キス、しちゃった。
ただちょっと、気分を変えるために奏汰をゲームに誘った。気づけば夢中になっていた私は、初めての一等賞に浮かれて、舞い上がる。目論見通り、さっきまでの事なんて忘れていた。けれど、もう少しだけ、意識はしていた方が良かったのかも。
奏汰の部屋。ベッドの上で、二人きり。目の前には、少し赤く染まった彼の顔。
また、気恥ずかしさが込み上げてくる。あんまりに嬉しくて、つい抱きついてしまっていた。必死に忘れようとしていた奏汰の裸が脳裏をよぎり、体の奥に熱が灯るのを感じてしまう。
「美優…ごめん。ちょっと離れて…」
奏汰に肩を押された。それに気づいた私は、恥ずかしいと思うよりも強く、寂しさが込み上げてくる。指先が、彼の襟元を掴んだまま離れない。
だって、今日一日会えなかったから。学校がお休みの日は、いつもそうなのに。変なの。会えるのを楽しみにしていた分だけ、こんなに離れがたくなる。
「ねぇ、奏汰?」
くっついてるのはダメ? 離れたくないの。心配だったんだよ、ずっと。
急に、体調崩すから。迷惑かもしれないって、思ったけど、それでも顔見たくって。
伝えたい言葉はいくつもあるのに、一つだって形にならない。
ドキドキする。胸が張り裂けそう。乱れた呼吸に熱が絡んで、息が苦しい。
一緒だね、奏汰。ドキドキしてるの、私と一緒。彼の胸に置いた手から、早くなった鼓動が伝わってくる。
この気持ちも、同じだと良いな。
祈るように瞳を閉じた。少しだけ、奏汰の方へと顔を近づける。
こんなことして、押し倒されたって知らないよ、美優?
分かってるよ。いくら奏汰が優しいからって、今の私はあんまりに無防備だ。
ぎゅっと、私の肩を掴んでいた手に力が入る。
瞼の向う側にある、奏汰の顔は分からない。
ごくりと、息を呑む気配がした。手のひらから伝わる鼓動の音が、また一つ強くなる。
ちゅっ…。
ただ重ねただけの、優しいキス。正しいやり方なんて分からない。
恐る恐る、手探りだったのは奏汰も一緒だ。温かくて、柔らかい。しっとりとした唇は、お互いを押し合うような弾力がある。
不思議。
ただのキスだ。唇を重ねるだけの拙い愛情表現でしかないのに。
彼のことが分かる。戸惑いも、動揺も、そして、私に向けられる好きの気持ちさえ。
「はっ、ぁっ、はぁ…はぁっ…」
まるで、時間が止まっていたみたい。時計の針が動いたのは、息苦しさに耐えきれなかったから。唇が離れて、奏汰も私も、慌てるように呼吸の仕方を思い出す。
なんでだろう? 頭がくらくらするのは。
呼吸が荒いのは、きっと息苦しさのせいだけじゃないはずだ。
体の奥に灯った熱は、奏汰を想いながら自分を慰めていた時と良く似ていた。
「…奏汰」
「…美優」
もっとって、求めるように。もっとって、強請るようにも。
名前を呼び合って、見つめ合う。ごくりと、喉がなった。二人一緒、また瞳を閉じて唇を寄せ合う。
とくんっと、胸が温かくなった。
触れ合った唇が甘く痺れる。
息が苦しくなって、唇が離れる。乱れた呼吸を整えようと、大げさに息を吸い込んだ途端、また奏汰に唇を塞がれた。
「んっ、そう、たっ。あ、まっ…はっ、ちょっ、はぁはぁっ…んんぅ…」
息が苦しい。頭がくらくらする。
唇から力が抜けていくみたい。奏汰に体を預けた私は、そのまま彼と一緒にベッドに倒れ込んだ。ふわり、ベッドが弾む。奏汰の上に重なった私は、そのまま彼に抱きしめられた。
背中に手を回されて、ぎゅっと強く。
