【完結】転生者が権力とかでFF8とFF10のヒロインを食い散らかした挙句、最終的にスピラを救う話。 作:速射弾
デリングJr.がリノアによって異世界に飛ばされなかったその後の一幕というifの世界での番外編話です。
どちらかと言うと寝取りですが、NTR苦手な人は注意かも。
僕にはお父さんがいない。
僕がまだ小さい頃(と言ってもまだ自分は子供だけど……)に死んでしまったらしい。
お母さんは毎日お仕事が忙しいのか、あまり家に帰らず殆ど構ってもらえない。
代わりに面倒を見てくれているお爺ちゃんも、絵を描くのに忙しくて僕は毎日が退屈だった。
だからお爺ちゃんの絵にイタズラしたり、犬と遊んだりして暇を潰していた。
僕が住むこのドールという街は、穏やかで平和で僕にとっては少し退屈な街だ。
絵を描く合間、爺ちゃんは息抜きと気分転換をするために、よく散歩する。
毎日のように浜辺に来る女の子が居るらしい。
浜辺で寂しそうにしているのを見かねて、爺ちゃんがその子に話しかけたのが始まりだった。
僕とそんなに年が離れてないらしいその子は、向かいのパブのオーナーの娘で母親が居ないのだそうだ。
僕と同じように幼い頃に事故で親を失ってしまったらしい。
そんな共通点があり、爺ちゃんを伝って出会った僕たちは自然と普段から話す仲になっていった。
「ねー……やめといた方がいいよー」
「いーや、あーちすととして僕にはわかるっ。この絵には挑戦するという気持ちが足りないんだ!だから僕が書き加えてげーじつひんとして完成させてやるのだ」
「でもお爺さんの絵とっても上手だよ?」
「ちっ、ちっ、ちっ、上手いとか下手なんてのはあーちすとには重要じゃ無いんだぜ。どくそーせい?とかいうのが大事なんだよ。だからただ忠実に描いただけのあーちすとは2流なんだって」
お爺ちゃんの絵は実際の風景やモンスターをそのまま描いた物が多い。
素人はリアルに描かれたそれをありがたがるが、表現者としては何のために絵を描いているのかわからない。
上手に描くだけなら写真で良いのである(と雑誌にそう書いてあった)
そして彼女はそんな事もわからない素人だったので、僕のアート活動を止めようとしているのだった。
「えー……絶対怒られるよ。私知らないからね」
「傷つく事を恐れて何もできない。そんな風になっちゃあ、あーちすととして……お終いっ!」
「あっ!」
僕は大きなキャンパスに書かれたドールの風景画に白い骨を描き足した。
明らかに浮いているそれが“あくせんと”になってこの絵の味わいが増したのがわかる。
バレたら怒られるのは確実だろう。
だが、もうこのイタズラは何度もやってきたので怒られる事には慣れているのだ。
案の定爺が怒鳴り声を上げながらやってきた。
「こらーっ!何やっとるんじゃ!あ〜あ〜……もう……こんな事しおって……また修正しなきゃいかん……」
「それだから爺ちゃんはダメなんだ。見たままを描くだけじゃ本物のひょーげんしゃとは言えないもんね」
腕を組みながら何も分かってない爺ちゃんに教えてあげる。
こんな事ぐらい絵を書いているなら分かってて欲しいが、爺ちゃんも結構な歳なので時代の最先端についていけないのも仕方のない話かもしれない。
「これは仕事で注文されて描いとるから、余計な表現とかいらんのじゃが……。そんなに表現したいなら自分の絵に描けばええじゃろ……ほれ、これをやるからそっちで好きに描きなさい」
そう言って小さい真っ白なキャンバスを僕に渡してくる。
「それじゃ意味ねーじゃん! 僕はお爺ちゃんの絵に描きたいのっ」
「全く、口が減らんのぅ……」
「じゃあ私が描くからそれに描きなよ」
「えー、お前の下手な絵なんかじゃ、そーさくいよく?が湧かないんだよなー」
「さっき上手い下手関係ないって言ったじゃん!」
「いやー、上手い物を壊してこそ価値があるというか────」
「壊しとる自覚があるならやめんか!」
脇をくすぐられる。
爺は筋肉が衰えている為、力が弱いし殴ったりしたらポッキリと骨が折れてしまう。
なので拳骨では無く、こうしてこちょこちょで叱ってくるのだ。
そうして笑い死にしそうになるのが僕と爺ちゃんのお馴染みとなってしまった“こみゅにけーしょん”という奴だった。
そうして彼女は絵を始めた。
聞けば彼女は爺ちゃんの絵が好きなので、上手くなって僕の悪戯から守りたいらしい。
最初は下手だった彼女の絵は段々と上達していく。
