※この作品はR-18です。

深見さん家の ふたりごと   作:霧里

14 / 23
ごちそうさまのあとで

 

 

ごちそうさまでした。

 

昼休み。

 

美優と奏汰。二人と一緒に声を揃えたひよりは、ほっと息を吐く。

 

なんだか変な感じだ。

 

言いたいことは全部言ってしまえ。そう、思ってた。

これで最後だからって、勢いで告白までして。明日からの あたし達は、ただのクラスメイト。トラウマを思い出に変えてしまえば、もう積極的に関わる理由もない。これ以上、あたしが二人の邪魔をしてはいけないと思えば尚更だった。

 

「ひよりちゃん、一緒に食べる?」

 

美優に誘われた時、少し驚いた。

 

まさか、彼女から誘ってくるなんて思わなかったし。なにより、誘われて嬉しい自分を見つけてしまう。「だって、ずっとこっち見てるんだもん」微笑む美優に、素直になれない。

 

そうだったかな? 自分ですら自覚がないんだ。

 

「奏汰もいいよね?」

 

美優に手を引かれるまま、奏汰の前に立たされる。

まぁ、そうだよね。ちょっと困った顔くらいはする。あたしだって、きっと同じ顔をしているはずだ。でも、それだけ。この間みたいに、彼は逃げ出すことはなくて、あたしの分の席まで用意してくれた。

 

親友っていうのかな。

 

美優に尋ねる勇気は出ない。

 

あたしの全部を知ってくれてる唯一人の女の子。

甘えたくもなるし、実際に甘えてしまった。もっと彼女と仲良くなりたい反面、距離の縮め方が分からない。適当な人付き合いならこなせるのに、面と向かうと、やっぱり。

 

食事が7で、会話が3。

 

小さく口を開けて、サンドイッチを齧る美優。あんまり早く食べ終わらないように、奏汰も自然と、彼女のペースに合わせて食べ進めている。たまの会話だって、誰かの悪口が飛び出すこともない。一緒に席を囲んでいる あたしにとっても、居心地の良い場所だった。

 

レースゲームの話を始めたのは、ちょっと意外だったけど。

「私、結構上手いんだよ?」普段、控えめな美優が、少しだけ得意げになる。

今度三人でやろうねって、遊ぶ約束までしてしまった。

 

ゆっくりとした昼食の時間を終えて、少し気が緩む。

 

「ね、二人はさ? デートとか何処行ってんの?」

 

単純な疑問。大人しい二人が、繁華街を練り歩いてるのを想像できなくて。

今の時期だと、プールとか良いんじゃないか。新しいアトラクションがオープンしたとかCMでもやっていたし、正直あたしも行ってみたい。

 

「デート……?」「デート……?」

 

けれど、口を揃えた二人は、一緒になって首を傾けてしまう。

あんまりイメージも出来てないようだ。この調子じゃ、二人でお出かけしているのかどうかも怪しく見える。

 

「いやいや……。奏汰? 少しくらい、どっか遊びに連れてってやりなよ?」

 

分かってる。ただのお節介だ。

二人がそれでいいなら、口を挟むことではないけれど、いつもの調子でつい。

 

「どこかって。美優、何処か行きたい所ある?」

「ううん。あ、でも……」

 

口ごもった美優は、少し はにかみながらも。

 

「お買い物、ちょっと付き合ってほしいかな? 今度の……その、さ? お弁当の……。奏汰の好きなの教えて?」

 

照れと照れ。向かい合った二人は、どこかくすぐったそうに頬を染める。

 

仲いいんだ。

 

こんなところでも、見せつけられてしまう。

 

きっと美優にとっては、奏汰が一緒ならどこでも満足なんだろうな。

ちょっとその辺のスーパーに立ち寄るのだって、二人にとってはデートなんだ。

 

嫉妬じゃないな。ヤキモチなものか。羨ましいとは思うけど、まあ、それだけ。

幸せのお裾分け。二人を見ていると、あたしの方まで穏やかな気持ちになる。

なるんだけれど。見ているこっちが恥ずかしくなって、見てられない。

 

