※この作品はR-18です。

【完結】転生者が権力とかでFF8とFF10のヒロインを食い散らかした挙句、最終的にスピラを救う話。   作:速射弾

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FF10編 30話 『シン』

 

 

夢のザナルカンドの住民をドローし続ける。

シーモアの相手をしてくれるティーダならともかく、なんでそんな架空の世界のモブキャラを助けなきゃいけないのか。

正直言って全然乗り気じゃないのだが、こうなったのにはまあまあ浅い理由があった。

 

ユウナレスカがうっとりとした表情で僕の腕を組みながら、ザナルカンド民を今のティーダと同じような状態にする事を、さも確定事項かのように勝手に決めてやがっていたのだ。

 

ウキウキ気分でザナルカンド民移住計画を進める彼女に逆らえるはずも無い。

だって逆らったら何されるかわからないんだもん。

普通に豹変して殺しに来ても驚かない。

結婚式の時の事もイマイチ反省しているか読み取り辛いので、また変な暴走が起こっては困るのだ。

おまけにここは式場でもなんでも無い為、ユウナレスカは絶対に本気モードで殺しにかかってくるだろう。

僕に出来る事は相も変わらず彼女の機嫌を損ねずナイスガイを演じる事と、SEXだけだった。

 

そんな事を思いながら、ようやくザナルカンド住人の情報を全てドローし終えたその時。

地平線の向こうから巨大な影が此方にやってくる姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ザナルカンドからのドローに反応したのか、『シン』が此方に向かってくるのが分かる。

夢の世界を守る為の番人は、夢から人々の存在が連れ去られて行くのを許しはしなかったらしい。

その身体からは大量のコケラが剥がれ落ちて、突兵となって此方を目指してくる。

 

「『シン』はおそらく夢のザナルカンドを守る為に動いています! ザナルカンドを召喚している祈り子に攻撃は出来ない筈……! この近くから離れてはなりません!」

 

ユウナレスカの忠告通り、重力魔法で放たれる筈の巨大なビームを『シン』は出しては来ない。

あちら側も攻めあぐねて居るのだとわかったその時、シーモアがジスカルの究極召喚を呼び出した。

 

「よもや大一番がこのような始まり方をするとは……。どうやら決戦というのは予期せぬタイミングで訪れる物らしい……。想定外の事態ですが皆さん、早速飛空艇に乗り討伐作戦を開始致しましょうか」

 

「そんな……! それじゃ『シン』を倒したらシーモア老師が!」

 

「私を舐めないで頂きたい……。先程までティーダですら決めていたのに『死ぬのが怖いから戦いません』などと言うほど、恥を知らない男では無い。

これでも召喚士の端くれです。

ワッカ殿……散々持ち上げて置いて、今更その評価を下げさせようとするのはご勘弁願いたい物だ」

 

「……っ!? で、でもよ……」

 

ワッカは歯を食いしばって耐える。

その続きは想像に難く無いが、彼は口に出して言えなかったのだろう……言える訳が無い。

『シン』を倒すのは全てに優先されるべき願いだから……。

 

「覚悟を決めなさい。……それに、私が死しても消えると決まったわけでは無い。まだデリング殿の作り出す世界の姿を見る前に消えるわけにはいきません。その尽きぬであろう未練ならばもしや……」

 

「ええ、きっと貴方ならばその想いの強さでこの世に残る事ができるでしょう。今はそう信じる他ありません」

 

ユウナレスカが言うような、そんな事が起きる未来にだけはなって欲しくない。

ただただ僕は願うばかりである。

シーモアよ、死人になって生き返ってこないでくれ……。

 

 

 

究極召喚とは一体何故『シン』に対して有効な攻撃手段なのか。

それはただ普通の召喚獣よりスペックが高いというだけでは無い。

このスピラを覆っている自然の要素である幻光虫。

それは死人や魔物だけではなく、この世に生きている生物ならばその身に宿していて然るべき物だ。

ただ空気中に目に見えない程に薄まった幻光虫という光のエネルギーを吸いこみ、肉体に蓄積していく。

 

まるで毒素か何かかのように思えるが、そうでは無い。

例えるなら水や空気だ。

必要とか必要無いとかそう判断する以前に、単純に身体を構成している要素の一つだ。

 

 

そんな幻光虫の結合を破壊する事こそが、究極召喚の真髄。

 

 

ジスカルの究極召喚がその千手の腕を捻り(つむ)ぐようにして、木製の大剣へと()りを変化させ出した。

 

圧倒的な数の木で出来た手はこの究極召喚のリソースだ。

木と融合した種族であるグアドの特色を色濃く残した召喚獣は、驚くべき柔軟性を持って、まるで粘土か何かのように幹を育てて腕を変形させる。

 

