【完結】転生者が権力とかでFF8とFF10のヒロインを食い散らかした挙句、最終的にスピラを救う話。 作:速射弾
結婚式や慌ただしかった一時のイベントはようやく終わりを迎えて、再びこの珍道中がただのトレーニングの旅に変わる。
当初の目的である戦力の確保とユウナ達の強化は、各地を訪問するついでに行われた。
『シン』を倒す為に全員の実力が高水準になるように訓練される。
それは原作のような歩いて旅する道すがらに自然と強くなって行く、という流れとは完全に異なっていたが、強さを求める上で出来る事は概ねやってきたつもりだ。
出来得る限りの武器防具アクセサリーだって取り揃えたし、連携に関係する事なんかも出来る限り育んで来た。
シーモアが祈り子となった母親と和解して、アニマの真の力を取り戻すとかそういうイベントもあったりした。
『シン』に立ち向かう為なのだ。
どのような要素だとしても、彼等の強化を疎かにする余裕が僕には無い。
結局のところ、戦力強化を出し渋って倒せませんでした。では、何の意味もないのだから……。
そんなこんなで、やっている事は飛空艇で各地を巡りながらの自由自在に現地で訓練するという、クリア後みたいなムーブをしつつも、
僕のような既に強化済みな旧メンバーにとっては既にお馴染みとなった、デリング様の講演会を各地で行うという毎日で時が経過した。
そんなある日、ティーダからの提案で新たな旅の目的地が決まる事となる。
「なぁ、俺さ、ザナルカンドから来たって言っただろ? 『シン』を倒したら消えちまうって……そんな事、聞いた情報だけじゃあ、どーしても納得出来なくってさ……。
せっかくみんなと仲良くなれてこの世界にも馴染んできたのに、見もしないで決めつけたく無いんだよ。だから、これは俺の我儘だ……頼むっ! 俺に現実のザナルカンドを見せてくれないか!」
「別にそんな仰々しくお願いされなくても、構わないけど」
一応このメンバー達の責任者という事になっている僕は、そのお願いを快諾した。
「あ、マジっスか。ザナルカンドって禁足地だって聞いてたからさ、宗教的に軽々しく行くのは駄目なのかなって思ってた」
やけに真剣なお願いの仕方だったが、彼なりの宗教への配慮だったらしい。
現代のザナルカンドは確かに一般人が入る事を許されてはいないので、僕のように軽い気持ちで「入って良いと思うよ」と言える方が珍しい感覚なのかも知れない。
「ここには寺院を動かす側のユウナレスカとシーモアが居るからどうとでもなる筈だよ。それに……軽々しい理由では無いと思うからね」
それはここに居る全員の総意だった。
「んじゃいっちょザナルカンドまでびゅびゅっと飛んで行きますか〜」
明るいテンションのリュックだが、その言葉には何処か元気が無かった。
そう、みんな今まで目を逸らしていたのだ。
『シン』を倒せばティーダが消えると言う事から……。
逸らしていなかったのは僕とシーモアぐらいか。
彼等、彼女等は、どうしようもない事実から目を背けて、束の間の幸せをティーダに味わって貰おうとしていた。
それは決して嘘を吐いて仲良くしている、という訳では無くて。
元々明るいティーダと早々に打ち解けた彼等は本当に友達同然だったし、間違いなく旅の仲間だったのだ。
ザナルカンド遺跡へと降り立った僕達は、その遺跡を目の前にして、息を呑む。
一面がブルーの廃墟によって構成された世界に漂う幻光虫の量は、幻光河や異界に引けを取らない。
その濃度も残留している想いの濃さも、自然と宙に過去の残滓が浮かび上がる程に圧倒的だ。
「ここで、幾多の召喚士達が命を散らせて来ました。その中には私が直接手にかけた者達だった存在していました……」
ユウナレスカの言葉に、誰も何も言えない。
その想いの丈はあまりに複雑だ。
1000年もの間、こんな場所でお付きの老人以外誰とも会わずに過ごして来たのだと思うと、あまりの覚悟に、僕も言葉が出なかった。
それほどまでに退廃的で、悲しい世界だった。
「中を見て行かれますか?」
ここの住人と言っても過言ではないユウナレスカの案内に、ティーダはこくりと頷いた。
これだけ大所帯にも関わらず、みんなが静かだった。
聞こえてくるのは自分達の足音と、身につけている装備品の物音と、そして、幻光宙が漂う音。
そんな中で広間に辿り着いた我々は、偶然か必然か……召喚士ブラスカ御一行の、過去の幻影を見た。
自らが究極召喚になると宣言するジェクトと、反対していたが遂には状況に流されてそれを見送ってしまう若き日のアーロン。
「親父……」
この中で今のティーダの気持ちが本当に理解できるのは、同じく実の父が決意を固める場面を見ているユウナぐらいなのかもしれない。
本来訪れる筈の召喚士の軌跡。
