※この作品はR-18です。

公認愛人と妻と僕の結婚生活!?   作:kita1751

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第1話

ベッドサイドのランプが柔らかな光を放ち、部屋の空気に穏やかな影を落としていた。

その静けさを壱華の声がやさしく破る。

「桃太さん、来てください」

その声はどこか誘うような響きを含んでいて、僕の心を静かに引き寄せた。

そっとベッドへ歩み寄る。壱華はシーツに身を預け、ランプの光を瞳に宿しながら、穏やかに僕を見つめていた。

自然に手が伸び、彼女の腰に触れる。その感触は柔らかく、懐かしい温もりを持っていた。

軽く引き寄せると、彼女の頬に淡い紅がさす。息が、ふっと止まるのがわかった。

「桃太さん……」

囁くような声に、わずかな緊張と甘い期待が混じっている。

促されるままに僕は身を屈め、彼女の唇にそっと触れた。

それはゆっくりと、丁寧に――彼女の想いを確かめるような、静かなキスだった。

指先が彼女のブラウスの肩を滑り落ち、衣擦れの音が微かに響く。

スカートを丁寧に外す。どの動作も慎重で、まるで大切な儀式のようだった。

ベルトの金具が小さく鳴り、壱華のショーツが床に落ちる。僕もまた衣服を脱ぎ捨て、そっと彼女の手を取った。

「桃太さん……」

彼女の声は、震えるような温もりとともに、ふたたび響く。

「わかってるよ」

静かに応え、ベッドの縁に腰を下ろして脚を開く。彼女の手を握ったまま、その温もりを掌に感じながら、やさしく引き寄せた。

僕の目を見つめ返す彼女の瞳には、信頼と、ほんのわずかな緊張が揺れていた。

「壱華、こっちおいで」

そっと呼びかけると、彼女は一歩、また一歩と近づいてくる。

その姿が自然と視界に映り、手を伸ばして胸元に触れた。掌に伝わる柔らかな感触、吸いつくような肌の温かさに心がほどけていく。

壱華の吐息がかすかに震え、頬に淡く紅が広がる。

「んっ……」

小さな喘ぎが、彼女の唇からこぼれる。胸元に顔を寄せる彼女の仕草が愛おしくて、僕はそっと抱き寄せた。

彼女の体温がじんわりと伝わってきて、部屋の静けさの中で、二人の鼓動だけが確かに響いていた。

「はぁ……ん、ドキドキする……桃太さんっ」

恥ずかしそうに身をよじる彼女が、甘えるように胸に顔を埋める。その声に混じるかすかな喘ぎが、僕の胸を熱くした。

「キス、していい?」

問いかけると、壱華は目を閉じて、そっと頷く。

触れ合う唇から「んぁ……」と甘い声が漏れ、彼女の手が僕の背中にそっと添えられる。

「はぁ、桃太さん……温かい、んっ……」

唇を離した壱華の声は、濡れた息と共に震えていた。

僕はそっと囁く。「大丈夫だよ」

その言葉が彼女の不安を和らげるように、静かに、しかし確かな動きで彼女を導いた。

壱華は身を任せ、僕たちはゆるやかなリズムの中で、一つになっていく。

部屋には、二人の吐息と、心が触れ合う音だけが満ちていた。

「んんっ……あ、気持ち、いい……」

壱華の声が夜の静寂にやわらかく響き、僕の胸を締めつけるような甘い熱を残す。

「僕もだ、壱華」

そう答える僕の声にも、確かに愛しさが込められていた。

 

 

彼女の体が小さく震え、「はぁん……好き、んぁ……」と甘い声で応えた。部屋を満たすのは、互いの吐息と、絡み合う心の響きだけだった。

壱華の喘ぎ声が柔らかく響き、僕の心を熱く焦がした。彼女のしなやかな体が僕に預けられ、その温もりが理性を甘く侵食する。汗ばんだ肌が触れ合い、彼女の柔らかな曲線が僕の胸に溶け込むようだった。