幻光虫を破壊する力を持つ癖に、その体躯は幻光虫を自在にコントロールして想いを具現化する。

 

これもグアドの幻光虫を操る色が出ていた。

人の身でありながら光のエネルギーに干渉し、ともすれば魔物すら自在に作り出す事ができる種族特性が、重ねて発現しているのだ。

 

幻光虫すら足りていれば自在に身を作り出せる、というのはとどのつまり、『シン』その物だった。

 

その上、触れた先から結合を強制的に解除されていく『シン』の幻光虫の支配を奪い、己の肉体へと還元していく。

攻撃と共に回復と強化を兼任する様は、おそらく既存の究極召喚と一線を画すと言っていい。

 

勢いに任せる必要の無い大剣の薙ぎによって、怪物の表皮を構成していた幻光虫が空中へ還っているのが見える。

小粒な光が大量に四散する光景は、大きな花火を見ているかのようで美しい。

 

『シン』は完全無欠に圧倒されていた。

 

しかも……ジスカルの究極召喚は、この期に及んで“手加減”をしていた。

 

『シン』の存在が消えてしまわないよう、僕達がその中に乗り込んで核を破壊できるよう、まるで優しく撫でるように……。

回転式の電動ノコギリで木の彫刻を削り出すかの如く、繊細に剣が振るわれる。

 

そうして剥がれ落ちたコケラが、余力で放たれたジスカルの魔法によって、片っ端から光の粒に還っていった。

 

スピラ中のありとあらゆる人を救うために、様々な姿に形を変える。

生きとし生ける人種すべてを掌から漏らさず掬いあげるというシーモアの願い。

その息子の想いと呼応したそれは、まさに千手観音であり観音菩薩。

奇しくもそれは、僕の前世に言い伝えられし神格の存在を体現していた。

 

 

────こんな生体兵器に勝てる訳が無い。

 

 

僕達はこれから『シン』に乗り込んでその核を担うエボン=ジュを倒す。

エボン=ジュは実体があるような無いような存在なので、召喚獣に取り憑いてそれを依代(よりしろ)に新たな『シン』になっていく。

それはただの召喚獣ならば普通に倒せば良いのだが、この千手観音にも乗り移る事が確定しているのだ。

つまり、ジェクトと戦う事も考慮したら究極召喚獣との2連戦……いや、シーモアの母親も併せて究極召喚との3連戦が決定しているのである。

 

幾ら最強武器を取り揃えてスフィアで限界まで強化されたメンバー達が居るとて、これはゲームではなく現実なのだ。

どこまでゲーム通りに戦闘面が通用するのか信用できない。

故に当然ながら、僕はこれからの決戦に行きたくない。

でも、そんな状況でも彼ら原作パーティのみんなはやる気満々だった。

 

スピラを救う。ジェクトを止める。

そこに不安に思う要素が存在したのは先程までの事。

今この時、図らずしも僕のドローによってティーダの死という憂いが無くなった彼らは、前に進む事に何の躊躇も無かった。

 

何処で何の根拠を得たのかは知らないが、明るい未来への無限の可能性を信じているが故に……。

 

 

 

「行こうか」

 

この集団の代表として、僕は言った。

渋々出した言葉に近かったが、それだけでこの一言を口に出した訳じゃ無い。

 

僕が考えていたのはユウナの事だ。

『シン』を倒しに行く気満々な彼女を、ただ我が身可愛さに送り出す気になるのなら、愛してるなんて言えないだろう。

 

ならば僕は、彼女を送り出しただけで震えて待っている訳には行かない。

夫として、男として、ガルバディア魂を持つ者として、妻の身を守る為に付いていく以外の選択肢は無いのである。

そこで先陣を切ると言い切れない所が情けなかったが、仕方ない。

だって究極召喚になったジェクトと戦うの、怖いんだもん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジスカルによって表皮を剥がされた『シン』の内部は、夕暮れ時の雲の中のようだった。

幻光虫の光が大量に灯りとなって存在し、作り出している一種の異界。

まるで夕焼けのプラネタリウム。

 

霞がかったその中を飛空艇が進んでいくと、これまた幻光虫が固まって陸地が出来ていた。

まるで誰かが道案内してくれているように、その先をエボンの梵字が導いてくれる。

それがジェクトの意思なのかは分からないが、ここから先は歩いて行かなければならない……という事だろう。

 

梵字の道案内を進み、一歩一歩踏み出す事にまさに今この時、僕達の意志かそれとも奥で待っているジェクトの意識の表れか、高濃度の幻光虫へと意志が伝わり、道が形作られて行く。

 

