遠坂凛は死んだ魚のような目で校門をくぐった。
目の下には、くっきりとした隈。
制服はきちんとしているのに、どこか歩き方がふらついている。
その足取りには、明確な寝てない人のリズムが刻まれていた。
(……なんで寝れないのよ……)
昨晩、何度寝返りを打っても、
枕を抱いても、羊を数えても、膣の奥がふにゃっと疼いて――
(……っ!! ちがっ、ちがう、考えるなっ! 馬鹿! 私の馬鹿!!)
登校一発目。ブツブツ呟きながら靴箱に近づくと、凛の歩みが止まった。
なぜなら、そこに立っていたのが、間桐慎二、あのワカメだったからだ。
しかも仁王立ち。
「……どいて。殺すわよ」
凛の声に温度はなかった。
それは呪詛の詠唱と変わらない。魔術師の怒気は時に物理法則さえ捻じ曲げる。
「ちょ、待てって! 昨日はありがとな、遠坂!」
慎二の声はどこまでも軽い。
軽薄という言葉を人の形にしたら、たぶんこういう音になるのだろう。
「……一歩でも近づいたらその股間にガンドぶちこむわよ」
呪文はすでに口の中で形成されていた。右手が、詠唱の形を描きかけていた。
それを押しとどめたのは――
「なぁ、わかるよ。初めてのが俺なんて、運命感じるよな?」
――言葉じゃなかった。もはや暴力だった。
次の瞬間、音が空気を切り裂く。
返事より早く、凛の右手が慎二の頬に炸裂した。
それは精緻な構築魔術よりも速く、正確で、そして容赦がなかった。
「……ちょ、いてっ……! なにすんだよ!」
「お前が喋ったからだ!!!」
怒声の余韻に、ほんの一瞬だけ、下駄箱エリアが静まり返った。
だが稟には分かっていた。
自分の声が震えていたのは、怒りだけじゃない。
羞恥と混乱と、そして昨日、あの行為の最中に見せた、わずかな快楽の名残。
そのすべてが、今朝の彼女を揺らがせている。
慎二はというと、頬をさすりながらつぶやいた。
「強がりは止せよ。……ぶっちゃけ、今日もいけそうだよな。遠坂、昨日はいい反応してたし……」
「どこのラブコメよそれ。しかも私、記憶から削除済みだから」
すでに脳内では慎二の記憶領域を焼却炉に放り込んだ凛。
だが本人はそれに気づかず、あろうことか身を乗り出してきた。
「何だその目つき。なあ、毎日は無理でもさ、せめて火・木・土くらいは定期的にさ……ほら、排泄みたいなもんだし?」
「せめて健康管理って言い換えろや変態」
「そうそう。理解したか。じゃあ姉妹当番制ってのは?」
その顔は、ただ抜かれる快感に酔う男のそれだった。
「今この場で私に貴方をぶん殴らせてくれるなら、ギリギリ許す」
──ああ、バカだ。何でこんなのに情けをかけたんだ、私は。
もう一発いきそうな勢いで拳を振りかぶったところ、後ろからきた桜が、涼しい顔で間に入った。
「……あ、桜ー! ちょっと、来ちゃダメ! 今ここ、疫病神ゾーンだから!」
「えっ、兄さんの体調が悪いって聞いて……!」
そして、桜は言う。
「……兄さん、体調はいかがですか? 今朝も、あの症状……?」
「ああ。ぶっちゃけもう、パンッパン。張りすぎて痛ぇ。下手すりゃ破裂する」
桜は、ポーチの中身、――冷却ジェルと清拭用タオル、口腔ケアアイテム――を確認しながら言った。
「分かりました。では姉さん、今日の処置について、相談しましょうね。昼休みの処置は姉さん。放課後は私が担当でどうでしょう」
それは、まるで当たり前の業務分担のようだった。
でもそれは、日常に侵食した異常の最たるもので。静かに、でも確実に準備を進めていく。
「やる気満々過ぎいぃぃぃ!!」
稟の叫びは、もはや悲鳴に近かった。
凛はずるりと目元を押さえた。
間違いない。この学校の生徒のIQ平均を下げているのは間桐家の兄妹だ。
「おー、じゃあ今日は姉妹で介護プレイってことで。俺、精も魂もぶちまける覚悟できてるからさ」
「死んでしまえ」
凛はすでに三回くらいこのセリフを言った気がした。
その横で桜は鞄から小さなスケジュール帳を開いている。
「……あの、姉さん。私、月・水・金は部活で遅くなるんですけど、火・木・土は空いてます。姉さん、日曜ご都合どうですか?」
「勝手に当番制組むな!」
「じゃあ、週ごと交代でも……?」
「選択肢がどっちが介護するかしかないのやめて!!」
そのとき、慎二がふっと遠くを見るような目になって言った。
「桜って、ちゃんと術後のケアまでしてくれるんだよな……冷やしタオルとか、飴とか」
