おしめを変え、ミルクを与えた赤ん坊のお腹も満腹になったところで美銀と泰はどうするか話し合っていた。
「ってかまだスマホの電波とか届くのな」
「そうね。でもあまり長くは期待出来ない筈よ」
「時間はねぇってか」
実質的にこのゲームにはタイムリミットがある。
それは今まで人間の手により管理・運用されてきたインフラが終わりを迎える事だ。
生活水準等もはや無いも同然だが辛うじて電気やガスが使えたから料理は出来た。
それが出来なくなるのは……いつの日か。
そう遠くはないだろう。
「今更石器時代に戻れなんて皆無理でしょうしね」
泰が意外そうな目でこちらを見る。
「何か私変な事言った?」
「いや、器用万能人間のお前が言うかって思ってさ」
思わず美銀は苦笑した。
「何よそれ。私をなんだと思ってるのよ」
「超人」
「……ただの人間よ」
超人扱いされるのは正味嬉しいがどんな人間だろうとこの
だから共同戦線を張るのだ。
……例え目的が違っても生き抜く為に。
「そういやさっき、そのガキ見つけた部屋でこんなの拾ったぜ」
カランと畳に一つのキーホルダーを投げ出す泰。
そのキーホルダーはまだ新しく『猛』と言う文字が刻まれていた。
「猛か。いい名前ね。宜しくね猛!」
返事するように猛は「だぁ」と美銀に返す。
それを見て美銀と泰は顔を合わせて笑った。
「なんつうか……親の気持ちがちぃっと分かった気がする」
「そうね」
―――ばあやや両親も幼い時の私をこんな感じで見ていてくれたのかな……。
愛情いっぱい育ててくれたばあやと産んでくれた両親……。
考えただけで胸が暖かくなる。
今自分がいるのは他の人の支えもあったから……また笑顔で再会するためにも絶対このゲームを勝ち抜かなきゃならない。
「行くか」
「えぇ」
決意を胸に三人は外に出た。
―――――
町は異様な程静かだ……。
車や人の話声等一切聞こえない。
小鳥の囀りやカラスの鳴き声が良く聞こえるのがその証左だろう。
今まで住んで来た町に居乍らにしてまるで別世界に来たようである。
「人が一人も見当たらないってのは妙だな。少子高齢化社会でも若い奴等は居る筈だ。じゃなきゃゲームにならねぇ」
「隠れてるのよ……きっとね」
「確かにこのゲーム。奇襲する側が有利だもんな」
「もっと仲間が欲しいわね。私達も」
そう仲間。
仲間を集め創造主達に立ち向かい元の世界に戻す。
それが美銀が描く青写真だ。
だがその為にはある程度の犠牲はやむを得ない………。
このゲームはそう出来ている。
―――ばあや、強くなる為には失うしかないのかな……。
誰にも届かぬ美銀の心の声。
大切なばあやはもういないのだ。
「辛気臭ぇ顔すんな。今からそんなんじゃ精神が持たねぇぞ」
「分かっている。分かってるけど……頭がまだこの残酷な現実に追い付いていないわ」
胸に手を当て美銀は涙を流した。
「だー!もう同接もスパチャもめっちゃ減ってるしマジで人間が消えちゃったわけ!?ボクの金づ……ゲフンゲフン!ファン達がぁぁぁ!」
悲鳴に似た甲高い叫びが隣の家から聞こえた。
「配信者かVチューバーか……。不登校や引きこもりだったら体力無さそうだし楽に殺れそうだな」
「泰、目が凄く輝いてるわよ。ってか輝きすぎ」
いつの間に取り出したのか彼の右手に持たれた包丁は彼の目と同じく陽光を反射しキラキラ輝いていた。
「そりゃあ殺人って楽しいからな」と答え泰はその家のドアを蹴破ると「ヒィィィィィィ!何か玄関から音がしたよぉぉぉぉ!」と声の主はさらなる悲鳴をあげた。