①
撮影を終えて半月ぶりにみかづき荘に帰ってきた。
彼にも帰国した事は伝えると『会いたい』と言われたが、裸を撮られていた事を思い出してしまい、どんな顔で会えばいいのか分からなくなってしまった。
事務所の社長に撮影は滞りなく終わった事を伝えると苦々しく顔を歪めたが、その事には触れない方が良いと判断したのか話を終わらせてくれたのは有り難かった。
少しの間、休暇を頂ける事になった。渡豪中の事について整理する時間が欲しかったし、秋穂さんもそれは同じだったと思う。
大学とみかづき荘を往復する日々が続いたが、いつもの日常に戻ってこれた気がして、彼と遊びに行けるようにもなったが肌を重ねる事は避けるようになっていた。
半月ぶりに事務所に顔を出すといつもと雰囲気が違っていた。モデル仲間の子たちが狼狽えている。
「ねえ、何があったの?」
『やちよ、久しぶりだね。それがね』
同い年で良く話す子に聞いてみる。
『私もそうなんだけど、他の事務所から引き抜きの話が来てね。うちの事務所の子には軒並み声をかけているみたいなの』
「…それってどこの事務所なの?」
彼女が口にしたのは阿見莉愛が所属している事務所だった。
『最近私達って干されてるような感じがあるでしょ?オファーがあっても下着モデルか水着でのグラビアだし』
「確かにそうね」
自分にも下着モデルのオファーが来た事はあったが当然断っていた。
『移籍を考えている子もいるみたいなんだけど、あの事務所って枕をしているって噂があるじゃない?だから皆悩んでいるみたい』
鳥羽が絡んでいる事は想像に難くない。帰国してから接触してこなかったからイメージビデオの撮影で満足したのかと思っていたのだが、その考えは甘かったのかもしれない。
「社長は何て言ってるの?」
『引き抜きに応じないようにと言われたよ。今は他に移籍先がないか当たっているみたい』
「そう…」
あの男の事だ。きっと根回しをしているだろうから応じてくれるところはないだろう。
帰国の際に鳥羽から渡された名刺。社長や秋穂さんに申し訳なく思いながらも私は1人で鳥羽と接触することにした。
『君から連絡が来るとは思っていなかったよ』
「白々しいわね。私が日本を離れている時にも根回しをしていたんでしょ?」
『仮にそうだとして、だ。私に何をしてほしいんだ?』
「引き抜きの中止、それと他の子も今まで通りに仕事が出来るようにしてください」
このような男に頭を下げるなど屈辱的だが、同じ事務所の仲間が私と同じ事をさせられると考えると、それよりかはマシだと思えた。
『確かに私が介入すれば話は打ち止めになるし、仕事も元通り出来るようになるだろう。だが、それをして私に何の得があると言うのかな?』
「見返りを提示しろと?」
『当然だろう。これはビジネスだ、手間もかかれば金も動く。何らかの見返りを求めるのは当然の権利だ。違うかな?』
「そ、それは…」
『君の望む結果を得るために、君は何を提供するのか聞かせてもらおうじゃないか』
この時初めて鳥羽が私と目を合わせた。
「…私を抱いていいわ」
苦渋の決断だった。でも私を守ろうと秋穂さんは身体を差し出したのだ。ならば私だって同じ事をするまでだ。
『そうか。ならば気持ちが変わる前に早速やらせてもらうとしよう』
「えっ?ちょっ、ちょっと待って!今ここで!?」
『心変わりされては困るからな。それに今日は予定が詰まっていてな。すぐに終わらせるから安心したまえ』
鳥羽が強引に話を進める。私は反論できずに身体を赦すしかなかった。
「…ゴムだけは着けてください」
『仕方がないな。ゴムなんて無粋なものなど着けずに君の中を味わいたかったのだがね』
ゴムを着用した鳥羽のそれは見たこともない程に太く、長く、大きかった。こんなのが本当に入るのかと唖然としていると鳥羽が不満げに声をかけてくる。
『どうした?早く下着を脱ぎたまえ。挿れられないだろう?』
「わ、分かってるわよ」
クロップドパンツと一緒に下着を降ろす。
『ほう、今日の下着はピンクか。暖色系とは意外だな』
「うるさいわね、何色を着けようと私の勝手でしょ?それより早く済ませて」
『ムード作りぐらいさせてほしいのだがね』
「あなたとなんてごめんだわ」
露わにした下半身を鳥羽はまじまじと見つめている。
「な、なによ」
『陰毛は剃らないのかね?確か自分で処理しているのだろう?』
「あなたが剃るなと言ったんじゃない」
『撮影が終わるまでのつもりだったのだがね。まあ、せっかくだ。整えるぐらいなら良いが、まだ剃らないようにしておいてくれ』
「わ、分かったわよ」
『それよりも、だ。まだ濡れていないがこのまま挿れてもよいのかな?』
「自分で濡らせって言ってるの?」
『解釈は君に任せる。私に濡らしてほしいならそう言えば良い』
(濡らしてくれなんて言うのは癪に障るわね)
「…自分でやるわ」
こちらとしても早く済ませたい。目を閉じて恋人に触られているのを想像しながらクリトリスを弄る。すると早くも濡れてきたので指を出し入れして中をほぐしていく。
(このぐらいなら大丈夫よね?)
