保存してある肉もあったのですが、やはり肉に限らず食材は新鮮なものが良いですからね……。
月夜の晩、ダニエラは館に仕えるもう一人の使用人である下男の元を訪れていた。
「デビリタス、お願いしていたお肉用意できたかしら……?」
「オーアーーアッ」
デビリタスと呼ばれた男は巨人と言っても差し支えがないほどに人間離れした巨躯をしており、その身長は夕に3メートルを越えていただろう。
彼は不明瞭の声でダニエラの質問に応え、彼女の前に二頭の鹿の死骸を差し出した。
どちらの鹿も凄まじい力で頭を潰されたらしく、首から上はほぼ無いに等しい状態だった。
恐らくデビリタスは巨躯相応の長い腕を有効に使い見事鹿を捕まえたのだろう。
そして止めにもその見た目に相応しい凄まじい握力を使ったと思われる。
彼の拳には赤く染まって血まみれになっており、握りつぶされたことによって外圧で弾けた肉片や骨がなまなましく所々にこびり付いていた。
目的こそ健全で結果としても問題はなかったが、その様は十分に猟奇的といえた。
屠殺になれた者でも思わず顔をしかめるだろう。
だがダニエラはそれを見てもいつものように無表情。
彼女は細い顎に手を当てて少し考えるような仕草をして言った。
「鹿、ですか……。食材としては申し分ないのですが、準備に手間が掛かりますね……。時間が掛かってはマスターやリカルド様が不満に思われるかもしれません……」
「オーアッア!」
ダニエラの話を理解したのかは判らなかったが、デビリタスが何やら手を叩いて血にまみれた手で自分指差す。
だがダニエラとはお互い意思疎通ができているらしい。
涼し気な目で彼女はデビリタスを一瞥すると一言「……そう」と呟いてから言った。
「……手伝ってくれますか? そうですか、それなら何とかなるでしょう……。デビリタス鹿を運んできて頂戴」
ダニエラは調理室に入ると蝋燭に火を灯した。
その部屋は調理に必要な器材こそ揃えられていたものの、そのどれもが現代の家電の様に電気を使うものではなく、薪を焚いて火を利用する古風なものであった。
天井には仕留めた獲物を吊るして解体するためのフックも下がっていた為、現代の人間からしたらそこは蝋燭の薄明かりの効果もあってかなり不気味な雰囲気を醸し出していた。
「デビリタス、吊るしてちょうだい」
「オーアッ」
デビリタスはダニエラの指示に従って鹿の死骸を軽々と二体同時に持ち上げフックに吊るした。
ズブリと肉を貫く鈍い音が響き、フックが刺さった箇所からまだ新鮮な赤い血が滴り落ちる。
「ありがとう……」
ダニエラは準備ができた事を確認すると、片手に鉈と見間違うほどの巨大な解体用の包丁を持つ。
だが直ぐに作業には取り掛かろうとはせず、先ず自分の左手の人差し指の腹に包丁の刃を当てて切味に問題がないか確かめた。
包丁は軽く押さえながら引いただけでもダニエラの指の薄皮をしっかり裂き、彼女の指にじわりと赤い血が滲む。
どうやら大雑把な作業に使うような印象が強い事に対して切れ味はなかなか鋭いらしい。
「……問題ないようね」
ダニエラはそれを見て満足すると、傍らにあった掃除用の布切れの一枚取って軽く指を縛り止血をする。
「デビリタス、バケツをおいてちょうだい」
「オッ」
デビリタスは大きなバケツを鹿の前に置いた。
腹を裂くことによって飛び出す内蔵を床にぶち撒けない為だ。
「今日は替えのエプロンがないから……服を着たままではできないわね」
さてついに作業に取り掛かろうというところでダニエラは自分の両腕や服を見てその事に気付く。
エプロンがなくてはマスターに支給された服を解体作業で出た血で汚してしまいかねない。
ダニエラはそれを避ける為にその場で服を脱ぎ全裸になった。
「服を持っていて……」
細く白い裸体のまま、恥じる様子もなく畳んだ服をダニエラはデビリタスに渡す。
「グッ……ァッ」
デビリタスはそれを巨大な手で大事そうに受け取った。
「……さて……」