それに伴い、僕も彼女の絵に落書きしたくなってきて……。
いつのまにか彼女の絵に、僕が書き足して一枚の絵が完成するようになっていた。
最初は爺ちゃんの絵を守るためだった彼女。
最初は寂しさから構って貰いたくてイタズラを始めた自分。
そんな僕達はいつしか二人で一つの作品を作る事の方が楽しくなり、それが目的になっていた。
彼女が絵を描いている間は暇だ。
その間、僕は一人で町を散策する。
絵に描いて欲しい場所を探したり、仲が良い近所の犬の散歩をしたり。
最近は少し遠くまで行けるようになって……なんだかワクワクする。
そんな天気の良い昼下がり……。僕は偶然にも街中で母親を見つけた。
母は知らない男の人に腕を絡ませて楽しそうに歩いていた。
なんだか嫌な予感がして、僕は母を呼び止める。
「お母さん!」
声に気付いた母が僕の方に振り返る。
何時も何があっても澄まして優しい笑顔を浮かべている筈のその顔は、珍しく驚いていた。
そんな母さんは、駆け寄った僕の事を隣に居た男の人に紹介する。
「こんな所で会うとは奇遇でした……。これは私の息子です」
「へぇーこの子が君の子供か〜可愛いね」
「そうでしょう。私の仕事の関係上少し寂しい思いをさせていますが、それでも元気に育ってくれている自慢の息子です」
外で会っても何時もの優しい母さんだ。
「俺はデリングJr.って言うんだ。よろしくな坊主。いやーすまん……今はちょーっとお前のママとお仕事の事で話があるからまた今度な、これやるからそこらへんの店で菓子でも買いな」
デリングJr.と名乗った男からお金を渡され、あしらわれる。
そのあからさまに厄介払いするような対応にムッとしつつも、受け取ったお金を確認する。
その額……なんと1000ギル。これだけあったらどれぐらいお菓子をたべられるだろう?
子供の僕は中々の高額に驚くが、今は正直お菓子よりも、もう少し母との関係性を詳しく聞きたかった。
しかし、仕事の話だと言われたら邪魔してはいけないと思ってしまい、食い下がる事無く黙って頷き諦める……。
多分、手を組んで歩いていた仕草からこの男性は母とお付き合いしているのだろうと……薄々感じている。
子供の自分でも何となくそれぐらい察する事ができた。
という事はもしかしてこの男の人は自分の新しい父親になるのかもしれない。
僕には父親が居ない。
だから新しく父という存在ができるのは喜ばしい。
でも同時に大好きなお母さんという存在を取られた気もして少し複雑だった。
思えば僕は母が普段何をしているのか詳しく知らない。
カードゲーム関係のお仕事に夢中なのを知っているぐらいで、どういう事をしているのか見たことは無かった。
僕は母さんの事が大好きだ。
カードゲームが強い母さんは僕に構ってくれない事を謝り、旅から帰って来るとレアカードをプレゼントしてくれる。
そのカード達は大事な母との絆であり、僕の大切な宝物だった。
母はカードゲームのために世界各国を渡り歩きながらルールを監視しているのだという。
幼い頃の自分にその意味は良くわからなかったが、とにかく人の為になる素晴らしいお仕事をしている事だけは分かったので、今まで家に居る時間が少ない事に文句を言ったりはしなかった。
本音を言えば寂しいし、帰ってきたと思ったらまた旅立つ母との別れ際には毎回泣いて爺ちゃんを困らせてしまう。
それでもまた帰ってきた時は見たこともないレアカードをプレゼントしてくれるし、美味しいお料理を作ってくれるし世界中の色んな話をしてくれたり一緒に寝たりして……その愛情を疑った事なんて一度も無い。
だからそんな自慢の母のお仕事がどんなものなのか気になって、ひっそりと後をついていった。
着いた先はこじんまりとしたお屋敷だった。
あまり大きく無いとはいえ一応お屋敷なので僕の住んでいる家より大きい。
柵に覆われたその屋敷へ入っていく二人を見た僕は、どうにかして見つからずに侵入できないかと考える。
流石に正門から堂々と行くのは無理だろう。
こういう時に今まで色々一人でウロウロした経験が役に立つ。
靴を脱いで柵を足の親指と人差し指で掴みながらスルスルと登り、侵入に成功した。あとはこちら側から靴を回収すれば完璧という訳だ。
我ながら上手いことやったと感心しながら屋敷の周りを散策。
2階のバルコニーの扉が開いているのを発見! 屋敷内へのを侵入はここからにしよう……!