10年も前の過去の出来事が、こうしてはっきりと再現された。
今もそれが残って漂っていること事体が、並の想いの強さでは無いと裏付けている光景だ。
そして、それを目の当たりにしたティーダはアーロンに尋ねた。
「親父が『シン』になった事。無駄じゃないんだよな……?」
「ああ」
彼は不安そうに此方を見てくる。
「ただの究極召喚として終わって行く訳じゃなかったって思ったら、意味はあるんだよな?」
応える言葉はひとつだけだ。
「それを今からやろうとしているのが僕達だ」
「そっか……。ありがとな、デリング。親父の死を無駄にしないでくれて」
「ありがとう……か、その言葉を君から言われるのは重いな。
僕のおかげじゃないよ、みんな流石ですねデリング様って言ってくるけど……僕なんて何にもしてない。
本当に流石なのはみんなの方だ、きっと僕が言わなくたって『シン』を倒す答えには辿り着いて居た筈さ。
だから──感謝は僕じゃなくてみんなに言ってくれ」
事実として、他人の功績を横取りして感謝されてもなんとも思わなかった。
それで金や地位や女が貰えるからやっているだけで、男からの感謝に興味は無い。
しかし、そんな事をおくびにも出さず対応した僕の言葉を聞いて、彼は改めて全員に向かって宣言した。
「なんかさ、俺、正直死にたくねぇーって思ってた。まだまだ一杯やりたい事あるしさ、食ってない物や見てない場所だって一杯あんのに、何で消えなきゃなんねぇんだろって。でも、これ見て決心付いたよ」
「……決心……か」
「アーロンと一緒に親父の残してくれたスフィア全部見たけどさ、アイツ、俺の事ばっか考えてたんだよな。
旅してんのだって家に帰る方法を見つける為でさ……。でも結局その方法が見つからなくって……それで、多分息子の俺がこの世界に来るかもって思ったら、『シン』っていう存在が在る事を我慢でき無くなったんだと思うんだ」
父親がそれほどまでに息子の事を心配する。
世の中に果たしてどれだけそのような家庭があるのかはわからないが、ジェクトの息子への愛はきっと本物だ。
『シン』になって10年もの間、意識を保ち続けているのは並の事では無い筈だろう。
きっとティーダの事を支えにしているのだ。
「この世界は、ユウナやデリングが助けたくなるぐらい良い所だって一杯ある。だから……俺がそう思うように親父だって同じ事思った筈だ。そんなスピラで俺が『シン』倒してきっと平和に過ごせる、そんな可能性をほんのちょびっとで良いから、残したかった……んじゃないかな……」
「『ジェクト様の息子なら出来るだろ』……か。アイツが良くお前の話をする時に言っていたな」
「あ、アーロンそれそれ、俺に直接言う時は『絶対出来ねぇよ』って馬鹿にしてくんのに、こっちで見た記録では『俺の息子なら出来て当然だ!』みたいな言い方すんだよな。天邪鬼っつーかなんつーか……まぁ、それは置いといて」
決心と共に瞼を閉じたジェクトの息子は、己の死を遂に受け入れた。
「俺、『シン』を倒しに行く。例え俺が消えるってわかってても……みんなが幸せに暮らせる世界の為に。親父だって決めたんだ、息子の俺に出来ない訳が無いって、会いに行って証明しなきゃな」
みんな、何も言えなかった。
何故なら『シン』を倒す事はスピラの人間にとって永遠の悲願だから。
例えティーダが消えると分かっていても、その天秤は揺るがない。
「でも……そんなのやだな……」
約一名を除いては。
「ユウナ……」
悲しさを隠せない声で誰かが彼女の名前を呼んだ。
それはルールーだったかもしれないし、ワッカやチャップだったかもしれない。
もしかしたら、キマリだったかもしれないし……僕だったかもしれない。
「君と一緒に旅するの、楽しかったよ。デリングさんもそう思うよね? みんなもきっと同じ気持ちだよね!?」
みんなどうしようも無い事に気付いていたから、ティーダが消えて欲しくないなんて我儘言っても、どうしようも無いと……そう思っていたのだ。
「探そうよ…… 消えなくて良い方法! きっとある筈だよ! だってデリングさんも『シン』を倒す方法を見つけられたし、私達だって、私達だって……」
ユウナは自分自身の言っている事を、己でも信じきれていなかったのだろう。
何故なら、既に寺院の資料や召喚士の術について最も詳しいユウナレスカですら、そんな方法が見つけられなかった、という事実があるから……。
ユウナのその見切り発車で声高らかに語り出した理想論は、次第に声量が落ちていき……ティーダの未来を暗示するかのように、虚空へと消えていった。
「良いんだ、ユウナ。俺、消えるかもしれない。夢の存在だから最初っから居なかっただけなのかもしれない。それでも、こうして消えて欲しくないって思われて嬉しかった。だから、みんなが憶えて居てくれたら……それで大丈夫ッス!」
