ようこそクズカスのヤリチン至上主義の教室へ 作:ホメロス
一之瀬帆波とのことは順調に……順調に?
まあ、ともかく関係は進み、それはそれとして体育祭当日を迎えた。
秋晴れの空の下、グラウンドには怒号に近い歓声が響き渡っている。
結論から言えば、俺――九頭春日のパフォーマンスは上々だった。
堕とした女もだいぶ増えたのもあり、ユニークスキル『ヤリチン』による補正、身体能力へのものは上々の仕上がりだ。
それに加えて「エローズ」で購入した特殊なドーピングアイテムも使用している。
高いポイントを払う必要があるが、一時的に能力を向上させるアイテムだ。
ゲームにはよくあるヤツ。
現実的に考えるとやばい薬な気がするが……まあ、その辺は今更だ。
ともかく、基礎能力の向上とドーピングアイテムの使用で障害物競走やら、選抜リレーで大活躍。
結果として、女子からの黄色い声援を一身に浴びることとなったわけだ。
「はぁ、はぁ……九頭くん、お疲れ様!」
「すごーい! あんなに速いなんて知らなかった!」
競技を終えて戻ってきた俺を、佐藤麻耶や松下千秋といった女子たちが出迎える。
その反応に悪くない好感度の稼ぎだな、と俺が内心で考えながら応対していると後ろから声をかけられた。
「九頭くん! 今の走り、凄かったね!」
弾むような声と共に駆け寄ってきたのは、Bクラスのリーダーであり、めでたく貢ぎマゾ化してしまった一之瀬だ。
いや、してしまったというか俺が貢ぎマゾ化させたんだが……自分でやっておいて何だけど、ヤバいことをしてしまった自覚はある。
そこら辺、まあ責任は取るとして――だ。
ハーフアップにしたピンクがかった髪が、走ってきた勢いでふわりと揺れる。
彼女は俺の目の前で止まると、輝くような笑顔を向けてきた。
「一之瀬か。見ててくれたのか?」
「うん! Aクラスのテントからずっと見てたよ。あのDクラスのアンカーを抜く瞬間なんて、鳥肌が立っちゃった」
一之瀬は興奮冷めやらぬ様子で、俺の顔を覗き込んでくる。
……近い。
本人は無意識なのだろうが、その距離感は明らかに今までの距離感ではなかった。
元から距離感の近い一之瀬だが、それでも他クラスの人間、しかも男子ともなればそれなりに距離感は保っていたはずなのだが……。
吐息がかかるほどの至近距離。汗ばんだ肌から漂う、甘酸っぱい制汗剤とフェロモンの香り。
まあ、ちょっと近づく程度――それ以上のことをやっている経験からすると大したことないとハードルが下がるのも仕方ないことなのかも知れないが。
「……一之瀬、ちょっと近いぞ。他の連中に変に勘違いされる」
「あ、ご、ごめん! つい嬉しくなっちゃって……」
俺が小声で指摘すると、一之瀬は慌てて半歩下がったが、その頬は朱に染まっている。
そんな彼女の無防備な態度は、当然ながら周囲の注目を集める。
特に、男子生徒たちの反応は劇薬だったようで。
「おい、あれ……一之瀬だよな? なんで九頭のやつなんかと……」
「あいつ、櫛田ちゃんとも仲いいくせに、一之瀬まで……ふざけんなよ」
(男子の嫉妬の視線が気持ちいい……)
面倒だな、と思う一方でこういうことを思う辺り、俺はクズだった。
背中に突き刺さる、殺意にも似た嫉妬の視線。
元Dクラスの男子だけでなく、元Bクラスや元Cクラスの連中からも、俺を敵視するどす黒いオーラが漂ってくる。
「それじゃ、午後の部も頑張ってね。私も応援してるから!」
一之瀬は最後に小さく手を振り、名残惜しそうに自クラスのテントへと戻っていった。
その背中を見送りながら、俺は思考を巡らせる。
(それにしても面倒だな。まあ、龍園のことだからやるだろうとは思ったけど、俺も含まれるとはな。須藤とかだけを狙っておけよ)
元から龍園率いる元Cクラスがまともに競技をするとは思っていなかった。
原作通りの妨害工作というかラフプレーというか、そういった手段を取ってくることは想定していたが須藤だけではなく、俺もターゲットに入っているのは予想外だった。実力的に須藤が狙われるのはわかるが、一応練習とかの時はそれなりに抑えていた俺まで狙われるのはわからない。
(男子の嫉妬か? 俺相手だとあんまり気に病む必要が無く、やれるっていうヤツも多いだろうし。それと女子に人気なのもあって、俺を潰せば動揺を引き出せると考えたとか?)