改めて鹿の方を向いた裸の女は包丁の刃を鹿の腹に当てると、作業に慣れていたとしても女とは思えない素早い動作で上から下へ包丁を引き下ろした。
その手際は見事で、ほぼ音もなく綺麗に鹿の腹を裂き、腹にできた縦筋から重力によって内臓が溢れ出た。
ビチャビチャという音と共に血がバケツに零れ落ち、続いてだらりと下がった腸と一緒に支えてくれるものを失った臓器の一部も千切れて落ちてきた。
「……」
ダニエラはその状態が落ち着くまで暫く待ってから、次に両手でその縦筋を力を入れて割り開くと身体にが血の飛沫が着くのも構わずに鹿の体内に残る内臓を掻き出し始めた。
鹿の赤い血がダニエラの彫像のように美しい体に雫となって付着する。
腕、首筋、胸、脇、下腹部、そして顔……。
彼女はそれを気にする事もなくひたすら作業を進めた。
やがて全ての内臓を除去し終わると、ダニエラはバケツ一杯になったそれをデビリタスに向けた。
「服を置いてこれを水で洗って頂戴……。捨てる部分は私が確認するから洗い終わったらまた持ってくるのよ?」
「オッ」
デビリタスは言われた通りにダニエラの服を近くにあった椅子に置くと、そのバケツを持って井戸のある方に出て行った。
ダニエラはそれを見届けると今度はさっきまで使っていた包丁とは違う細身の物に持ち替えた。
「さて、次は皮ね……」
ここでもダニエラの手際は見事だった。
脂肪と皮の間に正確に刃に入れると、そのまままるで野菜の皮を剥くようにその皮をするすると軽やかな所作で剥いでいった。
――それから1時間程経った頃。
ダニエラの前には解体され、更に部位ごとに細かく切り分けられた鹿の肉が並べられていた。
彼女はそこから夕食に使うものと塩漬けにして保存する物に選別を始めた。
そしてその作業が一通り終わると、今度は僅かに残った肉片とデビリタスが洗った内臓で使わなかった部分を一固めにして紙で包む。
「ご苦労様……。これ、ご褒美よ」
包み終えるとダニエラはそれを自分の作業を傍らで見守っていたデビリタスに差し出した。
「オオオ! ウァッ」
相変わらず何を言っているのかは解らなかったが取り敢えず喜んでいるのは間違いないようだった。
「生のままだけど……どうする? 良かったら焼きますよ?」
「オーェ、イィ……アッ」
デビリタスはダニエラの確認に拒否の意を表す様に軽くかぶりを振った。
どうやら彼は食事は火を通すより、生で食す方が好みらしい。
「そう……。じゃぁ、これ、あげるわね」
「オォォォォアアアアァァ!」
デビリタスはそれを嬉しそうに受け取ると雄たけびを上げながら自分の巣、もとい居住区へと帰って行った。
「……」
一人残ったダニエラはその姿が見えなくなるまで見送ると、血にまみれた自分の身体を見た。
「調理の前に、身体……洗わないといけないわね……」
月夜が明るい静かな夜に、館の敷地を裸で歩く一人の女性の姿があった。
それは体を洗い終わったダニエラが再び服が置いてある調理室に戻るところであった。
身体を洗ったばかりだったので歩く度に濡れた身体から水の雫をポタポタと落とし、そして同時に形の良い乳房が揺れる。
水の雫は小振りだが綺麗な尻から内股、そして太腿、ふくらはぎのラインに沿って伝っていた。
髪も濡れた事によって普段まとめている髪型から、滑らかなただの長髪となっており、その姿は普段のダニエラの印象とは大分違っていた。
裸で歩くそのダニエラの姿は、館の敷地と言えど野外である事には変わりはなく、その事も相まってどことなく背徳的な雰囲気があった。
加えてそれを月明かりが白い身体を余計に白く照らす事によって神秘的な美しさも彼女に与えていた。
彼女は囚われのメイド。
館の主の仕業によって今ではその自覚すらなくなっていが、彼女が不孝の身であることには変わりなかった。
彼女が再び自分を取り戻し、幸福を得る時は来るのであろうか。
ああ、ダニエラさん可愛いよ、美しいよ。
フィギュアであったらマジで買うのに……。
この話個人的に気に入っているので、その内絵を用意するかもしれません。