彼は空元気で声を張り上げている訳では無い。
覚悟を決めた男の姿は、先程目の当たりにしたジェクトの幻影と似ている気がした。
「『シン』を倒しても夢が消えない方法がある……なんて、文字通り非現実的でしょうね。ですが、最後にするにはまだ時間が充分にある……。ここまで来たのです。どうせなら見て行かれては如何でしょうか? 夢のザナルカンドを召喚している祈り子の壁を」
そんな風に彼の死を確定した物として扱っているシーモアも、何処と無く何時もの生き生きとした雰囲気では無かった。
ユウナを手に入れた今、ティーダは僕にとってどうでも良い奴だ。
『シン』を倒すためのキーマンという存在。
それだけの認識だったんだけども……。
しかし、蓋を開けて付き合ってみれば、その認識は変わった。
彼は、僕に纏わりついてくるシーモアに対して、唯一と言って良いほど対抗心を燃やしている貴重な人物だった。
『シーモア、ニヤニヤしてなーに企んでるッスか? 言っとくけど俺はまだお前の事、信用してねーからな』
『ふっ……別にティーダ殿に認められずとも構いませんよ。下らない事を言ってる暇があるなら、己が消えずに済む方法でも考えられた方がよろしいかと。もっとも……その夢で出来たスカスカの脳で何か建設的な意見が出るとは思えませんが……。おっと、私とした事がまともに夢と喋ってしまった。これではまるで現実逃避が得意な夢想家のようだ』
『一つ言うと百で返してくんのやめろよっ』
なんて、好き勝手に言い争う事が日常になっていた二人。
今は何も言わずに粛々としているが、本当に嫌い合っていたならば、こんな時こそ煽り合うのでは無いだろうか?
触覚青ゴキブリことシーモアは、普通のスピラ人相手にはニコニコと笑顔で笑いながら、適当に上部だけ良い格好してその場をいなす。
元々それが彼の処世術であり常套手段だ。
しかし、ティーダに対しては己の境遇に重なる部分があるからか、心なしか楽しそうに貶しながら接している。
気心の知れた相手に
勿論ティーダも酷すぎる事を言われたりするが、それを冗談だとは分かりつつも、ムカつくので普通にしっかりと言い返す。
なんなら暇な時はティーダの方からイチャモンを付けて、喧嘩を吹っかけたりもする。
それは一見すれば仲が悪いという風に見えるかも知れないが、パーティの雰囲気が悪くならない程度には慣れ親しんだ微笑ましい光景となっていた。
おそらくだが、シーモアにとって既にティーダは、ただの消え行く夢の存在などでは無いのだ。
人はそれを友情と呼んだりもするのかもしれない。
当事者達は否定するだろうが、少なくとも僕との偽りの関係よりは余程友と呼ぶに相応しい間柄なのでは? と思う。
そして、それは僕にとっても歓迎すべき事だった。
なにせ彼等が仲良く言い合いしている時は、シーモアから注がれるネットリとした視線から逃れる事ができるのだ……。
自分にとってその僅かな時間が、思いの外……安らぐ。
いつ心変わりして殺そうとしてくるかわからない存在に、四六時中ウットリとした視線で見つめられてたのは、本当に怖いし辛かったんだなと我が事ながら再確認した。
(もしかして……リノアって僕に対してこんな気持ちだったのか……?)
今更ながら、凄く……凄く……申し訳無い気持ちになってきた……。
やられる立場になって初めて他者の痛みが理解できるというのは、こういう事なのか……。
結局、何が言いたいかというと……。シンを倒したら、そんなティーダが消えちゃうんだよ!? って事だ。
僕が今危惧している事は、シーモアが究極召喚で死んだ後、死人として蘇ってくる可能性が高いという原作知識からくる想定である。
もしもそんな事になれば、永遠に付き纏ってくる幽霊が二人に増えるのだ……。
どう考えても耐えられない。
(やだぁぁあああ! やだやだぁ! ティーダきゅん行かないでぇ!
そもそもさぁ……なんでみんなシーモアに対してそんなに寛容なんだよ……。
ただちょっとスピラの人間とは思えない程イケメンで、背が高くて、表面上は優しく頼りになる人徳者で、若き権力者なだけじゃないか!
そんなもんでこの男の内から滲み出るキッショいオーラを見逃すんですか? おかしいですよ……)
────あ、そっか……。
スピラの人間って馬鹿だったわ。だから俺慕われてたんだわ。
俺とシーモアのやってる事、立ち振る舞い、その為諸々。他者視点で見たらそっくりかもだわ……。
マジでショックだった。
誰もが疑う事なく和かに僕とシーモアに接している状況が……。
清廉潔白な人間など居ない。
綺麗な物ほど穿った目線で観察して疑わんか馬鹿もん!
