユキカゼがエレンの背中を指差した。エレンは自分の背中を確認するために回ろうとした。だが背中は見えない。
「何と書いてあるでござるか」
『寝てないで働け』
「……誰だ」
エレンの目が開いた。完全に開いた。珍しい。
「誰だ。私の背中に勝手に文字を書くのは」
「お前が寝てる間に書かれたんだろ」
「寝てる間に背中に文字を書く人間がいるの」
「人間じゃない。狸ジューマンだ」
「狸ジューマンか。なら納得する」
エレンが納得した。珍しく素直だ。
「でも許さない。次会ったら鋏を出す」
「エレンの鋏は容赦ないでござるな」
「出すまでもないと思ったけど。しつこい相手には出す」
エレンの鋏が背中から微かに出た。本気だ。寝てる間に文字を書かれた怒りは深いらしい。
* * *
俺は周囲を見回した。
全員が何かしらの悪戯を受けている。ガーフィールは靴紐。ユキカゼは尻尾のリボン。エレンは背中の文字。マンモスマンだけ無傷だが、それは重量で耐えているだけだ。
「レオーネは」
「何ともないよ。あたしは鼻がいいから。誰かの気配を感じ取ったから」
レオーネが鼻を動かす。
「あっちの方から匂いがするね。あの木の陰」
レオーネが森の奥を指差した。
俺はその方向を見た。
「レイスは」
「私も何ともないよ。ダチョウは警戒心が強いから。足で地面の振動を感じ取ったの」
「ダチョウは足が良いでござるな」
「ダチョウの脚は万能だよ。走るも、蹴るも、感じ取るも」
「万能でござるな」
「でしょ?」
「でしょって何でござるか」
「ダチョウの自信だよ」
「自信でござるな」
「自信は大事だよ」
「大事でござるな」
ダチョウと狐の会話が弾んでいる。俺はその間に結論を出した。
「分かった」
「何が分かったでござるか」
「誰がやってるか」
俺は森の奥を見た。木の陰。レオーネが指差した方向。
「はぁ、こっちに来ていたんだったら、言えよなぁ、柚葉!」
* * *
静寂。
一瞬の静寂。
それから。
木の陰から、くすくすという笑い声が聞こえた。
「あははは! バレちゃった?」
木の幹から、ひょっこりと顔が出た。
赤い髪。三つ編みにしたおさげを、狸モチーフのパーツと白いリボンで束ねている。ボリュームのある赤い髪が、夕日を受けて燃えるように揺れている。
黒のセーラー服。白いリボン。ピンクのカーディガン。三段重ねのミニスカート。背中には狸の尻尾が揺れている。
少女だった。
見覚えがある。いや聞き覚えがある。あの夏、ジューマンワールドで出会った狸ジューマンの一人だ。
柚葉。
「久しぶり!太郎」
柚葉が木の陰から出てきた。
笑みを浮かべながら。悪戯っぽい笑みだ。口元が緩んで、目が細まっている。他人を揶揄うのが好きな人間の顔だ。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア