※この作品はR-18です。

深見さん家の ふたりごと   作:霧里

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プレゼントの選び方

 

 

「行ってきます」

 

朝。学校に行こうと母親に声を掛けた奏汰は、その途中で足を止めて振り返る。

 

「ねぇ、母さん?」

「どうしたの?」

 

朝食の片付けをしている母さんの背中を見つめたまま、次の言葉が出てこない。

分かってる。言えば絶対にからかわれる。でも、他に相談出来る相手もそう多くはなかった。一人で失敗するならそれでもいい。けれど、美優の事ともなると流石にできることはしておきたい。

 

「女の子ってさ、誕生日に何が欲しいのかな?」

「美優ちゃん?」

「あぁ……まぁ、うん。そうなんだけどさ」

 

案の定、かと思えばそうでもない。身構えていた分だけ拍子抜けだ。

片付けの手を止めた母さんは、振り返って話を聞いてくれた。「そうねぇ」顎に指を当て、少し考える素振りの後。

 

「何が良いかはともかく。スノードームだとか、オルゴールだとか、ぬいぐるみなんかは、やめときなさいね? そういうのは、男の子が女の子に持っていて欲しいものだから。あ、もちろん、美優ちゃんがそういうの好きなら良いんだけど。彼女の部屋に一つでもあった?」

「いや……なかったかな」

 

ぬいぐるみの一つくらいはあった気はするけど。

でもあれは、好きだから飾っているというよりも、幼い頃の思い出を部屋の片隅に残している感じだ。

 

「ふーん……♪」

「なんだよ?」

 

油断をしていた。

 

素直に答えた俺に、母さんはニヤリと頬を持ち上げる。

 

「ううん。部屋、行ったことあるんだなぁって」

「なっ……あっ。もういいっ! 茶化すんだったら、俺学校行くからっ」

「あはは、まぁ最後まで聞きなさいって。お揃いのアクセサリーとか考えたりしてない? 今の時期はそういうの欲しがりそうだしね」

「うっ……。そりゃ、少しは考えたけど」

 

図星を突かれて、足が止まってしまった。

俺が隣りにいなくても寂しくならないように。意外と良いアイディアなんじゃないかとさえ思っていた。

 

「ダメとまでは言わないけど。買うなら二人で買いに行きなさいよ。美優ちゃんの趣味に合わないと、最悪なんだから」

「あぁ……そっか、そりゃそうだよな」

 

男の俺が身につけるだけならともかく。女の子のアクセサリーともなると、適当にはできないか。せめて出かけた先で、さり気なく どういうのが好きかくらいは聞いておかないと。

 

「じゃあ、結局何が良いんだよ?」

「最悪これでしょ?」

 

意地悪く笑った母さんは、親指と人差指で輪っかを作って見せる。

金か。言われれば、まぁ……そうかもしれないが。

 

「いや、それは……」

「次のあんたの誕生日に、一万円あげるね?」

「嬉しいよっ、そりゃ。だけどさ、そうじゃないだろ? こういうのって……」

「それが分かってるなら十分でしょ。だいたい、美優ちゃんの事はあんたのが詳しいんだから、母さんにできるのはダメ出しくらいね。正直、あの子ならなんでも喜びそうな気はするけど……」

 

そんなのは分かってる。

 

俺が選んだって言えば、美優はなんでも喜びそうだ。

 

「だから困るんだよ……」

 

ぼやいた俺は母さんに礼を言った後、美優との待ち合わせ場所に足を急がせた。

 

 

***

 

 

屋上へと続く階段の途中。

 

廊下の喧騒からも少し離れたその場所で、奏汰はひよりと向かい合っていた。

「頼みたいことがある」ひよりに声を掛けた俺は、気づけば彼女と二人きり。

 

気まずい。

 

仲直りできたつもりでいたって、普段は美優を間に挟んでいる分、いざ向かい合ってみると緊張が隠せなかった。

 

「頼みごとの前にさ、ちょっと聞かせてほしいことがあるんだよね」

 

そんな前置きをしたひよりも、どこか表情は固いまま。まるで、俺の緊張が移ってしまっているようだ。

 

「今のあたしってさ。奏汰の……なに? あたしはまぁ、友達のつもりでいるんだけど、奏汰はどうなのかなって?」

「どうって……」

「いや、だってね。どんな顔して奏汰を手伝ってやりゃいいのかなってさ? あ、勘違いしないでね。脅したいんじゃないんだ。ただ、モチベのはなし? 距離感ってあるじゃん? また、間違えるのも怖いんだよね……正直」

 

ただのクラスメイト? 美優の友達として? もちろん、昔の借りを返せってんなら いくらでも返すけど。そう言って、少し思い詰めたように ひよりは顔を曇らせた。

 

やっぱり、図々しかっただろうか。

 

ひよりの顔から、普段の笑顔が消えてしまったことに心苦しくなる。

それですら勝手かもしれない。俺の頼みなんて些細なものだ。

女の子の視点がほしい。美優と一番仲良くしているであろう彼女に、話を聞いてみたかっただけ。あわよくば、一緒に下見に行ってはくれないだろうかと、期待もしたくらいだ。

 

それが ひよりの負担になるなら……。

 

「感謝は……してるよ」

 

回れ右。今までの俺なら、きっとそうしていた。

いや、そもそも。美優のためとはいえ、話しかけもしなかっただろう。

ただのクラスメイト。美優の友達。あるいは幼馴染だとも いえるのかもしれない。

 

「感謝って。あたし……奏汰になにかした?」

「前に……。その、告白してくれただろ?」

「あぁぁ……それ、それねぇ。あははっ、びびったよね、いきなりあんなの」

 

顔を赤くしたひよりは、指で頬をかきながら明後日の方を向いてしまった。

「今その話するの?」口にはしなくても、そんな雰囲気が伝わってくる。

 

「あれで俺も、踏ん切りがついたっていうか。勇気、貰えた気がするから。そうじゃなかったら、まだ美優に告白すら できてなかったと思う」

「は? え? なに? ちょっとごめん。たんま、たんま……」

 

きょとーん。

 

目を丸くした ひよりは、頭を抱えて俺の方へと手のひらを差し向けた。

 

「あんた達、まだ付き合ってなかったっていうの? 私にもまだワンチャンあったみたいな?」

「いや、それはないけど」

「あははっ♪ 即答かよ。2回も振られたっ! 同じ人にっ!」

 

失恋の言葉は、だけど明るい。俺を責めるような声音でもなければ、涙の流れる気配もない。夕日はとっくに沈んでいて、ひよりは朝日が昇ったみたいに笑っていた。

 

「付き合ってるつもりではあったよ。多分、美優だって疑ってなかったと思う。ただ「好きだ」って言うの、後回しにしてて。自分の番になって分かったんだ。誰かに「好き」っていうの、すごく力いるんだなって。だから、感謝してるし、ひよりのこと凄いなって思ってる」

 

わだかまりはある。

 

昔の話も無かったことにはできない。

 

そういうのも引っくるめて、ひよりとの関係だと思う。

 

「それで? 結局あたしは奏汰のなんなのさ?」

「俺も、ひよりのこと友達だと思ってるよ」

「よしきたっ!」

 

そう言って快活に笑った ひよりは、俺が差し出した手を威勢よく握り返してくれた。

 

 

***

 

 

「奏汰と何話してたの?」

 

聞いちゃった。

 

ひよりちゃんを探るみたいな事したくなかったけれど、二人でいなくなられたら やっぱり気にはなる。信じてるし、疑ってもない。でも、聞くくらいなら許されるんじゃないかって、恋人の特権を使うことにした。

 

「お? みゅーがついにヤキモチを覚えた」

 

分かっていても、もやっとする。最近まで縁のなかった感情だ。

でも、それくらい奏汰の事が好きなんだって思うと、どこか誇らしい。

 

「なにそれ? 私だってそれくらいは……」

 

むくれた私に、ひよりちゃんが後ろから ふわっと抱きついてきた。

首に回された腕が、マフラーみたいに優しく絡まって、ちょっとくすぐったい。

その腕を取って、はむっと甘えるみたいに歯を立てた。

 

「噛まないの。モグモグもしない」

 

腕を甘噛みされて怒る様子もない。私だってそう。

お返しに、頭をわしゃわしゃとかき混ぜられながら、ただ二人で戯れ付いていただけ。

 

「美優が気になるなら、あんまり二人にはならないようにするけど?」

「そこまでは……。でも、気になっちゃうのは許してほしい。ごめんね? 自分でも、よく分からなくなるときがあって。疑ってるわけじゃないんだけど、でも……もやってなるの、ちょっとだけ」

「いいよ。あたしにだって、分かるつもり。まぁでも、今回は言えないかな。奏汰のメンツが掛かってるんで」

「メンツ?」

 

なんだろう? 重ねてたずねても答えはない。

悪いことにはならないとは言うけれど、隠されると余計気になってしまった。

 

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