気に食わないと突っかかって行くDQNのティーダを見習え!
◆
ティーダは夢の存在だ。
アイドルとか素晴らしい人格で見た目も良いとかそういう事じゃなくて、祈り子の妄想の力で構築している都市経営シミュレーションゲームのNPCデータという存在なのだ。
死人が幻光虫のお陰で生きながらえるのとは訳が違う。
夢の街を召喚し続ける為に存在する『シン』が本当の意味で消え去る時、彼もまたこの世から消える事になる。
少し話は逸れるが、僕はFF8の世界に住んでいた頃、魔女に関する学問を学んでいた。
G.F.に関する研究や擬似魔法を生み出した権威であるオダイン博士と知り合いで、手紙で軽いディスカッションするぐらいには成績が良かったのだ。
前世の記憶があるというアドバンテージを全く感じない程の学習の日々だった訳だが……。
そのおかげで、特定状況下におけるG.F.の軍事利用を祖国で推し進める事が許される程度には、この分野についても勉学を怠らなかったという自負もある。
故に魔女や魔法やG.F.と言った分野においての専門的知識を有し、その筋には一家言あると自称しても誇張ではないとも思っている。
スピラの魔法の習得には擬似魔法の扱い方からヒントを得たし、召喚獣を操るにあたってG.F.の召喚技との類似性や同名召喚獣との関連性なども、寺院にバレない程度に出来うる限り検証を繰り返していた。
そんな自分は、旅の中でとある事に気が付いた。
このティーダという召喚獣擬き、専門知識を有する僕から言わせて貰うと非常にG.F.と酷似している……。
そもそも『G.F.』とは何か……?
正式名称『ガーディアン・フォース』場合によっては無骨に『自律エネルギー体』とも呼ばれる。
実体を持ちつつも実体の無い、幻のようなエネルギー生命体の事なのだが……。
G.F.はオーロラや虹みたいなただの現象とは異なり、それ自体に自立した意志が備わっている。
喋れる奴も居たりするし、実体化して活動しリアルに影響を及ぼすタイプも居る。
逆に言うと、G.F.だけではその自らの存在を明確に定義/出力が出来ずに、何かに宿ったまま何もせず何も出来ずに、ひっそりとエネルギーとして付着しているタイプもザラにいる。
僕の所持しているセイレーンなんかは、後者のひっそりタイプに当たる。
そんなひっそりタイプの彼等を手に入れ出力する方法の一つとして、『ドロー』コマンドという手段が挙げられるのだ。
対象に宿っているG.F.や魔法を、このドローという特殊なアビリティで抽出して、脳内の領域に確保する事が出来るのだが……。
ティーダ君の故郷の夢のザナルカンドを召喚している祈り子とか、シンの中核であるエボンジュとかからドローしたら……もしかして……。
そう、僕としてはその為に遠路はるばるここまで付いて来たのだ。
このガガゼト山まで。
あ、途中で許可取りの為にわざわざロンゾ族の里まで挨拶に伺って、ロンゾ族とキマリの元虐められっ子下克上ストーリーあれこれもあったけど、興味が無いので割愛。
夢のザナルカンドを召喚している祈り子を目の前にした僕は、早速G.F.をジャンクションして密かにドローを試み、成功を念じた。
(来い来い来い来いティーダ来いティーダ来い、ティーダス来い! タイダス来い!
こいこいこいこいこいこいこいこい!
カモーン……オーイエス……カモン、カモーン! シーハーッ……シーハーッ……。
オーイエー……Tidusカモンカモンカモーン!!)