実際のところはわからない。
この策略自体は元Cクラスのスパイとも言える真鍋からの情報もあり、事前に知っていたのだが彼女のクラス内での地位――というか龍園からの信頼度は低いため、どういった意図でその策略が練られたかのプロセスが不明なのだ。
(まあ、気をつけていればどうと言うことはない。転ばしてこようとしたり、ぶつかろうとしたり。最初からやってくるのがわかっていれば問題は無い)
ただ、鬱陶しさがあるのも事実だった。
「……ふーん。意外とやるじゃない」
砂埃を払っていると、不意に横から声をかけられた。
振り返ると、伊吹が腕を組んで立っていた。
「伊吹ちゃんじゃん。見てたのか?」
「ちゃんって言うな。……アンタ、見かけによらず走れるのね。てっきり口先だけの男かと思ってたけど」
「ふっ、案外やる男なんだ俺って。どう? 惚れ直した?」
「まず、惚れてないんだけど?」
俺の言葉に伊吹はそう軽口を叩いた。
無人島試験での一件以降、彼女と俺は妙な距離感――知り合いというほど遠くもなく、友人と言うほどには近くもない独特の距離感を保っていた。
「伊吹ちゃんこそ、さっきの走りは見事だったよ」
「……ふん。お世辞はいいわよ」
伊吹は鼻を鳴らすと、周囲に誰もいないことを確認してから、ぼそりと付け加える。
「……あと、悪かったわね。うちのクラスのバカが、みっともない真似して」
「さっきの肘打ちのことを言っているのか? ……まあ、そう言ったこともあるだろうさ。スポーツだと」
「あれを単なる事故だと思ってると、痛い目見るわよ」
「どういうことだ?」
「さあ、ね。ただ……ちょっとやり方が気に食わないって話なだけよ」
言葉を濁してはいるが、さっきの競技中の龍園の指示によって行われたラフプレーのことを指しているのは明白だ。
(思ったよりも好感度を稼げているな。伊吹好みに運動ができることを示したのも効果があったか?)
