【ゲームのデータ】引き継ぎ! C級テイマーに転生! 作:BIBI
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ショウの自宅は天衣家の別邸故に、ゲームでも入れる仕様。だから僕は道に迷うことなく帰宅する事ができた。
無駄に広い敷地。庭を抜けた先の豪邸に入る。玄関も広く廊下も長く続く。幾つも広い部屋があり、自室までの距離が長い。
「兄さん。帰ってきたなら連絡してください」
シノンが僕の部屋で待ち伏せしていた。白シャツに黒いジャケット。短パン。身長は145センチ程度の小柄で、可愛いけど何となく生意気そうな顔立ち。ゲーム通り、服装は少し男勝りで、優等生感ある雰囲気を漂わせている。
「……シノン。何か用事?」
当然だが玄関に靴があったから普通に気づていたし、魔力で気配も感じていたから僕は何も驚かず、溜息を漏らす。背嚢を部屋の隅に置きながら尋ねた。
「…………! 機嫌が良いんですか? 私の名前を呼んでくれるだなんて……、6年振りですよね?」
随分と細かく覚えているものだ。シノンは当たり前の様に、兄に名前を呼んでもらえなくなった頃の事を記憶していた。
「まぁ確かに機嫌は良いかなぁ」
尾神アイリとも会えたことだし、僕の機嫌が良いのは間違いない。推しではないけど、好きなキャラではあったので普通に嬉しい。
「……何故、失踪していたのか教えて下さい」
キッチンに向かう僕を追いながら、シノンは質問を投げかける。
「……大した理由はないよ。単に強くなりたかっただけ。レベル上げだよ、レベル上げ」
振り返る事もせず、淡々と答える。今はまだ嘘を吐く気はない。
「…………。ろくにモンスターも連れず、危ない事をしますね……」
ゴソゴソと冷蔵庫や周囲に何があるのか確認している僕に視線を向け、シノンは溜息交じりに眉を顰めていた。
「実験していたからね、低級モンスターでも効率よく鍛えるタトゥーの」
あえてノウハウを渡そうと僕は考えていた。現代はランク至上主義。つまり低ランクのモンスターとテイマーは見下されている。
それを少し変える為、あえて妹にノウハウを伝授しようと考えていた。
「…………! 低級モンスターを効率よく……? …………それで、少しは成果は出ましたか……?」
興味が湧いたのか、少し驚いた様子で話題に食いつくシノン。恐らく母親から兄が怠惰だと嘘を教え込まれている彼女にとって、僕の言葉はある種の希望なのだろう。
彼女は何だかんだ昔、兄と仲が良かったのだ。自分に冷たくなり、怠惰で落ちぶれる兄を本当は嫌だと思っている。だから――。
「クラマル。出て来い」
僕はモンスターを見せる事にした。
「――――ッ!」
シノンは瞬時に怖気が走る。完全な不意を突かれた形だ。急に強力な気配を放つクラマルが、目の前に現れて反応が遅れる。
まさか兄のリングから、レベル40越えのモンスターが出てくると思わなかったのだろう。「…………」クラマルと目を合わせ、シノンは無言で固唾を呑む。
「にゃ?」
知らない人がいると、クラマルは怪訝そうに目を細め、ダッと駆けて僕の体によじ登っていく。僕の頭を抱き抱える様に、クラマルはしがみつき、シノンに視線を向ける。
「強いでしょ」
クラマルが邪魔で前が見えないので、僕はクラマルを抱き寄せ、抱き抱える。大人しくストンと腕に収まり、クラマルは欠伸をして頬擦りし始めた。どうやらシノンが敵ではないと理解したらしく、警戒心を解いている。
「…………。その……、クラマルはレベル70……、くらいですよね? ですが、レベル50辺りで必要な経験値は、理論上どのモンスターも急激に増えるはず……」
シノンはクラマルのレベルを推察しながら、かなり緊張していた。それは、仕方のないことだ言える。