大きな壁に沢山埋め込まれている祈り子から、僕の脳内に入り込んでくるエネルギー体。
ごく僅かに圧迫される脳内の記憶保管所。
感覚から理解する。
『ティーダを1つドローした!』
「やったああああああああ!!! しゃおらぁっ!! どんなもんじゃい! これがガルバディア教育の集大成だばーか!!!」
急に声を荒げ喜びだした僕に驚き、ギョッとした表情でこちらを見る一同。
大声出してごめんね、でも本当に嬉しかったから……。
『いきなり大声あげてどーしたんだよデリング……ってあ、あれ? なんスかコレ? え? ちょっ……俺の身体……何で向こうで倒れてんだよ……!? しかも透けてきてる!? 』
頭の中で騒ぐなうるせぇ……。
『あ? 頭の中って何の話だよ……どわっ!?」
変に思考を読まれる前にG.F.となったティーダを召喚した。
もう二度とこいつをジャンクションする事は無いだろう。
とりあえずG.F.保管用のペンダントをティーダの拠り所にする。
シヴァとセイレーンいるんだから良い環境だろ、感謝しろ。
「ど、どういう事だ!? ティーダが壁に触って倒れたと思ったら急にそっちに現れて……」
「おい! 倒れた方のティーダは消えちまったぞ……!?」
ブリッツ兄弟説明乙。
「何なんだよ……色々ありすぎて意味わかんねーっての……」
「えーと、とにかく君は大丈夫……なの?」
ユウナが心配してティーダへと声をかけた。
「あ〜……大丈夫……かなぁ? 正直何が起きてんのか意味わかんなすぎて、なんとも言えねぇッス」
頭上にクエスチョンマークを浮かべて困惑しながら後ろ頭を掻く彼に、親切な僕は説明してあげる事にした。
「ティーダ、君はシンを倒したら消える。その事はシーモアやユウナレスカやアーロンさんの話で理解したと思うが……」
「あ〜……デリング、もう決めた事だしその話はパス。俺が消えない為にシンを倒さないって選択はあり得ないから、深く考えても仕方ねーって……」
「それがたった今解決した」
視線を逸らして寂しそうにする夢系主人公へと教えてあげる。
なんか受け入れてるっぽいけど死んで貰ったら困るんだって、いやほんと。
「へ? 解決……? どういう意味だよ……詳しく説明してくれ」
「今、僕が君をザナルカンドからドローしたんだよ」
リュックとティーダが揃って首を傾げる。
「ドロー?」
「ドロー……って何?」
「簡単に言うと、君というエネルギー生命体を意識ごと夢のザナルカンドから切り離して独立させた。だから……多分もうシンを倒しても君は消えない」
「えっ!? そ、それって……滅茶苦茶凄くない?」
そうだぞリュックたん、僕、これでもガルバディアの良い大学出てて結構凄いんだぞー?
「……やった! って喜んで良い……んだよな? それってそんな簡単に出来る事なのかよ?」
ティーダは相変わらずどうリアクションして良いのか困っている風だが、この状況でひとつだけ正しい行動がある。
「わからないなら、とりあえず僕に感謝してくれれば良いよ」
えっへん!
「うーん……いや、感謝したいのは山々なんだけど……正直こんな重大な話サラッと言われても信じれないっていうかさ。今まで夢の存在だって事、俺なりに悩んでたんだ。
それがこんな呆気なく解決されるとは思っても見なかったっつーか……。あー……ほんとに俺、消えないんだとしたら、スッゲー嬉しいけど……。冗談とかじゃないんだよな? な?」
そろそろくどいぞガキ。
珍しく手放しで賞賛されるべき事を成したんだから、素直に褒めて僕様を崇めろよサル。
「そんな悪趣味な冗談をデリング様が仰る筈無いわ」
「ええ、我が友が言うのなら間違いはないのでしょう。私も正直理解しきれているかは分かりませんが、そのドローという技で夢のザナルカンドからこの小僧を引き抜いてきたというなら……それは中々凄い話ですね」
ルールーとシーモアのデリングJr.信者タッグが同調した。
おお、良いぞ良いぞ、コイツらこういう時は素直に受け止めてくれるから気分が良いな。
もっと褒めろ。僕の手柄だ! 召喚士業界を揺るがすレベルのすっごい研究成果なんだぞ!
「ふん、デリングの扱うそのドローとやら、夢のザナルカンドからこいつ以外の人間も連れて来れるとしたら……少々厄介な事になるかもしれんな……」
アーロンが横にいるユウナレスカをチラ見しながら言った。
見られた女幽霊は早速厄介な事になりそうな事を言い始める。
「シンを倒す前にザナルカンドから人々を連れて来る……。そのような事が本当に叶うのだとすれば……なんと夢みたいな話……。私の父や祈り子となった人々も紡いできた夢を真の意味で生き永らえさせる事ができて本望でしょう……」
ユウナレスカが熱の篭った視線で僕を見る。
「やはり……貴方は……」
彼女の言葉を遮って、ワッカが感極まって男泣きしながら膝をついてエボ賜した。
「すっげぇ……。やっぱデリング様はすっげぇお方だぜ……。もう絶対助かる見込みが無ぇと思ってたティーダまで救っちまうなんてよぉ……。これじゃまるで……」
「ああ、兄貴……やっぱデリング様って……」
慄くワッカとチャップを小馬鹿にするようにルールーが口を開く。
「あら? 貴方達、ようやく真に理解したのかしら。そう、デリング様は……この世界を救う為に現れた救世主よ」