僕は音を立てずなんとか壁や窓枠を伝い、そのバルコニーへと降り立つ事に成功した。
大人だったらこう上手くは行かなかっただろう。
体が小さい子供だけの特権である。
開け放たれた扉と窓に心地良い風が吹いて、カーテンをゆらゆらと揺らす。
その下で壁越しに僕は息を潜めた。
誰かの声がする……。
耳をすませると切なそうな女性の声が「あっ……あっ……」と聞こえてきた。
中で何が起こっているのか気になった僕は、バレないように注意しながら中をそーっと覗き込む。
その部屋の中では大きくてふかふかなベッドがあり、その上で大好きなお母さんが、先程の男と一緒に裸で抱き合いながらお股を擦り合わせていた。
何をしてるのか、よくわからなかった。
ただ、漠然と良くない事をしているのだけはわかる。
何故だかとてもショックで、視線はその場に釘付けになってしまう。
「俺のチンポ好き?」
「うんっ♡」
下品な質問に嬉しそうな返答を返す母さん。
そんな声色は今まで聞いた事がない。
……意味がわからない。男は下ネタやジョークでも言ったのだろうか?
良い年をした大人の口からチンポなんて言葉が母親に投げかけられる状況に混乱する。
もしかすると何時もの僕ならそれを聞いて笑ってしまったかもしれない。
でも今の僕は何故か笑う気持ちになれなかった。
「じゃあさっき会ったお前のガキと俺のチンポどっちが好き?」
「貴方のちんぽの方が好きですっ」
(えっ?)
即答だった。
耳を疑った。
僕の聞き間違いじゃなければ……もしかして自分とおちんちんを比べられた?
やっぱり冗談を言っているの? それにお母さんも冗談を言い返した?
なんとなくわかる……。多分……これは冗談でも何でもない。
急激に頭が冷えていく。そのかわりに僕の心臓は暴れ出した。
「うわっサイテーな女だ、あはは。じゃあカードゲームと俺のチンポは?」
「っ……カードゲームっ♡ カードゲームの方が好きっ♡ カードが一番っ……しゅきぃっ♡」
動く腰に併せてパンパンパンと音が鳴る。
何故だか音は鮮明に聞こえた。
「あーあ、カードに負けちゃったよ俺のチンポ、じゃあ息子は三番目なんだ。それは息子さん知ったらショックだよ〜可哀想だなぁ……」
「うふふ、息子は四番目っ♡ 三番目は貴方……♡」
聞きたくもないような酷いやりとりが目の前で繰り返される。
普段澄まして表情を変える事が無い母は、花が咲くような笑顔で男……デリングJr.に語りかける。
「うわっ……俺もチンポに負けちゃった。つーか俺と俺のチンポ分けて考えてんのかよ、流石カードゲーマー細けぇなぁ」
「イクぅっ♡」
「こいつカードゲーム絡めると直ぐイクきそうになるから本当ちょれーわ」
あははと軽薄な笑い声を響かせてデリングは、カクカクと動かしていた腰をピタッと止める。
そして再び最低な問いが母へと投げかけられた……。
「じゃあさぁ……イかせてやるからあのガキ捨てろって言ったらどうする?」
(え?)