「それ、医療じゃなくて性病後の話じゃないの?」
結局――
その日の終わりには、凛はスケジュール帳を手渡され、月・木・日が姉当番として記されていた。
戦いではない。敗北だ。完膚なきまでの論理崩壊。
「……で、でも……お互い……変なとこで死なれたら困るし……」
稟がそう言いうと、桜も続ける。
「姉さんも……嫌ですよね、職員室とか……トイレとかで死なれるの」
姉妹は、互いにしょうがないという空気で同意し、
慎二はにこにこしながら「じゃあ教室に帰ろうか!」と満面の笑みで手を振っていた。
この物語に、英雄はいない。
あるのは、ただひたすらに射精しないと死ぬ男と、なぜかそのスケジュール管理を始めた姉妹だけである。
心の叫びを押し殺して、凛は踵を鳴らしながら教室へ向かった。
この呪いは、抜かねば死ぬ。そして姉妹はそれを管理することを選んだ。
魔術の世に生きる者が抱えるには、あまりに現実的すぎる依存と奉仕の話。
――こうして放課後には、また二人に抜かれる準備を整えていた。
遠坂凛の朝は、2年A組の教室から始まる。
スカートの皺を整え、椅子を静かに引く。ギィという音が妙に大きく響いた。ノートを取り出す。筆記用具は整然と並ぶ。ふう、と一息。額を指で押さえて、形だけの深呼吸をする。
――よし、今日も私は完璧。
そんな独り言すら脳内でしか再生されない。誰にも聞かせないからこそ言える強がりだ。
窓の外ではいつもの景色。グラウンドの端の桜はまだ蕾だ。けれどその枝の先端には、ほんのわずかに色づいた兆しがあった。
変わらない風景。でも、それでも季節は巡っている。
自身はといえば、巡るどころか、一歩も進んでいない気がする。
魔術師であること。遠坂家の当主であること。
それを背負って、今日も凛は優等生でいなければならない。
教科書を開く。目は文字を追っている。でも、意識は別のところにある。
もし、誰も見ていなかったら。
もし、誰も期待していなかったら。
凛は、もっと違う自分でいられただろうか。
机に頬杖をつく。窓から差し込む光が、手の甲を白く染めていく。
爪はきちんと磨いてある。指先に力を入れると、かすかに関節が軋む。
この身体は、まだ戦える。
けれどこの心は、何と戦っているのだろう。
チャイムが鳴った。
日常が始まる。仮面をかぶる時間だ。
遠坂凛は、何事もなかったかのように、すっと背筋を伸ばす。
そして今日もまた、完璧な遠坂凛を演じる。
夕暮れ時の校舎裏は、音が溜まる場所だった。
水の流れも、鳥の羽音も、通り過ぎる風さえも、すべてがこの狭い一角にとどまり、静寂を濃くする。
その一角に、三人の影があった。
遠坂凛。間桐慎二。そして間桐桜。
――処置を行うには、ここが最適だった。
「やっべー、また来た。ぶっちゃけ今朝から張りっぱなしでさあ。死ぬかもしれない」
張り詰めた下半身。ズボンの布地越しでも、その膨張具合は尋常ではなかった。
「さっさと成仏しろ」
ばっさり。ためらいなし。
が、慎二は全然こたえていない。むしろ誇らしげに大きな根っこを取り出す。
その瞬間、空気の質が変わった。
そこに現れた慎二の大きな根っこは、まるで魔術的圧力を帯びた魔石のように赤黒く、膨れ、うねり、脈打っていた。
「遠坂、もうヤバい……張りすぎて、ちょっと動くだけで爆発しそう……」
「はぁ……なんで私が、こんな抜かないと死ぬ呪いの管理任されてんのよ……」
凛は観念したようにため息をついた。
「……じゃ、始めるわよ。時間もないし、ちゃっちゃと終わらせるから」
そう言って凛はスカートの裾をひるがえし、しゃがみ込んだ。
その動きに、慎二の呼吸が浅くなるのが分かる。
桜は冷静だった。ポーチからタオルと消毒液、潤滑用のジェルを取り出す。
必要なのは感情ではない。手順と管理、衛生と安全。それが当番制を維持する最低限の条件だった。
凛の吐息が震える。
それは恐怖ではない。羞恥でもない。
いや、そのどちらでもあるが――もっと根深い、現実の異常が、日常になっていくことへの困惑だった。
凛の指先が、透明なジェルをすくい取り、
慎二の大きな根っこをそっと包み込む。
慎二の全身が震え、背筋が反る。
唇が勝手に笑みに歪むのが、桜の視界に入った。
その顔を桜は見なかった。
凛が顔を近づける。
唇が、大きな根っこの先端に触れる。その瞬間、介護が始まった。
