※この作品はR-18です。

【完結】転生者が権力とかでFF8とFF10のヒロインを食い散らかした挙句、最終的にスピラを救う話。   作:速射弾

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FF10編 26話 アーロン

 

 

「10年ぶり……だな」

 

スピラの地を踏み締めるのも随分久しい。

ティーダとはザナルカンドからこの世界に戻って来る時にはぐれてしまったので、自らの足で探さなければならないだろう。

この世界にきたアイツが目指しそうな場所……。

 

「……ブリッツボールの会場、だろうな」

 

そうと決まれば早速向かうとしよう。

やれやれ、手間のかかる奴だ……。

そう一人ゴチて自分の状況を棚に上げ、瓢箪に入った酒を煽った。

 

港町ルカ。

ブリッツボールを見にきた観光客と、それを相手に商売しようとする屋台が賑わう、白を基調としたお馴染みの風景。

 

「この町も変わらないな……」

 

都会の喧騒が煩わしいが、眠らない街ザナルカンドに比べれば、この程度の騒がしさなど大人しいぐらいだった。

こんな下らない事の比較で得意げに感じてしまうとは……。

この10年ですっかり自分も“あちら”に染まってしまっていたらしい。

しかしまぁ、死人の帰るべき土地など、本来ならばグアドサラムの先にある異界がお似合いなのだ。

どちらも既に俺の居るべき場所では無いのかもしれない。

 

などと取り止めもない事を考えて、苦笑いしながら酒を煽る。

しかし……このまま、ただ飲み歩いているだけというのも味気ない。

 

(屋台で適当なつまみでも買うか)

 

 

購入した物はなんの変哲も無い焼き鳥と、イカおやじ串。

オヤジと呼ばれる年齢にはまだ早い、おまけにこの身は結婚もしていないが……構わんだろう。

 

店主から受け取ったそれを紙の受け皿に乗せて、落ち着ける所まで歩いていく。

冷めてしまう前に食いたい所だ。

 

堤防のほとりに腰を下ろして、10年ぶりにスピラの味を喰らう。

味付けは何方も塩とスパイスがふりかけられた、シンプルな物を選んだ。

 

炭火で焼かれて焦げた鳥の脂が香ばしく口に広がる。

言うまでもなく極上の美味さ……とまでは言わないが、この手の屋台にしては上出来な方だろう。

海が近い土地という事もあってか、イカの方も新鮮でなかなか悪くない味だ。

搾られた柑橘類の果汁がその身の甘味を引き立てる。

 

(ジェクトなら甘辛ダレ一択だっただろうがな)

 

あいつはとにかく味付けが濃ければ、なんでも喜んで食べる奴だった。

だがティーダが野菜嫌いの偏食にならなかったのは、あいつの遺伝というよりは、俺の教育のおかげだろう。

「ジェクトは野菜を食えなかったがお前もか?」と焚き付けたら、「俺はクソ親父とは違う!」とムキになって苦手な野菜を克服していたのを思い出す。

 

「まぁ、ジェクトは野菜を食えないなんて事は無かったが……」

 

まともな人間に育つ為の、相手を思いやる優しい嘘という奴だ。

 

いずれ覚めてしまう夢の中の人間にそんな事をして、意味があるのかはわからない。

ただ……何故だかそうしたいと思った。それだけだ。

自己満足なのだろうか。

アイツ(ジェクト)に対して他に何か出来るとしたら、それぐらいだとでも自分は思ったのかもしれない。

あるいは己に似合わぬ父性でも目覚めたか…‥?

 

「ふっ……柄では無いな」

 

こんな事を考えても意味は無い。

自己分析をするには、もう遅いのだ。

何せ既に死んでしまっているのだから、今更己を見つめ直す意味もあるまい。

 

 

そうこう時間潰しをしていたら、港に小さなシンのコケラが打ち上がっていた。

ジェクトの奴がすぐ側まで来ているのだ。

という事は、ジェクト(シン)が追い回している筈のティーダも近い。

手慣れた動作でゆらりと太刀を抜いて、構えまで持っていきながら呟く。

 

「……そろそろか」

 

これは俺の物語ではない。

アイツ(ジェクト)アイツの息子(ティーダ)の物語だ。

 

 

 

 

 

「アーロン!? こんな所で何してんだよ!?」

 

ブリッツボールの選手たちの控え室の前で、再会したティーダは相変わらずだった。

緊張感の薄い人懐っこい表情は、これから先の苦難を果たして乗り越えられるのだろうかと、ある意味不安にさせられる。

 

「こんな所で何してる……か。そういうお前は随分と活躍していたじゃないか」

「なんだ、試合……見てたのかよ。カッコよかっただろ? こっちの世界でもブリッツがあってラッキーだったよ。こうしてまた選手としてプレイ出来るんだからさ」

 

立ち話を交わしていると、選手団の中にいた男が前に出てきた。

青いヘアバンドに逆立った個性的なヘアスタイルの男だ。

 

「あ、アーロンってまさか……ブラスカ様のガードであらせられるアーロンさんであられますでしょうか……?」

「そうだが」

 

男が必死に捻り出した拙い敬語に答える。

その問いから敬虔なエボン教徒である事が伺えた。

 

「マジかよ! すっげぇ……本当にあの伝説のガードと会えるなんて……! お、俺、ワッカって言います!このビサイドオーラカの、ええと……と、とにかく握手してください!」

 

それに続いて続々と選手達が手を差し出してきた。

 

「おい、狡いぞ!」

「俺も俺も!」

「アーロンさんとこんな所で……!」

「やっぱり今日の俺達はついてるっ」

 

「特別にひとりづつやってやる。順番に並べ」

 

そうして騒がしいティーダのチームメイトに対応してやっていると、見覚えのあるツノの折れたロンゾ族と、ティーダと同じぐらいの年頃の娘が俺の目に入ってくる。

それがユウナだという事は一眼見てわかった。

ブラスカ様の奥方に顔が良く似ていたから……というだけでは無い。

その青と緑のオッドアイが、エボンでは禁忌に近いアルベド族との混血という事実を表していたからだ。

 

しかし、キマリが付いているというのは少々予想外だった。

どうやらビサイドまで彼女を連れて行って欲しいという俺の願いは大幅に期限を延ばし、10年もの間キマリはユウナの事を見守ってくれていたようだ。

律儀な奴は嫌いではない。

そういう点で、ロンゾという種族の事を俺は嫌いでは無かった。

 

(しかし10年とは……約束は違えないロンゾの中でも、特別筋金入りだろうな)

 

その力強い眼差しと目が合う。

俺もキマリも首を少し縦に動かしただけで、何となくお互いに言いたいことが分かった。

わざわざ語らずとも俺の感謝は伝わっただろう。

 

「ユウナ、久しぶりだな。随分と大きくなった」

 

「アーロンさん! はいっ……お久しぶりです!」

 

その手に持つ錫杖、身にまとう動きやすさと貞淑さを兼ね備えた旅に耐え得る着物。

言われずとも、彼女が召喚士になったという事は一目で理解できた。

底抜けに優しかったあのブラスカの娘だ。

自己犠牲を厭わない性格に育っていても、何ら不思議では無い。

 

 

「え、なになに? アーロンと知り合い?」

 

「うん、アーロンさんはお父さんのガードだったんだ」

 

「あー、そういやそんな事も言ってたッスね」

 

「ジェクトさんと、アーロンさんと、お父さん。三人で『シン』を倒す旅をしてたんだ。アーロンさん、良ければその時の事や思い出話を、詳しく聞かせて貰えませんか?」

 

ティーダと仲良く会話している所を見ると、幸か不幸か今はブラスカの娘であるユウナの近くに居るらしい。

ならば丁度良いだろう。

『シン』になった己を止めて欲しがっているジェクトの為に、召喚士について行くのは一番の近道だ。

ついでにブラスカ様の娘を見てやる良い機会だ、元々その為にビサイドを訪れる気ではいたのだから、手間が省けた。

 

「話をしてやるのは吝かではない。とりあえず俺はお前のガードに付く、こいつ(ティーダ)もな」

 

「え? なんで俺? いや、嫌って訳じゃないけどさぁ、俺にはブリッツボールがあるし、ガードの仕事とかそんなに出来ないぞ? ワッカとチャップが引退してユウナのガードになる予定らしいから、それで良いんじゃないの?」

 

「ダメだ。お前は必ず連れて行く。そういう訳でユウナ、こいつ共々、よろしく──だな」

 

「またアーロンの勝手な所が出たよ……俺は来年も再来年も試合があるんだっつーの!」

 

「ともかく、詳しい理由は後で話す。今は大事なブリッツボール最中……なんだろう?」

 

余計な情報(シンはジェクトだ)で動揺して試合に負けるような事があれば、こいつも悔やむだろうからな……。

出来るだけ早く顔を見せてやりたいが、あまり無理に引き摺り回しても余計な反発を招くだけで意味は無い。

 

「お!アーロンさん、聞いてくださいよ! 俺達、今までずっと負けまくって来たんですけど、今回はこいつのお陰で一回戦突破出来たんっすよ! 大会は数日続くんで、その間に是非俺達の試合を見に来てください!」

 

ワッカと言ったか……元気な若者だ。

こんな男と一緒のチームならば、さぞかし賑やかで退屈しないだろう。

良くも悪くもブリッツボールの選手というのは賑やかで、見ていて飽きない者だ。

 

「ああ、考えておこう」

 

「マジっすか? 絶対っすよ! 俺達2回戦も勝つんで! そ、それと……伝説のガードの御力にあやかる為に、もう一回握手してもらっても良いっすか……?」

 

「ああ」

 

こうして何度も握手を求められるというのも悪い気分ではないな……。

当時ブラスカに期待してくれていた人は少なかったが、それが今ではこうしてその功績を認められている。

どんな悲劇や真実があったとて、それは素直に喜ぶべき事だろう。

でなければ、ブラスカの死も浮かばれない。

それに────まさかこの俺が、伝説のガードと謳われるようになるとはな。

 

「アーロン人気だなぁ……こんな怖い顔のおっさんの何が良いんだ? ただの酒飲みだぞ」

「バカっ! アーロンさんはすげぇんだぞ! 何たってなぁ……」

「あーもうわかったわかった、ワッカのそれはデリング様が〜ってので聞き飽きたからもう十分だって」

「なにぃ!? 召喚士様とそれを守るガードの方々の話は何度聞いても聞き飽きねぇ筈だ」

 

召喚士とガードの話か……。

今の俺にとってそれは、あまり何度も聞きたい話ではなかった。

 

「んな訳ねーだろ! 一回聞けば良いって……うわぁっ! チャップ!?」

「捕まえたぜ兄貴。コイツっ大人しくしろよオラァッ!」

「アッハハ! くすぐったいからそんな所触ってくるなってっ! “離せ”よっ」

「よーっし、でかしたチャップ。お前さん(ティーダ)のご要望通り、存分にアーロンさんの凄さを“話して”やる。よーく聞けよ」

「その“話せ”って意味じゃねーよっ」

 

異なる世界に連れ出されたにしては元気そうで何よりだ。

仲間と楽しく過ごせる僅かな時間だ、邪魔しないでおいてやるか……。

それに……こいつ(ティーダ)の前で己が持ち上げられている所を見るのは、むず痒くて堪らん。

 

そうして俺達は、まるで運命が決まりきっていたかのようにユウナのガードという場所へと収まった。

 

 

 

 

 

 

ビサイドオーラカは優勝した。

それはおめでたい事なのだろう。だが俺はそれを喜ぶ気にはなれなかった。

優勝者へのトロフィー授与式に居るユウナレスカの姿が、理解を拒むのだ。

 

何故ここに居る?

 

(引き篭もっていたザナルカンド遺跡から出てきたのか?)

 

何の為に……?

 

(わざわざブリッツボールの大会を祝う為だとでも?)

 

そんな訳が無い。

 

(まさか、俺が死人となって生きている事を知って、口封じとして探しに来たのか)

 

いや、それならばこんな所まで使命を放り出して、自ら出向く必要は無い筈だ。

そのような汚れ仕事は位の高い僧兵にでも任せれば事足りる。

 

(ならば寺院が何かを画策しているのか……?)