心臓がバクバク鳴って止まらない。
(どうしてそんな事聞くんだよ……もうやめろよ……やめて……。聞きたく無い)
その思いとは裏腹に耳を塞ぐ事は出来ず、むしろ集中して声を拾おうとしてしまう。
────そして、母の口からとんでもない言葉を聞いた。
「あの子は要らないっ! 捨てるからせーし頂戴っ!!チンポで気持ち良くしてぇっ!!♡」
「だよな!オラっ!大好きなザーメン膣内に射精されてイけっ!!」
「うんっ!♡ うんっ!♡」
強く、強く、二人は抱き合う。
小刻みに震えながら歯を食いしばり、我慢しきれない吐息を気持ち良さそうな声と共に吐き出すのがわかった。
「大好き」という男と女の声にならない声が聞こえた気がする。
それを盗み見するだけの僕は、結局事が終わっても2人が何をしていたのか分からなかったし、理解したくもなくて……。
窓や扉は開かれて空気は循環しているはずなのに、部屋の中と外の温度差は真逆で……。
天気が良いのに肌寒く感じる僕は、この空間の中で圧倒的に仲間はずれであり────邪魔者だった。
楽しそうな話し声が聞こえる。
「あははっ捨てろってのはじょーだんだって、マジになんなよなぁ……あのガキが可哀想だろ。もっと愛してやれよ」
「子育てというのは、やってみると思いの外大変だったので……その……正直面倒に思ってしまって……」
ショックだった。
母よりも知らない男の方が僕の事を気にかけてくれている事実が。
母に裸でのしかかって最低な質問を繰り返していた最低な男よりも……大好きな母の方が最低な人間に思えて。
「今も育児放棄しているようなものです。母親としては失格かもしれませんね……。元々私に子育ては向いていないのかもしれません」
「でも、それで良いんだろ?」
「ええ、あの子と居るよりも貴方とカードの事だけ考えてる方が幸せですから……♡」
「お前みたいな女とは絶対結婚したくねぇわ……」
「結婚してなんて言いませんよ。こうしてたまに会ってくれるだけで十分です。……それに、わたしにはカードのルールを監視するという大切な使命がありますからね♡」
「ほんとカード好きだなお前」
「うふふ、貴方とのエッチも好きですよ? カードゲームの次に、ですけど♡」
それから2人の楽しげな会話の中に僕の話が出てくる事は無かった。
そしてまた少し話をして盛り上がったら、再び抱き合って先程の行為を繰り返す。
その場にいる事が居た堪れなくなった僕は、音を立てずにひっそりと来た道を戻り、暗い気分で家に帰ったのだった……。
なんだかとても惨めで魂が抜けたみたいだ。
数日経っても僕は元気が戻らなかった。
でも日常は何時もと変わらない。
仕事から帰ってきた母は、何事も無かったかのように何時もと同じ澄ました顔で薄らと微笑みを浮かべ。
僕の事を要らないと吐き捨てたその口で、何時も通り優しく接してくる。
爺さんはアトリエで絵を描いて、友達の女の子は浜辺で海を見ながら絵を描く。
近所の犬は散歩をせがみ、この平和な街で事件が起こる事も無い。
そう、世界は変わりない。変わったのは僕だけだ。
あれから……。
母さんから貰ったレアカードは僕にとって、何の価値も無い物のような気がしていた。
母さんが、珍しくドールに帰ってきた時に作ってくれる大好きだったお料理は……何の味もしなくなった。
何時もなら泣きじゃくりながら聞いていた筈の、旅立つ母の別れの挨拶を聞いても───悲しくなくなった。
そんな元気の無い僕を見かねたのか、既に幼馴染と言っていい間柄となった女の子が呼びに来た。
気晴らしだと連れて行かれた先は海岸だ。
2年前ぐらいにドールがガルバディアから戦争を吹っかけられた。
お陰で砂浜に戦闘兵器の大きな残骸が残っており、とっても邪魔だったのだが、既に撤去されて砂浜は綺麗な景色を取り戻している。
なんだか彼女と顔を合わせて話すのも久しぶりな気がする。