何気なく進んでいる今の状態。

はっきり言って正気の沙汰では無かった。

 

みんなハイになっているからか知らないが、特に言及する事も無く飛空艇から降りて進んでいる。

だが、これもっと騒がれていいだろと僕は思うのだ。

 

今は別空間に存在しているような物とはいえ、空の上みたいな物なのに、何で飛空艇から降りる気になるのか。

しかも今、気持ちのみで即席で進むべき足場が組み立てられているとか、安全性に難ありすぎてヤバいだろ。

僕にはガラスで出来た吊り橋を渡っているような物としか思えない。

それを『シン』を倒すぞという一心で克服している我がパーティメンバー達の求心力の高さたるや、これが世界を救う者達なのだなと如実に理解させられる。

 

馬鹿じゃないか? コイツら……。

 

ユウナレスカが作り出した守護竜という空飛ぶモンスタータクシーが保険として控えていなければ、僕は間違いなくここを歩く気にならなかった。

 

 

そんな中で襲って来るモンスターと戦うというのも正気では無い。

効率的なビルドアップでみんなが恐ろしく強くなっているから何とかなっているが、そこらの雑兵が同じ事をしても多分無理だろう。

 

そうして光の中を進んでいくと、次第にその大地の形状が変わっていく。

徐々に深く青みがかった色へと移り変わる。

進む先には……在りし日のザナルカンドの街並みを模したであろう世界が形成されていた。

 

余程強い意識が幻光虫に伝わってそれを形作っているのだろう。

誰がこれの基となっているのか……言うまでも無い。

 

そこに立つ一人の人影が語りかけて来る。

 

「おっせぇぞ、待ちくたびれて意識が消えちまうかと思ったぜ……」

「すまん」

 

アーロンが謝り、ティーダもその男に反応する。

 

「親父……」

「よう、久しぶりだな……」

 

(ジェクト)(ティーダ)の再会はぎこちなかった。

お互いに歩み寄る気持ちがある中で、もどかしいやり取りは続いていく。

みんなはそれを邪魔しないように大人しく見ていた。

 

僕は……ぶっちゃけあまり興味が無い。

いや、他の家庭の話とか知らんし……。

ゲームで鑑賞するのと実際に見るのでは、こうも違うかと感心すらしてしまう。

 

何というか、ティーダってもう僕にとっては普通に知り合いなのだ。

綺麗な親子関係に感動とか、そういう気持ちを抱く気になれない。

ゲーム越しに見てる分にはよかったよ。

でも実際接すると、リアリティがありすぎるというかさ……。

 

良い所もあるけど悪い部分だって見えて来るし、フィクション見てる時と同一視出来ない。

だって……うんこする為にトイレとか行くんだぜ? そんなのただの人じゃん。

リアルな他人感が強すぎて感情移入とかできないよ。

 

シーモアを受け持ってくれるというメリットデメリットを抜きに考えたら、

ティーダが死ぬと言われても、特に仲良く無い同僚が死んだと聞かされるのと変わらない……と表現すれば伝わりやすいだろうか?

「マジかよ」と少し驚くけど結果的に「へーご愁傷様でした」で落ち着く感覚に近いのだ。

僕にとって結局男という存在はそんなもんだ。

 

 

あと、なんか特別親しい訳じゃない知り合いの親って、どういう風に接していいのか分からないよね。

しかも今からソイツをボコって引導を渡すんだぜ……?

元日本人の一般的な感覚が残っている自分としては、結構居心地が悪い。

 

そういえば……ジェクトも精神体みたいなもんだよな。

ドローでその精神体のみを、究極召喚から切り離したり出来るのだろうか……?

ユウナレスカが人の魂を変換して祈り子にできるのだ、その逆もあり得るのかもしれない。

なんてふと思ったので……親子の語らいをしている時に悪いが、学術的な興味本位でジェクトをドローしてみた。

 

「始まったら俺の意識は消えちまう……。だから、手加減できn」

 

「お、親父!」

 

突如として喪失したジェクトに別れを告げる事も出来ずに、ただ呆然とするしか無いティーダ。

そこにアーロンが油断をするなと声を荒げて現状を確認した。

 

「周囲の幻光虫が反応している……来るぞっ……! 構えろ!」

 

そして、街並みの下から這い出て来るブラスカの究極召喚。

巨大な化け物となったジェクトのその姿を見て怯む人間はここには居なかった。

 

「親父……終わらせてやるからな……! さっさと倒れろよっ……!」

 

“それ”にむかって涙ながらに剣を構えたティーダは、覚悟を決めて決別の宣言を叫んだ。

あんなに嫌っていた父親の偉大な軌跡を知った彼は、もう彼の息子として腑抜けた事を言って居られないのだ。

有名人だった親と散々比べられて、そのコンプレックスは並大抵の重圧じゃなかっただろう。

それでもティーダはへこたれず前を向き続け、遂に父を超えようとしていた。

 