でも、思いついてしまった。

 

「ねぇ? みゅー、奏汰」

 

甘くなった空気を払うように、ピンっと人差し指を立てる。

 

美優にお礼ができて、奏汰へのお詫びにもなる。二人と親交を深められるなら、あたしにとっても良い機会。

 

「今度、三人でプールにいかない?」

 

 

***

 

その日の夜。

 

母親と二人。夕食の後片付けも終えた後、美優は遠慮がちに話を切り出した。

 

「ねぇ、お母さん。お願いが……あるんだけど?」

 

この子にしては珍しい。でも、ないか。

ここ最近だと、お弁当を作ってあげたいとか言われたっけ?

 

「なぁに、美優ちゃん?」

 

今度はデート代でも せがまれるんだろうか?

内心のニヤつきを抑えながら、娘に振り返る。

 

「えっと……その、ね?」

 

言いづらそうに、もじもじと。指を組んだり、離してみたり。よっぽど気恥ずかしいのだろうか。美優の頬は、すっかりと真っ赤になってしまっていた。

 

「……水着」

 

なるほど、そうきたか。

 

ややあって、口を開いた美優は、ようやくそれだけを伝えてくれる。

 

「前のは、入らなくなっちゃったの?」

「ううん、そうじゃないけど。前のでも良いんだけど。でも、あのね? 今度、友達とプールに行こうって話になって。それで、その……。水着も一緒に買いに行こうよって、誘われてて……だから」

 

可愛い。

 

「友達と」と、前置きをしているところが特に。

 

甘やかしたくもなる。あまり学校の話をしなかった娘が、最近はお弁当を作っていくようにもなって。今度は、友達の話ときた。ダメとは言わない。

けれど、聞いておかなきゃいけないことはある。

 

「誰と行くの?」

「……ひよりちゃんって、女の子」

 

少し意外。

 

適当な言い訳かと思っていたのに、友達と水着を買いに行くと言う部分は本当の話らしかった。でも、違う。意図的に何かを隠しているような気配がある。

ちょうど、その小さな背中の後ろ側。後ろ手に回した手の中に、ぎゅっと隠していても、隠しきれない好意が透けて見えていた。

 

「美優ちゃん? 正直に話てくれたら、いいよ?」

「っ……。違うんだよ? 嘘ついたとかじゃなくって……」

「大丈夫。そういう心配はしてないから」

 

慌てる美優の頭を、優しく撫でると、少しほっとした顔で見上げてくる。

 

「うん。えっと、ね? ひよりちゃんって、女の子と……それは、ほんとだよ? 後は、その……」

 

言い淀んでしまった。

 

気持ちは分かる。二人切りではないとは言え、ほぼほぼデートに行くと言ってるようなものだ。引っ込み思案な美優が、それを口にするのは中々ハードルが高いだろう。

 

「奏汰くん?」

「……うん」

 

案の定というよりも、だろうなって納得の方が大きい。

むしろ、それ以外の名前が出てくる方が怖い。最近になって、美優の口からよく聞くようになった名前。同じ名字で、日直の当番も重なって。それだけじゃない仲の良さは、娘の様子を見てれば分かる。

 

弁当まで作り出した時にはもう、嬉しいやら、寂しいやらだ。

 

「水着も一緒に買いに行くの?」

「行かないよっ! 行くわけないっ!!」

 

だから、ちょっとだけ、からかいたくなった。

思った通り。慌てた美優は、恥ずかしがっているのか、怒っているのか。

今まで見たこともない顔をして、頬を膨らませてくれた。

 

「水着は……。ひよりちゃんと二人で行くから、ダメ?」

「いいよ」

 

頷いてみせると、美優は安心したように肩から力を抜いた。

「ありがとう、お母さん」小さく、口ずさむようなお礼の言葉。ぱっと駆け出した美優の足取りは軽く、今から浮かれているようだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。