「ねぇ、最近元気無いってお爺さんから聞いたけどなにかあったの?」
「……あった」
「何があったのか……聞いてもいい?」
「…………」
何処からどこまで話せば良いんだろう。
そもそも家族である爺ちゃんにすら話してないのに、友達でしかない彼女に話して良いのかな。
躊躇したけど、正直な所、誰かに聞いてもらいたいかもしれない。
「この前聞いちゃったんだ……。お母さん……僕の事要らないんだってさ……」
「え……!?」
彼女は固まってしまって、なんて声をかけていいのかわからないらしい。
そりゃそうだよな……。
「で、でもさ!私はいらないなんて思わないよっ!多分お爺さんだってそうだよ!」
「ははっなんだそれ」
あまりにも必死に体を動かしながら力説する彼女。
慰めたいという気持ちはありがたいけど全然心に響かない。
「そ、それに……あーちすとは、傷つく事を恐れて何もできなくなったらおしまい!なんでしょっ?」
「……!」
それは僕が少し前、口から出まかせで適当に言ったイタズラの言い訳。
彼女は傍に持ってきていたバッグから小さめのキャンバスを取り出して押し付けてくる。
「描いてた絵、完成したよっ! ほら、仕上げしなきゃっ」
爺ちゃんに比べたら全然上手く無い絵。
でも2人で今まで色々描いて、最初の頃よりも少しは上手くなった絵。
この海岸の絵に僕は一本の白い骨を描く。
絵の中の世界から除け者にされているかのような、明らかに違和感のあるタッチ。
まるでそれはあの時、屋敷に居る母さんとあの男の世界で孤立していた自分みたい……。
最後に、小さく彼女のイニシャルがサインされている隣へと僕のイニシャルを書き込んだ。
その瞬間、さっきまでその骨を見て孤独を感じていた気持ちが晴れていくような気がした。
「今はまだ下手だけど、2人で描くとなんだかこの絵も上手く見える気がするんだ……えへへ」
照れながらそう言う彼女に僕は言った。
「げーじゅつかの絵は上手いとか下手とか関係無いんだぜ。だから……幾ら下手に見えても、もうこれは立派な作品なんだ」
「私達の作品……そうだねっ!」
「何にも解決してないけどさー……なんかよくわかんないけど、この絵見てたら元気出てきた気がする」
「うん!」
嬉しそうに頷くその女の子の顔を、素直に可愛いと思った。
「励ましてくれてありがとう」
「はーいどーいたしまして」
「お礼にだけどさ、僕に君の絵を描かせてよ」
「……私の絵? えーなんか恥ずかしいよ〜」
「あーちすととしての感覚がビビッと来たんだよ〜お願い」
「どうしてもぉ?」
「どうしても」
「しょうがないなぁ……めちゃくちゃ可愛く描いてくれるなら良いよ」
「うん、めちゃくちゃ可愛く描いてやる!」
「じゃー約束ね!」
「うん、約束!」
そうして僕は、本格的に絵の練習をして“アーティスト”の道を目指す事にした。
ショックや寂しさなんてもう感じてる暇は無い。
何時か彼女の顔をとびっきり綺麗に描けるようになる為に頑張らなくちゃいけないのだ。
そして、彼女と一緒にアーティストとして2人でやっていける日を夢見て────。
「最近元気が無かったのは、母さんが僕を嫌いで育てるのめんどくさいって話してる所を聞いちゃったからなんだ……」
あれから少し経って……ようやく僕は爺ちゃんに打ち明ける気になれた。
なんとなく、母が知らない男と裸で抱き合っていたって状況を報告するのはなんか気まずくて、それは言わないでおいたけど。
「なるほどのう……あれがそんな事をお前に対して思っとったのか……」
爺ちゃんは真剣な表情で溜め息を吐くとゆっくりと語り出した。
「お前の母親はわしの娘じゃ、我が子の事はよーくわかっておる。あれはカードに狂っておる。それはもう頭がおかしい娘だと昔から近所で評判だったもんじゃ」
「あれは仕事だとか使命だとか口では高尚な事を言っとるが、本当はただ夢中で好きな事をしたいだけじゃ」