めっちゃドヤ顔でデマを振り撒くルールーは、推しが評価されて誇らしげだった。
「つまり、このまま『シン』を倒す事が出来たなら……ついに、俺達は罪を償ったって事か? エボンの教えに従って人の罪から解放されて赦されたって事だよな?」
「まさかっ……それをスピラに齎して下さる事こそが、デリング様の存在理由か……? 」
とんでもない真実に気づいたみたいな迫真の表情を浮かべるブリッツ馬鹿兄弟。
当事者なのに蚊帳の外に置かれかけていたティーダが、それを否定してくれる。
「本当に俺が助かったってんなら確かに凄い嬉しい事だし、俺にとっては救世主だけどさ、デリング本人はそんな風に呼ばれても嬉しく思って無さそうだけどな」
テメェ、多分助かったんだからもっと素直に喜べや……。
だがチャラ男、よくぞ言ってくれた。
流石俺のG.F.となっただけはある見事な洞察力だと感心する。
褒められる事をした時に誰かから称えられるのは嬉しい事だが、それが救世主とか言われて大仰に奉られ始めるのは話が明らかに違うだろう。
平気でそんな事を言い出すイカれたこのメンバーの中で過ごしていると、やはりティーダ君のような常識的感性持ちという人間は大切だと再確認出来る。
彼を生かした自分の判断は正しかった。
そう僕が安堵しかけた時、そこに余計な補足情報を付け加える青いゴキブリが居た。
「皆さん、少し……よろしいでしょうか?……私には一つ大きな疑問があったのです。
デリング殿はエボンの真実を、代々寺院の裏家業をしていた家の生まれ故に知ったと仰いました……。
ですが、エボンの老師という立場から発言させて頂きますが……。私にはそのような寺院の裏の仕事を生業とする一族などに心当たりが無いのです」
「!?」
その発言内容にみんながザワつく。
僕もなんか急に過去の出まかせがバレそうになって、心臓がザワザワしていた。
シーモアは何故かこのタイミングで、その余計な話を更に続けた。
「その話を聞いた時、私には心当たりがなかったので、おかしいなと思い旅の合間に寺院の過去の記録も調べて見ました。
ですが、近い過去にそのような家は存在してはいなかったのです……。
過去、それも数百年単位を遡った大昔にそのような一族が居た事はあったようですが……。
遠の昔に権力闘争に巻き込まれて、不都合な事実を知る者は全て抹消されており……デリング殿の生誕した年月には存在し得ないのです」
「それは……どう考えてもおかしいな……。隠れ住んでいたか、嘘を吐いているのか、それとも……長い時を生きている幽霊か……」
鋭い眼光でサングラス越しに僕を睨むアーロン。
幽霊はテメェだろ。
めっちゃ怖いからガン飛ばすのやめて欲しい。
もう見た目だけじゃなくてやってる事もヤクザやん……。
ヤクザの幽霊って、馬鹿が考えた一番怖い幽霊かよ……。
あとさぁ、何なのこの流れ……尋問なの?
「実家が大きい家だって話は聞いた事あるから……隠れ住んでたとは思えないわね……」
「でも……! デリングさんは異界送りも使ってるし……。死人って訳でも無いんじゃ……そうですよね? ユウナレスカ様」
「確かにユウナの言う通りです。私も召喚士ですが、死後蘇りこの身体となって以降、己の体に影響があるので異界送りは極力行わないようにしています」
はへー……だからザナルカンド遺跡はあんなに幻光虫塗れなんだぁ……。
元大召喚士様が住んでたにしては、異界送りとかでお掃除されて無いなと思ったんだよなぁ。
「でも、じゃあさ……デリングは何処で『シン』とか夢のザナルカンドとかそんな知識を手に入れたんだよ?」
「あはは、もしかして……このスピラを救う為に別の世界から来た、都合の良いお助け星人だったりして……ってあれ? なんかデリりん、顔色悪いよ?」
ああ、リュックの言葉で何となく理解してしまった……。
これは……宗教の教義的観点から見て、多分、異世界人だってバレたらやばい系じゃないか……と。
全員の視線に貫かれる。
ヤバい、こいつら全員エボン教の手先だ……。
「は、ははっ……リュック、ナイスジョーク」
僕の苦し紛れに吐いたこの言葉が、この謎議論の方向性を決めた。
決めてしまった。
「ナイスジョーク……ってどういう意味?」
「アルベド語……じゃないよね?」
「ロンゾの言葉には存在しない」
「少なくとも、俺がブラスカやジェクトと旅してきた中では、どの種族からも聞いた事が無い訛りの言葉だな」
アーロンさんのナイスアシストで試合は一気にデリングジュニアーズの不利に傾いた。
さっきからこのおっさん僕に当たりが強いんだけど……何の恨みがあるんだ。
「そ、そんな……じゃあ本当に……救世主……様?」
恐ろしい者を見るかのようにルールーが僕を見る。
いや、お前さっきまでドヤ顔で「デリング様は救世主よ」とかなんとか言ってたやいないかい。
「そーいや、なんつーか俺も結構スピラの人達とは違う出で立ちだって自覚はあるけど、デリングみたいな見た目の奴に会った事……ないよな」
おいおい、いきなり人種差別か? ザナルカンドっパリらしいな……。
ティーダ君、何を言い出すのかね。
チミはG.F.なんだから余計な考察なんてせずに、ご主人様の擁護だけしてれば良いのだよ!
