※この作品はR-18です。

【完結】転生者が権力とかでFF8とFF10のヒロインを食い散らかした挙句、最終的にスピラを救う話。   作:速射弾

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FF10編 25話 保護者付き主人公という珍しい立場

 

 

その日、僕は夕食後に外の空気を吸いに行った。

たまたま偶然近くを通りかかった(など)という、見え透いた嘘でコンタクトを取ってきたシーモアを連れ、甲板に出る。

 

ここで海に身投げして行方不明にでもなれば、このストーカー男から逃れられるのだろうか?

なんて実行に移す気も更々無い事を考えながら、ストレス発散のために最近覚えたこの世界の煙管を吸った。

タバコ臭さや中毒症状は、エスナの応用や消臭スフィアで消せるから便利だ。

 

日が沈み、騒がしさが消えた世界で吸う一服は格別である。

 

後ろに控える監視役のシーモアさえ居なければ良いのだが、もうそれはどうしようもない。

この男の事はもう、ボディガードと割り切って付き合って行くしか無いのだ……。

 

そんな悲しい独白と共に煙を吐いたその時、僕の背後を陣取っていたそのストレス要因が何かに気付いた。

 

 

「おや? アーロン殿、こんな夜更けに如何なされましたか? 御仲間のユウナレスカ様は今此処には居られませんが。何か御用でも?」

 

御仲間……。

死人仲間か、それとも睨み合いを続けていた者同士で一括りにしたのか。どちらにしても、いちいち皮肉めいた言い回ししかできない奴だ。

 

「ああ、丁度甲板に出て行くお前達の姿を見かけてな……。言っておきたい事がある」

 

しかし、僕の前に現れたアーロンは、その程度で怒るほど未熟者では無いらしい。

シーモアに言い返す事も無く、平然と話を続けた。

 

「ユウナレスカ……今の俺には、アレがただの色ボケにしか見えん。だが奴は俺を……引いては歴代の大召喚士とガード達を間接的に殺し続けた張本人だ。そう簡単に疑念が晴れるならばお前達が差別を無くそうと努力する手間など、最初から存在しなかっただろう」

 

「ごもっともですね。それはそれとして、シーモアがこのような言い方をして誠に申し訳ない。彼はこういう奴なので……僕も苦労してますよ……」

 

最近のシーモアはプライベートで己を取り繕う事をやめてきていた。

慇懃無礼な言い回しで、いちいち皮肉を撒き散らすようになったこの男は、ストレスを溜めて行く僕と反比例するように伸び伸びと生きている。

そんな奴の被害者に謝罪するのも、僕の普段のお仕事だ。

お陰でマッチポンプのようにして僕の印象が良くなる事が多々あるので、これもシーモアの策略か何かなのかもしれない。

 

「お前達が何をしようとしているのか────それを知った今、この船から降りるという選択肢は無くなった。俺のすべき事はお前達の夢と似ているようで別の道だが、それでもジェクトに会うまではついて行かせてもらう。……話しておきたい事とはな、ティーダについてだ」

 

原作主人公君の話……?

これは割とアーロンは僕を信用してくれているという事だろうか。

また何時もの知らない所で知らないうちに株が上がってるパターンか?

変な崇められ方をするのは勘弁してほしい。最近それも結構ストレスだ。

 

「あいつのことは俺が親の代わりに見てきた。ジェクトに頼まれてな」

 

地平線の向こうを見ながら彼は話す。

 

「ティーダの母親は元々ブリッツの有名選手ジェクトの熱烈なファンだった……らしい。母親はザナルカンドからジェクトが消えた時、子供であるあいつを残して死ぬという形で夫の後を追った。

母親である前に女だったという事だろう。それが少し忍びなくてな。ジェクトとの約束もあるし、よく面倒を見ていたんだ」

 

「…………」

 

シーモアお前なに黙っちゃってんの?

目、瞑って空見上げてるけど、母親関係の悲しいエピソード聞いたら直ぐに絆される癖やめろよマジで。

 

それのせいでデリング様講演会のお悩み相談コーナーで、毎回お前の司会がぐだぐだになって、集まった民衆からイジられてるだろうが。

こっちとしては、何時お前が愛のあるイジりにブチギレて、やっぱ殺すわコイツらってならないか冷や冷やしてんだぞ……。

 

そんな僕の心持ちをつゆ知らず、アーロンはシリアスな語りを続けていた。

 

「だからという訳では無いが、俺にとってもある意味息子みたいな物だ。出来るだけでいい。あいつの事を見て気にかけてやってくれないか。

この話は、折を見て他の者達にも話しをしておくつもりだ。まずはこの集団のまとめ役に話しを付けて置いたほうがいいと思ってな……」

 

まあ、この集団の偉い立場と言っても、僕に出来る事なんてセックスぐらいだ。

表向きは上役という形ではあっても、怯えながら虚勢を張って過ごしているだけの男だよ僕は……。

完全に心が折れた悲しきセックスマシーン、それが今の僕さ。

笑ってやってくれ。

 

「本来ならばこのような事を頼む気は更々無かったんだが……。今のあいつ(ティーダ)は真実をいきなり知らされて少々心が不安定だ。もっと段階を踏んで教えて行くはずだったのだがな……。それも何処(どこ)ぞの誰かのせいでこのざまだ……」

 

本当だよな。

酷すぎる話に同情するよ。

何も考えず他人の秘密をばら撒いた何処ぞの誰かは、腹を切って詫びるべきだと思う。

お陰で死に行く者へのメンタルケアに奔走する事になったアーロン殿に合掌。

いや、合掌とかしてもエボン教の世界じゃ意味ないか……。

 

「重ね重ねお詫びを申し上げます。ウチのが本当に申し訳ない……。勿論その申し出は引き受けさせて頂きます。悪いのは此方の方なので……」

 

「ああ、よろしく頼みたい。思いの外短い時間になりそうだが、できれば……楽しい旅にしてやってくれないか……」

 

このおっさん、めちゃめちゃ保護者しててワロタ。

とか言ってられない程度には、僕も問題児の保護者でワロタ……。

あんま仲良くするつもりもないけど、お互いに大変ですね。

 

「ちょっ……やめろよアーロン! 頭上げろって……恥ずかしいだろ! それに俺ももうそんなことされるほど子供じゃ無いって!」

 

物陰から焦った様子でティーダが出てきた。

おやおや、これはこれは、ジェクトさん家のお坊ちゃんではありませんか。

テメェ盗み聞きしてやがったのか。

躾のなってねぇガキだなおい、誰だぁ? この髪の毛染めた礼儀知らずを育てた奴は?

クンクン……。グラサンの匂いがする……。

ワキ毛を綺麗に処理したグラサン爺の加齢臭と死臭がするなぁ?

 

「子供じゃない……か。『俺からしてみればまだまだガキだ』ジェクトならそう言っただろうな」

「親父の意見はもう良いって……」

「ふっ……」

 

親父ね……。

親父の意見はもう良い……なんて思った事ないな。

尊敬する父親だったからかなぁ……。パパ、今頃どうしてるんだろう。

 

アンニュイな気持ちで黄昏ながら二人のじゃれあいを聞いていると、シーモアが彼らに話かけた。

 

「アーロン殿も君も仲がよろしいのですね」

「シーモア、何か言いたい事でもあんのかよ……あとなんか気色悪いから“君”って呼ぶはやめろ、俺にはちゃんとティーダっていう名前があるんだよ」

 

やはりティーダからのシーモアへの印象は最悪みたいだった。

然もありなん。

 

「……私は感情に身を任せて君に酷い事を言った。許してくれ」

 

し、シーモア、お前って他人に謝れたんだ……。

珍しく偉いじゃないか。

……まぁ、そのガキに謝る前に、日頃苦労をかけている僕に対してまず言うべき事があると思うけど……。

 

「だから……何かお前からそう呼ばれるのは嫌だからやめてくれよ。ユウナと同じように呼ばれたら鳥肌が立つからさぁ……」

 

「シンを倒す道を示してくれる“君”の存在には感謝してると言っているんだ」

 

「あっ、分かった! さっきからずっと嫌味だろ。からかってんだな!? 感謝されてる気がしねーっスよ!」

 

捻くれた嫌味のような絡みつき方だが、この男が本当に何も思っていないなら、綺麗な顔を取り繕って申し訳なさそうに頭を下げていただろう。

そこらの一般スピラ人に対してするような対応で……。

それをせずにこうして嫌味を垂れ流しながらも、誰かに謝る姿を僕は初めて目にする。

 

「精々スピラのためにその命を費やしてくれるとたすかるよ」

 

「なんだよ、腹立つなぁ……そんな言い方する事無いだろ。デリングも何か言ってやってくれよ……ってなんだよその顔!白目剥いてるぞ、船酔いしたのか!?」

 

ちげーよ。

お前がせっかく素を出して謝ってるシーモアに、平気で突っかかって行くから怖いんだよ。

そんな所に僕を巻き込もうとしてるから勘弁してほしいんだよ!