伊吹は卑怯なことを嫌う人間ではあるが、それはそれとして善性の強い人間というわけでもない。
龍園のことは嫌いで、気に入らなかったとしてもわざわざ他クラスに注意を促すまではしないというか……まあ、そんな感じだ。
そんな彼女がこうやって直接的では無いにしろ注意を促してくるのは、伊吹の個人的な好感度がそれなりに高くなっている証拠だった。
「心配してくれたんだー? 伊吹ちゃん、やさしー」
「うざっ。……気をつけることね。じゃあ」
俺の言葉に伊吹はそれだけ言い捨てると、プイと顔を背けて自分のクラスのテントへ戻っていった。
その背中を見送りながら、この後の時間をどうするか悩んだ。
これから休憩時間に入るのだが、どうするべきか。
普通に女の子を引っかけて一緒に雑談交じりに昼食を取って好感度を稼ぐのが、ベターだとは思うのだが……。
(ムラムラしてきたな……)
競技のせいで少し汗ばんだジャージ姿の女子の姿がエロかったのもあるし、競技の最中に妙な妨害をかけられてちょっとストレスが溜っていたのもあった。
(というかどう考えてもこれ出走がバレてるよな? 志保の話的にも流失しているのは確定。原作だと桔梗だったけど、今の桔梗には理由が無い。俺のことが妙に狙われているのも加味すると……)
怪しいのは元Dクラスの男子だろう。
思い当たる節は正直とてもあるし。
だからといって、ムカつかないかと言われるとそれは別の話で。
俺は周囲を見回した。
櫛田はクラスの中心で愛想を振りまいているし、小野寺にはこの後の競技でも頑張って貰う予定で無理はさせられない。
(となると……)
俺は誰にも気づかれないよう、スマホを取り出し、短くメッセージを打つ。
送信し、視線を送ると視線の先の女子生徒――佐倉が、ビクリと肩を震わせ、次の瞬間には顔を林檎のように赤く染めたのだった。
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体育祭の喧騒から離れた校舎の裏手。
そこには普段は使われることのない少し古びた用具倉庫がある。
ひんやりとした空間。
埃とカビ、そして古いマットのゴム臭さが鼻を突く。
「……来たか」
足音が近づき、錆びついたドアノブがゆっくりと回される。
キィ、という古びた蝶番の音と共に、重たい鉄の扉が僅かに開いた。
そこからおずおずと顔を覗かせたのは、指定のジャージに身を包んだ佐倉だった。
「……か、春日くん……?」
薄暗い倉庫の中、俺の姿を見つけると、彼女は安堵したように息を吐き、素早く中に入って扉を閉めた。
「悪いな、呼び出して」
「う、ううん……全然。……それに、その……春日くんに呼ばれて、嬉しかった、から……」
消え入りそうな声で言いながら、彼女は頬を赤らめて俯く。
佐倉は自分の身体のラインが出るのを嫌って、少し大きめのサイズのジャージを着ている。
だが、そのブカブカの上着は、逆に彼女の豊満な胸部の隆起を強調し、エロティシズムを放っていた。
その額にはうっすらと汗が滲み、前髪が肌に張り付いている。
運動後の上気した肌。少し速い呼吸。
清潔なエアコンの効いた教室では決して味わえない、「生々しい」雌の気配がそこにあった。
「ここに来いよ」
俺は自らの膝をポンと叩いて彼女を招いた。
佐倉は一瞬だけ躊躇いを見せたが、彼女はおずおずと近づき、そして俺の膝の上に、その柔らかな臀部を預けた。
ムニュ、と彼女の肉感が俺の太腿に押し付けられる。
「ひゃうっ……!」
重なる体温。
ジャージの布地越しでも伝わる、彼女の柔らかな肉感と、少し高めの体温。
俺は彼女の腰に腕を回し、その豊満な身体を抱きしめるようにして密着させた。
「……あ、あの、春日くん……私、その……汗かいてて、臭いかも……」
佐倉が身を縮こまらせ、申し訳なさそうに呟く。
だが、分かっていない。
俺はその首筋に顔を埋め、わざとらしく深く息を吸い込んだ。
