レオン皇帝の子孫であるラインハルトは有力な皇帝候補だとベネディクトは聞いていた。無論、誰が次の皇帝に選ばれようともホーリーオーダー代表としてアバロンに馳せ参じるつもりで、そのための鍛錬を怠ったことなどなかったが、その彼が思いがけずカンバーランドに留学に来たとき、その美しさに驚いた。皇帝の資質については噂に聞いていても、彼の容姿については耳にしたことがなかったからだ。留学期間の三か月という短い間、彼に付き従い、世話をして……彼が容姿だけでなく心までもが美しいと知った。日々を共に過ごすうちにベネディクトがラインハルトへの想いを自覚するようになるまで幾らもかからなかった。そして三か月が経ち……いずれ来るとわかっていた別れを経て――数年後。ラインハルトは帝位に就き――ベネディクトは彼と再会を果たした。それからずっと、パーティーメンバーとして共に戦っている。
――結局、この方への想いを忘れることなどできなかった。
ベネディクトが思う。旅での束の間の休息で。ふとした折に。気付けば、目で追っていた。温かい微笑みも澄んだ眼差しも、その深みのある低い声も、すべてが当時のままで。心の奥底にひっそりと沈めていた恋心もすぐに再燃してしまった。
そして今――…
「ん……っ、あ、ぁ……ベン…っ……」
皇帝のベッドの中で、背中から裸のラインハルトを抱き締め、空いた手で性器を愛撫しつつ、白い項に口づけを落とす。窓の外はすっかり明るい。ベネディクトは今、皇帝の”朝立ち”を処理している最中だった。
二人が友達以上の関係になって数日が経っていた。初めて互いの欲を解放し合った夜、ベネディクトは引き留めたそうな顔をしている(と断言できる。一人で眠ることができないほど寂しがり屋なのだろうか?)皇帝に気付かぬフリをして律儀にもきっちり身支度を整え、自身の宿舎に戻ったのだが(恋人ではないのだから朝まで一緒にいるのは不適切だ)、次の日。ラインハルトに『侍女には朝、起こしに来ないように言ったから泊まっていっても大丈夫だ』と言われ、(結局)なし崩しに朝まで共に同じベッドで眠るようになって、当然の如く朝の”世話”もするようになり……
「焦らすな……早く……ぁ……っ」
「……」
ラインハルトが強請るように自身のモノを握り込むベネディクトの手に手を重ねるが、聖騎士は決して急がず、緩く繊細な愛撫をし続ける。
「は……あ……っ、」
指先でクリッと亀頭を弄ると、皇帝の身体がビクンと撥ね、ズブ濡れの小動物のように震え身を竦める。
――可愛い方だ。この方と恋人になれたら、どんなにか――…
ベネディクトの胸がラインハルトへの愛しさでいっぱいなる。聖騎士は腕の中の想い人の反応も、時折漏らす艶めいた喘ぎ声も、ずっと堪能していたかったが、いつまでもこうしているわけにも行かず、漸くスパートをかけ始めた。そして……
「あ……ああーー!!」
ビクビクと身体を痙攣させながらラインハルトが絶頂を迎える。ベネディクトは大きな掌で吐き出されたものを受け止めて、枕もとに用意しておいたタオルでそれを拭った。
「はぁっ……はぁっ……ベン、」
ラインハルトが肩で息をしながら気怠げに寝返りを打ち聖騎士の方に向き直ると、絶頂直後の快楽に溶けた彼の貌にベネディクトはゴク、と生唾を飲み込んだ。
「次はお前の、番、だ」
そう言ってラインハルトは目を伏せ、覚束ない動きで片手をベネディクトの下腹へ伸ばそうとしたが、彼はその手首を掴み引き戻した。
「……?」
「貴方のその姿だけで私は十分にイけます」
皇帝が自身の手で乱れる様をずっと見ていた聖騎士のモノは既にガチガチになっており、加えてしどけない皇帝の姿を前にして彼はホンの数回扱いただけでウッと低く呻いて達した。ベネディクトは吐き出したものを同じタオルで拭い、目の前に横たわるラインハルトに再び視線を戻した。朝の白い光が彼の肢体のフォルムを縁取り、シーツの上に流れる銀の髪を輝かせている。
――ああ、本当に。この方は何て美しいのか。
ベネディクトはこの瞬間、皇帝が気恥ずかしくなるほどの憧憬と称賛の眼差しで彼を見つめているという自覚がなかった。
「……そろそろ起きようか」
ラインハルトは頬を染め、自分が声を発しなければずっと見つめていたかもしれない聖騎士に声を掛け起き上がった。
二人が身支度を整える間、ラインハルトは既にベネディクトの温もりがなくなって寂しいと思っている自分自身に気付いた。
――だが。いつも傍にいて欲しい、などとは言えない。恋人同士ではないのだから。
ラインハルトが自身に言い聞かせる。
「ライ、」
「? ……!」
ふいに呼ばれて顔を上げると首の後ろを引き寄せられて口づけられる。肉厚の舌が咥内を探る、深いキス。初めて触れ合った夜、『夢中で求め』ていいと言ったからか、ベネディクトはラインハルトに対する愛情表現に躊躇しなかった。だが彼に好意を悟られるわけにはいかないラインハルトは同じだけの愛情を返すことができずに、ただ為すがままにされるだけだった。
「いつも私に付き合ってくれてありがとう」
だから聖騎士の唇が離れて行った後も余裕の表情で微笑んでみせ、礼を述べるに止まる。本心ではいつだって彼に愛を囁きながら一日中ベッドの上でむつみ合っていたいと思っていても。
「いえ。それでは私はもう行きます。陛下、良い一日を」
去り際に微笑み、聖騎士はマントを翻して行ってしまった。
――行ってしまったか。
聖騎士を見送った後。一人になった自室でラインハルトは小さく溜息を吐いた。
陽も高くなり、午前中のほとんどを大学の図書館で勉強していたベネディクトもそろそろ日課の鍛錬をしようと城の訓練所に行くため大学を出た。のだが…
「ちょいとそこ行く聖騎士さん!」
街を歩いていると聞き覚えのある声が聞こえたので立ち止まり、振り返った。パーティーメンバーの一人、忍者のナズナだった。
「ナズナ。何か用か?」
「いやぁ~~用ってほどのことでもないんだけど~~」
と忍者は近くまで来ると手を後ろに組み、窺うようにベネディクトを見上げる。
「鍛錬に付き合ってくれないかな~~と思ってさ」
「いいぞ。俺も今から訓練所に向かうところだ」
「ラッキー! ならご一緒させてもらいますよ♪」
ナズナは満面の笑みでベネディクトと歩き出した。
「ホント助かる~~レギンは鍛冶、ユリシスは酒場のマスターに請われて昼はウェイトレス、夜はステージで~~あたしだけ暇だったんだよね~~」
「はは、俺を見かけてよかったな」
「うん! ……はれ?」
両手を頭の後ろで組み、隣りを歩く聖騎士を見たナズナはふいに何かに気付いたように小首を傾げた。ベネディクトも言葉を途切らせた彼女を不思議に思い、そちらを見る。
「どうした?」
「んー、何か肌ツヤいいなー、と思ってさ。もしかして恋人ができた?」
「……」
どう答えるべきか迷い、言いあぐねているとナズナが続けて言った。
「いやさー。クソ真面目なカタブツ聖騎士さんは色街とか行かないだろうし、ずっと”自家発電”でシてるんだろうなと思ってたのよ。けど今のあんさん(あなたさん)はリア充によくある”満たされてる”オーラを発してるな、って」
「……恋人ではない。便宜的な友だ」
嘘が得意ではないことを自覚しているベネディクトは下手に誤魔化したりせず、事実を簡潔に伝えた。
「へぇー、トモダチと一線を越えちゃうとか、聖騎士さんもやるねぇ」
ナズナが感心して頷く。
「でもそれを聞いて安心した」
「何?」
「恋人じゃなくて、ってこと。ほら、相思相愛の相手がいたら命を懸けた最終決戦に向かう決意も揺らいじゃうでしょ?」
「……」
――相思相愛? 決意が揺らぐ?
ベネディクトがナズナの言葉に漠然とした引っ掛かりを覚える。が、考え込みそうになった彼を彼女の次の言葉が引き戻した。
「実はあたしたちもそうなんだよね」
「……は?」
――何が『あたしたちもそう』なのだろう?
「便宜的な友、ってヤツ? あたしとレギンとユリシス。全てが終わるまでは恋人は作らない、って決めてるんだ。あ、もちろん決してモテないわけじゃないよ?」
ナズナが立てた人差し指をチッチッとメトロノームのように振る。
「けど皇帝さんに協力して七英雄を倒すことが最も優先すべきことだからね!」
腕を組み、エヘンという擬音が聞こえてきそうなほどのドヤ顔で言う。……かと思えば次の瞬間ちょっとバツが悪そうな顔をする。
「まあでもサクッと楽しみたい時ってあるでしょ? そんな時はレギンたちと3Pしてるんだ」
「さ、3P?」
「うん。順番に二人がかりでイかせ合うの。ちょー気持ちイイよ?」
ベネディクトが唖然として聞き返すが、ナズナは平気な顔で答えた。
「ま、出発まであと僅かなんだから、お互い悔いのないように楽しく過ごそーよ?」
忍者はニカッと人好きのする笑顔で笑った。
ナズナの「女の子で3P」話は近所の奥さんが『学生時代、女の子だけで3Pしたことある。』と話していたことからアイデアをもらっています。