※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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狸の悪戯と帰還の余韻

日本の空の下、森を抜けた。

 

駒王学園の裏山。俺たちがリンクキューブの転送地点として使っている場所だ。木々の間から夕日が差し込んでいる。冥界の紫の空とは違う。橙色の光だ。懐かしい光だ。

 

「やっぱり日本の空はいいでござる」

 

ユキカゼが空を見上げた。狐耳がリラックスしている。尻尾がふさふさと揺れている。

 

「紫も悪くなかったけどね」

 

レイスが翼を広げた。

 

「ダチョウは紫の空も好きだよ。でもやっぱり故郷の空が一番」

 

「故郷はここじゃないでござるよ」

 

「今はここが故郷でしょ。住んでる場所が故郷なの」

 

「なるほどでござる。レイスは哲学者でござるな」

 

「ダチョウに哲学者は珍しいね」

 

「珍しいでござるな」

 

和やかな会話だ。戦いの後の平和だ。俺は息を吐いた。肩の力が抜ける。

 

「太郎さん肩凝ってるでござるよ」

 

「ユキカゼ。マッサージの話はしなくていい」

 

「でも凝ってるでござる。王の肩は国の柱でござるから」

 

「国の柱は腰じゃないか」

 

「肩も大事でござる。剣を振るのも肩でござるよ」

 

「剣は振かない。チェンジャーを操作するだけだ」

 

「チェンジャー操作も肩でござる」

 

「お前の理屈には勝てん」

 

「王は部下の理屈に勝つ必要がないでござる」

 

「それどういう理屈だよ」

 

俺たちは笑いながら歩いた。

 

森の小道を歩いていく。駒王学園の裏山には俺たち以外は来ない。人がいない。静かだ。

 

だが。

 

「何か変でござる」

 

ユキカゼが立ち止まった。狐耳がピクリと動く。尻尾が膨らみ始めた。

 

「何がだ」

 

「匂いでござる。何かの匂いがするでござる」

 

「何の匂いだ」

 

「…狸でござる」

 

「狸?」

 

「狸の匂いでござる。でも普通の狸じゃないでござる。ジューマンの匂いでござるよ」

 

狸ジューマン。俺は眉をひそめた。

 

狸ジューマン。あの夏、何度か出会った種族だ。狐狸類のジューマンは知略に長ける。中でも狸ジューマンは、変装と幻術の達人だ。

 

「狸ジューマンがここに?」

 

「はい。間違いないでござる。でもどこにいるかは分からないでござる。匂いだけが漂ってるでござるよ」

 

「変なの」

 

レオーネが鼻を動かした。

 

「私も何かの匂いをするよ。花みたいな匂い。でも花じゃない」

 

「花?」

 

「花のようだけど花じゃない。人工的な匂いだね。香水か何かかも」

 

「香水? こんな森の中で?」

 

「変だね」

 

変だ。

 

俺は周囲を見回した。木々。下草。苔。鳥の声。風の音。

 

だが。

 

足元に何かがあった。

 

「…何だこれ」

 

俺は足元を見た。

 

花だ。花が落ちている。造花だ。ピンクの造花が、地面に散らばっている。

 

「造花でござるか」

 

ユキカゼが覗き込む。

 

「造花でござるな。でも誰がこんなところに」

 

「待て。これだけじゃない」

 

俺は視線を動かした。造花が点々と続いている。森の小道に沿って。まるで花を散らしながら歩いたような。

 

「道案内でござるか」

 

「案内だと? 誰が」

 

「分からないでござる。でも匂いはこの先に続くでござるよ」

 

俺は造花の道を辿った。ユキカゼが続く。エレンが後ろで欠伸をしながらついてくる。マンモスマンが黙って従う。ガーフィールが周囲を警戒する。レイスが翼を畳んで歩く。レオーネが鼻を動かしながら。絶花が刀に手を添えながら。シンジが一番後ろで。

 

造花の道は、森の奥へと続いていた。

 

「太郎さん。これを見るでござる」

 

ユキカゼが木の根元を指差した。

 

文字だ。木の幹に何かが書いてある。

 

『王様、迷いましたか?』

 

「…何だこれ」

 

俺は眉をひそめた。

 

「誰が書いたんでござるか」

 

