※この作品はR-18です。

サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏)   作:ボルメテウスさん

515 / 517
記憶の怪物

海が割れた。

 

海水が吹き上がり、波が砕け散る。潮の匂いが一瞬で濃くなる。視界が白く染まる。

 

「来るでござる!」

 

ユキカゼが叫んだ。

 

白い飛沫の向こうから現れたのは、巨大な触手だった。

 

いや、触手だけじゃない。本体が見えた。

 

イカだ。

 

巨大なイカ。

 

大きすぎる。岩場が砂粒に見えるほど巨大だ。胴体だけでビル三棟分はある。触手が八本、海面から突き出して蠢いている。それぞれの触手が岩場を叩けば地面が揺れる。

 

「イカでござるか」

 

ユキカゼが呟く。狐耳が完全に伏せている。尻尾が逆立ったままだ。

 

「イカだな。だがデカすぎる」

 

俺は巨体を見上げた。

 

目が合った。巨大なイカの目玉が、俺たちを捉えている。視界の端から端まで埋め尽くされるほどの大きさだ。

 

「太郎。これは何」

 

絶花が刀の柄を握りしめた。声が震えている。だが刀は抜いていない。まだ判断していない。

 

「ジューランドの生物か」

 

「違うでござるよ」

 

ユキカゼが首を振った。

 

「ジューランドにこんなイカはいないでござる。海の守り手である鮫ジューマンの話にも出てこないサイズでござる」

 

「ジューランドにいない生物がなぜここに」

 

俺は眉をひそめた。

 

柚葉が前に出た。狸の尻尾を揺らしながら、巨体を見上げている。怯えている様子はない。むしろ興味津々だ。

 

「太郎。これ」

 

「何だ」

 

「知ってるよ。これ」

 

「知ってるのか」

 

「うん。人間界のネットで見た。伝説の海獣。クラーケン」

 

「クラーケン」

 

「北欧伝承に登場する巨大イカの海獣。船を呑み込むほどの大きさになるって。人間界の伝説だよ」

 

「人間界の伝説の生物が、なぜジューランドの海に」

 

柚葉は黙った。

 

絶花が呟いた。

 

「なぜここにいるの」

 

絶花の声は低かった。海風に消えそうなほど小さい声だ。

 

「人間界の伝説の生物がジューランドにいる理由。普通に考えてあり得ないよね」

 

「ああ。あり得ない」

 

俺は巨体を見上げた。

 

クラーケン。人間界の伝説の海獣。北欧の海域に出現するとされる巨大イカ。

 

その巨体が今、ジューランドの海から姿を現している。

 

(バングレイ)

 

名前が浮かんだ。

 

あいつだ。バングレイの能力。記憶を読み取り、記憶から存在を実体化させる能力。

 

コカビエルの時と同じだ。俺の記憶からコカビエルを実体化させた。あの時は冥界の屋敷で。

 

「太郎」

 

柚葉が俺を見た。

 

「バングレイでしょ」

 

「ああ。バングレイだ」

 

俺は頷いた。

 

「こいつは俺の記憶から実体化された。人間界の伝説。クラーケン。俺がどこかで聞いたか見た記憶から、バングレイが引き出したんだ」

 

「でも」

 

絶花が続ける。

 

「バングレイは冥界にいたはずでしょ。なんでジューランドの海に」

 

「分からない。だがメダルが海にあるのは事実だ。バングレイがメダルをここに集めている。その過程で俺の記憶から何かを実体化させた」

 

「メダルに実体化した存在を与えたってことか」

 

「そういうことだ。コカビエルの時と同じ。記憶から実体化させた存在にメダルを与え、巨大化させる」

 

俺は巨体を見た。

 

クラーケン。触手が八本。胴体が巨大。目玉が俺たちを睨んでいる。

 

コカビエルの時は空中戦だった。だが今回は海だ。海中の生物。地上の俺たちにとっては最悪の状況だ。

 

「太郎さん」

 

ユキカゼが俺の袖を引いた。

 

「どうするでござるか。海の中の敵は地上からでは手が届かないでござるよ」

 

「分かってる。だがやるしかない」

 

俺はチェンジャーに手を伸ばした。

 

「絶花。刀を構えろ」

 

「分かった」

 

絶花が刀を抜いた。抜刀の音が海風に響く。刀身が陽光を反射する。

 

「柚葉。下がれ」

 

「下がらないよ。情報係は前線にいるの」

 

「クラーケンの前線は死線だぞ」

 

「死線でもいいよ。太郎の戦いを見届けるの。家臣だから」

 

「家臣なら生き残れ」

 

「生き残るよ。狸はしぶといから」

 

柚葉がにやりと笑った。その笑みが、妙に頼もしく見えた。

 

クラーケンが咆哮した。

 

海が震える。触手が岩場を叩く。衝撃波が走る。

女王は誰にする?

  • アルファ
  • ララ·サタリン·デビルーク
  • エミリア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。