コイツがどれだけ強くてやばい思想の持ち主なのか知らないから良いよな。

平気でなんでも言えてさ。

 

「シーモアも、ある意味君と同じなんだよ、ティーダ……」

 

僕はまだ全てを理解しきれている訳じゃない彼に教えてあげる。

ここ最近、僕は特にシーモアを恐れていた。

それは以前からもそうだったのだが、この船に乗ってからは特に……。

 

「俺と同じ? 何がだよ。 もしかして、夢のザナルカンドから来たって事か?」

 

「違う、私は貴様と違って夢の存在では無い」

 

そう、彼自身が言う通り、シーモアは夢の存在では無い。

では何故僕がティーダと同じだと言ったのか……それは。

 

「シーモアも、ティーダと同じで『シン』を倒したその時は、消える運命なんだ……」

 

そう、エボンとアルベドの力を合わせた討伐作戦が成就した暁には、シーモアは究極召喚が『シン』になるという衝撃で死ぬ。

僕が恐れている理由はそこだ。

 

まだ『シン』を倒す気など無く、ただ戦力補強の為だけにジスカルの究極召喚をその手中に収めた彼は、莫大な力と共に多大なリスクを手に入れた。

それは彼が想定していた差別への抵抗活動をするだけならば良かっただろう。

シーモアは元々『シン』を早急に倒す気など更々無かったのは、彼からの話で知っていた。

 

出来るだけ反差別運動の体制を整えてから、『シン』を討伐する気だったようだ。

どの道召喚士という者達の行為そのものに意味が無いのなら、討伐は現状を少しでも良くしつつ、着実に『シン』を倒せる方法を模索してからで良い。

 

シーモアの語っていた想定では、それが10年20年……いや、もっと時間がかかるだろうと踏んでいた。

その間は召喚士の巡礼を規制して、ガガゼド山から先への巡礼を止める手筈だったらしい。

『シン』を倒す為に動けるようになる日がどれだけ先になるかは分からないが、自分の寿命の尽きる内に方法が見つかるならばこの1000年、スピラは苦しんではいないだろう……と。

故にそれを押し通す為に、エボン教を相手取る純粋な武力として究極召喚を有効利用出来ると考えた訳だ。

 

だが────僕の原作知識を流用した『シン』討伐作戦が、彼の計画の全てを狂わせた。

 

彼は、口では「夢を追いかけたい」だの、「召喚士が死なずに済む方法を見つけるだの」と言っていたが、

究極召喚を使わずに『シン』を倒す作戦が、こんなにも早いうちから考案されているとは……流石に想定外だったらしい。

 

おあつらえむきに全ての準備が整い、最早今のシーモアは逃げられない生贄の祭壇に掲げられた状態。

究極召喚という悪魔の契約にサインしてしまった事が、彼にとって逃れられぬ死の枷になってしまっていた。

 

 

僕としてはこの男が死んでくれるならば、大大大歓迎だが。

自棄になってしまった人間が何を仕出かすのかがわからない以上、例え僕に友情を感じてその考えの全てを晒してくれるようになったとしても、安心して隣に居られる筈も無い。

 

仮にシーモアは死んだ所で、原作のように死人と化して蘇ってくる可能性は多いにある。

ただ……可能性が高いというだけで、死人になるというのはそんなに簡単に起こる事じゃ無い筈だし、確率は未知数だろう。

それに、その可能性を強く想像出来るのは、僕が原作というif(もしも)を見ているからだ。

彼自身は、己が死人になり得る事をどれだけ真面目に想定できるだろうか?

僕ならば、そんな小数点以下の確率で盗めるみたいな情報に、信頼を置く事などできはしない……。

 

 

 

今はまだ、この(シーモア)は自棄になっては居ない。

シーモアは己が死ぬ事に気づいたその時は、彼はただただ苦笑するばかりで「これも己の決めた選択の結果か……」とか「あの時、私が本当に無限の可能性を信じきれていたならば、究極召喚に頼ろう等と思っていなかったのでしょうね」とか言いながら自嘲の笑みを浮かべているだけだった。

同時に、彼は想定を上回った僕を称賛し、それが心底嬉しいと言った……。

 

だからこそ僕は彼の言う「差別をどうにかしよう」という無茶な方針に全乗っかりして、身を粉にして働いているのもある。

贖罪の気持ちは全くないし、自分は何も悪い事をしていない。

 

勝手にシーモアが原作から逸脱した行動を取って、そのツケが何故か彼自身と僕に回って来ているだけだ。

だが、逆恨みされかねないだろうな、とも思っている。

 

そもそも『シン』を倒せる策があるならば出来得る限り早急に倒しに行く事は、スピラ人間の考え方として当然だ。

 

それが彼の当初想定していた、“動き方”に相反する物であっただけ。

今、僕がこうしてシーモアをフォローしているのも、彼という何時爆発してもおかしくない活火山を鎮める為に、せめてもの祈りを捧げている状態という事である。

 

 