 

ここで俺が幾ら思考を回したとしても、答えが得られる訳じゃ無い。

しかしながら、あの女をこの大会で目にした時から、俺は旅が思い通りにならなそうだと予感していた……。

その予感が想定よりも早く、そして大きな衝撃として訪れたのは、あまり嬉しい事では無かった。

 

 

俺が本当に警戒すべきだった相手は、ユウナレスカだけでは無かった。

遅ればせながらそれを理解したのは────事が全て曝け出されてしまってからだ。

不覚にも己を殺したあの死人に注意を裂きすぎた結果だった。

 

このシーモアという男……。

第一印象から胡散臭いとは思っていたが、まさかここまでティーダの事情を知っているとは……。

 

老師だと言うその地位。

グアド族の老師といえばジスカル=グアドだった筈だが、どうやら俺が向こう(ザナルカンド)で過ごしているうちに代替わりしていたらしい。

だとすれば、管轄はスピラの歴史にまつわる物の筈だ……。

ならば、俺の知らない何らかの情報源から辿り着く事も不思議では無い……か。

 

エボンの中核に位置するならば、真実を知りつつ召喚士の悲劇を黙認し、停滞を良しとする立場な事は間違い無い。

その想定は今この場に並び立っているユウナレスカの存在からも、的外れでは無いと見て良いだろう。

停滞を良しとせずにこの女に切り掛かって、返り討ちにされてしまった俺とは……到底、相容(あい)いれる者では無い。

 

……しかしながら、このデリングとかいう召喚士達と共に歩む事が決まり、リュックという少女に連れられて入り込んだ船の中で、その認識は徐々にだが揺らいでいた。

 

ユウナの婚約者であり、恋仲だというこの男。

ただの綺麗事を並べ立てるだけのお飾りかと思っていたが、どうやらそうでも無いらしい。

現状をしっかりと認識しており『シン』を倒す為に現実的な作戦を用意しているとは……只者では無い。

おまけにアルベド族との繋がりも厭わないようだ。

寺院に所属し、その思想に浸かりきっている者ならば、まずあり得ないだろう行動。

 

もしもこの討伐作戦が成功するのならば、その女癖の悪さを差し引いてもお釣りが来るだろう。

なるほど。

ユウナレスカがああも媚びを売るように腕を絡ませて身を寄せているのは、そういう訳か……と少しは理解した。

 

この女も寺院も、()(この)んで停滞を望んでいる訳じゃ無いのだろう。やむを得ないから究極召喚に頼っている。

そして、それを現実的に打破出来るかもしれない提案をして、寺院側に正式に認めさせた……。

となれば、確かに大幅に教義を変え()るだけの理由には足る。

 

総括して……お供に引き連れている二人の青髪に反して、デリング本人は幾分か話す価値はありそうだ。

だが、まだ彼らとは出会って間も無い。

どれだけ信頼出来るかどうかは、これから旅をする中で見極めて行けば良いだろう。

 

 

さて……。

一先ずそんな事よりも……俺はアイツ(ティーダ)にどう説明するか、考えるのが先決か……。

 

(ハァ……全く、余計な事をしてくれる……)

 

割り当てられた船内の部屋でそんな事を考えていたら、案の定悩みの種であるティーダが訪ねて来た。

 

「なぁアーロン。幾ら考えても全然わっかんねーから……教えてくれよ。『シン』が親父って何なんだ? 俺が夢って何? 1000年前に滅んだザナルカンドと俺の故郷のザナルカンド、やっぱ同じなのか?」

 

「ここまで知られては話さない訳には行かない……か。そうだな、シーモアの言っていた事は全て本当だ。

10年前、俺はこのスピラからお前の故郷である夢のザナルカンドへと渡った」

 

そうして、長々と俺自身もまとめきれていない説明を語る。

ティーダは疑問を抱き、所々で質問を投げかけ表情を変えながらも俺の話を聞いた。

喜怒哀楽の激しい素直な奴に育った物だと我ながら感心する。

 

だが、それも良い事ばかりでは無い。

何故なら今のティーダの感情は哀。

真実を知り、当たり前のようにショックを受けていた。

こうなるとわかっていたから、旅先で折を見て順次話していこうと決めていたのだが……。

 

真面目にショックを受けて凹む所は、あの常に楽観的で強がりだったジェクトとは似ても似付かんな……などと思いつつも、俺は何故この世界に連れてきたのかを話した。

 