「ジェクト……お前にはまだまだ言いたい事が沢山あった! だから……思い切りぶつけさせてもらう!」

 

サングラスが曇ったアーロンが大太刀を構える。

親友と言っても過言では無い友との約束。それが今の彼を支えている。

生前の無念と無限の可能性への期待を胸に秘めた漢は、遠の昔に覚悟を決めていた筈なのに、その瞳から溢れ出る涙を抑える事が出来なかったのだ。

親と子の対面を最も喜んでいた彼は、今からそれに引導を渡す為に刀を握る掌に力を込めた。

 

「な、何がなんだかわからねぇが、やるしかねぇみてぇだな! 行くぞ!」

 

そんなアーロンの隣に並んだジェクトが、ブラスカの究極召喚を困惑した表情で見ながら、戦闘開始の掛け声を上げた。

それは乱雑な物だったが、ブリッツのエースに恥じない号令は味方をこれ以上無いほどに熱くさせる。

絶対に勝つのだという、そんな全員が胸に秘める熱意を駆り立てた。

 

「って、何でジェクトさんがここに……!?」

 

ユウナのツッコミで、その場の焦点がドローによって抽出されたジェクトへと移り変わりながらも、最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

「何で親父がそこに居んだよ!?」

 

ティーダは驚きならブラスカの究極召喚が放つ大剣の薙ぎ払いをかわす。

 

「どうせまたあの男(デリング)の仕業だろう!」

 

アーロンは丁寧に処理された腋をチラ見せしながら、刀から斬撃を飛ばして相手の胸に傷を刻んで行く。

 

「うぉりゃあ! ジェクト様ガード! へへっどんなもんだ!!」

 

究極召喚の振るう大剣に剣をぶつけ合わせて、強引に防御したジェクト。

彼の持っていた鉄塊とも言える剣がその衝撃で大きく凹み抉れて、使い物にならなくなる。

それを見て、アーロンが叫んだ。

 

「こんな時に何をやっているのだ貴様は! せっかく生きていられるというのに、また死にたいのか!」

 

「お、威勢が良いじゃねーかアーロン。 俺は素手でも大丈夫だから心配すんな! 何たって俺様は特別だからな!」

 

「何でもいいけど次が来るよっ」

 

叫ぶパインの警告を聞いて、前衛三人は慌ただしくも楽しそうだった。

 

 

「よっしゃあ! ちょっとボール借りるぜ兄ちゃん」

 

ワッカの投げて跳ね返ってきた武器のボールを途中で強引にキャッチしたジェクトは、そのままの勢いに身を任せて思い切り投げつけた。

 

「俺様の息子ならこの必殺ジェクトシュート4号に合わせてみせろ!」

 

その言葉を聞いて乱暴なパスとも言えない攻撃球は、地形や究極召喚獣に跳ね返ってティーダの元へと届く。

一見乱雑にしか見えないものだった筈なのに、正確に反射の角度が計算されている。

まさに神業。スーパープレイヤーの名に恥じぬ驚くべき修練の結晶。

 

「今まで3号しか無かっただろっ、何時の間に4号が出来たんだよっ!」

 

それを受け取るティーダもまた、ただのプレイヤーでは無い。

ザナルカンドエイブスのエースに抜擢された若き才能の塊。

その親譲りの才覚は、旅で鍛え上げられた身体能力によって100%に限りなく近い物へと昇華している。

 

「『シン』の中は暇だったからな、暇潰ししてたら4号が出来ちまったんだよっ、オラッ! そのまま身体捻って俺に蹴り返してパスしろ!」

「んな事わざわざ言われなくても分かってんだよ! 連携前提の技なら、こんな難しい動き要求してくんなよな!」

 

まるで望まぬ妊娠でもしたかのように必殺技誕生を語るジェクト。

ティーダは文句を言いながらも、飛んできた球を見事に彼へと蹴り返す。

その姿はここが水中では無いにも関わらず、ブリッツのフィールドに居るかのように見る者達を錯覚させた。

 

「ハハハ! んな事言いながらちゃーんと出来てんじゃねぇか! 流石はジェクト様のガキだ!」

「うるっせぇクソ親父! 出来ねぇとは言ってねぇんだよっ、 何たって俺は……伝説のエースストライカー、ジェクトの息子なんだからな!」

 

高濃度の幻光虫が反応して、まるで小規模の噴火と見紛う焔の曲線を宙に描き……球が灼熱を帯びる。

それはジェクトの蹴りの軌跡だった。

 