「…良いわ、挿れて」
『では失礼するよ』
革張りの椅子に座り脚を開いた私に肉棒を当てがい中に押し入ってくる。
(おっ、大きい。こんなの無理よ!)
まるで初体験の時のように裂けるような強い痛みを感じる。強引に中を押し広げられる感覚に吐き気がしてくる。
『ふむ、期待はしていなかったが中々に良い締め付けだ。経験人数はあの恋人だけなのか?』
「貴方に関係、ないでしょう」
浅い呼吸を繰り返しながらやちよが言う。
鳥羽が口元を見つめながら顔を近付けてきた。
「ちょっ、ちょっと。キスは駄目よ」
顔を手で押し返して難を逃れる。キスは愛する人としかしないと決めていた。
「身体は許しても心まで明け渡すつもりはないわ。余計な事してないで早く終わらせて」
『いいだろう』
鳥羽が腰を動かし始める。こちらに対する配慮など全くない、自分の快楽のみ追求した動き方だった。あまりの痛みに涙が溢れてくる。
『もう少し味わいたかったが、時間も押しているのでね。出させてもらうとしよう』
「まっ、待って。やっぱり外で出して」
ゴムを着けているとはいえ、嫌悪している人間の射精を体内で感じたくなどない。しかし、鳥羽はそれを許してはくれなかった。
『ゴムを着けているから問題ないだろう。さあ、ちゃんと受け止めるんだ』
肉棒をやちよの最奥まで突き刺し射精を開始する。
「い、いやぁ!早く抜いて!」
こちらの悲鳴など聞こえていないかのように何度も放出を繰り返す。
それに耐えるのはまさに地獄のような時間だった。
『ふう。昨日もかなり出したはずだが、かなりの量を搾り取られてしまったよ』
引き抜いた肉棒の先に出来た液溜まりはパンパンに膨れ上がっている。
「…そんな汚らしいもの、見せないで」
やっと行為が終わった安堵感と身体が穢された事に対するショックで涙が止まらない。
『さて、名残惜しいが今日はこれまでにしておこう。私はもう出るが休んでから帰っても構わんぞ。また何か用があればいつでも連絡したまえ』
(こんな事、今日限りよ)
こんな場所にいつまでもいたくない。軋む身体を無理矢理動かし身なりを整えて部屋を後にした。
それから数日が経った。いつの間にか引き抜きの話は有耶無耶になり、仕事も今まで通り行えるようになって事務所は一安心という雰囲気になっていた。
(これで良かったのよね?)
裸の映像を撮られ、好きでもない男に抱かれ、取り返しのつかないところまで落ちて行っている気がする。
『あっ、やちよ!聞いたよー。写真集の売り上げ良いみたいじゃん!』
「えっ、ええ。ありがとう」
悩みがなくなったのか、いつも通りの様子で接してくる。
『いつの間にか引き抜きの話もなくなってるし、また一緒に仕事したいね』
「ええ、そうね」
同意しておいたがドス黒い感情が渦巻いてくるのが分かった。
(何で、私ばかりが…)
『やちよ、顔色が悪いけど大丈夫?』
「大丈夫…と言いたいところだけど疲れがまだ抜けてないのかもしれないわね」
『このあとスケジュールが空いてるなら早引きしてもいいんじゃない?秋穂さんには私から伝えておいてあげるよ?』
「お願いしてもいいかしら?」
今は何も知らずに笑っている仲間達の笑顔なんて見たくなかったので帰ることにした。
その夜、恋人から電話がかかってきて少しだけ話をした。彼も写真集を買ったそうでどのカットが良いとか感想を言ってくれたが、そんな事は聞きたくなかった。
(知ってる?その写真を撮った後、裸になっているのよ?)
その事をぶつけたくなる。それを知っても彼は許してくれるだろうか?
『今度、いつ会える?』
「そうね、来月になってしまうけど土日ならスケジュールは空いているわ」
『分かった。その時はまた家のほうが良い?』
「うん。今は家の中にいた方が周りの目も気にせず落ち着けると思う」
写真集が話題になってから外出するにも変装が必要になってきた。
注目を浴びるのは嬉しいのだが窮屈さも感じていた。
『分かった。鍵は開けておくから入ってきていいよ』
「ありがとう」
彼に抱いてもらえたら鳥羽との事も忘れられるだろうと期待が胸に膨らんだ。