「確かにデリりんはアルベドとも違う見た目をしてるよね。なーんか容姿とか洗練されてるし、スピラの人間じゃ無いみたいな〜?」
「確かに……」
確かに……じゃねぇんだよボール馬鹿共。テメェらやっぱり原作通りのレイシストかよ。
「さ、差別に抵抗していこうという人間が、差別的な発言はやめてくれないかリュック。容姿なんて十人十色な筈だろ?」
そ、そんな他人の容姿にいちいち引っかかっていたら生きていけないぞ?
ほ、ほら、スピラの現状見てみろって。
アルベド差別が横行しすぎて『シン』を倒す方法見つけられずに、人類が滅びの一途を辿ってたじゃん。
だからこそ先入観の薄い若い世代が、憎しみと偏見の連鎖を断ち切らねばならぬというのに……!
「そういえば……ずっと引っかかっては居たんだけど、前にアンタが言ってた修学旅行ってのも妙な話だな……。
未成年の集団を旅行させるなんてモンスターが危なすぎて、どれほどの警備が必要になるのか……。
そもそもスピラで子供を他人に預ける間抜けな親は、それほどの人数居ない。一体何処の文化なんだ?」
パイン、何故今日に限ってそんなに饒舌なんだ……!
「そ、それは……そういう、安全な地域だったんだ」
僕の呟く苦し紛れのその場凌ぎに、またアーロンさんが噛み付いてくる。
「安全な地域……何処の事だ? まさか、夢のザナルカンド……とでも言うつもりではあるまいな」
「…………」
僕は無言になるしかなかった。
強いて言うならば、安全な地域といえばベベルだろう。
だが、あそこは管理がしっかりとしているエボン寺院の総本山のお膝元だ。
漏れてはいけない情報を管理するために、調べれば必ず過去の記録を確認できるようになっているはず……。
安直な嘘がバレるのは間違いない。
「そういえばデリング様が最初に村に来た時、何処にも無いような変わった服装だった気がするわね……。あの時は旅に出ればそういう服装の地域もあるのかしら?と思っていたけれど……結局色んな所を見てきて、あの時の服装をしてる人に会った事が無いわ」
ルールーお前は何時も何時も、主人の不利に働くような余計な事ばかり言いやがって……。
乳に栄養が行ってるせいで巨乳が馬鹿だという逸話は本当だったか。
「キマリは見た。デリングはエアロという誰も使えない風魔法や召喚獣を使う」
「擬似魔法にG.F.……。思えばそんな技術、思いついたからって簡単に手に入るような物じゃ無い……」
キマリとユウナがボソッと呟く。
不思議とその言葉は全員の耳に届いた。
「改めてお聞きしますが……デリング殿、貴方は一体何処から来た何者なのです……?」
総括するようなシーモアの質問。
どう答えるのが正解なんだ……。
そもそも、これがマジでどういう尋問なのかが分からない。
僕、何も悪い事してないんですけど……何で責められているみたいな感じになってるんですかね?
救世主って何? それ権力者とかなの?
だとしたら僕ちんは救世主だよ〜って肯定した方が得するのかな……。
でも救世主って担ぎ上げられるのって、大召喚士とかそういうのとは違うのか?
さっきワッカが言っていたが、スピラの罪を許す存在だとしたら、それって多分清廉潔白を求められたりする可能性が高い。
不用意に救世主ですとか意味のわからない称号を名乗って不祥事を起こしたら、エボン教に対する侮辱行為と取られかねない。
救世主が女遊びを許されない可能性は、おおいに存在する……。
宗教ってマジで何やらかすかわからないから、こういう時厄介だ。
正義と教義の名の下に、平気で残酷な事もやりかねない怖さがある。
「異世界から来ました」という真実を喋ると洒落にならない可能性すら高い。
現にジェクトはそのせいで、禁足地となっているザナルカンド遺跡に入ったと思われて寺院に取っ捕まり、ガードにならなければ……多分そのまま死ぬまで幽閉されていた。
あぁ……そんなの絶対嫌だ。
従召喚士時代もうちょっとちゃんと時間かけて、教義とかそこらへんの深い事を勉強しとくんだった……。
僕は必死にぐるぐると頭の中を回転させて、シーモアの問いに苦し紛れの答えを出した。
「僕は……貴方の『友』であり、ここにいる全員の旅の仲間……。それ以上でもそれ以下でもありません。これで……どうでしょう……?」
逃げの一手。
なんか良い話っぽくして曖昧にする事で誤魔化す。
これでどうだ……。
スピラで僕がやってきた悪い事なんて、ちょっと女遊びしたぐらいですよね?