10年という時の流れと、気持ちのみで『シン』を制御するという荒技がジェクトの精神を摩耗させていた。

おまけに再会したばかりの息子とは、何を話して良いのかわからなくて弱々しくなっていた。

 

しかし今の彼は、G.F.になった事でその精神的な活力を取り戻して、己の抜け殻となって動き続ける究極召喚に、戦闘用のブリッツボールを超速で叩き込む。

 

これが「そろそろダメだから現役を引退するかも」なんて言われていた選手とは到底思えなかった。

 

 

ブラスカの究極召喚は肥大化した左手で、ジェクトの放ったそれを、力任せに受け止めて弾き返す。

鋼と一体化して小手と化したその皮膚を使って弾くその動きは、ジェクトが散々やってきた力任せの防御方そのもので……。

 

しかし、球を受け切る事が出来ない。

 

既に抜け殻の残滓には、本来のジェクトにある筈の想いの強さが足りない。

幻光虫で形成された肉体と空間が、その目に見えない筈の差を明確にする。

 

究極召喚とは思いの力。

それが無くなった形骸に一体何が成せるというのか。

究極召喚という圧倒的なまでの力は、ドローによって核たる想いを奪われて、予期せず大幅な弱体化を強いられた。

それは……例えるならば、プロスポーツチームからその集団の要になっていたエースを失ったに等しい。

その選手がワンマンで回していたチームならば、尚更引き抜きが与える影響も大きくなるだろう。

 

「オラオラオラッ!終わりじゃねぇぞぉっ!」

 

球を掴んで止めようとしている巨大な自分の分身体に、ジェクトは更に追い討ちをかけた。

強烈に身体を暴れ回らせて突撃するそれには何のテクニックも技も無く、素人目にはやたらめったらに暴れ回っているようにしか見えない。

しかしその暴れん坊は何故か的確に球の中心点を捉え、身体を回転させながら拳で撃ち抜いた。

 

球を掴んでいた巨大な掌には穴が開き、その先に在る身体をも貫き通す。

ボールとも小型の隕石とも呼べる熱の塊が、図体ばかりのデカブツにトドメを刺したのだ。

 

大は小を兼ねるとは言うが、これはその逆だ。

いや、魂と心という点で今現在のジェクトの方が遥かに勝るのだから、あながち逆とも言えないか。

 

 

 

「これもドローとやらの力ですか……。後で私の両親のジスカルとアニマからドローをお願いしても?」

 

僕にお願いをしてくるシーモア。

そういえばジェクトを抽出出来たのだから、コイツの両親もドロー出来る訳か……。

まさかドローが究極召喚対策になるとは思っても見なかったし、この後どうせ戦う訳だから。シーモアの親をドローする事に断る理由は無いけど……こんなご都合主義が許されていいんですか?

 

そう言いたくなる程度には、ブラスカの究極召喚は弱体化されていた。

シーモアが感嘆するのも無理は無い。

FF8といえばカードと双璧を成してドローだと言われ続けるポテンシャルは、伊達ではなかったのだ。

これこそ僕に許されたチート能力と言っても過言では無いのかもしれない。

 

 

 

崩れて行くブラスカの究極召喚の中からダニのような黒い影が姿を現した。

『シン』の核となっているエボンだ。

その身は人では無くなり、ただひたすら召喚獣という存在に乗り移るだけの呪いと化している。

戦争に負け、国が終わる事を認められず、永遠に架空のザナルカンドを召喚し続けた。

その末路。

 

既に何の思想も敵意も無く、ただただ夢をこの世に召喚し続ける為だけに文明の発展を阻害し、人を殺し続けた呪われしエボン=ジュ。

 

それが新たな核となる宿主を探してヌルリと宙を漂った。

行く先は召喚士が各地で手に入れる召喚獣だ。

これから一体づつ、エボン=ジュに乗り移られたそれを倒して行かなくてはならない。

 

ブラスカの究極召喚はまだ前座なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてエボンの呪いに憑依された各召喚獣を倒し、たった今、シーモアの究極召喚であるアニマにエボン=ジュが乗り移った。

 

「グアアアア!!!」

 

普段のシーモアからは想像もできない大声の断末魔が響き渡る。

心の通じ合っている者が『シン』になる衝撃が伝わり、そのショックの強さで召喚士が死に至る。

それは愛が深ければ深い程に強烈な苦痛になる事だろう。

シーモアにとってそれは(アニマ)だ。

かつて、このスピラに生きる者を殺し尽くすという野望を抱いていたシーモアに、祈り子となったその母親は反発した。

己が息子に望んでいたのは、そのような復讐などでは無いと。

 