その間も、唇は求められ続けていた。何度も、何度も、唇が重なる度に甘く痺れる。息が苦しくなって、ちゅっと、途切れた水音はまたすぐに、ちゅっと、奏汰の唇に塞がれる。
あ、ダメだこれ。
逃げられない。
最初はただ、キスをしてみたくなっただけ。
奏汰に気持ちを伝えたくて、奏汰の気持ちを知りたくて。言葉にならない代わりに、もっと分かりやすい繋がりを求めてしまった。
後悔してる訳じゃない。
ただ、ちょっと。思ったより男の子をしてくる奏汰を、どう受け止めたら良いか分からなくって、戸惑ってしまう。奏汰に抱き寄せられる。私の薄い胸の膨らみが、形を変えるほどに強く。
学校帰りで、制服姿のままの私。部屋着の彼はTシャツ一枚きりだ。
隙間なく重なった肌は、服越しでさえ、お互いの興奮を伝え合う。
「ぁっ…」
感じた熱に、声が漏れた。
太ももの内側。お股の所に違和感があった。自己主張を始めたそれは、膨らんで、大きくなると、私の肌をさっと撫でる。その事に気付いた奏汰は、気まずそうに目を逸らし、逃げるように腰を引いてしまった。
いいよ。
口にはしない。
恥ずかしかったのはあるけれど。それを口にしてしまったら、夢みたいな今の時間が、覚めるような気がしていた。だって、私達はキスをしているだけだから。
ちょっと夢中になっているだけ。抱き合っていたら、体の何処かが擦れても仕方がない。
彼の頬に両手を添えた私は、今度は自分から唇を重ねて見せる。
ぴくっと、震える感じ。もぞりと、動いた奏汰は、躊躇いがちに腰を寄せてくる。太ももの内側を撫でられる感触に、ゾクッとした、ゾクゾクとした。後ろめたさかな? エッチなことをしてるって自覚はある。私の内側を這うように、奥へと近づいてくる彼の気配は、私に良くない興奮を促していく。
ズボン越しにとはいえ、彼のはもう、それと分かるくらいに膨らんでいた。
キスを繰り返しながら、抱き合った私達は、もぞもぞと腰を揺らし合う。
次第に、制服のスカートが捲れていくのにも気づいていた。それでも、私は動きを止めない。捲れたスカートを元に戻すどころか、曝け出そうとする彼の動きに合わせてしまう。
くちゅりと、水音が聞こえた気がした。薄い下着の上を、固い何かが撫でていく感じ。ズボンの合わせ目、固いファスナーの凸凹とした感触が押し付けられて、腰が震え上がる。自分で太ももを寄せ合うだけの、曖昧な刺激なんかとはぜんぜん違うんだ。体の奥から、熱が溢れてくるの。彼のが擦り付けられる度に、下着の染みが広がっていく。
甘い痺れ。
心地の良い感覚。
私も、きっと奏汰も、夢中になっていた。荒い息を繰り返しながら、キスをすることさえも忘れて、腰を震わせる快感に身悶える。
思い出したようにキスをするけど、もう、最初ほど長く繋がってはいられなかった。
すぐに苦しくなって離れてしまう。もっと、繋がってもいたいのに、できない。
その寂しさを埋めるように、私は彼の身体に抱きついた。淡い快感が、胸の内で ふわふわと膨らんでいく。肌着の裏地に乳首が擦れて、ぴりっとした刺激に息を吐く。
期待していた。
自分を慰めていた時よりも、強い興奮に。また、あの時の、ふわっとした心地よさに包まれたい。一人じゃイヤ。今度は奏汰と一緒にそうなれたら。
真っ白い綿に、全身を ぎゅっとされながら、彼にもぎゅってされて。そんなの、絶対気持ちが良いって思う。
自分が自分じゃないみたい。身体は勝手に動いて、奏汰を求めてしまう。
ぬるっと、ぬるぬると、私の下着はもうすっかりと濡れていて、奏汰のズボンにまで、私が染み付いていく。
これから、どうなるんだろう?
