サムライガールの幼馴染みは王様を目指す(裏) 作:ボルメテウスさん
海底に横たわる巨大な影。キューブホエールだ。
あの夏に見た雄大な姿とはあまりにも違っていた。装甲の一部が砕け、全体が白濁している。まるで命そのものが薄れているような。
俺はジュウオウキングを近づけた。視力強化で細部を捉える。装甲の亀裂、色の濃淡。傷ついている。だが、生きている。
「…くれ」
不意に、低い音が届いた。
くれ、という音ではない。くれ、と聞こえたのは俺の気のせいか。いや違う。音そのものだ。キューブホエールが発している音。
「今の音…」
「聞こえたか太郎」ユキカゼが目を開く。
「キューブホエールで、音で感情を伝える」
鯨の歌。あの夏にも聞いた。だが今の音はあの時のものとは違う。あの夏は力強く、海全体を震わせるような声だった。今は…。
「…ぅ…ぅぅ…」
低く、長い音。震えている。
悲鳴だ。
胸が締め付けられた。あの巨体が、海底で一人、痛みに耐えている。俺は奥歯を噛む。
「柚葉、お前も聞こえるか」
「うん…」柚葉の耳がピクリと動く。「…悲しい音。すごく悲しい音だよ、あれ」
「何を伝えようとしてるんだ」
俺が呟いた瞬間、キューブホエールの音が変わった。低い震えから、やや高めの音へ。それが何度か繰り返される。そしてまた低い音に戻る。
「…探してる」
柚葉がぽつりと言った。
「探してる?」
「うん。あの音の高低の繰り返し。何かを探してる時の音に聞こえる。ラクーンの聴覚でも何を探してるかまでは分からないけど…でも必死なのは分かる」
バングレイ。
あいつがここに来た。キューブホエールに接触した。その後、キューブホエールは傷ついた。バングレイが何かを奪ったのか、あるいは引き出したのか。
「ユキカゼ。バングレイがここに来た時の痕跡は」
「残っている。だが大きく撹乱されている。バングレイは意図的に痕跡を消した。だが…」
「だが?」
「一方向だけ痕跡が残っている。バングレイがここからどこかへ向かった方向。それだけは消せなかったようだ」
ユキカゼが指し示した方向。その先にあるのは。
「別の世界…」
俺は呟く。バングレイは地球を経由して、こっちに来た。だがその前に、バングレイはキューブホエールから何かを得て、さらに別の場所へ向かった可能性がある。
「あの音…」柚葉が改めて口を開く。「何かを探してるって言ったけど、もしかしたらバングレイに奪われた何かを取り戻そうとしてるのかも」
「奪われた…」
奪われたもの。それが何なのか。俺には分からない。だがキューブホエールの悲鳴が、何か大切なものを失った鳴き声に聞こえた。
「追うぞ」
俺は決めた。
「バングレイがどこへ行ったか。痕跡が残ってるなら追える。リングキューブで行けるか」
「リングキューブで転移できる範囲なら可能だ。座標は…」ユキカゼが目を細める。「特定した。だが太郎、あの方向は…」
「どうした」
「…冥界の入口に近い。いや、冥界そのものかもしれない」
冥界。
ユキカゼがさっき言っていた場所。バングレイが冥界の巨獣を狙っているなら、辻褆が合う。バングレイはキューブホエールから情報を奪い、冥界へ向かった。
「行くしかねぇだろ」
俺は即答する。ユキカゼが少し呆れたように、柚葉がにやりと笑う。
「太郎、一つ言っておく」ユキカゼが真顔になった。「冥界はデスガリアンが執着した場所だ。危険度は高い」
「分かってる」
「それでも行くのか」
「ああ」
俺はキューブホエールを見下ろす。傷ついた巨体が、まだ低い音を響かせている。
「あいつが何を奪われたかは分からない。だが、取り返してやる。それが王のやることだろ」
「…王だから、という理由か」
「いや」俺は首を振る。「友達だからだ」
ユキカゼが少し目を開いた。柚葉がふふっと笑う。
「…そうだな。お前ならそう言うと思っていた」ユキカゼが小さく頷く。「よし、リングキューブを起動する。掴まってろ」
「にひひっ、冥界かぁ。お化け屋敷より怖いのかな」
「お前が一番怖いわ」
ツッコミを返しながら、俺はジュウオウキングをリングキューブの展開位置へと移動させる。キューブホエールの音が少しだけ変わった気がした。まだ悲しい音だが、何かを託すような。
聞こえてるんだな。俺の声が。
「待ってろよ。取り戻してくる」
俺はジュウオウキングを下に向け、軽く頭を下げる。鯨の歌が微かに響いた。
リングキューブが展開し、光がジュウオウキングを包み込む。世界の壁を超える感覚。胃が引っ張られるような浮遊感。
「転移開始」
光が弾け、海が消える。
女王は誰にする?
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アルファ
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ララ·サタリン·デビルーク
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エミリア