「親父が俺に止めて欲しがってる……ってなんだよ。あんな奴の願いなんて知るかよ……」

 

「お前には酷な話かもしれん。『シン』を本当に倒したその時は、召喚獣のような物である夢のザナルカンドは消えて……お前も消えるだろうからな……」

 

こればかりは俺にもどうしようもない。

ある意味ジェクトとの約束を守り、『シン』を倒す為にティーダが消える事を許容している。とも言えるかもしれん。

俺自身、ティーダに対して愛情を抱いて居ない訳ではない。

 

ただ、これは……そう、きっと未練なのだろう。

死人となった俺は未練を無くしたいと思いながら行動する……その結果が、親友の息子を死地に追いやる物だったとしても……。

 

「なんで俺が消えなくちゃならないんだ、そんなの絶対に嫌だ!……って簡単に言えたら良かったんだろうけどな……。俺、ルカに来る前、ユウナ達と一緒に見ちゃったんだよな。『シン』がポルト=キーリカを襲って町を破壊する所」

 

シンがどれほどの脅威なのか、それは此方の世界に連れてくる時にティーダ自身も体験して知っていた事だ。

 

「いっぱいいっぱい人が死んでた。何もしてないのに『シン』が近づくだけで、木で出来た床材がバリバリバリって剥がれて行って……。

人と物が一緒に空中でミキサーみたいにぐちゃぐちゃにされてさ……。あんな簡単に人が殺されて行く所初めて見たし……なんて言えば良いのか、言葉が出てこない位すっごいショックで」

 

だが、やはりザナルカンドで体験したそれは、現実味が薄かったのだろう。

それをキーリカで知った……偶然か、はたまた必然か……。

いずれにせよ、ジェクトがこいつに殺される事を望んでいる以上、何時かはティーダの前で起こる悲劇だった筈だ。

 

「生き残った村の人達も絶望して呆然としたり泣いたりしてた。すげーのが、絶望してた村の人達、そのあとすぐに、また立て直せば良いって言ってたんだよ。

それ聞いて、慣れてるんだなってびっくりしたんだ。どんだけタフなんだよってさ。

……聞けばキーリカが襲われた被害は『シン』に襲われたにしては軽い方で、10年以上前はもっと酷くて、小さな島ぐらいだったら破壊する事もあったぐらいだったって……」

 

事実、このスピラで島ごと無くなったという事例は少なく無い。

というのも、想定される海の広さと陸地の比率が明らかに偏っている。

寺院の見解では『シン』による破壊で、人類の生活圏が狭まっているとされていた。

何処まで本当かはわからないが、おそらくそう間違っても居ないだろう。『シン』との戦いで抉られたナギ平原の痕跡を見ればそれは容易に想像できる。

 

「そんなの見たり聞いちゃったりしたら、俺が消えたく無いから『シン』を倒すな、なんて軽々しく言えないよな……はは。

だから……クソ親父の願いはともかく、アーロンがこの世界に俺を連れてきて、スピラのために親父を何とかして倒したいって気持ちも理解できるんだ。

あ、これは皮肉とか変な意味じゃなくて……えーっと、俺やザナルカンドが存在し続ける為に、ユウナとかワッカ達みたいなスピラに住んでる良い奴が死にまくるなんてさ、嫌だろ……そんなの」

 

「……ああ」

 

正直何と言って返事を返せばいいのか分からなかった。

ただ、多くを語らず、誤魔化しただけだ……。

我が事ながら情けない。

 

 

「浜辺に浮いた木材とか死体とか片付け手伝って死んだ人達を弔って……。ユウナはさ、絶対に『シン』を倒すって意気込んでた。

召喚士ってあれを倒すんだもんな、そりゃワッカもあんだけ口煩く崇めるって。

だからせめて、今の俺にできる精一杯がブリッツボールで活躍する事だ! って、考えてたんだけど……。はぁ」

 

ティーダから溜め息が出た……。余程、気分がやられているのだろう。

ブリッツボールチームに所属しているプロプレイヤーは、場の空気感には敏感だ。

これはジェクトが言っていた事だが、チームメイトが弱気になるような行動は出来るだけ取らないようにしているらしい。

 

