サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
柚葉の情報をテントのテーブルに広げた。
夜だった。人間界の夜だ。冥界の紫の空とは違う。日本の夜は黒い。星が見える。虫の声が聞こえる。懐かしい音だ。
全員がテーブルを囲んでいた。ユキカゼが麦茶を配っている。エレンが欠伸をしている。マンモスマンが黙って座っている。ガーフィールが寝転がっている。レイスが翼を手入れしている。レオーネが何か食っている。絶花が刀を膝に置いている。シンジが端に座っている。柚葉がニヤニヤしている。
「で、この情報を元にどこへ向かうか」
俺は紙を指差した。
「バングレイの行動範囲。ここ数週間の目撃情報をまとめたものだ。柚葉がネットと偵察で集めた」
「ネットで集めた情報って信用していいの」
レオーネが問う。鼻が動いている。
「信用できるでござる。柚葉さんの情報は過去にも精度が高かったでござるよ」
ユキカゼが柚葉を誉めた。だがすぐに顔をしかめた。
「でも柚葉さんは信用できるけど、柚葉さんの悪戯は信用できないでござる」
「ユキカゼひどい。私の情報と悪戯は別物だよ」
「同じ人格から出てるものでござる」
「人格は同じでも出力が違うの。情報は真面目。悪戯は遊び。柚葉は使い分けできるの」
「できないでござる。昨日ユキカゼの靴の中に花を入れたのは誰でござるか」
「あれは情報収集の過程で余った花の有効活用でしょ」
「有効活用じゃないでござる。靴の中に花は入らないでござる」
「入ったでしょ。ちゃんと」
「入ったことが問題でござる!」
俺はため息をついた。この二人は永遠に仲直りしないだろう。いや仲直りはしている。喧嘩が仲直りの形なのだ。
「で、どこへ向かうかだが」
俺は紙を指で叩いた。柚葉の集めた情報が並んでいる。バングレイの目撃情報。メダルの反応。ジューマンの力を感じる地点。
いくつかの候補地があった。人間界。冥界。そして。
「一つ気になるのがここだ」
俺は紙の一箇所を指差した。
「ジューランド」
ユキカゼが息を呑んだ。狐耳がピクリと動く。
「ジューランドでござるか」
「ああ。柚葉の情報によるとジューランド周辺でメダルの反応が多数検出されている。バングレイの目撃情報もここが一番多い」
「ジューランドか…」
レオーネが腕を組んだ。
「あそこはジューマンの故郷だね。太郎たちが最初に行った場所でしょ」
「そうだ。あの夏、俺と絶花が迷い込んだ世界の中心地だ」
俺は絶花を見た。絶花は刀の柄に手を置いたまま、静かに頷いた。
「懐かしい場所だね」
「ああ。だが懐かしむだけじゃない。ジューランドにバングレイがいるなら行くしかない」
「太郎」
絶花が口を開いた。
「ん」
「ジューランドに戻るってことは、ジューマンたちと再会することになる。タスクさんやアムさんたちとも」
「そうだな。だが今はメダルが優先だ。バングレイがジューランドで何をしているのか、確かめる必要がある」
「分かった。私も行くよ」
絶花が刀を握り直した。その目はもう震えていない。あの夏を共に戦った剣士の目だ。
* * *
「で、チーム分けだが」
俺は全員を見回した。
「全員でジューランドへ行くのは危険だ。メダルの調査は人間界と冥界でも続ける必要がある。だから分ける」
「分けるでござるか」
ユキカゼが首を傾げる。
「ああ。三チームに分ける。ジューランドチーム、人間界調査チーム、冥界調査チームだ」
「誰がどこへ」
エレンが短く問う。
「ジューランドへは俺が行く。それからユキカゼ、絶花、そして」
俺は柚葉を見た。
「柚葉。お前も来い」
「あはは。やっぱり? 柚葉も行くと思ってた」
柚葉が狸の尻尾を揺らした。にやりと笑っている。
「理由を聞いていい」
「いいよ。太郎と一緒に行きたいから」
「それだけか」
「それだけ。太郎の反応が一番面白いのは近くにいる時だから」
「理由がそれかよ」
「それだけじゃないよ。柚葉はジューランドの地理に詳しいし。バングレイの情報も持ってるし。何より」
柚葉がにやりと笑った。
「太郎、ユキカZE、絶花さん。このメンバーが一番バランスいいでしょ」
「バランス? どういう意味だ」
「太郎が前衛。ユキカZEが中衛。絶花さんが後衛。そして柚葉が情報。完璧でしょ」
「お前は自分を後ろに置いたな」
「当然。柚葉は戦闘係じゃないもん。情報係」
「さっき決めたなその役割」
「さっき決めた。今ここで決まった。柚葉流家臣道第四条。戦闘には参加しない。情報に徹する」
「四条目まで増えたのか」
「増えるよ。柚葉流家臣道は常に更新されるの」
俺はため息をついた。だが柚葉の言う通りだ。このメンバーならバランスはいい。俺が前で剣を振るい、ユキカゼがサポートし、絶花が後方で守りを固める。柚葉は情報収集。役割分担は明確だ。