対して僕はたった今もティーダを助けたり、召喚士としても不足無く、その勤めに励んでいたと思うんです。
そんな善人をただの疑惑だけで殺したりできますか?
怪しいからって火炙りとか、ファラリスのなんとかみたいな拷問器具にかけたりします?
幾ら文明が永遠の発展阻害状態とはいえ、そこまで土人じゃない筈、そこまで土人じゃない筈、そこまで土人じゃない筈。
僕は脳内の組み分け帽子に祈りながら判決の時を待った。
お願いします。許してください。
「ふっ……そうだな」
アーロンがニヒルに笑って僕の言葉を肯定した。
嘘、だろ……。さっきまでめちゃくちゃ食らいついて来たのに……。
こ、これは僕の言葉が肯定されたと取っても宜しいか?
「ふっ……そうですね」
シーモアが笑う。
なんだよてめぇら、もしかして必死に足掻いて命からがら助かろうとしている姿を見た嘲笑か?
二人して怪しげな自然療法で絶望に抗う末期癌患者な僕を馬鹿にしてんのか?
どうしようもない状態でも生きようと努力してる人間に対して、そんな笑い声を投げかけるなんて最低だぞ。
────しかし、どうやらそういう訳では無く、なんだか彼等は呆れて納得した様子だった。
つまり……僕はこの窮地を脱する事ができたのだ。
思わず大きく安堵の息を吐く。
「ええ、デリング様はデリング様です。それ以上でもそれ以下でもありません」
いや、だからルールー……お前はさっき救世主だとかなんとか吹聴してたやないかい!
あのまま適当な妄言垂れ流してたら、お前の愛する男はスピラ中から異端者認定されてコロコロされてたかもしれんのだぞ?
ちょっとは反省しろ。
「ありがたや〜……ありがたや〜……」
「これもデリング様の賜物だ……」
馬鹿兄弟、その口をボカンと開けたまま瞳を輝かせる宗教家仕草をやめろ。
他の奴らはなんか納得してるっぽいのに、こいつらは救世主認定を続行し続けてやがる……。
その一途さが怖いんだよ宗教狂い共が……。
「まぁ、どう考えてもただ者じゃないって事はわかったよ。あと、案外間抜けだって事もね」
鋭かったパインの視線が心無しか柔らかくなった気がした。
「やはり貴方様は私の夫……」
ユウナレスカはしなだれかかってくんな。
お前だけなんか感情の矛先が他と違ってこえーんだよ。
絶対1000年間も幽霊してたせいで情緒バグってんだろ、このエロババア。
「ま、なんか納得出来ないけど、俺が助かったんならそれでいっか。それじゃ俺、今から喜ぶけど……良いかな?」
あっけらかんとしたティーダの一言と、その直後命拾いした幸運を噛み締めて「ヨッシャヨッシャヨッシャーッ!」と喜ぶ彼の叫びがガガゼト山に響き渡る。
僕は手を握ったまま振り回されて、ティーダから何度も感謝の言葉を告げられた。
先程までの謎の緊迫感はすっかりと忘れ去られて、その場は和やかになったのだ……。
僕以外は……。
いや、怖すぎるから。
なんだよみんなして俺を取り囲んで、得体の知れない物を見る────みたいな疑いの視線を向けて来やがって……。
おちんちんキュッてなったわ……。
そうか……。
僕はもしかして得体の知れない存在なのか。
彼等スピラの人間からしてみれば、人間に擬態している化け物に見えててもおかしくないのかも知れない。
というか人間だったとしても、見た事無い人種がいきなり自分の家で生活している事に不信感を抱かない奴は居ないだろう……。
そしてその見た事の無い人物が僕だ。
普通なら此処に居るこいつの目的はなんだ?とか考える筈。
下手をすると謎の国から派遣されたスパイや国家破壊工作員だと受け取られかねない。
僕の祖国ならそんな奴、何かした証拠が無くても確実にD地区収容所送り案件だ。
今は許されている僕の存在だが、何か悪さをした瞬間に一緒に旅して来たこいつらが掌返して殺しにくる可能性が高まったと言える。
シーモアとユウナレスカの二人だけだった脅威存在が、今やパーティ全員が監視してくる厄介な存在になっている。
おまけに彼らは全員旅の中で限界近くまでレベリング済みであり、大人気なく各種装備も七陽の隠し武器で揃えられているのだ。そんな奴らに見張られながら過ごす日々……。
なぁ、死ぬまでこれってマジか?
誰か、思考盗聴器が開発される前に、俺をこの監視世界から救い出してくれ。
感想とか評価とか貰えると喜んだりモチベが上がったりします。