「分からない。だが」

 

俺は次の木を見た。そこにも文字があった。

 

『迷子の子狐、耳がいいね』

 

「迷子の子狐でござる!? 私は迷子じゃないでござる!」

 

ユキカゼが怒った。尻尾がブンブン膨らんでいる。

 

「誰だ! 私を迷子扱いするのは!」

 

「落ち着けユキカゼ。挑発に乗るな」

 

「でも迷子は心外でござる!」

 

「分かってる。だがこれは誰かの悪戯だ」

 

俺は周囲を見た。

 

造花。木の幹の文字。そして。

 

「あれを見ろ」

 

俺は頭上を指差した。

 

木の枝に、何かがぶら下がっている。風車だ。色とりどりの風車が、枝に結びつけられている。風に回っている。

 

「風車でござるか」

 

「風車。誰がこんなところに」

 

「太郎さん。これも見るでござる」

 

ユキカゼが地面を指差した。

 

罠だ。いや罠じゃない。落とし穴だ。だが落とし穴の中には水が入っている。そして水には花が浮いている。

 

「落とし穴に水と花でござるか」

 

「意味が分からん」

 

「何かの儀式でござるかね」

 

「儀式じゃない。悪戯だ」

 

俺は断言した。

 

「悪戯だ。誰かが俺たちをからかってる」

 

「からかう? 何のために?」

 

「分からない。だが」

 

俺は足元を見た。また造花。そして文字。

 

『王様、足元にご注意』

 

「足元?」

 

俺は地面を見た。何もない。普通の地面だ。

 

だが。

 

「太郎さん!」

 

ユキカゼが叫んだ。

 

足元が揺れた。いや揺れてない。揺れたように感じた。幻覚だ。

 

「幻術でござる!」

 

ユキカゼが叫ぶ。

 

「誰かが幻術を使ってるでござる! 狸ジューマンの匂いが強くなってるでござる!」

 

「狸ジューマンの幻術か」

 

俺は周囲を見回した。何も変わっていない。いや何も変わっていないように見える。だが何かがおかしい。

 

「全員、警戒しろ。幻術だ。何が真実か分からないぞ」

 

「真面目にやれよ大将! 誰だこんなことする奴!」

 

ガーフィールが叫ぶ。だがガーフィールの足元にも何かがあった。

 

「ガーフィール。お前の足」

 

「あ? 足がどうしたンだァ」

 

ガーフィールが足を見た。

 

靴紐が結ばれていた。いや結び直されていた。左右の靴紐が互いに結ばれている。

 

「あァ!? いつの間に!?」

 

ガーフィールが転んだ。ドガッ。

 

「うわァ! 誰だ! 俺様の靴紐を結びやがったのは!」

 

「ガーフィール転んだでござる」

 

「見れば分かるでござるよ!」

 

「転んだでござる」

 

「もういいでござる!?」

 

俺は笑いを堪えた。いや堪めきれなかった。

 

「太郎まで笑ってるでござる!? ひどいでござる!」

 

「いや笑くしかないだろ。お前のその反応は」

 

「太郎さん!?」

 

俺はガーフィールの手を差し出した。掴ませて立たせる。ガーフィールは顔を赤くして靴紐を解いていた。

 

「次は誰だでござるか」

 

ユキカゼが周囲を警戒している。だが次の被害者はユキカゼだった。

 

「きゃっ!」

 

ユキカゼが小さく声を上げた。

 

尻尾に何かが巻き付いていた。リボンだ。白いリボンがユキカゼの尻尾に結ばれている。

 

「何でござる!? いつの間に!?」

 

ユキカゼが尻尾を振り回す。だがリボンは解けない。結び方が複雑だ。

 

「誰だ! 私の尻尾に勝手にリボンを結ぶのは!」

 

「お前の尻尾は絶景だな」

 

「太郎さん!? 今何と言いました!?」

 

「何も言ってない。幻術のせいだ」

 

「嘘でござる! 今確かに」

 

「幻術だ。聞かなかったことにしろ」

 

俺はユキカゼの尻尾からリボンを解いてやった。手際よく解けた。不思議なほど器用に結ばれていた。狸ジューマンの手先の器用さか。

 

「次はマンモスマンでござるか」

 