僕の簡易的な説明でシーモアが死の宣告を付けられている状態だと知ったティーダは、それが予想外だったのか、当惑して言葉が上手く出てこないみたいだった。

 

「まさか、お前が既に究極召喚を手にしている召喚士だったとはな……」

 

困惑が隠せないアーロンも複雑そうな表情で、何やら気落ちしていた。

 

「お気遣いなく。私は既にその事については納得済みです」

 

しかし、シーモアはけろっとした雰囲気で肯定する。それがまた僕にとっては恐ろしい。

 

「ですが、私がティーダ殿にこうも言いたくなる理由はおそらく……覚悟が決まっていない“もしも”の自分を見ている様で見苦しいのでしょう」

 

そうだったのか……。

てっきりデフォでネッチョリした嫌味ったらしい性格だから、原作主人公と剃りが合わないだけだと思ってたよ。

てか、よく考えたらアーロンとかにも皮肉ったりしてるから、性格クソなのは間違いないか……。

あぶね、一瞬こんなやつに騙されそうだった。やっぱクソなだけだわこいつ。

 

「覚悟、決まる訳ねぇだろ……だって死ぬんだぜ……。知りもしない世界に連れてこられてさ、そんで、俺は実体の無い夢だーなんて言われて。逆に聞きたいよ、シーモアは何でそんなに平然としてられるんだ……」

 

ティーダの言う事は、僕も聞きたい話だった。

聞きたいけど、聞けない事だ。

召喚士は死にに行くのが仕事。「死ぬと知って居ても応援して欲しい」等と、僕は散々言ってきたし、彼の隣でも街の人達に向けて演説して来た。

 

でも、本当は真剣に捉えてないだけで、死ぬ事を想定した覚悟なんて小指の先ほども無い。

これがシーモアじゃなくて、ユウナが死ぬ。なんて状態だったなら……僕は無様に泣き喚いて『シン』を倒すのは止めようなんて言っていた筈だ。

 

 

「デリング殿を信じているからです」

 

満月の薄明かりが照らし出す夜の甲板で……。

一寸の曇りも無いシーモアのガンギマリスマイルは、闇夜の陰影をものともせずハッキリと視認できる。

まるでそれは満月に照らされて聖なる光を伴っているようにも見えた。

 

「死にゆく私が信じる(デリングJr.)を貴方も信じて見ませんか?」

 

ひぃぃぃい……気持ち悪いっ!

 

「お、おう。デリングはめっちゃ嫌そうな顔してるけど……お前、それで良いのか?」

 

何いきなり話かけて来てるわけ?

気狂いからの逃げ道として僕を使おうとするなよティーダ。

 

「ははは、我が友は変に照れ屋な所があるのです。自分が崇められるのが少々気恥ずかしいみたいですよ」

 

「照れ屋があんな数の女の子侍らせるかっつーの」

 

「自らが崇められるのが嫌い……か。ブラスカ様も似たような御人だったな。その点に関してだけは信じてやっても良いかもしれん」

 

「僕を慕い信じてくれる者がすくわれるのは、足元だけ……なんて事にならないよう頑張りたいですね……」

 

「なるほど、教えを信じてブラスカ様もジェクトも失ってしまった俺に刺さる良い言葉だ」

 

図らずしも僕が言った言葉でアーロンさんの地雷を踏んでしまった。

そういうつもりで言ったんじゃないんや……。睨まないでくれないか。

 

「なんだよ、結局信じるのが正解なのか、信じないのが正解なのか、どっちなんだよ……」

 

原作主人公も色々悩みがあって大変だーね。

僕は付いてきてくれるなら信じても信じなくてもどっちでも良いけど。

 

「何も今すぐ答えを出す必要もあるまい」

 

「そうです、今すぐ信じようとする必要はありません。そのうち自然と信じられるようになっていると思いますよ」

 

アーロンさんは、そういう意味で言った訳じゃ無いと思う……。

相変わらず気色の悪い独自解釈で意見を捻じ曲げたシーモアは続けた。

 

「例え死んでも良いではありませんか。その後の世界にデリング殿が平和さえもたらしてくれるのであるならば、私は死をも厭わない。その後の世界を見る事が出来ないのは少し残念ですが、きっと我が親友ならばやり遂げてくれると……今の私は信じておりますので」

 

とりあえず僕を殺そうという気は今の所無いと知れてよかった。

今後、心代わりしない事を願うよ……。

 

「まぁ、シーモアが俺と違うって事はわかったよ。いずれ来る未来が似てても、お前みたいな考え方は出来ない。なら今は……とにかく全力で旅を楽しむだけッス!」

 

