※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

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決断の夜と再びのジューランド

柚葉の情報をテントのテーブルに広げた。

 

夜だった。人間界の夜だ。冥界の紫の空とは違う。日本の夜は黒い。星が見える。虫の声が聞こえる。懐かしい音だ。

 

全員がテーブルを囲んでいた。ユキカゼが麦茶を配っている。エレンが欠伸をしている。マンモスマンが黙って座っている。ガーフィールが寝転がっている。レイスが翼を手入れしている。レオーネが何か食っている。絶花が刀を膝に置いている。シンジが端に座っている。柚葉がニヤニヤしている。

 

「で、この情報を元にどこへ向かうか」

 

俺は紙を指差した。

 

「バングレイの行動範囲。ここ数週間の目撃情報をまとめたものだ。柚葉がネットと偵察で集めた」

 

「ネットで集めた情報って信用していいの」

 

レオーネが問う。鼻が動いている。

 

「信用できるでござる。柚葉さんの情報は過去にも精度が高かったでござるよ」

 

ユキカゼが柚葉を誉めた。だがすぐに顔をしかめた。

 

「でも柚葉さんは信用できるけど、柚葉さんの悪戯は信用できないでござる」

 

「ユキカゼひどい。私の情報と悪戯は別物だよ」

 

「同じ人格から出てるものでござる」

 

「人格は同じでも出力が違うの。情報は真面目。悪戯は遊び。柚葉は使い分けできるの」

 

「できないでござる。昨日ユキカゼの靴の中に花を入れたのは誰でござるか」

 

「あれは情報収集の過程で余った花の有効活用でしょ」

 

「有効活用じゃないでござる。靴の中に花は入らないでござる」

 

「入ったでしょ。ちゃんと」

 

「入ったことが問題でござる!」

 

俺はため息をついた。この二人は永遠に仲直りしないだろう。いや仲直りはしている。喧嘩が仲直りの形なのだ。

 

「で、どこへ向かうかだが」

 

俺は紙を指で叩いた。柚葉の集めた情報が並んでいる。バングレイの目撃情報。メダルの反応。ジューマンの力を感じる地点。

 

いくつかの候補地があった。人間界。冥界。そして。

 

「一つ気になるのがここだ」

 

俺は紙の一箇所を指差した。

 

「ジューランド」

 

ユキカゼが息を呑んだ。狐耳がピクリと動く。

 

「ジューランドでござるか」

 

「ああ。柚葉の情報によるとジューランド周辺でメダルの反応が多数検出されている。バングレイの目撃情報もここが一番多い」

 

「ジューランドか…」

 

レオーネが腕を組んだ。

 

「あそこはジューマンの故郷だね。太郎たちが最初に行った場所でしょ」

 

「そうだ。あの夏、俺と絶花が迷い込んだ世界の中心地だ」

 

俺は絶花を見た。絶花は刀の柄に手を置いたまま、静かに頷いた。

 

「懐かしい場所だね」

 

「ああ。だが懐かしむだけじゃない。ジューランドにバングレイがいるなら行くしかない」

 

「太郎」

 

絶花が口を開いた。

 

「ん」

 

「ジューランドに戻るってことは、ジューマンたちと再会することになる。タスクさんやアムさんたちとも」

 

「そうだな。だが今はメダルが優先だ。バングレイがジューランドで何をしているのか、確かめる必要がある」

 

「分かった。私も行くよ」

 

絶花が刀を握り直した。その目はもう震えていない。あの夏を共に戦った剣士の目だ。

 

*  *  *

 

「で、チーム分けだが」

 

俺は全員を見回した。

 

「全員でジューランドへ行くのは危険だ。メダルの調査は人間界と冥界でも続ける必要がある。だから分ける」

 

「分けるでござるか」

 

ユキカゼが首を傾げる。

 

「ああ。三チームに分ける。ジューランドチーム、人間界調査チーム、冥界調査チームだ」

 

「誰がどこへ」

 

エレンが短く問う。

 

「ジューランドへは俺が行く。それからユキカゼ、絶花、そして」

 

俺は柚葉を見た。

 

「柚葉。お前も来い」

 

「あはは。やっぱり? 柚葉も行くと思ってた」

 

柚葉が狸の尻尾を揺らした。にやりと笑っている。

 

「理由を聞いていい」

 

「いいよ。太郎と一緒に行きたいから」

 

「それだけか」

 

「それだけ。太郎の反応が一番面白いのは近くにいる時だから」

 

「理由がそれかよ」

 

「それだけじゃないよ。柚葉はジューランドの地理に詳しいし。バングレイの情報も持ってるし。何より」

 

柚葉がにやりと笑った。

 

「太郎、ユキカZE、絶花さん。このメンバーが一番バランスいいでしょ」

 

「バランス? どういう意味だ」

 

「太郎が前衛。ユキカZEが中衛。絶花さんが後衛。そして柚葉が情報。完璧でしょ」

 

「お前は自分を後ろに置いたな」

 

「当然。柚葉は戦闘係じゃないもん。情報係」

 

「さっき決めたなその役割」

 

「さっき決めた。今ここで決まった。柚葉流家臣道第四条。戦闘には参加しない。情報に徹する」

 

「四条目まで増えたのか」

 

「増えるよ。柚葉流家臣道は常に更新されるの」

 

俺はため息をついた。だが柚葉の言う通りだ。このメンバーならバランスはいい。俺が前で剣を振るい、ユキカゼがサポートし、絶花が後方で守りを固める。柚葉は情報収集。役割分担は明確だ。

 