「ん……いい匂いだ」
「っ!? 春日くん……!? 汗臭くて……!」
「全然嫌な臭いじゃないぞ。俺には少し甘くも感じるぐらいだ」
嘘ではない。
少女特有の甘い体臭に、運動による塩気を含んだ汗の香りが混ざり合い、強烈なフェロモンとなって俺の脳髄を刺激する感覚。
俺は舌先を伸ばし、彼女の首筋、そして髪の生え際をじゅるりと舐め上げた。
「ひゃうぅっ!? んあ、っ……!」
佐倉は身体を跳ねさせた。
俺はさらに執拗に、彼女の耳の裏側、そしてうなじの部分をねっとりと舌で味わった。
「ちゅぷ、れろ……っ、ん、しょっぱいな。……でも、美味い」
「あ、うぅ……そ、そんな……! み、耳ぃ、らめぇ……恥ずかしい、ですぅ……!」
恥じらいに染まる彼女の表情は、サディスティックな征服欲をこれ以上ないほどに煽ってくる。
俺は彼女のジャージの裾から手を滑り込ませた。
指先が触れたのは、しっとりと湿り気を帯びた滑らかな肌の感触。
熱い。
まるで熱を持っているかのような素肌を這い上がるとブラの布地へと辿り着く。
「ぁ、ん……ぅ♡」
俺の指が胸の谷間をなぞると、佐倉は嬌声を漏らして身をよじった。
だが、逃げるわけではない。
むしろ、俺の手のひらに自分の胸を押し付けるようにして、快楽を求めてくる。
すでに彼女の身体は、俺の手によって開発され尽くしている証拠だった。
「愛里。……俺さ、溜まってるんだ」
俺は彼女の耳元で、低く甘い声で囁く。
同時に、下半身の熱を彼女の臀部に押し付ける。
硬く脈打つ俺のモノの形を感じ取り、佐倉の身体が強張る。
「か、春日くんの……おっきい……」
「お前のせいだぞ? さっきの競技中、ずっとお前の揺れる胸を見てたからな」
「そ、そんな……私のせい、なの……?」
彼女は熱っぽい視線を俺に向けてくる。
「……それなら、その……スッキリさせるお手伝いを……」
「ああ。頼むよ、愛里」
俺はそう言って恥ずかしそうにそう言った彼女の頭を優しく撫でた。
そして、ジャージのズボンを下ろし、昂りきったモノを解放する。
薄暗い倉庫の中に、男の臭いが立ち込めた。
佐倉は俺の昂ぶったペニスを見て、一瞬だけ息を呑んだが、すぐに慈愛に満ちた表情で頬を寄せた。
「春日くんの……匂い……」
彼女は俺のモノに愛おしそうにキスを落とすと、その小さな唇を開き、先端をゆっくりと含んだ。
「んむ……っ、じゅ……」
温かく、湿った口腔の感触。
一生懸命な舌使いが、俺の神経を直接撫で上げる。
彼女は上目遣いで俺を見上げながら、懸命に頭を動かす。
その瞳には、俺への絶対的な服従と、尽くすことへの喜びが宿っていた。
「いいぞ、愛里。もっと深く……そう、喉を使って」
「んぐっ……んぅ、ふぅ……っ!」
じゅる♡ じゅぽ……っ♡
俺の言葉に従い、彼女は苦しげに眉を寄せながらも、喉奥まで俺を受け入れていく。
唾液と粘膜が絡み合う卑猥な音が、静かな倉庫に響き渡る。
「くっ、はぁ……っ! いいぞ、そのままだ……!」
俺は佐倉の後頭部を鷲掴みにすると、本能のままに腰を突き上げた。
ずぽっ♡ ぐちゅっ♡ じゅぼぼぼっ!♡
狭い喉奥を無理やり抉じ開けるような暴虐的なピストン。
だが、佐倉はそれを拒絶するどころか、熱を持った喉で俺の亀頭をねっとりと吸い付くように締め付けてくる。
「んぐっ、ぉっ……!♡ んっ、んぐぅ……ッ!♡」
涙目で咽せながらも、彼女は懸命に舌を絡ませ、俺の逸物を根元まで飲み込んでいく。
柔らかい唇、絡みつく舌、そして温かく湿った食道の圧迫感。
それら全てが渾然一体となって、俺の敏感な部分を激しく擦り上げる。
頭の中が真っ白になるほどの快感。
「っ……いくぞ、愛里。全部飲んでくれ」
「んっ! んむぅ……っ!」
俺の合図に、佐倉は強く吸い付くことで応えた。
欲望の奔流が、彼女の喉へと解き放たれる。
どびゅるるるるっ!♡♡