そう言うと、むしゃくしゃしていた気持ちを振り払うように、ティーダは月が浮かぶ夜の海へと飛び込んだ。

自由な泳ぎでイルカのように海を跳ね回りながら月光に照らされた彼は……勢いよく宙を舞い、ブリッツボール選手でも中々出来ないような、アクロバティックな捻りを加えた動きで甲板へと舞い戻って来る。

その動きは大会で見せていた必殺シュートと同じ物で……幾度となく練習した事が伺える洗練された技だった。

 

彼の悩みは何にも解消されていない。

だが、犬のように頭を奮って水を弾いたその顔は、どこか晴れ晴れとしていた。

 

「能天気なのは構いませんが、塩水が飛び散って汚いので、向こうでやってくれますか?」

 

「アッハ! 悪い悪い。でもそれなら、俺に対する嫌味ったらしい言い方も辞めてくれよな!」

 

辛辣な対応にめげず、平気で青い狂信者に楯突いて行く原作主人公は、僕よりも余程眩しいのではなかろうか?

だからシーモアも僕からそっちへ乗り換えてくれ。

頼むから僕を巻き込まず、そうやってお前らだけで言い合ってて欲しい。

同じ死に行く“御仲間”だろ?

 

「ふっ……相変わらず元気な奴だ……俺の服も濡れたな。子供に夜の海は危険だ、海水浴なら日が出ている頃にやれ」

 

「あっ、アーロンまで! 2体1はズリぃだろ……ならこっちはデリングに加勢して貰うからな!」

 

僕は飛び散ってきた海水と、ティーダのせいで顔の真ん中にへばりついた小さな海藻を拭い取りながら、首を振ってそれを断った。

 

「あ〜……わり」

 

申し訳なさそうに後頭部を掻きながら謝るティーダ。

その姿を見たアーロンとシーモアの笑い声が夜の甲板にこだまする。

 

たったの数時間で仲良くなりすぎだろ貴様ら……。

 

 

それを邪魔しないように、遠く海の中から『シン』の瞳が此方を眺めていた。

僕は月夜に照らされる海面から、わずかに盛り上がった背鰭(せびれ)に気がついたのだ。

そんな僕を見ていたシーモアが違和感に気づいたのか、ナチュラルに視線の先を確認するというストーカー地味た真似をして言う。

 

「ジェクト殿も来ていますね」

 

思わず振り返ったティーダとアーロンは、その遠くの方にわずかに浮かんだシルエットを見て、しみじみと呟く。

 

「アレ、親父……なんだよな?」

 

「ああ……」

 

アーロンは、地平線の向こう潜む化物の影を眺めながら静かに頷いた。

 

「夜だからかもしれないけど、全然気づかなかった……。アレ、本当に襲って来る気が無いんだな……」

 

「此方から手を出すまでは襲って来る事はないだろう。それも奴の意識が残って居られる間だろうがな」

 

「なぁ、アーロン。親父も究極召喚になって死んだって事はさ。今の俺と同じ感じだったのかな?」

 

「ジェクトは……そうだな、最初は何も知らなかった。究極召喚でガードが死ぬ事を知ったのだって旅の最後の方だ。だから、お前とは少し状況が違う」

 

「でも、結局……スピラの為に死ぬ事を選んだ、んだよな……」

 

僕はさっきのやり取りでストレス値上がったから、煙草を吸う事にした。

これ吸い終わったら部屋戻ろうかななんて思いながら話を流し聞きしていると、シーモアが何やら彼等に提案していた。

 

「そんなに気になるのでしたら、ジェクト殿の残していった数々の映像スフィアをご覧になられてみては如何です?」

 

「親父はそんなもん残してたのか……。あれがカメラマンって面かよ」

 

「あのスフィアは、ジェクトがお前の為に残していった物だ。デリングやシーモアにあらかた回収されてしまったらしいが……本来ならばお前が見てこその物だろう」

 

「分かった。んじゃあさ……後で良いから見せてくれよ。俺がどういう気持ちで旅すれば良いのかっていう手がかりになるかもしれない」

 

どうやら旅の寄り道先が一つ増える事になったらしい。

ティーダにこのまま逃げられても困るので、ジェクトに対する好感度上昇イベントはやっておいて損は無いのだろう。

僕としても、近頃の若い者に父親という存在への尊敬の念を思い出させる事はやぶさかでは無かった。

 

父親にこうして直接見守って貰えているだけでも、贅沢な話だ。

今頃、尊敬するデリングパパはどうしてるかな。

飯とかちゃんと食ってんのかな……。魔女になったリノアにぶち殺されてなければ良いけど……はぁ……。

 

父親、親父、パパ、そんな存在も色々な形があるのだなと思う。

そして、僕はこれから自分の義父(オヤジ)になるであろう人に、会いに行っているのだという事実を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