互いに想いあっていた筈の母と子の愛は何時しかすれ違い、仲違いを起こす。

母とさえ過ごして居られれば良いと思っていた子供。

息子さえ幸せに過ごす事が出来るなら、自分の命など要らないと思っていた母親。

 

その双方の願いは、今ここにシーモアの死という形で潰えた。

せっかく父と母がG.F.となって僕にドローされたのにも関わらず、肝心の子供が命を落とすのだ。

何という悲劇的な結末だろう。

 

「シーモア様!?」

 

いち早く気づいたワッカが彼に駆け寄る。

 

死に際にシーモアが見る相手が一番苦手としていたワッカになるとは。

心底同情するよ。

おまけにグアド族だけに断末魔も「グアア!」だって……? 本当に笑える良いギャグだ。

君の死がこれほどまで冗談として完成されているとは、小生(しょうせい)、感服致した。

こんなに清々しい気分も久々かもしれない。

 

しかし今日から毎日食べるご飯が美味しく感じられるようになる僕と違って、他の人達はその死を前に悲しんでいた。

 

「シーモアさん!」

「シーモア様!」

「シーモアっ」

 

心配した彼等に駆け寄られる中、苦痛に苛まれて死に行くシーモアは、まるで良い奴みたいな事を言った。

 

「皆さん……まだです。私の事よりも早くシンとなったアニマを……」

「みんな、シーモアの言う通りだ! 彼の死を無駄にするな! 行くぞ!」

 

まだだ、まだ笑うな……。

にやけそうな顔の筋肉を抑えながら、決死の表情で僕は音頭をとる。

そうだ、彼の死を無駄にしてはいけない。これ以上死者を出すわけには行かないんだ!

 

自分一人だけ不謹慎にも程がある気持ちだったが、それでもパーティメンバー達の矛先は同じ方向を向いていた。

そんな僕たちの背後から、シーモアの今際の際の言の葉が聞こえた。

 

「私はもう過去に囚われて道を誤ったりはしない。今までありがとう。そして……さようなら、母さま……」

 

 

 

「シーモアァァァアアア!!!」

 

ティーダの慟哭が幻光虫の世界に響き渡った。

ここに来て初の人死(ひとじに)だ。

今まで何処となく和やかなムードが漂いつつ、余裕綽々で進んできたメンバー達の必死さが一段上がる。

 

「出し惜しみは無しだ! 行くぞ兄貴!」

「くっそぉおおおお! シーモア老師の仇ぃいい!!」

 

チャップとワッカがボールを持って回転しつつ何度もブリッツボールを投げまくる。

普段何処に仕舞っているのかわからないそれは、球技のアイテムとは思えない程エボン=ジュに寄生されたアニマにダメージを与えて、その身体を幻光虫へと還して行く。

 

ジスカルを含めた全ての召喚獣との戦いが終わって、行き場を失ったエボン=ジュが酸素を失った生き物のように、もがき苦しみながら溶けて消えた。

 

全ての終わり。

 

旅も、悲劇も、『シン』も、召喚士も。

全員が呆気に取られて、まだ終わりを理解しきれていなかった。

 

その時……既にシーモアは完璧に絶命していた。

『シン』を倒した事を喜ぶよりも先に、飛空艇の甲板に倒れ伏した男の亡骸を見て、みんなが悲壮感を醸し出す。

泣いたり喚いたりする気すら起こらないという風に、全員がただただ佇む。

やるせない気持ちが込み上げてきたのか、幾人かのか細い呻き声が聞こえた。

 

逃れる事の出来ない死だった。

誰もがそれを理解して、シーモア本人さえも認めていたその悲劇の結末。

下らぬと同情を拒否していた彼の死を悲しむ者は思いの外、多いらしい。

 

 

 

だが……僕はこんな見せかけの死に油断はしない。

ゴキブリは死に際に、卵を()り出して次代を残そうとする。

死を予感したハエは、尻を小刻みに痙攣させて胎の中の蛆虫を周囲に撒き散らす。

何時だって厄介な害虫ほど、潔く死を認めたりはしないのだ。

 

「まだ終わりじゃない。僕たちは召喚獣と『シン』の亡き骸を異界に送らなければならない……! 」

「で、でも異界送りなんてしちまったらシーモア老師が……」

 

このメンバーの中で最もシーモアに懐いていたワッカが、悲しみを前にしてたじろぐ。

シーモアを送るのかと、そんな葛藤がパーティメンバーの間で交わされたが、僕がそれを否定する。

 

「悲しい気持ちは分かる。だが、今やらない事で再び『シン』を復活させる訳には行かない! ……それが例え、僕の親友であるシーモアを送る事になってもだ!」

 

「デリングの言う通りだ」

 