その僅かな空気感の違いで、発揮出来るチームのポテンシャルに大きく作用するのだとか。

だからこそ、これほど真面目な溜め息を漏らすこいつの姿を見るのは久々だった……。

 

「おまけに召喚士って自分が死ぬ事わかってて旅立つんだろ? さっき作戦聞いた時に知ってさぁ……俺、絶対そんな覚悟出来ないって思ったし、それに付いて行こうとするガード達の覚悟もすげーなって思った」

 

「そうか……」

 

「でも……覚悟なんて出来なくても、受け入れてなんか無くても……俺は消えるんだよな」

 

こいつがこんな風に後向きな心象に関する話を、俺に話してくるとは思って居なかった。

何せ俺は夢のザナルカンドより、ジェクトとの約束を取った男だ……。ティーダの立場になったとして、そんな男に何を語る気になれる?

それなのに、俺を責める事も無く、ただただ弱音を吐いて落ち込んでいる……。

己が原因の一端を担っているその姿を……直視していられなかった。

 

「正直、まだ俺が夢とかザナルカンドが召喚獣みたいな物だった、なんて信じきれてない。

でもこうしてこっちの世界に来るっていう非現実的な事が起きて、アーロンだってこっちの世界出身で、薄々本当にそうなのかも……って思い始めては来てるんだ」

 

「ああ」

 

情けない相槌だ。

これでどの面下げて育てたなどと言えるのだろう。

罵詈雑言も覚悟の上だったが、こうして理解を示されてしまうと逆にやりようが無い。

 

「とりあえず旅でそれが本当なのかどうなのか、この目で見てみる事にする。

なんか長く聞いて貰って悪かったな。こういうの話せるの、アーロンぐらいしか居なくて……。ワッカ達とだって仲いいけど、いきなりこんな話されても困るだろうしな……」

 

 

俺しか居ない……か。

ティーダには仲の良さそうにしていたチームメイトのワッカやチャップが、今もこの船に乗っている。

彼等も力になってくれる筈……そう思いたいのは、俺の罪悪感から来る甘えか……。

 

「だが、あいつらも気になって聞いてきては居ただろう?」

 

「うん、だからよくわかんねーけど、多分何とかなるだろって言っといた。ワッカが信頼してるデリング様がなんとかして下さるだろって。そしたら一発で納得してやんの。能天気っつーか……笑っちゃうよな、あはは」

 

今のこいつに必要なのは厳しく突き放す言葉では無く、もしかするとそんな能天気で明るい言葉なのかも知れん……。

空元気だが、それでも周囲に気を遣い明るく振る舞おうとするティーダの姿は、今の俺には眩し過ぎた。

 

それでも真実を知った以上、もう後戻りは出来ない。

ならばせめて少しでも────。

 

そんな言い訳をしながら、彼等にティーダの事を少し気にかけてくれはしないだろうかと、頼もうとした。

自分らしく無い根回し……だが、それは余計なお世話だったらしい。

 

結局、俺の余計な気遣いに意味は無かった。

全員に話をする前に既にティーダは距離を縮めていたのだから、杞憂でしかなかったわけだ。

慣れない事をする物では無いと、少しだけ肩の荷が降りた。

 

もう、アイツも俺が見ていなければ何もできないガキじゃ無い。

自分の心には自分で折り合いをつけられる時期だろうに。何時までも年長者が口出しして出張るのは、ただの老害でしかないのだ。

 

それが何処か誇らしくて、少しだけ寂しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛空艇とやらに乗り込んで、少し人間観察をしただけだが概ね理解できた。

 

デリングという男は召喚士になるだけあって、その精神性に深い負の面を感じ取れるほどに中身が黒いとは思えなかった。

女遊びに関して清廉潔白という訳でも無いが、ある程度常識的な判断力によって構成された融通が利く人間だ。

若い頃の俺より余程柔軟性に富んでいると言えるだろう。

 

シーモアは少し性格に難があるらしいが、それを自覚しつつもデリングを支える事に全ての悦びを見出している。

その有り様は異常者と言って差し支えが無いが、皮肉でティーダとやり取りしている姿を見る限り、危うさを危惧する必要も無いぐらいには精神性が安定していた。

 