「んっ……あ、ダメ、気持ちいい……」

壱華の声は愛と快感に濡れ、僕の胸を締め付けた。彼女の豊かな胸が僕に押し付けられ、火照った肌の熱が直に伝わる。その熱は、まるで心の奥まで届く炎のようだった。

「こんな声……もう、限界だよ」

掠れた声で囁き、僕は壱華の首筋に唇を這わせた。彼女の肌は甘い香りを放ち、僕の欲望をさらに煽る。潤んだ瞳が僕を見つめ、愛と情熱が渦巻いていた。

「はぁ……んっ、もっと、強く……」

壱華の懇願に、僕の手は彼女の胸を再び捉えた。柔らかく弾力のある感触が掌に吸い付き、彼女の吐息が「んぁっ!」と鋭く弾ける。僕は彼女の腰を引き寄せ、熱い肌を重ね合わせた。シーツが軋む音が、部屋に静かなリズムを刻む。

「キスして……もっと、欲しい」

熱っぽく囁くと、壱華は潤んだ唇を差し出すように顔を近づけた。唇が触れ合い、熱く濡れたキスが始まる。彼女の舌が僕の唇をそっと撫で、甘い喘ぎが「んんっ、はぁ……」と漏れた。キスは深く、まるで互いの魂を溶かし合うように続いた。

「んぁ……体、熱すぎる……」

壱華の声は震え、指が僕の背中に食い込む。僕の手は彼女の滑らかな太ももを滑り、彼女をさらに強く引き寄せた。彼女の胸が僕に押し付けられるたび、電流のような快感が全身を駆け巡る。

「こんなに感じてくれて……もう我慢できない」

僕の声は熱に震え、彼女の唇を再び奪った。激しく、しかし愛情深くキスを重ね、壱華の喘ぎが「はぁんっ!」と高まる。彼女の手が僕の体を這い、柔らかな指先が巧みに愛撫した。

「んっ……あ、ダメ、来ちゃうよ……」

壱華の切なげな声が響き、彼女の体が僕にしがみつく。唇が互いを求め、熱いキスが続いた。彼女の甘い喘ぎと絡み合う吐息が、僕を高みへと導く。

「もっとキスして……離さないで」

僕が喘ぐように言うと、壱華は「んぁっ……!」と応え、唇を重ねてきた。キスは熱く、貪るように深く、僕の理性を完全に溶かした。彼女の手が僕の体を愛撫し、柔らかな指先が巧みに刺激する。

「愛してる……もう、限界だ……」

僕の声が呻きに変わり、壱華のキスと愛撫が僕を頂点へと押し上げる。彼女の唇が僕を強く捉え、「んんっ、一緒にっ……!」と喘ぎながら、彼女の体が小さく痙攣した。熱いキスと手の動きに導かれ、僕の体は震え、熱い波となって解放された。

「んぁっ、はぁ……!」

壱華の喘ぎ声が部屋に響き、彼女の熱い内壁が僕をさらに締め付ける。快感の余韻に震えながら、僕は彼女の腰を強く抱きしめた。彼女の柔らかな肌が僕の胸に密着し、汗ばんだ香りが鼻をくすぐる。

「まだ、離したくない……」

熱っぽく囁くと、壱華は「んぁ……私も、もっと……」と喘ぎ交じりに応え、唇を再び重ねてきた。今度のキスはゆっくり、しかし深い愛情に満ち、僕の心を温かく満たした。彼女の手が僕の背中を優しく撫で、指先が愛おしく震える。

「はぁ……」

壱華が恥ずかしそうに呟き、僕の胸に顔を埋めた。僕は彼女の髪をそっと撫で、彼女の吐息を聞きながら微笑む。

「僕もだよ……愛してる」

僕の言葉に、壱華の体が小さく反応し、「ん……大好き……」と囁く声が響いた。部屋は僕たちの吐息と愛の余韻に包まれ、互いの体温を感じながら、そっと抱き合った。

 

窓から差し込む柔らかな朝日が、僕と壱華の小さなアパートを優しく照らす。結婚して半年、29歳の僕と25歳の壱華は、食品メーカーで出会った日から変わらない愛を、今も静かに育んでいる。

朝、僕は営業マンとしてのスーツに袖を通し、壱華は事務員としてデスクに向かう準備をする。「行ってきます」と声をかけると、壱華はコーヒーの入ったマグカップを手に、にこっと笑って「いってらっしゃい」と返す。その笑顔が、僕の一日の活力だ。

 

半年という時間は、愛を試すには短いかもしれない。でも、毎日の小さな瞬間が、僕たちの絆を確かに深めている。壱華の手を握ると、彼女の温もりが心まで伝わってくる。これからも、こんな日々を積み重ねていきたい――静かに、だが確かに。