彼女は一滴も漏らすまいと喉を鳴らし、俺の全てを受け止めた。
「んぐっ、んっ♡ んむっ……♡ っ、ぷは……ぁ♡ えへへ……ごちそうさまでした……♡」
事後、口元を拭い、恍惚とした表情で俺を見上げる佐倉の頭を、俺は優しく撫でてやった。
「いい子だ。……最高の気分だったぜ」
「えへへ……よかったぁ。春日くんのお役に立てて、嬉しい……」
彼女は心底嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔は、まさにアイドルのように清らかで――そしてとても淫らだった。
「先に戻っててくれ。俺は少し休んでから行く」
「うん。……また後でね、春日くん」
佐倉はジャージを整え、名残惜しそうに倉庫を出て行った。
一人残された俺は、賢者タイム特有の冷静さで、息を吐く。
これでストレスは多少改善した。
体育祭の残りも問題なく、過ごせるだろう。
「それにしても愛里……もう、そろそろいいかもな」
身なりを整えながらそんなことを呟く。
なんだかんだ、手を出してからそれなりの時間も経っているのに、佐倉は未だに処女だった。
別にそそられないとかそういう理由じゃなく、従順に懐いてくるペットみたいで性欲の解消よりも精神的な満足度が勝って、なんとなく機会を逸してタイミングを探っているというか。
グラウンドへ戻る足取りは軽く、そんなことを考えその場を後にした俺は――とある事実に気付くことはなかった。
そして、体育祭は終わった。
結果から言えばクラス対抗戦は俺達と一之瀬のクラスの組が勝利した。
そのため、敗者である葛城と龍園のクラスは-100CP。
順位としては体育会系が多かった龍園クラスが一位を取り、+50CPで二位が俺達のクラス、三位が一之瀬クラスで-50CP、葛城クラスが四位で-100CP。
つまりはこうなる。
Aクラス[一之瀬]:1003-50(合計)=953
Bクラス[葛城]:924-200(合計)=724
Cクラス[櫛田]:617±0(合計)=617
Dクラス[龍園]:252-50(合計)=202
順位自体に変動はないが、葛城クラスがまあ酷いことになった。
(龍園クラスはそれなりに運動系のやつが居たので得点は稼げたが、葛城クラスは全体的に体育会系が少ないから……クラス内も派閥争いでまとまりないし。そして、何より――)
葛城クラスとして痛かったのは女子の中で大きな戦力になったはずの神室の不調だ。
(正直、すまんかった。最近、一之瀬ばかりに手を出していたから真澄のやつがな……。しかも、なんか一之瀬とのプレイを聞いて貢ぎプレイをしたいとか言い出すし)
エローズでの収益で十分なプライベートポイントを持っている俺が定期的にこっちから渡しているので、単に返ってきているだけだ。
ただ、なんだろうな。
金銭を渡してでも神室みたいな美女がセックスを強請ってくる行為、シチュエーションというのは……うん。
正直、ちょっと……いや、だいぶ滾った。
それは神室も同じみたいでいつもと違う興奮の仕方をしていたし。
そんな感じでちょっと体育祭前日にやりすぎた結果、当日の今日は不調になってしまったのだ。
(あのプレイダメだわ……。興奮はするけど真澄まで貢ぎマゾになられるのは困る。いや、単体ならアリだけどもう一之瀬居るし……)
貢ぎマゾが二人以上いると勝手に競い合ってヤバいことになるのでやめよう。
まあ、そんなこんなで俺達のクラスはマイナスはないけどプラスの変動も無しという決着になったというわけだ。
俺個人としては女子からの評価を盤石にしたし、佐倉とこっそり情事も楽しめたから悪くはなかったイベントだった。
夕暮れ時の教室で、軽いホームルームを終えた生徒たちが三々五々と解散していく。
そんな中、俺もまた心地よい疲労感と共に鞄を手に取り、廊下に出た。
そんな時だった。
「九頭くん」