問題は……ユウナレスカか。

あの女は未だに何を考えているのかわからん。

スピラの為を思っているのは本当らしいが、色恋に偏りすぎててその考えがイマイチ読み取れ無い部分がある。

現状、デリングの護衛のような立場を利用して、色にかまけているようにしか見えない。

 

とはいえ『シン』を斃す事に否は無い筈だ。あの女を仲間に加えている事で寺院から全面的に後押しを受ける事が出来るというのならば、俺は『シン』を倒すために己の怨みを飲み込もう。

それが亡きブラスカとジェクトに捧げられるせめてもの弔いだ。

 

他の者たちは皆誠実で良い奴らばかりで其方にはあまり心配は無い。

後は……ジェクトとの約束を叶えられるかどうかだが……。

結局それはティーダの心の持ち様に全てがかかっている。

 

つまり当初の予定と何も変わりない。

俺はただ真実を教えてそれを自覚させるだけ。

その後どうするのかは、俺の決める事では無いだろう。

 

 

 

飛空艇で降り立ったベベルは、相変わらず見た目だけは絢爛なスピラの中心地だった。

その中身は何処よりも腐敗してそうだったが、今の俺達に疚しい所などないのだから、適度な距離を保ってさえ居れば何も問題は無い。

そんな事を思いながら滞在していたら、旧知の友と再会した。

 

「久しぶりだなアーロン」

「キノック……」

 

ウェン=キノック。己がまだ僧兵だった頃に切磋琢磨した昔の友人。

あの頃と比べてその見た目は随分と脂質を蓄え、様変わりしていた。

 

 

「私はお前が姿を消してから、今では四老師と言われるまでの所に昇り詰めて見せたぞ、アーロン。貴様がこの10年で得た物は、伝説のガードという称号だけの様だな」

 

過去と同じように清々しく接する事が出来る等と、最初から期待していなかった。

人は変わる。

まだ35かそこらで四老師に就任するのは容易な道では無かった筈だ。それは並々ならぬ努力と忍耐だけで辿り着ける場所では無いだろう。

きっと俺の知らない何か……そう、決して綺麗事だけで掴んだ地位では無い。

 

「何だ……四老師殿がわざわざ、ただのガードである俺に嫌味を言いに来たのか?」

 

「ふっ……そうだ、縁談を断って出世街道から姿を眩ました伝説のガード殿とは、どんなしけた面構えをしているのか見てみたくなってな」

 

そうして奴は俺の元に近づいて来て、再会の抱擁を交わした。

 

「こうしてまた友と再会出来るなんて嬉しく思うぞ、良くぞ生きていてくれたなアーロン」

 

先程の嫌味はどうやら彼なりの愛情表現だったらしい。

だが、それもどこまで本心なのか。

それだけキノックとの思い出は古い物だったし、今のエボンに染まった男にどれだけ気を許せるかと言われると、まだ判断がつかない。

 

だが、表向きは再会を喜んでも罰は当たるまい。

己の安否を尊んでくれているのだ、そう思える程度には喜ばしいと思う。

まぁ……。

 

「この状態を生きていると言って良いのかは分からんがな……」

 

少し身体から幻光虫を出して見せると、奴の顔が驚愕に染まる。

 

「その身体……よもや死人になって居ようとは……」

 

「今のエボンでは死人の存在は許容されていると聞いたが?」

 

「あ、ああ。確かにそうだ、教義の上では問題は無い。しかし……誰にやられた?」

 

狼狽えながら、そして静かに怒りを滲ませながらキノックは問うてくる。

俺の死に想いを乗せたその感情が嘘だとは思えなかった。

 

何処まで話していいものかわからないが、今はその加害者が身内に居るのだ、誰にやられたかぐらいは言っても問題ないだろう。

それに、四老師ともなれば召喚士の真実に気付いて居ない筈も無い。

 

「お前達の崇め奉るユウナレスカにな。……ブラスカ様や召喚士の事で文句を言いに行ったら返り討ちにされてこの様だ」

 

「ユウナレスカ様か……。あのお方に楯突くとは無謀な事をしたな……。それを聞いてしまったからには反逆者扱いにしてやっても良いが……どうする?」

 

冗談混じりに反逆者扱いを提案してくる。

洒落にならない話だったが、俺は記憶に覚えのあるキノックの言い方に思わず笑みが漏れ出た。

 