「元々まともな子育てが出来るとは思えんかった。そもそも結婚して子供を作る事自体、わしは奇跡だと思っとったぞ」
「不本意ながらあの子は親として最低な事を息子に聞かせてしまったし、例え言ってしまった内容が嘘でそんな気持ちは更々無かったとしても、満足に子育て出来てはおらんのが現実であり事実……」
「だがのう……これはワシの親バカかもしれんが……。あやつが好きな事に捧げたい時間を削ってまで、好きじゃない息子の為に定期的に家に帰り、母親としての皮を被ろうとまで努力しているのだと……そう考えることは出来んか……?」
「本当に嫌いならわざわざ帰省してまで顔を合わせて良い母親を演じたり、狂う程好きなカードゲームのレアカードを渡そうなどとは思わんよ」
「元々自由奔放な娘じゃ。僅かな時間だけの家事や育児だとしてもストレスを感じない筈が無い。お前の親のような年齢の大人やワシみたいなお爺ちゃんにだって、たまには心に溜まったそれを吐き出したくなる事はあるんじゃ」
「勿論、隠れてお前に酷い事を言ってしまったのは事実じゃから嫌っても憎んでも構わんしそうなって当然じゃ……。ワシからもあんな娘に育ててしまって申し訳なく思う」
「じゃが……それだけで終わらせてしまうのは少々“あーちすと”としては勿体無くないかのう?」
「ここからはお前のお爺ちゃんではなく、ひとりのアーティストとして話すが……優れた芸術家が幼少期に受けたショックや環境、それらが独自の個性的な作品を生み出す土台となる事は往々にしてある」
「それに……お前にとってショッキングな言葉を吐いた母親の裏に潜む気持ちを本当に掴めたなら、それは芸術家としてのセンスを一歩高められるという事じゃ。捉え方によってはある意味チャンスと言える」
「人というのは誰もが色々な面を併せ持ってるもんじゃからのう。お前はよく一緒に遊んでいるあの女の子の絵を描きたいと言っておったが、ただ練習して画力を上げただけで本当に納得のいく物が出来上がると思っているのなら、それはアーティストとしてあまりにも志が低いと言わざるを得ん」
「故にお前は母親を芸術の踏み台として利用して見せろ。愛しのあの子の絵を真に完成させる為には、人の奥深さを知る事がまず第一歩じゃ」
「え?親子仲良くなって欲しくは無いのかって? どーでもええわいそんな事。お前の母はワシの娘じゃからどれぐらいネジが外れ取るかぐらいは知っとるわい。ん?……という事はあれの大元はワシという訳で……もしかしてあれの変な所はワシからの遺伝……?」
「まあ、こう見えてワシも人生を絵に捧げて陶酔したアーティストの端くれという事じゃな……。どうじゃ?今までお前に優しかったお爺ちゃんにも、こういう一面があると少しは分かったじゃろう?」
「人の片面だけを見て簡単に切り捨てるのは些か勿体ないぞ、我が孫よ……」
「え? 説教が長い? なんか偉そうに語って気持ち良くなってたワシが馬鹿みたい……」
人はさまざまな顔を持っているというのは、確かにそうなんだろうけど。
僕はまだそれを言葉で理解しても、実際に楽しめるほど大人な気持ちにはなれなかった。
普通に母の言っていた話には傷ついたし、まだその傷は癒えきっていない。
しかし、お爺ちゃんの説教のおかげで、そんな母ももしかしたら僕に愛情が無い訳じゃないのでは? という証拠が幾つか出てきた。
それの一つは僕が今までお母さんから貰ったレアカード達だ。
見たこともないモンスターが描かれた世界で一枚だけのレアカード。
急激に色褪せて価値が無くなってしまったかのように思えたそんなレアカード達は、実際には全く価値を失ってなどいなかった。
結局自分が色眼鏡で見てしまっていただけ。
それがわかっただけでも爺ちゃんに話を聞いてもらって良かったのだと思った。
幼馴染の彼女は良く海を見ている。
「海、好きなの?」
そう聞いた僕に彼女は答える。