「あ、アーロン!」

「アーロンさん! そうかっ! アーロンさんも死人!」

「なら……ユウナレスカ様も……!」

 

そうだ。

今は女幽霊まで異界に送れる大チャンスタイムだ。

邪魔だった奴らをまとめて処理できる最高のタイミング。

 

「私はまだやるべき事が残っているので消えるつもりはありません、ですが……アーロンはそうでは無いようですね……」

 

そう言うユウナレスカだが、一体どれだけ異界送りに抵抗できるのか、見ものである。

 

「俺の役目は終わった……。本当の意味で『シン』を倒せた今……もう心残りなど無い。後は、お前達の時代だ」

 

アーロンは消えようとしていたが、それに僕は待ったをかける。

 

「いいえ、それは違います」

 

彼は僕に対してそこまで悪い存在では無いので、別に存在して貰って構わない。

それどころか、居てもらいたい理由だってあるのだ。

 

「『シン』を倒しただけで終わりだと思っている……。むしろ始まりはここからですよアーロンさん」

「『シン』を倒す事は通過点でしかない……散々お前(デリング)が演説で言ってきた事だな」

「ええ、貴方にはまだ役目が残っている筈だ。消えるのはそれからでも遅くは無い」

 

僕は、先々の問題を楽観視する気は無い。

ユウナレスカが万が一、異界送りに抵抗出来てしまったその時……あのBBAを止めようとしてくれる人員は多ければ多い程良い。

その最たる例がアーロンさんだろう。

彼が睨みを効かせて居る間は、比較的あの女は大人しくしていた。

僕はなんだかんだで、その点はこのおっさんの事を買っているのだ。

 

お前、ユウナレスカに怨み懐いてるよな? この悪霊殺すまでお前の物語は終われねぇよな?

……頼むから、まだ消えたく無いと、みっともなくしがみついて来ているこの女から、僕を守ってくれ。

 

「35かそこらなんて働き盛りです、貴方はまだまだ若いんですよ。本当に世界を救う為に頑張らねばならないのはこれからです」

 

そうだ。

それにユウナレスカだけじゃ無く、古代の機械兵器とか昔のやべー幽霊とかがまだまだわんさか居るこの世界で、長く戦力になる死人は幾ら居ても足りないぐらいなのだ。

あとはお前達の時代だなんだのと、くだらない理由で満足されては困る。

 

「まだまだ寺院には、隠して居る秘密と脅威が山ほどあります。それを解決するまで成仏されては困る」

 

具体的言うとこれからは僕の時代なのだ。

何処ぞの馬鹿野郎(シーモア)のせいで、自分が矢面に立ってこのスピラを導いていかなければならない羽目になっている。

 

僕は嫌だぞ、デア・リヒターとか、ヴェグナガンとか、アンラ=マンユとか、トレマみたいな裏ボス達と戦うのは。

嫁のユウナ達も絶対に戦わせたくない。

そういうのは部下である戦闘要因のオス達の仕事だ。

七曜の武器だって持ってるし、アーロンは元々僧兵だったんだから丁度いいだろ。

危険な事はお前ら元気な原作男メンバーがやれよ……。僕はお家でエッチだけしてたいんじゃボケが。

 

「僕達には責任がある。世界を平和にする責任が。亡きシーモアもきっと貴方にはまだ自分と同じ場所に来て欲しいとは思ってない筈だ」

 

僕の呼び止め理由をでっちあげた雑な演説に、ティーダが続いた。

 

「そうだよ! 心残りは無いって……アーロン、童貞は捨てなくて良いのかよ! エロい事しないまま死んで……それで本当に良いのかよ!」

 

その言葉で、幻光虫に還ろうとしていたアーロンが眼を見開いた……気がした。

サングラス越しなので、見えづらくてその真偽の程は定かでは無い。

僕の見間違いかもしれない。

しかし、彼の中で意識は少しだけ変わったらしい。

 

「ふっ……すっかり忘れていたな、そんな事。消える訳にはいかない理由……か。寺院が何を隠して居るかは知らんが、まだ満足するには早いらしいな」

 

本当か?

本当に寺院の隠し事を解決していない事に未練があるんか?