期待のドキドキと、興奮のドキドキと、それに重なる不安の音は、とても良く似ていた。まだ、キスをしているだけ。ちょっと大胆に抱き合っているだけだから。
これ以上は、まだダメって思うのに。それ以上を求める様に、胸の鼓動は強くなるばかり。私か、奏汰か、何かのきっかけがあれば、たぶんもう。
スカートが完全に捲り上がる頃には、奏汰の動きにも遠慮が無くなっていた。
まるで、何かを探すように。探されているのは、きっと私自身。
ぬるりと、下着がずらされる感覚に鼓動が跳ねた。
膨らんだズボンの先が、隙間から入り込もうと動きを変える。
もう、いっそ、このままズレちゃえっても思う。ギリギリ私の理性を保っていたのは、この薄い布地だけだった。もぞり、もぞりと。奏汰の腰が動く。
ズラされた下着は、だけど ぬるっと滑って、私達を遮った。
それが腹立たしいの? 奏汰は腰を強く突き出すと、凸凹としたズボンの膨らみが、私を甘く苛んだ。
苦しそう。
荒い息を繰り返す奏汰を見ていると、はやく楽にして上げたいと思う。
薄い下着の一枚が、私の理性をギリギリ保っているのなら。奏汰を押さえつけているのはきっと、閉ざされたままのズボンのファスナーだ。
ぼんやりと、彼の裸を思い出していた。
きっともう、さっきみたいにぶら下がってはいないはず。
どんなに大きくなっているのか、私には分からない。ズボン越しに膨らんで、固くして、その熱が僅かに伝ってくるだけ。ただ、その先が自分に向けられるのを想像して、身体は勝手に熱くなる。
恐る恐る。
私は自分の体の下に手を忍ばせて、弄るようにズボンの上から奏汰を撫で上げた。ファスナーに指がかかり、引き下ろそうとするその瞬間。
「はっ! あっ、美優っ…それっ、はっ。あっ、くっ!!」
強く、名前を呼ばれて心臓がドキッと跳ねた。
逃さないように。彼は、私を胸の内に抱き竦める。
ドクンっ、ドクンっ…。
じわり、滲んでくる熱は、私から流れたものじゃない。彼のが大きく震える度に、下着が押し上げられて、湿った熱気が私にも伝ってくる。下着越し、ズボン越しなのが、もどかしい。もっと直接届けてほしいと、何処かで思う。
それでも、初めて感じた彼の熱は特別だった。
まだ、不慣れな私は、それだけで満たされる。
ふわっとした。
体中、頭の中まで、真っ白い綿に包まれる。
私が、私でなくなる感じ。例えるならそう、心地の良い不安感。全身が甘く痺れて、身体に力が入らないのに、指は彼から離れない。「はぁっ…はぁっ…」と、大きく息を吐きだしながら、安心を求めた私は、彼に縋り付く。
夢のような時間だった。
本当に、時間が止まったみたい。
ふわふわとした心地よさに包まれたまま、奏汰は私を抱きしめていて、私は奏汰に抱きしめられている。このままずっと、こうしていたかった。
でも、時計の針は動き出す。
私達を夢から覚ましたのは、鳴り響くスマホのコール音。
ベッドの隅で、それはピカピカ光って、行為の余韻を散らしてくみたいだ。
時間切れ。
分かっていたことだけど、でも、やっぱり名残り惜しい。
奏汰は一度、スマホに視線を向けるけど、それを取ろうとはしなかった。
気持ちは分かる。私だって、いつまでもこうしていたい。でも…戻って来るまでって言われているから。特別な時間はきっと、限りがあるから特別なんだ。そう、思うことにする。
「奏汰…。出たほうが良いと思う」
「え、なんで?」
「その…。良いから、ね?」
渋々。離れがたいのは一緒。促されてスマホの画面を見た奏汰は、ぴくっと固まった後、私に声を掛けてきた。
「美優、離れて? ちょっと、片付けよう。母さん、もう帰ってくるって」
「あはは…。だよね、やっぱり」
急に現実を思い出した私達は、いそいそと身なりを整えていた。
抱き合ってキスしてるだけだから。