舌が尿道の縦溝をなぞり、唇がゆっくりと先端を吸い込む。
慎二は呻いた。
桜の手が、タマタマをやさしく包み、体温を調整するように掌を添える。
口と指。吸引と支え。
姉妹による連携は、最初の処置とは思えないほど滑らかだった。
慎二の下腹が跳ねる。
白濁が、遠坂凛の喉奥へと奔流のように押し寄せる。
それを、凛は喉を鳴らして飲み干した。
桜はタオルを差し出し、慎二の呼吸が整うまで、お袋さんの収縮を支え続けた。
ワカメの大きな根っこはまだ衰えていなかった。
の壁に背を預け、ズボンと下着を膝まで下げぼろんと出したその姿は、一言で言えば――発情した獣。
そして、その獣を前に跪くのが二人の少女だった。
遠坂凛と、間桐桜。
「ちょっと……まだやるの……」
凛の声は呆れ混じりだが、目元は微かに赤い。
羞恥か、怒気か、それとも別の何かか。桜には読み取れなかった。
「おう……優しく頼むわ……」
桜はしゃがみ込む。そのまま、指先を慎重に大きな根っこへと添える――
――ぬちゅ。
湿っている。熱がある。ぴくりと跳ねた。
これは呪いではない。純粋な肉体反応だ。
(……兄さん、これ……)
桜は、無意識に喉を鳴らした。
そうして――その瞬間だった。
慎二の手が、動いた。
「なっ……!」
凛のスカートの奥に、すっと指先が滑り込む。
太腿の間に差し込まれたその指は、ためらいもなく下着をずらし――ぬちゅり、と音を立てて膣口へ侵入していく。
「ば、バカッ!! 抜かれてる最中に……何入れてんのよっ!」
怒声。だが腰が引けていない。
むしろ、逆に押し返すように太腿が慎二の手を挟み込んでいる。
「だってさ……感じてるんだろ? どうせ今日も」
その言葉に、凛は言葉を詰まらせた。
反論が遅れた。その一瞬の沈黙が、何よりも雄弁だった。
一方、桜のスカートの裾も――すでにめくられていた。
「兄さん……っ、ちょ、だめ……今は処置が……っ」
「でも、お前も濡れてるだろ? ほら……」
慎二の指が、桜の下腹部に触れる。
そのまま下着の中に潜り込み、割れ目の奥へと――ずぷりと音を立てて、第二関節まで沈んでいく。
「……っ、や、兄さん……それ、奥……っ!」
桜の太腿が跳ねる。指が膣内をなぞりながら、柔らかな肉を押し広げていく。
「ふふ……ふたりとも……すごく、よく締まるなぁ」
「だっ……誰がそんな反応してるってのよ……っ、んっ!」
慎二の両手は、まるで計測器のように正確だった。
角度、深さ、圧力。姉妹の反応を一つ一つ観察しながら、最も効率のいい愛撫の形を選択していく。
「こっちはもう中がうねってるし……お前も、ほら、吸い付きすぎだろ……」
口で奉仕を続ける凛の頬が、熱く紅潮する。
唇の奥で慎二の先端がびくびくと震えるたび、同時に膣内を探る指先が姉妹の内壁をなぞっていく。
ぬちゅ、ぐちゅ、じゅぷ――
湿り気と粘度を伴った音が、倉庫裏の狭い空間に反響する。
「やっば……ふたり同時って……マジで……死ぬ……っ」
「死んでもいいから黙れええええええ!!!」
凛の叫びは、ほとんど自棄だった。
けれどその口は、まだ離れない。
桜の指も、慎二の根元から離れない。
そして、ついに――
「く、来るっ……また出るっ……!」
「っ、ん……!」
凛の喉奥に、熱が弾ける。
桜の手が竿を支え、飛び散りを防ぎながら根元をしごく。
どく、どく、と白濁が唇を濡らし、喉へと滑り落ちていく。
そしてその瞬間――慎二の指が、さらに奥へと差し込まれた。
凛と桜、同時に太腿を震わせる。
それは射精の余韻に合わせて膣内が収縮したせいなのか、それとも――彼女たち自身の、素の反応だったのか答えは出ない。
誰も、それを口にしない。
ただ、膣の奥に残る指の感触だけが、事実としてそこにあった。
介護の処置は完了した。
だが、何かが残っていた。
それは、凛の唇に。桜の指先に。
そして慎二の、鈍く満ち足りた笑みに。
「ふ……はあ……えがった。マジで……生き返った……」
その言葉に、凛はついに立ち上がった。
「……次、忘れたら、殺すからね。今度こそ、ほんとに」
「はいはい、当番制な。スケジュール帳、桜がちゃんと管理してるから」
空は茜色だった。桜は鞄から小さな手帳を取り出して、淡々とメモした。
それは呪いの記録であり、姉妹が常識を手放していく手帳でもあった。
夕焼けの中、誰にも知られないところで、姉妹は一線を越えた。