誰もが気になっているであろうが言い出せない中で、ジェクトが喜ぶ。

 

「と、とにかくアーロンが残ってくれるってんなら、俺は嬉しいぜ。若い奴らの中で俺だけジジイだと小っ恥ずかしくて堪らねぇしよ」

 

その言葉を皮切りに「お、おう」とか「だよな……」とか絶妙な周囲のテンションで、アーロンさんの残留決定はフワッと喜ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とにかくやるぞ、ユウナ!」

「…………ハイッ!」

 

暗くなったみんなの雰囲気を前にして、僕とユウナは異界送りの舞を踊った。

 

シーモアの死と召喚獣との別れを前にして、泣きながら弔うユウナ。

僕も擬似魔法のウォータを目尻からこれ見よがしに垂らしつつ、舞う。

腰にしがみ付いているユウナレスカが鬱陶しいが、無視して成仏しろとひたすらに念を込めた。

 

悲しげな踊りと死者への解放の念を受けて、結合して巨大な身体を構成していた『シン』の幻光虫が解けて行く。

宙に浮かんでいた巨大な化け物だったの亡き骸は、あまりにも呆気なく四散した。

 

それはまるで世界を包む程の巨大な花火。

大輪を咲かせて飛び散り、空を瞬く間に茜色へと変えていく。

 

何かの終わりを告げているかのような、物悲しい色だった。

 

 

 

 

シーモア。今までありがとう。どうか安らかに眠ってくれ……。

ユウナレスカ、お前は僕のチンポを弄って生への執着心を高めようとしないでくれ……。

 

「我が友よ……先程の見事な演説、死した我が心の底までしかと響き渡りました……」

 

「し、シーモア!?」

「シーモア老師!」

 

クソぉ! 畜生がぁっ!

 

「お恥ずかしながら、幻光虫となって消えかけていたところ、友を想う気持ちによって舞い戻って参りました」

 

こ、こいつ……案の定危惧していた通り、異界送りを跳ね返して死人として蘇りやがった……!

なんて執念なんだ……。

 

「で、でもさっき『シン』を送るついでに異界送りされた筈じゃあ!?」

「異界に送られるわけには行かない理由があった。ただそれだけです」

 

ただそれだけ……はは。

それだけで死人になれるなら誰も苦労してないし、この世に魔物なんて生まれないのだ。

流石、原作では『シン』になるという執念のみで、何度も蘇っては大暴れしていた奴の言う事は説得力が違いますなぁ……。

 

「シーモアさんは一度死んじゃいました……それでも、こうして戻ってきてくれて私は嬉しいです!」

「あ、ああ。まあシーモアもこんな性格の奴だけど、俺達の大切な仲間だしな!」

「結局、誰一人として欠ける事無くやり遂げたか……ビンザー・デリングJr. 認めざるおえんな……ふっ」

 

アーロンさん、僕、何もやってねぇから。

勝手にお前らが生き甲斐見つけて。息吹き返して来てるだけだから。

 

腰に引っ付いて、僕の股間の香りをスーハースーハー吸っているユウナレスカも、消えかかりながら何とか残留したらしい。

嫌な予感だけは当たるというか、やはり見立て通りシーモアもこのBBAも本当に侮れない存在だと再確認するとともに、僕は呆れ果てた。

 

どんだけこの二人は、デリングJr.というハリボテの男の事を想っているのか。

ウンザリするのを通り越して、感服すら覚える。

 

 

やれやれ……もういい加減認めよう、僕の負けだよ……。

崇めるでも、奉るでも、むしゃぶり尽くすでも、好きにすればいいさ。

FF8の頃のように、権力で好き放題するという夢と自由はとっくに潰えた。

どうせこの調子だとアーロンもティーダも彼等の特効薬として役に立たないんだろ?

知ってる。

 

後はもう好きにしてくれ。

この身はもう、デリング教の神でありスピラを救う救世主、ビンザー・デリングJr.だ。

 

それ以外の何者でもありはしない。

やりたくないけど、差別の撲滅でもボランティアでも何でもやってやるよ。

 

好きでも無いし望んでも居ない聖人としての息苦しそうな人生だが、女の子とエッチできる分、つまらぬ死に方をするとか、ただ普通に高望みせず生きるよりは良い。

自分のやりたくもない事に従事する人生なんて、ありふれた人の営みではないか。

面倒だと思う何かを、皆が受け持つのが社会というシステムに他ならない。

 

例えどれほどの金持ちでその国のトップでも、決して楽しい事ばかりじゃないのが人生という物だ。

ならば、僕は国を率いる為にガルバディアの帝王学を学んだ者として、民草と同じように、やりたくもない事をやりながら彼等を導いて行こう。

 

そう……己を納得させるしかない。

あ゛〜やりだぐねぇ〜……。

 

 

「うおおお! 万々歳じゃねぇか! これもみんなデリング様のおかげだぜ!」

「ワッカ殿その通りです、全ては我が友の見越していた未来」

「流石ですっデリング様!」

「よくわかんねーけど、このジェクト様の事も助けてくれてありがとよ、兄ちゃん!」

 

 

 

そうして僕の気持ちは知られぬまま……ついに『シン』は倒された。

 

 





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