「いや。オレには何も起きない」

 

マンモスマンが淡々と言った。

 

「何も起きないのか」

 

「起きない。オレの体重で罠は壊れる。幻術もオレには効かない」

 

「さすがでござるな。四〇〇キロは無敵でござる」

 

「無敵だ。重量は正義だ」

 

「重量が正義って何でござるか」

 

「オレの哲学だ」

 

「また哲学でござるか」

 

俺は笑った。だが警戒は解いていない。

 

「エレンは何ともないか」

 

「…何も」

 

エレンが欠伸をした。

 

「寝てたから」

 

「寝てる間に悪戯されなかったのか」

 

「された。でも寝てたから気づかなかった」

 

「何されたか知らんままか」

 

「知らない。後で見る」

 

「見てから反応するでござるよ」

 

ユキカゼが呆れている。

 

「エレンの背中に何か書いてあるでござるよ」

 

「何も」

 

「あるでござるよ。ほら」

 

ユキカゼがエレンの背中を指差した。エレンは自分の背中を確認するために回ろうとした。だが背中は見えない。

 

「何と書いてあるでござるか」

 

『寝てないで働け』

 

「……誰だ」

 

エレンの目が開いた。完全に開いた。珍しい。

 

「誰だ。私の背中に勝手に文字を書くのは」

 

「お前が寝てる間に書かれたんだろ」

 

「寝てる間に背中に文字を書く人間がいるの」

 

「人間じゃない。狸ジューマンだ」

 

「狸ジューマンか。なら納得する」

 

エレンが納得した。珍しく素直だ。

 

「でも許さない。次会ったら鋏を出す」

 

「エレンの鋏は容赦ないでござるな」

 

「出すまでもないと思ったけど。しつこい相手には出す」

 

エレンの鋏が背中から微かに出た。本気だ。寝てる間に文字を書かれた怒りは深いらしい。

 

* * *

 

俺は周囲を見回した。

 

全員が何かしらの悪戯を受けている。ガーフィールは靴紐。ユキカゼは尻尾のリボン。エレンは背中の文字。マンモスマンだけ無傷だが、それは重量で耐えているだけだ。

 

「レオーネは」

 

「何ともないよ。あたしは鼻がいいから。誰かの気配を感じ取ったから」

 

レオーネが鼻を動かす。

 

「あっちの方から匂いがするね。あの木の陰」

 

レオーネが森の奥を指差した。

 

俺はその方向を見た。

 

「レイスは」

 

「私も何ともないよ。ダチョウは警戒心が強いから。足で地面の振動を感じ取ったの」

 

「ダチョウは足が良いでござるな」

 

「ダチョウの脚は万能だよ。走るも、蹴るも、感じ取るも」

 

「万能でござるな」

 

「でしょ?」

 

「でしょって何でござるか」

 

「ダチョウの自信だよ」

 

「自信でござるな」

 

「自信は大事だよ」

 

「大事でござるな」

 

ダチョウと狐の会話が弾んでいる。俺はその間に結論を出した。

 

「分かった」

 

「何が分かったでござるか」

 

「誰がやってるか」

 

俺は森の奥を見た。木の陰。レオーネが指差した方向。

 

「はぁ、こっちに来ていたんだったら、言えよなぁ、柚葉!」

 

* * *

 

静寂。

 

一瞬の静寂。

 

それから。

 

木の陰から、くすくすという笑い声が聞こえた。

 

「あははは! バレちゃった?」

 

木の幹から、ひょっこりと顔が出た。

 

赤い髪。三つ編みにしたおさげを、狸モチーフのパーツと白いリボンで束ねている。ボリュームのある赤い髪が、夕日を受けて燃えるように揺れている。

 

黒のセーラー服。白いリボン。ピンクのカーディガン。三段重ねのミニスカート。背中には狸の尻尾が揺れている。

 

少女だった。

 

見覚えがある。いや聞き覚えがある。あの夏、ジューマンワールドで出会った狸ジューマンの一人だ。

 

柚葉。

 

「久しぶり!太郎」

 

柚葉が木の陰から出てきた。

 

笑みを浮かべながら。悪戯っぽい笑みだ。口元が緩んで、目が細まっている。他人を揶揄うのが好きな人間の顔だ。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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