飛び級で卒業し、テイマーの資格を得ているとはいえ、彼女はまだ駆け出し。それなりに鍛えてると言っても精々、レベル30程度だろう。
仮に戦うとしたら、僕のクラマルに勝てる道理なんて一切ない。
「この子は確かに平均的なレベル70程度の力はあるけど、実際はレベル50だよ」
ゴロゴロと喉を鳴らすクラマルを撫でながら言う。
「…………え?」
シノンは半歩下がり、信じられないという態度。少し大袈裟かも知れないが、動揺するのも無理はない。
「野良のモンスターは高レベルだとしても、大して強くないだろう? でも優れたテイマーが育てたモンスターは、低レベルでも強い。レベルアップする度に得られる力が多いからね」
そう当然の知識を振り返りつつ、「僕は最も優れたテイマーだから、当然モンスターは低レベルだろうと、めちゃくちゃ強く育つ。それだけの話だよ」と説明した。
「…………ッ」
モンスターのレベルアップ時で、能力上昇値が多い。それは優れたテイマーの証とも言える訳で、シノンが驚くのは当然だろう。
何せ彼女は幼い頃から、母親に兄はテイマーとしての才覚がないと刷り込まれ続けていたのだから。
「あの……、その力を、お母さんに教えない理由を、聞かせてもらえませんか……? 教えてさえいれば、お母さんもきっと兄さんを高く評価してくれたはずでは……?」
不安気な眼差しでシノンは提案する。彼女の考えは正しいかもしれない。両親は実力主義であり、テイマーとして高い資質を認めたら、僕に興味を示すだろうし、待遇も改善されるだろう。
「まだ教える気はないかなぁ。だって僕は法律を破って、テイマーの資格なしに他にもモンスターをテイムしている非行少年だしね。少し気不味いよ」
ここ日ノ国では、専門学校の卒業でテイマーの資格が得られる。まだ僕は卒業しておらずテイマーの資格を得られていない。
ネコマルみたいに愛玩モンスター指定されていれば話は別だが、僕は他にもモンスターをテイムしているのだ。見つかれば現行犯逮捕は確実である。
「その程度の話なら、他にもやっている人が大勢いますし、世間体としても問題ない範囲かと……」
案外優れたテイマーほど、我慢できず資格なしに鍛錬を始める物だ。シノンみたいに律儀にルールを守り、テイマーの道を歩む方が大多数とはいえ、そうじゃない人も珍しくないのが実情。
それに優れているテイマーなら、政府としても利用価値が高く一々小うるさく注意したがらないし、不起訴処分を軽く出してくれる事も多い。
シノンは良くない事だと思いつつも、ショウの行いにそこまで嫌悪感はなかった。
「見直して貰う事も、まぁ大切かもね。ただ、急ぐ必要もないよ。すぐ時間は経つ。卒業してから母親に実力を見せても、遅くはないよ。それに、少し研究したい事があるから、まだ実力は隠しておきたい」
建前だ。別に卒業まで実力を隠す気はない。というか、専門学校を卒業する気もない。僕の目標は〈世界大会〉の王者になる事ではなく、アイリをハッピーエンドに導く事。
金が欲しいなら、幾らでも手はあるのだ。たとえば、テイマー専門の飲食店を開く、ゲーム知識で希少なアイテム集め、色々と商売の広げ方はある。
「……研究ですか?」
僕が何の研究をするのか気になるのか、質問の答えを待つシノン。別に隠す必要はないので答えよう。というか、彼女には言う必要がある。
「〈低ランクモンスターの効率的な育成法〉と〈愛情補正〉について少しね……」
そう言いつつ、僕はクラマルを肩に乗せて再度、調理器具を探し始める。そして「にゃ……」クラマルは退屈そうに、僕の背中をモミモミと踏んで遊んでいた。
〈あとがき〉
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