「分かった。ジューランドチームは俺、ユキカゼ、絶花、柚葉の四人だ」
「了解でござる! 太郎さんと一緒なら安心でござる!」
ユキカゼが尻尾を振った。嬉しそうだ。
「分かった。太郎の後ろにいるよ」
絶花が刀を腰に戻した。短い返事だが、確かな意思が込められている。
「あはは。じゃあ決まり。ジューランド行こ」
柚葉が立ち上がった。狸の尻尾がふわりと揺れる。
「人間界チームはレオーネとレイスだ。人間界でメダルの調査を続けてくれ。レイスの群れも使えるだろ」
「任せな。人間界はアタシの得意分野だよ。街を歩いて情報を拾うのは猿の手だね」
レオーネが拳を握った。
「群れも総動員するよ。ダチョウの目は千里先まで見えるからね」
レイスが翼を広げた。
「冥界チームはマンモスマン、ガーフィール、エレン、シンジだ。黒歌の屋敷跡を再調査してくれ。まだ残っている資料があるかもしれない」
「ボスの命令だ。従う」
マンモスマンが短く頷いた。
「おォ! 冥界かァ。あの紫の空かァ。悪くねェぜェ」
ガーフィールが牙を見せた。
「分かった。寝てる暇はないね」
エレンが欠伸をしながら立ち上がった。
「僕も行きます。太郎さん」
シンジが小さく言った。不安そうな顔だ。だが立っている。
「頼んだ。何かあったら連絡しろ。王国の駒で念話は通じる」
「はい」
シンジが頷いた。
* * *
チーム分けが決まった。
俺たちはリンクキューブの前に集まった。日本の森の中。青い立方体が月光を受けて鈍く光っている。
「行くぞ」
俺はチェンジャーを操作した。
「ジューランドへ」
『リンクキューブ! 転送!』
青い光が弾ける。四つの身体を包み込む。視界が白くなる。重力が消える。世界が歪む。
一瞬の浮遊感。
それから足裏に硬い感触が戻った。
目を開けると、そこにあった。
懐かしい景色。
大草原。
見渡す限りの緑。風が吹くたびに草が波打つ。遠くに山が見える。空は澄んでいる。人間界の空とも冥界の空とも違う。ジューランドの空だ。
「戻ってきたでござる」
ユキカゼが息を吐いた。狐耳がリラックスしている。尻尾がふさふさと揺れている。
「懐かしいね」
絶花が周囲を見回した。刀の柄に手を置いたまま。だがその表情は柔らかい。
「やっぱりここが一番落ち着くでござるよ」
「ジューランドか。懐かしいな」
俺は風を感じた。懐かしい風だ。あの夏、初めてここに立った時と同じ風。
「あはは。太郎懐かしそう」
柚葉が隣で笑った。狸の尻尾が風に揺れている。
「懐かしくないわけがないだろ。ここで一夏を過ごしたんだからな」
「一夏。短い夏だったね」
「短かったな。でも濃かった」
「濃い夏。いい表現だよ。柚葉も同じ夏を過ごしたもんね」
「うん。太郎の反応を見ながらね」
「お前は相変わらずだな」
「変わらないよ。狸は変わらないの」
「狸が変わらない根拠はどこにある」
「狸の本能。本能は変わらないの」
「本能に任せて生きてるのか」
「任せてる。本能は正しいから」
「本能が正しい根拠は」
「太郎の前に立ってるから」
「それ根拠になってないぞ」
「なってるよ。柚葉が太郎の前にいる。それが正しい。だから本能は正しい」
「論理が飛躍してる」
「飛躍してないよ。飛躍してるように見えるだけ」
「見えるだけって何だよ」
「狸の論理は人間には分からないの」
「分からない論理を押し付けるな」
「押し付けてないよ。感じてるだけ」
「感じるなら感じるで黙ってろ」
「黙らないよ。柚葉は喋るのが好きなの」
「…はぁ」
俺はため息をついた。
だが笑っていた。柚葉のやり取りはいつもこうだ。腹が立つのにどこかで笑っている。それが柚葉のやり方だ。
「太郎さん」
ユキカゼが俺の袖を引いた。
「あそこに何か見えるでござる」
ユキカゼが指差した方を見た。草原の向こう。遠くに何かが見える。建物だ。いや建物じゃない。
「門でござるよ」
ユキカゼが言った。
「ジューランドの門。あの夏、太郎さんが通った門でござる」
門。
懐かしい。あの門をくぐった時、俺たちはジューマンの世界に足を踏み入れた。あの時の緊張。不安。そして期待。全部が蘇る。
「行くぞ」
俺は歩き出した。
「ジューランドへ」
「はいでござる!」
ユキカゼが続く。
「うん」
絶花が続く。
「あはは。行こ行こ」
柚葉が続く。
四人で草原を歩いた。風が吹く。草が揺れる。門が近づく。
あの夏と同じ。
だが、今の俺たちはあの夏とは違う。
王の駒がある。ジュウオウチェンジャーがある。仲間がいる。
「ジューランド。俺たちが帰ってきたぞ」
俺は門を見上げた。
懐かしい門。そして新たな冒険の始まり。
女王は誰にする?
-
アルファ
-
ララ·サタリン·デビルーク
-
エミリア