 

「おはよう、桃太さん! もう少しでできるから、ちょっと待っててね」

壱華が振り返り、柔らかな笑顔を見せる。その笑顔は、朝の光に照らされて一層輝いて見えた。彼女の手際よい動きに感心しながらテーブルにつくと、こんがり焼けたパンケーキ、香ばしいベーコン、色鮮やかなサラダが並ぶ。コーヒーの香りが部屋を満たし、穏やかな朝の空気を彩った。

食事を始めると、その美味しさに舌が喜ぶ。

「壱華の料理、相変わらず最高だね」

「ふふ、趣味みたいなものだから。喜んでくれると嬉しいな」

壱華の笑顔は、初めて出会った頃よりもどこか大人びて見える。結い上げた茶髪の長髪から覗く瞳は澄み、整った顔立ちは愛らしさと気品を兼ね備えている。ボディラインから見られる曲線はグラマラスで、彼女のそんな姿に、改めて心が奪われる。

「一緒に片付けようか」

食事を終え、僕がそう提案すると、壱華は小さく頷いた。二人でシンクに向かい、皿を洗う。泡が弾ける音と、時折触れ合う指先が、静かな朝にささやかな温もりを添える。エプロンの下で柔らかく揺れる彼女の姿に、職場で見せる真剣な事務員の顔とは異なる、愛らしい妻の表情が重なる。彼女は僕にとって、理想そのものだ。

だが、顔を見合わせた瞬間、リビングに気まずい沈黙が流れた。この国では、少子化が極端に進み、男性人口が女性の五分の一にまで激減している。国家は出生率向上を最優先とし、「浮気=子作りに貢献する行為」として奨励する価値観が社会に根付いている。妻が生理や妊娠で性行為ができない場合、夫の浮気は裁判でも無罪とされ、むしろ賞賛される。

そんな社会の風潮の中、壱華は浮気を認めない。彼女のような考えは「悪妻」と揶揄され、国の政策に協力しない我儘な存在と見なされることもある。彼女は周囲の視線に傷つきながらも、僕への愛を守ろうとしている。

「桃太さん…お妾なんて、子供が生まれてからでいいよね?」

壱華が小さな声で言う。冗談めかした口調の裏に、本気の不安が滲んでいる。彼女の瞳には、僕を信じたいという願いと、社会の圧力に揺れる心が映っていた。

「ああ、もちろん。壱華だけでいいよ」

僕は穏やかに答え、彼女の手をそっと握る。彼女も握り返し、かすかに震える指先から、複雑な気持ちが伝わってくる。この社会では、妻が夫の「妾」を容認することが美徳とされる。だが、壱華にとって、それは愛を裏切る行為だ。僕も同じ気持ちだ。彼女以外の誰かを愛することなど、考えられない。

それでも、社会の価値観は僕の心に忍び寄り、彼女との約束を揺さぶる。

「桃太さん…私、君を信じてる。どんな世の中でも、君は私の桃太さんでいてくれるよね?」

壱華の声は静かだが、強い。その言葉に、僕の心は揺れる。彼女を傷つけたくない。でも、正直に言えば、僕自身、自分の気持ちに確信が持てなくなっている瞬間がある。

「壱華…君が一番だよ。いつもそう思ってる」

言葉を絞り出すが、その声はどこか頼りない。壱華は小さく頷き、微笑もうとするが、瞳には不安の影が残る。僕はテレビのリモコンを手に取り、耳障りなニュースを消した。部屋には再び静寂が戻り、僕たちは互いの手を握り合ったまま、朝の光の中に佇んだ。

 

月曜日が来ると、僕はいつものように出社する。

「おはようございます、司馬さん」

「おはようございます」

食品メーカーの営業として、スーパーやコンビニを回り、商品を売り込むのが僕の仕事だ。ノルマもなく、取引先も安定しているため、無理な売り込みは必要ない。ホワイトな職場と言えるだろう。

「今日、よろしくお願いしますね」

「ああ、黒見さん、こちらこそよろしく」

黒見さんは同じ営業の同僚で、25歳ほどの女性だ。短い黒髪に整った顔立ち、すらりとした長身にスタイリッシュな服装が、彼女の自信に満ちた美しさを引き立てている。どこか肉食獣のような鋭い雰囲気を持ち、いつも堂々としている。