昇降口へ向かおうとしたその時、背後から声をかけられた。
振り返ると、そこに立っていたのは長谷部波瑠加だった。
彼女はいつものクールな表情を崩していないが、その瞳にはどこか硬い光が宿っている。
「長谷部か。お疲れー、どうした?」
俺が普段通りに声をかけると、彼女は周囲を一度見回してから、低い声で告げた。
「……ちょっと、付き合って。話があるの」
「話? 今からか?」
「ええ。……大事な話。ここじゃできないから」
「へー、愛の告白?」
「……いいから来て」
拒否権はないと言わんばかりの圧力。
普段、群れることを嫌う彼女が、わざわざ俺を呼び止めるなど珍しい。
一瞬、疑問符が浮かんだが長谷部はまだ手を伸ばしていない相手。
切っ掛けにするにはいい機会か、と思い直した。
「分かった。いいぜ」
俺は気楽に頷き、彼女の後についていく。
長谷部は無言のまま、生徒たちの喧騒から離れるように校舎裏へと足を進めた。
その背中を見ながら、俺は値踏みをする。
制服越しでも分かる、佐倉に引けを取らない豊満な胸部の隆起。そして、クールな雰囲気を纏った美貌。
長谷部の情報はあまり多くない。
精々、原作通り佐倉と仲が良くなって親友となっているぐらいで、それ以外に特に目立った行動はなかったはずだ。
(こうして呼び出される理由が思いつかないな……)
校舎の影が濃く落ちる、焼却炉近くの死角。
そこまで来てようやく、長谷部は足を止めて振り返った。
夕日が逆光となり、彼女の表情を暗く染め上げている。
だが、その瞳だけが、獲物を射抜くような鋭い光を放っていた。
(……これ、なんかやらかしたか?)
「……ここなら、誰も来ないわね」
「随分と慎重だな。で、大事な話って?」
とりあえず、キャラを守って俺がヘラヘラと笑ってみせると、長谷部は嫌悪感を隠そうともせずに眉を顰めた。
おかしい。
それなりにクラス内の好感度は気にしていい感じにあげていたはずだが。
長谷部は一度深呼吸をして、それから震える唇を開いた。
「単刀直入に言うわ。……あんた、愛里に何したの?」
「は? 何したって……どういう意味だ?」
「とぼけないで!!」
長谷部が声を荒らげた。
普段の冷静な彼女からは想像もつかない激昂ぶりだ。
彼女は一歩踏み出し、俺を睨みつける。
「私、見たのよ。……昼休みの、用具倉庫」
「――――」
その言葉に、俺の思考が一瞬だけ停止し――即座に再起動した。
(やっべ、やらかした……)
正直最近、色々とうまく行きすぎていたのもあって油断していた。
だからこそ、突発的に軽い気持ちで佐倉に抜いて貰おうなんて発想に至ってしまった。
それでも注意を払っていたつもりだったが――
(まさか目撃されていたなんて……)
「あー……見たって、何をだ?」
「あんたが……愛里を、無理やり犯してるところよ!」
長谷部の瞳から、悔し涙が滲む。
彼女は拳を握りしめ、吐き捨てるように続けた。
「ドアの隙間から見えたわ。愛里、泣いてたじゃない……! あんなに嫌がってるのに、あんたは無理やり……ッ! 愛里の弱みを握って脅したんでしょ!? じゃなきゃ、あの子があんなことするわけない!」
(……なるほど。そういうことか)
彼女は決定的なシーンを目撃していた。
だが、その解釈には致命的なズレがある。
佐倉が流していたのは快楽と悦びの涙であり、あの行為は彼女自身が望んだ奉仕。
だが、長谷部の目には、それが「親友が泣きながら凌辱されている」光景に映っていたのだろう。
まあ、誤解されても仕方ないとは思う。
「最低……本当に最低よ、あんた。そんなやつだとは思わなかった」
長谷部は軽蔑の眼差しを俺に向け、最後の通告を突きつける。
「もう二度と、愛里には近づかないで。これ以上あの子に手を出したら……私、全部学校に報告するから。あんたがやったこと、全部ぶちまけてやるんだから!」
彼女は俺にそう宣言したのだった。