我々デリングJr.御一行の乗る船は、遂にシドの乗る船と合流した。

手始めにリュックが向こうの船に渡って、あらましを聞かせてから来るとの事。

そうして、彼女を連れて出て来たシドは第一声で大声を上げて、隣り合った向こうの船の上から僕を怒鳴りつけた。

 

「テメェ! デリング! 娘に手ぇ出しやがったな!!」

 

茹で蛸の様に顔を真っ赤にさせたハゲが、他の人間の静止を振り切って船内から這い出して来る。

申し訳ないと思っているのか思っていないのか分からないぐらい、軽いテンションでリュックが謝ってきた。

 

「あはは……あたしデリりんと結婚するって言っちゃった……。いやぁ……つい、自慢したくなって……えへへ〜……」

 

「えへへじゃねぇよ! 何歳だと思ってやがる! この馬鹿ちんが!」

 

シドの拳骨がリュックの頭部に炸裂した。

これほどハッキリとした体罰というのを見るのは久しぶりかもしれない。

驚嘆するほどに見事な拳骨だ。

 

「痛った〜! 何すんのさ、このオヤジ〜……!」

 

「お父様、だろうがっ!」

 

「べーっだ。もう私は15歳で大人の女になったんだもんねー。言葉も覚えたし、ちょっと見聞を広める旅に出るから邪魔しないでねクソ親父」

 

「15歳はまだガキだ!」

 

「ガキじゃ無くて立派な乙女だよ〜だ」

 

リュックはそう言い放つと、逃げるようにしてこちらの船に飛び乗ってくる。

 

「見聞を広めるって……その歳にしては難しい言葉を知ってるのね」

「へへ……でしょ〜?」

 

ルールーと呑気な会話をしている彼女に向かって、船の向こうからシドの怒鳴り声が聞こえた。

 

「コラッ! 俺はまだ許してねぇぞ! 戻ってきやがれ!」

「戻りませーん。お尻ぺんぺーん」

 

実の親に向けて尻を向けたリュックは、子供みたいな挑発を繰り出して煽りを決める。

それは単細胞のシドにクリティカルヒットした。

 

「待てっクソガキぃ!」

「キャハハ! クソ親父に育てられたんならそりゃクソガキになるよねぇ〜」

 

遂には船に乗り込んで来たシドは、大人気なく甲板の上で追いかけっこを始めてしまう。

この親にしてこの子あり、といったところか。

結局船内に逃げられたシドは、娘を捕らえる事を一旦諦め、僕に向き直ってドスの効いた声で言った。

 

「娘と結婚だぁ……? テメェ、くだらねぇ言い訳しやがったら許さねぇからな……」

 

「お待ち下さい、お義父様。シド殿とお見受けられますが、少々お話をよろしいでしょうか」

 

そう割り込んで来たのは僕の護衛官の1人であらせられるシーモアだ。

 

「お父様と呼べとはリュックに言ったが、テメェに言われる筋合いはねぇよ! というか誰だよっ!」

 

比喩ではなく、本当にお義父様と呼ばれる筋合いが無い相手だ。

しかしシーモアは僕の保護者気取りな所がある為、このように平気で人生に関する事柄に口を挟んでくるのだ。

僕の義理の家族だとか思っていても不思議では無いが故に、リュックと僕が結婚するにあたって、シドの事を本当に遠縁の義理の父だと思って居てもおかしくはない……。

 

キモすぎる……。

 

 

「これは失礼致しました。(わたくし)シーモア=グアドと申す者です。エボン寺院の老師の位を賜わらせて頂いております」

「なんだとぉ…。エボンの老師だか何だか知らねぇが、とにかく! リュックとの結婚は認めん。アルベドへの差別でアイツが傷つくからな……」

 

ただ強情になっているだけじゃなく、キチンとした娘を思いやる理由があったらしい。

だが、そこにシーモアが食ってかかった。

 

「シド殿のお気持ち。良く分かります。今までエボンが行って来たアルベドの民達への迫害をリュックさんに味わわせたくないというのは当然の話でしょう」

「良くもまぁ……ぬけぬけと他人事みたいに言えるもんだぜ、寺院の老師の癖してよぉ。今までどれだけの仲間がテメェらのせいで酷い目に遭って来たと思ってやがる!」

 

一つの部族をまとめる国家の代表とは思えない態度のシドだったが、こんな風に公の場でストレートな怒りを露わにできる事が認められている要因なのかもしれないと思った。

僕やシーモアに欠けている部分かもしれない。

 

「それはもう。とても沢山の悲劇が生まれた事でしょう。私もアルベド族の皆さん程ではありませんが、迫害を受けた経験があるのでわかります」

「…………何だよ。よく見たらその顔つき……グアドとヒトの(あい)の子かよ。ちっ、んな事言われたらやりづれぇじゃねぇか」

 