「ふっ……勘弁してくれ」

 

四老師まで成り上がったと聞いたが、この男もこういう所は変わらんな。

相変わらず、俺にとって気の良い友人といった部分は健在だった。

そうして俺達はようやく懐かしき間柄に少しだけ戻れた気がした……。

 

 

お前(アーロン)と違って召喚士デリングJr.は、その手の縁談を断る事が無くてやりやすくて良い。もっとも……本人は縁談相手の夜のご機嫌取りに大変そうだがな……。しかしまぁ、お陰様でこうして生き生きと仕事を出来るという訳だ」

 

思い出話に花を咲かせ終わった俺達に、残された話題は今の話ぐらいだろう。

あれから俺の断った縁談を受けて出世の道に乗ったキノックは、今の仕事に誇りを持っているらしい。

それはとても後ろ暗い事をしているように見えない表情で、夢を語り合っていたあの頃を想起させる。

俺の目には、先程と同様にこれが嘘の感情だとは思えなかった。

 

「もう少し寺院に染まり、昔の熱意をなくしているかとも思ったが……そういう所は変わらないようで安心した」

 

「確かに、俺にもそんな時期もあった……。出世のためにどんな手でも使ってやろうと考えていたし、四老師の位を授かってもその頃から積み重ねてきた経験は……きっと知らぬ間に自分という物を作り変えていただろう……。

────だが最近、具体的に言えばユウナレスカ様が降りて来られてから、寺院の風向きが変わってな。

少し己や立場を見つめ直した事で、身の振り方を昔に戻して行く時期だと悟ったのだ」

 

色々あったのだろう。

元来後ろ暗い事を歓迎できる性格じゃなかった俺は、キノックの言葉に眉を顰めてしまうが……。

それでも誇りを持てる今があるのならば、ここで追及しても仕方のない話だ。

 

「昔っからそういう事に関してお前(キノック)は人一倍鼻が効くやつだったからな……。

同期の中でも誰よりも早く出世に繋がる情報を手に入れていた……。それが今更、立場も(こころざし)もふりだしに戻る……か」

 

「そういうお前(アーロン)は同期の中で一番優秀だった癖に、そっちの方はからっきしだった……。おまけに頑固者だったせいで、今では一度殺されて死人にまでなっていると来た」

 

俺達は互いに苦笑して肩を震わせた。

どちらもくだらぬ事で色々と損をしている人生に思えたからだ。

 

そんなキノックは自信に満ち溢れた清々しい顔で話す。

 

「今の仕事は楽しいぞ。勿論、立場上後ろ暗い事が無いとは言わんが……それでも若い理想を持つ事が出来る体制に変わって来ている。寺院も停滞から革新の時を迎えているという訳だ……。その発端が、あのシーモアとかいう小僧の手柄というのは気に入らんが、その手腕は認めねばな……」

 

エボン寺院側が、一体どれだけデリングの提唱した討伐案を信用しているのかは分からないが、

本当に『シン』を倒せた場合、用済みになるであろう自分達の居場所の後釜を作る為、その備えに奔走しているらしい。

何時ぞやにアルベド族との話し合いの際、シーモアが言っていたデリング教である。

 

既得権益にしがみつく事に置いて、大きな組織の上層部ほど鼻が利く者も居ない……という事なのだろう。

そして……それが得意なのがこの男(キノック)という訳だ。

 

 

たったの10年でこの永遠に悲劇の螺旋が続いていくスピラが変わる事など無いと思っていたが、中々どうして変化の兆しというのは芽吹いているらしい。

「新たな秩序を見据えた統治の議論は、それはそれは楽しいぞ」と未来に想いを馳せて生き生きしているキノック。

願わくば、その方向性が良からぬ方面へと傾かなければ良いのだが……。

まぁ、今のスピラより悪い……なんて事になる方が難しいか。

 

何にせよ、古い友人が憂なく生きていて良かったと思っておこう。

 

(それもこれもデリングのお陰……か、ワッカの言う事も強ち間違いでは無いのかもしれんな)

 

 





飛空艇君の入手シーンはカット!
次回はティーダ君視点です。オリ主……何処行った?

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