「3歳の頃ね……私、海に落ちたんだって。それでママが私を助ける為に飛び込んでね……私の代わりの溺れて死んじゃったんだ」
「でもその時の私は死ぬって事の意味がわかんなくて……それからずっとママが帰ってくる気がして海を見てたの。そしたら海を見るのが癖になっちゃった」
「……そっか」
正直言ってなんて答えれば良いのかわからなかったので、それだけしか言葉が出てこなかった。
この前僕が落ち込んでいる時に、色々必死に声をかけて励ましてくれた彼女の行動は凄かったんだなぁと思う。
「まあ、私が小さい時の事だから殆ど覚えてないし、今はそこまでショックでも無いんだけどね〜」
これもある。
本人があまり暗い気持ちで居るわけでも無いから慰めるというのもなんか違う気がして、逆に何を言えば良いのか困ったのだ。
「それに昔はママが居なくて寂しかったけど、今は君と一緒に遊べば良いだけだし」
「そうだね……!」
そんな彼女の言葉がむず痒い……でも嬉しい。
何故か立場が逆転して無意味に自分が励まされてしまったみたいだった。
でも、彼女のそういう前向きな所は正直ありがたい。
だって正直、過去の事をグチグチと考えたって仕方ないし……。
アーティストは未来を見て最先端を走ってこそなのだ。
親の死すら跳ね除ける。そんなポジティブな人は僕のアーティスト活動の相棒として頼りになるし相応しいと思う。
しかしながらそんな彼女に対して悩み事がひとつあった。
そろそろ僕らも12歳。
海辺で夕陽に照らされる大人っぽさが出てきた彼女を見ると、なんだかドキドキするのが最近の僕の悩み事である。
普段からふとした事で意識してしまいドギマギさせられるので、僕は調子を狂わされていた。
どんどん可愛く美しくなっていく彼女。
肩口までだった髪は伸び、胸は膨らみ、スタイルはどんどん洗練されていく。
そして……今の僕にはわかる。あの時の母がしてた事……。
エッチ、性行為、セックス、交尾。さまざまな呼び方があるが意味は同じだ。
子作り。その果ては女性にとって人生を決定づける大事な大事な大事な大事な……。
その行為を、母を抱いていた男と楽しげに喋りながら行う、彼女の姿があった。
「は?」
なんであの男が出てくるんだよ?
なんでそいつと楽しそうに話しながら歩いてんだよ……。
ビーチの階段の影に二人で入って行き、あの男に尻を突き出す幼馴染。
それを階段の上から盗み見ている僕。
あの二人がどういう経緯でそうなったのかは分からない。
ただ……何がどうだったとしても、真下で行われている事実は変わらなかった。
僕は彼女が好きだった。
彼女も僕の事を好きだと思っていた。
そんな素振りだって見せてたじゃないか。
あの時赤らめた笑顔は嘘だったのか?
手を繋いだ帰り道は!?
僕達は今まで、小さな幸せを2人でコツコツ積み上げて来た筈だ!
そして彼女の絵が描けたらそれを渡して告白して、付き合って、キスをして……エッチな事だって分かち合って。
結婚して一緒に暮らして子供が出来て2人で仕事しながら幸せな日々経て年老いて孫が産まれて心を通じ合わせながら死ぬまで一緒に……生きていく物だと思っていた。
その為に努力だって怠らなかったはずなのに……。
今見た光景を何度も思い出す。
まるで恋をしていると描いてあるかのような、瞳が潤んで頬を赤らめた顔を僕じゃない男に見せる姿。
その口から紡がれた「おちんちん挿れてください」という下劣で品性の欠片も無い言葉。
まだこれから大人になるという段階の身体は男のペニスに貫かれ、乱暴に性処理道具として使われる。
その場限りの重みの無い愛してるという言葉に、容易く騙されて避妊もされずに精子を受け入れている彼女。
彼女の腰はカクカクと動き、情熱的にキスをする。そして……見たこともない美しい笑顔で笑った。
……なんでそこにいるのが僕じゃないんだ? おかしいだろ。
絵の練習をして来た意味は?