シーモアが被差別民からウケの良い理由がここにある。

僕だけが出向いていたなら、ここまで短期間で各部族の人間達の心に入り込む事など出来なかっただろう。

 

「私達エボン教は、差別根絶への取り組みとして、アルベドの民達に対する謝罪をする用意があります」

「んだよ、謝罪なんて貰っても、どうせアルベドに対しては口だけだろうが」

 

そんなシドの吐き捨てるような疑念は最もだったが、シーモアがそんな事を想定していない筈が無い。

 

「当然、誠意を見せる必要性はあると思っております。これまでエボン寺院、並びにエボンの民の行って来た迫害の事実を公の場で謝罪し、エボン教その物を解体する所存です」

 

「はぁ!? 何だよそりゃ……!? 謝罪は当然だけどよ、解体って……い、幾ら何でもやりすぎだろっ! 何考えてんだ!」

 

「考えている事といえば、世の中を良くする為の取り組み……でしょうか?」

 

「エボン教は大嫌(だいきれ)ぇだが、流石に無くしたら世の中が滅茶苦茶になることぐらい分かんだろうが……!」

 

どれだけの人間がエボンの教えに救われているのか。

シドのような庶民派族長でも流石にそれぐらいはわかるようだ。

 

「でしょうね。……なので、代わりに新しく教義を一新した宗教へとエボン教そのものを改宗します。

例えば……そう、ここに居るデリング殿を偶像として祀りあげたデリング教というのは如何でしょう?

リュックさんが彼の妻になられるので有れば、アルベドの方々にとっても悪い話では無いと思われますが」

 

「うぬぬぬ……。そんな事出来るわけねぇじゃねぇか! 第一、他のエボン教徒が許しゃあしねぇよ!」

 

「既にエボン教上層部ではこの話は好意的に捉えられており、反対意見は今の所存在しておりません。そして、デリング殿は一般の教徒の方々からも厚い信頼を寄せられており、その反発はそこまで強く無いのでは?というのが我々の予想です。

無論、今後更なる支持を民衆から得る事が出来るかもしれません。その為と言っては何ですが、丁度我々が共同で行う作戦はおあつらえ向きと言えるでしょう」

 

「そこまで言うならやってから言えってんだ! やりもしねぇ内から信じられるかよっ」

 

売り言葉に買い言葉な状況だが、やると言ったらやる男がシーモア=グアドの厄介な所なのだ。

このおっさんはそこを分かって居ない。

 

俺がどれだけその行動力に苦しめられていると思っている。

おまけにそれが政治と活動家稼業において、民衆の信頼をこれ以上なく集めているのが、より一層タチの悪さを底上げしている。

そして、その事について触れられた時に必ず言うのだ。「全てはデリング殿のおかげです」……と。

シーモア自身、身の丈以上に褒められて崇められる事のむず痒さは理解している癖に、全てを押し付けてくるのだ。

性格と性質が悪い方に混ざり合い、絶妙にマッチしている最悪の副官だ。

 

「勿論、この身を粉にしてでもやり遂げて見せましょう、ですからエボン教を解体するその一環として、アルベド族の長であらせられるシド殿の御嬢さんとの政略的婚姻を認めて頂かなくては」

 

「幾つ年齢差があると思ってんだ……。親として反対するに決まってんだろうが……」

 

「アルベド族の未来がかかっている上に、リュックさんご本人が望まれているのに……ですか?」

 

「ぐぬぬ……」

 

個人的な感情でアルベドの未来に負担をかけるというのは、代表としてやってはいけない事だろう。

それをどこまで理解して納得出来るかはわからないが、仮にもアルベドの代表なのだ。

シドもそれが理解できない程馬鹿じゃ無い。

現にむしゃくしゃしながらもシーモアに言い包められつつあるのが、その証拠だった。

 

「その為に、まずはエボン教が存在しなければならない理由と、アルベド族の迫害の理由を無くす必要があるでしょう」

 

「…………『シン』か」

「ええ、今もこの近くに来ている筈……」

「な……何でそれをもっと早く言わねぇ! 呑気に話してる場合かよっクソ!」

 

どうでもいいが、いちいち感嘆符をつけなければ喋れないのだろうか。

五月蝿くて仕方がないのだが……。

 

「『シン』の近くで呑気に話を出来る状況なのですよ。我々は」

「ど、どういう意味だ……?」

 

「『シン』には此方を攻撃出来ない事情があります。先代の究極召喚となったジェクトの息子……彼こそが、デリング殿の策を裏付ける物でもある。

シド殿は、よもやデリング殿とアルベド族の共同討伐作戦が失敗すると端から決め付けられているのでしょうか?」

 