「じゃあ、行きましょうか」

僕たちは社用車に乗り込み、取引先へ向けて走り出した。

「営業って、けっこう大変ですよね」

黒見さんが助手席から話しかけてくる。

「まあ、でもやりがいのある仕事ですよ」

「そうですか? でも、地方への出張とか、半日潰れちゃうじゃないですか」

「はは、それは確かに嫌ですね。でも、誰かがやらなきゃいけない仕事ですから」

「ふーん、司馬さんって真面目ですよね」

「そうかな?」

「うん。私なら、もっと楽な会社に転職しちゃいますね」

「はは、確かにそれもありかも」

笑いながら、僕たちは数軒の取引先に挨拶とサンプルを配って回った。移動の連続で、気づけば夕方になっていた。

「もう直帰でいいですよね、司馬さん」

「うん、そうだね。今日はこの辺で終わりにしよう。駅まで送るよ」

「本当? ありがとう!」

駅に向かって車を走らせていると、黒見さんがふと口を開いた。

「司馬さん、結婚してるんですよね?」

「うん、まあ」

少し照れながら答えると、彼女は興味深そうに身を乗り出した。

「へぇ、どんな奥さんなんですか?」

「うーん、僕にはもったいない、理想の奥さんかな。料理も上手で、優しくて、美人だよ」

「ふぅん、いいなあ。ちょっと興味あるかも……」

彼女の声に、からかうような響きが混じる。

「でも、愛人とかはどうなんですか?」

「愛人? いや、うちはそういうのはないよ。子供が生まれるまでは、って約束してるし」

この時代、夫婦の形は大きく変わっている。少子化が進み、男性人口が女性の五分の一にまで減ったこの国では、出生率向上のため「浮気=子作りに貢献する行為」とされ、公認の愛人を持つことが一般的だ。政治家や著名人は愛人を公言し、妻がそれを容認するのが美徳とされている。だが、僕と壱華は違う。彼女との愛を守りたいという気持ちが、僕たちの結婚の礎だった。

「ふぅん、奥さん、けっこう嫉妬深いんだ?」

黒見さんの声に、悪戯っぽい笑みが浮かぶ。

「まあ、そうかもしれないね」

「司馬さん……私が愛人になってあげようか?」

「え!?」

彼女の大きな瞳が、挑発的に僕を捉える。悪戯っぽい笑みを浮かべながら、彼女の手がそっと頬に触れた。甘い息遣いが感じられるほど近く、彼女の顔が迫る。黒見さんは確かに魅力的だった。心臓が激しく鼓動し、身体が熱くなるのを感じた。思わず目をそらしてしまう。

「冗談やめてよ」

「冗談なんかじゃないですよ。愛人くらい、みんな持ってるじゃないですか。男性の性処理に協力して、子作りにも貢献する。それが今の若い子には普通ですよ」

彼女の視線は真っ直ぐで、まるで僕の心を見透かすようだった。

「……まあ、僕らはちょっと変わってるのかも」

「でも、奥さんのためでもあるんですよ。奥さん一人で司馬さんの相手をするの、いつか大変になりますよ?」

確かに、僕の性欲は強い。一日に何度も壱華を求めてしまうこともある。彼女一人でそれを受け止めるのは、負担かもしれない。

「私なら、大丈夫だと思うけど?」

黒見さんが僕の手に自分の手を絡ませてくる。彼女の手は少し冷たく、だが柔らかく吸い付くようだった。鼓動がさらに速まる。

「黒見さん、ちょっと……」

「ねえ、司馬さん。私のキス、試してみない?」

彼女の妖艶な視線に、心が引き込まれそうになる。挑発的な笑みが、僕の理性を揺さぶる。

「……ごめん」

「ふーん、まあ、冗談だけどね」

黒見さんはそう言うと、窓の外に目をやった。僕はほっと息をつき、車を走らせ続けた。

しばらく走ると、車内で黒見さんが静かに寝息を立て始めた。長時間の移動で疲れたのだろう。彼女の指定した駅に着き、肩を軽く叩いて起こそうとしたその瞬間、彼女がわずかに身じろぎした。