「分かった。ジューランドチームは俺、ユキカゼ、絶花、柚葉の四人だ」

 

「了解でござる! 太郎さんと一緒なら安心でござる!」

 

ユキカゼが尻尾を振った。嬉しそうだ。

 

「分かった。太郎の後ろにいるよ」

 

絶花が刀を腰に戻した。短い返事だが、確かな意思が込められている。

 

「あはは。じゃあ決まり。ジューランド行こ」

 

柚葉が立ち上がった。狸の尻尾がふわりと揺れる。

 

「人間界チームはレオーネとレイスだ。人間界でメダルの調査を続けてくれ。レイスの群れも使えるだろ」

 

「任せな。人間界はアタシの得意分野だよ。街を歩いて情報を拾うのは猿の手だね」

 

レオーネが拳を握った。

 

「群れも総動員するよ。ダチョウの目は千里先まで見えるからね」

 

レイスが翼を広げた。

 

「冥界チームはマンモスマン、ガーフィール、エレン、シンジだ。黒歌の屋敷跡を再調査してくれ。まだ残っている資料があるかもしれない」

 

「ボスの命令だ。従う」

 

マンモスマンが短く頷いた。

 

「おォ! 冥界かァ。あの紫の空かァ。悪くねェぜェ」

 

ガーフィールが牙を見せた。

 

「分かった。寝てる暇はないね」

 

エレンが欠伸をしながら立ち上がった。

 

「僕も行きます。太郎さん」

 

シンジが小さく言った。不安そうな顔だ。だが立っている。

 

「頼んだ。何かあったら連絡しろ。王国の駒で念話は通じる」

 

「はい」

 

シンジが頷いた。

 

*  *  *

 

チーム分けが決まった。

 

俺たちはリンクキューブの前に集まった。日本の森の中。青い立方体が月光を受けて鈍く光っている。

 

「行くぞ」

 

俺はチェンジャーを操作した。

 

「ジューランドへ」

 

『リンクキューブ! 転送!』

 

青い光が弾ける。四つの身体を包み込む。視界が白くなる。重力が消える。世界が歪む。

 

一瞬の浮遊感。

 

それから足裏に硬い感触が戻った。

 

目を開けると、そこにあった。

 

懐かしい景色。

 

大草原。

 

見渡す限りの緑。風が吹くたびに草が波打つ。遠くに山が見える。空は澄んでいる。人間界の空とも冥界の空とも違う。ジューランドの空だ。

 

「戻ってきたでござる」

 

ユキカゼが息を吐いた。狐耳がリラックスしている。尻尾がふさふさと揺れている。

 

「懐かしいね」

 

絶花が周囲を見回した。刀の柄に手を置いたまま。だがその表情は柔らかい。

 

「やっぱりここが一番落ち着くでござるよ」

 

「ジューランドか。懐かしいな」

 

俺は風を感じた。懐かしい風だ。あの夏、初めてここに立った時と同じ風。

 

「あはは。太郎懐かしそう」

 

柚葉が隣で笑った。狸の尻尾が風に揺れている。

 

「懐かしくないわけがないだろ。ここで一夏を過ごしたんだからな」

 

「一夏。短い夏だったね」

 

「短かったな。でも濃かった」

 

「濃い夏。いい表現だよ。柚葉も同じ夏を過ごしたもんね」

 

「うん。太郎の反応を見ながらね」

 

「お前は相変わらずだな」

 

「変わらないよ。狸は変わらないの」

 

「狸が変わらない根拠はどこにある」

 

「狸の本能。本能は変わらないの」

 

「本能に任せて生きてるのか」

 

「任せてる。本能は正しいから」

 

「本能が正しい根拠は」

 

「太郎の前に立ってるから」

 

「それ根拠になってないぞ」

 

「なってるよ。柚葉が太郎の前にいる。それが正しい。だから本能は正しい」

 

「論理が飛躍してる」

 

「飛躍してないよ。飛躍してるように見えるだけ」

 

「見えるだけって何だよ」

 

「狸の論理は人間には分からないの」

 

「分からない論理を押し付けるな」

 

「押し付けてないよ。感じてるだけ」

 

「感じるなら感じるで黙ってろ」

 

「黙らないよ。柚葉は喋るのが好きなの」

 

「…はぁ」

 

俺はため息をついた。

 

だが笑っていた。柚葉のやり取りはいつもこうだ。腹が立つのにどこかで笑っている。それが柚葉のやり方だ。

 

「太郎さん」

 

ユキカゼが俺の袖を引いた。

 

「あそこに何か見えるでござる」

 

ユキカゼが指差した方を見た。草原の向こう。遠くに何かが見える。建物だ。いや建物じゃない。

 

「門でござるよ」

 

ユキカゼが言った。

 

「ジューランドの門。あの夏、太郎さんが通った門でござる」

 

門。

 

懐かしい。あの門をくぐった時、俺たちはジューマンの世界に足を踏み入れた。あの時の緊張。不安。そして期待。全部が蘇る。

 

「行くぞ」

 

俺は歩き出した。

 

「ジューランドへ」

 

「はいでござる!」

 

ユキカゼが続く。

 

「うん」

 

絶花が続く。

 

「あはは。行こ行こ」

 

柚葉が続く。

 

四人で草原を歩いた。風が吹く。草が揺れる。門が近づく。

 

あの夏と同じ。

 

だが、今の俺たちはあの夏とは違う。

 

王の駒がある。ジュウオウチェンジャーがある。仲間がいる。

 

「ジューランド。俺たちが帰ってきたぞ」

 

俺は門を見上げた。

 

懐かしい門。そして新たな冒険の始まり。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
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