きらきらせっくす! 作:きらきら
強化人間は精神的に不安定だ。
NT能力開発の過程で脳を弄られ大量の薬物を投与され、比較的安定しているように見えても何が切っ掛けで爆発するか分からない時限爆弾みたいなものだ。
そんな取り扱い注意のラベルを張って厳重管理しておくべき被験者に対して、不用意な刺激を与えかねない相手を研究者たちが遠ざけようとするのはごく自然な反応だった。
ムラサメ研究所の職員たちに取り押さえられたタネヅ大尉は、研究所の隣に併設されているムラサメ基地に移送された。
その後は見慣れない黒い軍服の男に引き渡され、現在は薄暗い営倉にぶち込まれて一方的な暴行を受けていた。
「……うぐ……ぉ……!」
背後から羽交い絞めの状態で拘束され、抵抗できない状態のまま正面から同じ軍服を纏ったもうひとりの男にひたすら顔面を殴られ続ける。
顔面は血で真っ赤に染まり、鼻は半ばでへし折れて、腫れ上がった顔はもはや原形を留めていない。
これはいくらなんでもやり過ぎだ。地球連邦軍はテロリストとは違う。正規の軍隊であり、本来ならばこんな拷問まがいの無法が通るわけがない。
しかし、その例外を強引に押し通すような人物がこの基地に居た。
拳を振るたうたびにタネヅ大尉の血と汗によって湿り気を帯びた打撃音を鳴らし、それを嘲笑うかのように地獄の底から響くような重低音の男の声が営倉内に響いた。
「ここは直にティターンズの基地となる! 正規の連邦軍とはやり方が違う!」
「ぐっ!?」
地球連邦軍士官のバスク・オム少佐である。身長2メートル近い巨漢の人物で、頭部に丸型のゴーグルを常用しているハゲ頭の大男だ。
バスク少佐が拳を振るうたびにタネヅ大尉の顔が歪み、鮮血が辺りに飛び散る。すでに数十分もの間殴られ続けてもはや虫の息かと思われた。
常人であればとっくに心が折れていただろう。しかし、このクソ野郎は顔面が崩壊してクソみたいな性根にふさわしい醜悪な容姿になっても無駄に反骨心を発揮し、瞳の奥で闘志を燃えあがらせた。
むしろ、舐めた真似をかましてくれたハゲ頭野郎への怒りが更に増し、いよいよ限界を突破して反撃に出る始末だ。
殴打が止んで油断したタイミングを見計らって、限界まで深く息を吸ったタネヅ大尉はそれを一気に吐き出した。
狭い室内に馬鹿でかい声が反響する。
「てめぇええ! よくもやりやがったなあぁぁああ!! 後ろのホモ野郎もいつまで抱き着いてんだ!!」
「ぐわぁっ!?」
突然の大声に怯んだ後ろの男に後頭部で頭突きをお見舞いし、拘束が緩んだ隙に腕を振りほどいて自由を得ると、タネヅ大尉はバスク少佐へ一直線に飛び掛かった。
「死ねよオラあぁぁ!!」
先程までのお返しとばかりに繰り出された飛び蹴りがバスク少佐のにやけ面へ真っ直ぐ突き刺さった。
「ぐおぉぉお!?」
顔面を強打されて体勢を崩したバスク少佐の巨体が地に伏せる。
その際に破損したゴーグルのガラスレンズが飛び散り、割れた破片がバスク少佐の顔を切り裂いて幾つかの鋭利な刃が眼球に突き刺さった。
顔じゅう血だらけになり、物理的に視界を潰されたバスク少佐が地面をのたうち回って苦悶の声を上げる。
「……ぐおぉぉ……うぐぉ……目があぁぁあ……!? タネヅ、貴様ぁああ!!」
その無様な姿にタネヅ大尉が興奮した様子で喝采を上げた。
「はっはー! いい気味だぜバスク・オムゥ!」
芋虫のように転がる憐れなハゲ野郎を嘲笑いながらタネヅ大尉が右脚を振りかぶり、勢いよく繰り出された蹴りがバスク少佐の腹部に突き刺さる。
ガラスの破片にまみれた顔面を庇い、腹部が無警戒だったところへの攻撃だ。鳩尾にクリティカルで加えられた衝撃がバスク少佐から呼吸機能を奪う。
「ぐ、オッ……!? ォォ……お……!」
横隔膜が乱暴はやめてくれと言わんばかりにビクンと痙攣し、口をぱくぱくさせて息を吸おうとしたまま、腹を抑えたバスク少佐がぐったりと地面に崩れ落ちた。
「へへへっ……もうお寝んねかぁ? おいおいおい、早漏かよこのチンカス野郎がぁ……連邦の撃墜王様に楯突いてこの程度で済むと思ってんのかぁ? あ!?」
倒れたバスクの横っ面をサッカーボールのように蹴飛ばし、更にマウントポジションを取りながら顔面をボコボコに殴りまくるタネヅ大尉。
その度にバスク少佐の顔から血が飛び散り、床が真っ赤に汚れていく。
「き、貴様ら何をしている! 今すぐやめんか!!」
そんな暴力の嵐に晒されるバスク少佐のもとに血相を変えて駆け付けた鋭い目つきの老人、地球連邦軍の政治将校ジャミトフ・ハイマン
「へっ、やめるわけねーだろタコ! 撃墜王ってのは連邦の看板を背負ってんだぜ!? 俺様に逆らうってことは地球連邦軍そのものに逆らうってことなんだよ!」
頭に血が上っているのだろう。理解不能な理論を展開しながらタネヅ大尉はジャミトフ中将の制止を無視してひたすらバスク少佐を殴り続ける。
「ほらぁ、くたばる前に言ってみろや。あるだろうが! 俺様に言うことがよお!」
「ぐ……お……ふ、ふざけるな……だれが、貴様なんぞ……に……」
バスク少佐は鼻血を垂らしながら気絶した。その無様な姿を見下ろしながらタネヅ大尉は満足そうに頷き、拳を振り上げて叫んだ。
「……うっし、地球連邦軍、バンザイ!!」
ようやく動きを止めたタネヅ大尉に向かって、ジャミトフ・ハイマン中将が叫ぶ。
「いまだ、捕らえろ!」
そしてケンシ・タネヅ大尉は本日二度目の拘束を受けた。
◇
最低限の治療を受けたタネヅ大尉は場所を移動し、身だしなみを整えてジャミトフ中将と面談していた。
先程までの薄暗い営倉とは違い、きちんとした応接室での対応だ。
ムラサメ基地に着任早々、大きな問題を起こしたというのに、これは破格の対応であった。あるいは、そもそも問題など起こらなかったことにする腹積もりなのか。
「さて、話を聞かせてもらおう」
ムラサメ基地の司令を飛び越えて、一大派閥の長であるジャミトフ中将自らが出てきて取り調べの真似事を始めて、このジジイ暇なのかと言いたげな怪訝そうな顔をしながらもタネヅ大尉はことの経緯を話し終えた。
曰く、模擬戦で興奮してしまい、羽目を外して女パイロットに迫ってしまった。その後営倉に入れられたが、長時間そこで拷問じみた暴行を受けて生命の危機を感じたため、やむなく正当防衛のつもりで反撃した。
どう考えてもバスク少佐に対して殺意がありまくりで過剰防衛なのだが、まあこの場においては些細なことなのだろう。
その話を興味深そうに聞いたジャミトフ中将は、今回の一件をなかったことにする代わりに取引をしないかと持ち掛けてきた。
「タネヅ大尉、