その拍子に、僕の手が誤って彼女の胸に触れてしまう。慌てて手を引っ込め、心臓が跳ね上がる。

「っ、あ、すみませんでした!」

黒見さんがパッと目を開け、じっと僕を見つめる。血の気が引いていくのがわかる。

「……司馬さん、けっこうスケベなんですね」

「あ、いや、これは本当に……!」

言い訳を探すが、言葉が詰まる。罪悪感と羞恥心が胸を締め付けた。

この時代、男性が優遇され、軽いセクハラは許される風潮もある。だが、女性の不満も高まっており、セクハラに対する批判の声も強まっている。この状況はどう見ても僕が悪く、言い訳の余地はない。

「本当に、すみませんでした」

僕は頭を下げ、必死に謝った。黒見さんは無言で僕を見つめ続け、その視線が心に重くのしかかる。車内の空気が、凍りついたように静まり返った。

 

黒見さんは一瞬考え込むように沈黙し、ゆっくりと口を開いた。

「……司馬さん、悪いと思ってるんですよね?」

「え、う、うん……そりゃ……」

言葉に詰まりながら答えると、彼女はくすりと笑みを浮かべた。その笑みは、どこか底知れぬ妖しさを帯びているように見えた。

「じゃあ、私の言うこと、聞いてくれます? ちゃんと聞いてくれたら、許してあげますよ」

彼女の声は甘く、しかしどこか冷たく響く。僕は息を呑み、彼女の瞳を見つめた。そこには、まるで獲物を捕らえる肉食獣のような輝きがあった。

「司馬さん……私を愛人にしてください」

「え!?」

思わず声が漏れる。彼女はニヤリと笑い、言葉を続けた。

「だって、司馬さんに触られちゃったんですもの。責任、取ってくださいね」

黒見さんの唇がわずかに動き、舌がちらりと覗く。その目は淫靡に輝き、僕の心を強く揺さぶった。心臓が激しく鼓動し、彼女の言葉が頭の中で反響する。彼女を受け入れたいという衝動が、理性の壁を叩く。慌ててその思いを振り払った。

「何、言ってるんだよ……」

平静を装って答えたが、声は震えていた。心臓の音が彼女に聞こえてしまうのではないかと思うほど、胸がうるさい。額に汗が滲むのを感じる。

「……司馬さん、私の胸、触りましたよね? このまま警察に行くこともできるんですよ。でも、尊敬する司馬さんが逮捕されるなんて、私、嫌なんです。だから、折衷案として……私を愛人にしてください」

黒見さんの声は静かだが、まるで刃のように鋭く、僕の心を切りつけた。彼女の言葉には抗えない迫力があった。理性では拒絶したいのに、身体が動かない。

「妻に……壱華に相談しないと……」

かろうじて絞り出した言葉に、彼女は小さく笑った。

「ふーん、まあ、それでもいいですけど?」

黒見さんはシートベルトを外し、助手席から身を乗り出してきた。彼女の細い指が僕の頬をそっと撫で、両手で顔を固定する。彼女の顔が近づき、甘い吐息が唇に触れる距離まで迫る。抵抗しようと思えばできたはずなのに、なぜか身体が動かなかった。

柔らかな感触が唇に触れた。黒見さんの唇は温かく、甘い香りが頭をぼんやりさせる。初めての感覚に、思考が溶けるようだった。彼女の手が僕の首に絡まり、抱きしめるように引き寄せる。彼女の吐息が耳元で響き、長い時間が流れたように感じた。

やがて、ゆっくりと彼女が離れた。

「司馬さん……じゃあ、これからのことは、また明日話しましょうね」

黒見さんはそう囁くと、軽やかな足取りで車を降り、駅の方へ歩いていった。

僕は呆然と座席に取り残された。心臓がバクバクと鳴り、頭はまだ彼女の感触に支配されている。車内の静寂が、罪悪感と動揺を一層大きくする。この時代、愛人を持つことは子作りに貢献する行為として推奨されている。だが、壱華との約束、彼女への愛を裏切ることは、僕の心が許さない。

それでも、黒見さんの誘惑は、僕の心の奥深くに小さな楔を打ち込んでいた。彼女の妖艶な笑みと柔らかな唇の感触が、頭から離れない。車を降り、夜の駅の灯りを見つめながら、僕は壱華の顔を思い浮かべた。彼女の笑顔を守りたい。それなのに、心のどこかで揺れる自分がいる。

車内の空気が重く、僕はハンドルを握りしめたまま、動けずにいた。

 

 

 

 

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