「そんな訳ねぇだろっ。……わかったよっ! とりあえずテメェと娘の結婚は認めてやるよ畜生が!」

 

「ありがたいお返事です。しかし……私ではなく、デリング殿と、ですがね」

 

僕の知情のもつれに平気で口出ししてくるのがマジでウザい。

でも任せてみたらそれはそれで、こういう弁の立つ所が本当に有能で役に立つのだ。

ハイペロ族のような容姿が丸々違う相手に対して、よくぞその交渉条件をまとめられるなと思う事もしばしばある。

ユウナレスカを寝床に誘い出した手腕は本物だという事だろう……。

そんな男にシドが敵う筈もなく……折れた。

 

「ああ、そうだったよ結婚はデリングとだったな、クソが……まーた言い包められちまった。……主従似た者同士って訳か、こん畜生……」

 

「そのようなお褒めの言葉を頂くとは。これは些か意表を突かれましたね……ふふ」

 

シーモアは喜んでいるが……。

それは僕がこれまで言われた中で、最も最低な侮辱だった。

どんなに鬼畜と罵られようと、どんなに粗チンだのクズだのと罵倒されようと、ここまで勘に触る気持ちになる事は無かった。

 

思わず歯を食いしばって、顔の温度が熱くなる。

額の血管がブチ切れそうになり、肩から腕にかけて、身体がブルブルと怒りに震える。

 

「差別という物は根が深い。それこそマカラーニャの森に聳え立つ数々の大木の根っこよりも……。我々はそれをどうにか腐らせて消し去りたい。間違った歴史を今こそ正す為に、ようやく脚を踏み出す時なのです」

 

その他人を見下したような薄ら笑い。ねっとりと耳に纏わりついてくる不愉快な声。

 

(よりによってこんな男と似た者同士だと? )

 

何処見てそんなふざけた事抜かしてやがんだこのハゲ……。どっからどう見ても全然違うだろうが。

こんなダサい髪型してるやつなんて、この世界でもシーモアしか見た事ねぇんだよ……。

髪型のバリエーションだって少ない。

一方僕は、状況に合わせてカジュアルにでも紳士的でも何でも行けるんだ!

ハゲのテメェには分からねぇ事かもしれねぇけどなぁ!

 

「ご覧ください、我が友も今の話を聞いただけで、差別に対する怒りの感情を抑え切れては居ない様子……」

 

「握り拳から血が出る程キレてるが……おい、デリング大丈夫か?」

 

誰が誰の心配をしてるんだよ、殺すぞ。

 

「うおっ……そんな顔で俺を睨むなって……。俺達の代わりにキレてくれるのは嬉しいけどよ。俺は差別される側だぜ。間違えんなよな、がはは」

 

ひと段落した会合は、当初の怒り狂ったシドの勢いとは打って変わって和やかな雰囲気となって居た。

同時にリュックとの結婚をご破産にしない為に、僕は握り拳をリジェネで回復し続ける必要があったのであるが……大人というのは時にこのような我慢を強いられる。

ここで怒りを晒したら、このハゲ親父と同類で同レベルだ。

それをする事は俺が俺を許せなくなるだろう。

 

「そういや、まだお前自身から聞いてねぇよな。リュックと結婚する気あんのか? アイツは俺に似てじゃじゃ馬だぜ? ほんとに乗りこなせんのか?あん?」

 

全く下品なタコ頭だ。

この男に容赦などする必要は無い。

反対する答えが返ってこようとも、シーモアに握り潰させてしまおう。

 

「結婚する事はもう決めました。娘さんと姪っ子さんは僕が幸せにします。貴方に許可を取るまでも無い」

 

何の躊躇も無く、怒りのブーストに身を任せて言い放つ。

それは婚約者の親相手の態度では無かったが、腹立たしい事に言い方だけでは、このつるっ禿げの満更でも無い、という今の空気感を崩す事は出来なかった。

 

「……ったく、そこまで男らしくバシンと言い切るならしょうがねぇなぁ、絶対幸せにしねぇと承知しねぇからな。……ん? 姪っ子……?」

 

しかし、その内容はちゃんと彼のラインに触れてくれたらしい。

違和感を覚えたシド。

 

そして……ユウナとも結婚するという話にピキった彼を、再びシーモアが言い包め始めるまで、残り時間、15秒。

 

 





朗らかな空気出してましたが、アーロンさんはティーダが真実と自分の末路を知っても、元気一杯に振る舞おうとする姿を見て、内心クッソしんみりしてます。
次回はアーロン視点です。

感想とか評価とか貰えると喜んだりモチベが上がったりします。
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