あの娘は僕を裏切ったの?
どうして、よりによってあの男なんだよ。
母に続いて幼馴染まで僕から奪っていくのか?
何も悪い事をしていないはずなのに、なんで自分がこんな目に?
これは本当に現実か?
頭がぐちゃぐちゃになって見えている世界がぐるぐると回り出す。
そして家に戻ってようやく正気を取り戻した。
ああ……そうだ……。彼女は大事な物を僕じゃなく、あの男に捧げた……。
僕たちは永遠にアーティストとして一緒にやっていくんじゃなかったのか?
芸術?作品?なんだそれ?
結局彼女はそんな事よりも女である事を優先したんだ。
親である前に女を選んだ僕の母と一緒だ。彼女は芸術家としての意識が浅くて僕の隣にふさわしくなかっただけ……。
…………嘘だ。
言葉をこねくり回して言い訳しても本当は僕がダメなんだ。
芸術家としての考えより男としての考えを優先させているのは僕の方だ。
2人で芸術家としてやっていく事に男女関係まで深める必要は無い。
そんな事はわかってるけど、どうしても裏切られた気になってしまうんだ……!
本当は僕があの娘とキスしたかった! 裸で抱き合ってエッチしたかった!
それをどうして簡単に他の男に捧げられるんだ!
どうして僕よりも知り合って浅い日数の男に、体と将来を委ねられるんだよ!
ああああああああっ!!!
それでも……僕は芸術家だった。
僕が描く彼女の絵はすっかり様変わりして…………美しい笑顔で最高の絵が完成した。
その顔は僕に見せなかったあの笑顔。
目に焼き付いて離れない赤らめた頬。
今まで何度も書いてきた絵と比べて、明らかに深みが増した素晴らしい絵だと自画自賛できる程だ。
僕は彼女のお陰で芸術家としての階段を更に一歩登った。
絵が完成した事でもう彼女の絵を描く必要は消えた。
その後も彼女とはよく絵を描いている。
2人のアート活動は昔のように彼女の描いた風景画に僕がワンポイント足して完成する形式に戻っていた。
しかし本当に彼女にワンポイントを足す事ができたのは僕じゃない。
あれから、あの男と会っている姿を見た事は無い。
幼馴染は時たま寂しそうな表情で、上の空になる事があるのは気のせいだろうか?
それを言わず内に秘めた彼女と、知っている事を隠したままの僕。
二人のアーティスト活動は悲しい程に好調だった。
時が経ち、僕達は何時しか付き合うようになって……デートをしてキスもしてエッチだってして。
その度にあの日見た光景が頭によぎる。
そして……僕らは結婚した。
勿論、僕はもう彼女が僕以外の男に身体を許していた事実を飲み込めるようになっていた。
人間誰しも何人かの異性と交際した経験があるなんて普通だ。
そんな当たり前を許容できなかった当時の僕が青かっただけ。
言わないのだって当たり前の事だ。
付き合ってもいない男に、わざわざ別の男と性行為に及んだ話をする方がどうかしてる。
ああ、でも。
プロポーズの言葉に感激して泣きながら笑った彼女。
子供が出来て笑顔で喜ぶ彼女。
その笑みは、あの時見た笑顔とは比べものにならない程に──────劣る。
あれから彼女があの男に見せた以上の笑顔を、まだ見ることはできていない。
性交も、あの時見た以上に必死に乱れている姿は引き出せた事は無い。
彼女にとって僕は妥協点なのだという意識が拭えない。
でも彼女は僕を愛してくれているし、僕も彼女の事を愛している。
それでも……それだけのハッピーエンド。
一読者の立場の自分目線としてはifの間話とか本編と関係無いし要らねーよ派なんですが、割と良く描けたのに展開のせいで没ネタのなったのでifとして上げました。
さっさと二部始めろよという話ですね、大人しく二部行きます。