サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
海が割れた。
海水が吹き上がり、波が砕け散る。潮の匂いが一瞬で濃くなる。視界が白く染まる。
「来るでござる!」
ユキカゼが叫んだ。
白い飛沫の向こうから現れたのは、巨大な触手だった。
いや、触手だけじゃない。本体が見えた。
イカだ。
巨大なイカ。
大きすぎる。岩場が砂粒に見えるほど巨大だ。胴体だけでビル三棟分はある。触手が八本、海面から突き出して蠢いている。それぞれの触手が岩場を叩けば地面が揺れる。
「イカでござるか」
ユキカゼが呟く。狐耳が完全に伏せている。尻尾が逆立ったままだ。
「イカだな。だがデカすぎる」
俺は巨体を見上げた。
目が合った。巨大なイカの目玉が、俺たちを捉えている。視界の端から端まで埋め尽くされるほどの大きさだ。
「太郎。これは何」
絶花が刀の柄を握りしめた。声が震えている。だが刀は抜いていない。まだ判断していない。
「ジューランドの生物か」
「違うでござるよ」
ユキカゼが首を振った。
「ジューランドにこんなイカはいないでござる。海の守り手である鮫ジューマンの話にも出てこないサイズでござる」
「ジューランドにいない生物がなぜここに」
俺は眉をひそめた。
柚葉が前に出た。狸の尻尾を揺らしながら、巨体を見上げている。怯えている様子はない。むしろ興味津々だ。
「太郎。これ」
「何だ」
「知ってるよ。これ」
「知ってるのか」
「うん。人間界のネットで見た。伝説の海獣。クラーケン」
「クラーケン」
「北欧伝承に登場する巨大イカの海獣。船を呑み込むほどの大きさになるって。人間界の伝説だよ」
「人間界の伝説の生物が、なぜジューランドの海に」
柚葉は黙った。
絶花が呟いた。
「なぜここにいるの」
絶花の声は低かった。海風に消えそうなほど小さい声だ。
「人間界の伝説の生物がジューランドにいる理由。普通に考えてあり得ないよね」
「ああ。あり得ない」
俺は巨体を見上げた。
クラーケン。人間界の伝説の海獣。北欧の海域に出現するとされる巨大イカ。
その巨体が今、ジューランドの海から姿を現している。
(バングレイ)
名前が浮かんだ。
あいつだ。バングレイの能力。記憶を読み取り、記憶から存在を実体化させる能力。
コカビエルの時と同じだ。俺の記憶からコカビエルを実体化させた。あの時は冥界の屋敷で。
「太郎」
柚葉が俺を見た。
「バングレイでしょ」
「ああ。バングレイだ」
俺は頷いた。
「こいつは俺の記憶から実体化された。人間界の伝説。クラーケン。俺がどこかで聞いたか見た記憶から、バングレイが引き出したんだ」
「でも」
絶花が続ける。
「バングレイは冥界にいたはずでしょ。なんでジューランドの海に」
「分からない。だがメダルが海にあるのは事実だ。バングレイがメダルをここに集めている。その過程で俺の記憶から何かを実体化させた」
「メダルに実体化した存在を与えたってことか」
「そういうことだ。コカビエルの時と同じ。記憶から実体化させた存在にメダルを与え、巨大化させる」
俺は巨体を見た。
クラーケン。触手が八本。胴体が巨大。目玉が俺たちを睨んでいる。
コカビエルの時は空中戦だった。だが今回は海だ。海中の生物。地上の俺たちにとっては最悪の状況だ。
「太郎さん」
ユキカゼが俺の袖を引いた。
「どうするでござるか。海の中の敵は地上からでは手が届かないでござるよ」
「分かってる。だがやるしかない」
俺はチェンジャーに手を伸ばした。
「絶花。刀を構えろ」
「分かった」
絶花が刀を抜いた。抜刀の音が海風に響く。刀身が陽光を反射する。
「柚葉。下がれ」
「下がらないよ。情報係は前線にいるの」
「クラーケンの前線は死線だぞ」
「死線でもいいよ。太郎の戦いを見届けるの。家臣だから」
「家臣なら生き残れ」
「生き残るよ。狸はしぶといから」
柚葉がにやりと笑った。その笑みが、妙に頼もしく見えた。
クラーケンが咆哮した。
海が震える。触手が岩場を叩く。衝撃波が走る。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア