【ゲームのデータ】引き継ぎ! C級テイマーに転生! 作:BIBI
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多くのテイマーは、プロともなればそれなりにプライドが高い。
何せモンスター対戦は世界で最も人気のある競技。しかも国の戦力に数えられる事もあり、それなりに政治的にも力を持つ。
当然、才能を持って生まれた子はチヤホヤされて育つだろう。その上、テイマーは魔力を持つ故に、喧嘩だって当然有利。自分に逆らう者が殆どいない環境に慣れているのだ。
多くの人が傲慢で我儘に育ち、攻撃的で荒っぽい態度。口先では謙虚な言葉を並べたとしても、上から目線の態度を隠せない者ばかり。
だからこそ――――。
「気を悪くしたら、申し訳ないのですが……。天衣さんは、凄く普通な感じがします」
クラリスは実際に会うまで緊張していた。
ショウはテレビで凶悪で冷酷だと報道され、実際にこの一ヵ月間で人を三百人以上は殺している人物だ。
少し機嫌を損ねれば、多少痛めつけられるかも知れない。
そうクラリスは不安になり、心臓が締め付けられる様な感覚でショウに挨拶したのだ。
だが彼はSNSの噂通り、気さくで優しい人に見える。
テレビの報道とは違い、SNSでは食べ歩きして、会う人と気さくに挨拶したり、一緒に写真を取るなど、柔和な印象だった。
実際に話してみて、テレビよりSNSの印象が正しかったと安心して、クラリスは少しずつ緊張を解いている。
「……よく言われます」
今は将棋の最中であり、次の手を考えながら、ショウは苦笑した。その態度は会話にあまり興味はなさそうで、目の前のゲームに集中が偏っている。
「何故それだけ強いのに、傲慢な態度一つせず……、礼儀正しいのか……。あまり理解ができないというか……」
クラリスは言葉の選択に迷っている様だ。何せ相手は世界最強のテイマーと噂される人物。あまり馴れ馴れしい事を言っても、機嫌を損ねるかも知れない。
「僕みたいな馬鹿が偉そうな態度しても、育ちが悪いと思われるだけなんで……」
肩を竦め、頬を掻く。謙遜ではなく本音としてショウは言っていた。
彼は大して強い事に価値を見出していない。前世でも同じだった。偉そうな態度の格闘家を動画で観た時は、思わず鼻で笑っていた。
それは今も変わらないらしい。たかが、喧嘩が強いだけ。彼は自分が偉いだなんて全く思わず生活している。
「…………。天衣さんは決して馬鹿という訳ではないと思いますが……。少し喋っただけでも、何となく理知的な印象はありますよ」
ゲームでクラリスは、頭脳だけなら作中一だと設定されていた。そんな彼女から見て殆どの者は、知性が非常に乏しい存在だ。
話をしていても、論点がズレる者ばかり。話を聞いてあげても、どうでもいい浅い理屈を並べられるだけで酷く退屈。
当然、ショウも例外ではない。ただ話が通じないほど馬鹿ではないと言う意味では、クラリスからすれば及第点らしい。
「正直、真ん中より上だと思っています。ただ上には上がいるんで……。頭の良い人に、自分が偉そうに喋る姿を見られたら……、少し恥ずかしいです……」
ショウは勿論ゲームの設定を熟知しており、クラリスの本性や知性を知っている。だから彼女の前では、特に謙虚でありたいと思っていた。
彼女の前で横柄な態度を取っても、馬鹿を晒すだけ。無駄にプライドを持っても、疲れるだけだ。
「…………天衣さんは、上品な人ですね」
クラリスは知性で人を見下す事はあるが、決して他の魅力を否定する様な価値観ではない。寧ろ変に頭が良いより、ショウの様な謙虚さを持っている人を好ましく思っていた。
世の中、頭だけではなく性格まで悪い者ばかり。そういう意味で、落ち着いた態度と謙虚さを持つショウは、彼女にとって話しやすくて心地良かった。
「そりゃまぁ僕、育ちが良いんで」
軽く笑い、ショウが将棋の駒を掴む。
「あはは。それ、自分で言うんですね」
何気にショウみたいなタイプは初めてだったらしく、楽しそうにクラリスは笑う。エリカも冗談が多い方だが、ショウの場合は達観している印象が混ざっている。どこか見透かした様な。
とにかく彼女にとって独特な印象の少年だった。
「それに偉そうな態度や、他人を馬鹿にする行為は、リスクが高いと思うんですよ」
殆ど熟考せず、ショウは迷わず手を進める。
「…………? リスク、ですか?」
彼に比べて、クラリスは少し考え始める。話しながらも、段々と将棋に集中し始めた。
「賢い人って、性格悪い人が多いんで……。きっと周囲に『偉そうなわりに中身のない話してんな』とか、『自分も馬鹿の癖に、人を馬鹿にするなよ』とか絶対心の中で思ってますよね」
あえてショウは踏み込んだ、お前の本性を知っているぞと。
「…………。そういう人はいるかも知れませんね……」
少し気まずくて目を逸らす。クラリスは自覚している、他人を見下しがちな悪癖を。そしてショウが自分の性根の悪さに気づいている事も、何となく察した。
だが不快ではなかった。寧ろ、面白いとすら思った。彼女は自分を進んで理解しようとしてくれるショウに、妙な好感を抱く。
「僕の周りって賢い人が多かったんで、多分癖になっているんでしょうね。賢い人達から見た自分の姿がどう見えているのか。……自分一人馬鹿な状況で、偉そうに話すのは滑稽だと思いませんか?」
将棋での勝敗は決した。手を止めてショウは、隣の台に置かれたお茶を手に取る。
「…………」
クラリスやエリカだけではなく、アタルやヒイラギも黙って聞いていた。恐らくショウの言う賢い人というのが、シノンの事だろうと察していたからだ。
世間ではシノンは研究者として高い評価を受けている。だから彼女が賢いと思うのは当然であり、ショウが劣等感を抱いている事にも納得している。
「…………。ホント、貴方の発言は育ちの良さを感じますね……。何だか……、落ち着くというか……」
単なる謙虚ではなく、どこか達観した部分がショウにはあり、クラリスは少し評価を修正していた。
彼は自分自身を馬鹿だと言うが、実際はそれほどではないのだろう。頭の良し悪しは分からないが、有象無象の人よりは
親近感とも言うべきだろうか。いや、本質的にはクラリスとショウは真逆なのかもしれない。だがそれでも何か共感できるものがあった。
彼のコンプレックスが頭脳だとすれば、クラリスのコンプレックスは暴力だろう。
口には出さず誰にも打ち明けられなかっただけで、ショウと似た様な悩みを彼女も抱いていた。
自分がどれだけ優れた頭脳を持っていようと、弱者というだけで滑稽なだけなのではないかと。
事実として彼女は政治や経済において、国が豊かになる案を提示し、優れた結果を出していた。
だが、クラリスは巫女故に強いモンスターの使役を許されない。そして力を持たないが故に、実績を全て他人に奪われてきた。
結局、頭が良いだけで褒められるのは学生の時だけという事だろう。社会というのは知性より、他の才能が評価されやすい。
天才的頭脳を持つ彼女でさえ、暴力の前では屈するしかなく、評価を受ける機会すら奪われ続けた。
それを理解しているからこそ、クラリスは自分の発言や振る舞いに無力感を抱きながら生活していた。
故に目の前にいる最強が、自分と似た様な悩みを持っていた事に驚いたし、親近感を抱いてしまったのだ。
その気になれば世界すら敵に回せる強者が、自分と同じように劣等感や無力感を抱いている。自分が役に立たないと思っていた知性でも、彼は高く評価してくれていた。
「…………」
今まで遠い存在だと思っていた強いテイマーの偶像が、クラリスの中で砕ける様な感覚があり、他愛無い話のはずが何となく楽しく感じていた。
たった短い時間だが、シノンと同じくクラリスも本能的に彼を求めていた。上級回復薬で助けてくれた事も相俟って、彼女は無意識に心を許してしまう。
「――ですが、これだけ将棋で私を負かしておいて、自分は馬鹿ですってのは、ちょっとどうなんですか……?」
普通に完敗だった。パッと見では良い勝負だが、接待されていたのだろうと彼女は見抜いている。
「ショウが相手だから接待しただけだろ?」
アタルは逆にクラリスがショウを接待していたのではと疑っていた。彼女は頭脳明晰でプロ相手でも負けなしだと、ウィリアムから聞いている。
「いや、本気だよ。本気でやって負けてる……」
ヒイラギはそれなりの腕前であり、クラリスの後ろからずっと盤面を眺めていた。
「実際、頭の出来なら僕が完全敗北してますよ。ただ、こういうのはモンスターの育て方と同じです。持っている知識の量や質が物を言いますから」
ショウは別に思考力に自信はないが、記憶力はかなり良かった。興味さえあれば、読むだけで殆ど覚えられる。
瞬間的な閃き、判断能力ではクラリスに遠く及ばないショウだが、膨大な知識がある故に難なく対抗していた。
というか彼女が天才過ぎるが故に、打ち筋が逆に見覚えがあって読みやすい。ショウからすれば、既に答えを知っている問題を出されている状態なのだろう。
「確かに瞬間的な閃きというには、あまりにも洗練されてますからね……」
クラリスは呆れた様子で、盤面を眺めていた。初めての出来事だった。こんな簡単に敗北するなんて、自分でも信じられない。
確かに基本はエリカが相手で、様々な人と将棋を指す機会はなかった。だから経験不足なのは
それでもテイマーとしても負け、ボードゲームでさえ勝てないとは、情けないを通り越して屈辱だった。
しかもショウはジャスパーを率いて、長期的に考えれば治安を良くするだろう。そう考えると統治者としての才ですら負けている。
「ふむ……」
グルグルと視界が回り、呼吸は僅かに乱れる。自覚がないだけで鼓動は早まり、少しずつクラリスは発情していた――――が。
「――失礼するよ。天衣君。」
そこに襖を開けてウィリアムが入って来る。今厨房は人を減らしている故だろう。彼は先程の羽織袴を着ておらず、作務衣という和食店の料理人みたいな服装だった。
「夕食を用意したんでね。呼びに来たんだ」
ウィリアムとエリカが厨房に立ち、今まで料理していたのだろう。ゲームでは二人共料理が趣味という事もあり、腕は並みの専門職より上だと記載されていた。
「安心してくれ。ジャスパーだからと嫌がらせで唾を入れられていないか、そういう余計な心配はしなくていい。我々にも誇りがあるのでね。娘の傷を癒してくれた恩人に無礼な真似はする気はないよ。信用できないなら、好きな席に着いて並んでいる料理を食べてくれて構わないさ」
まだ警戒し緊張しているのか、ウィリアムの態度は少しぎこちない。
「大丈夫ですよ。貴方が娘思いで誠実な人だというのは、調査結果で確認済みなので。僕は何も疑っていません」
人前だと娘に厳しくて冷たいらしいが、僕にはゲーム知識があるのだ。彼が娘を溺愛している事実を隠蔽しようと筒抜けである。
「…………。恐ろしい情報網だね……、全く……」
ウィリアムは上手く隠していたつもりだったが、当然の様に言い当てられて肩を竦める。どこから入手した知識なのか不明だが、否定するのも不毛だ。
追及や言い逃れは諦め、「じゃあ、付いて来てくれ」と彼はため息交じりに踵を返すのであった。
〈あとがき〉
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