多元世界ヒロインズ 作:ころろこ
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「衛生兵ー!衛生兵ー!」
「あぁ……今回も駄目だったようですね」
『どこでもラブホ』内の扉が開き、血濡れの男女が駆け込んできた。
男性こと京之助は、女性のエヴァをお姫様だっこで抱きかかえて息を荒々しく入り込む。
互いに血だらけであり、死亡まであと数分と言った具合である。
「くそっ!手数が違い過ぎる!」
「七人はきついです」
すぐに手当てをしなければいけないのだが、京之助とエヴァは『どこでもラブホ』内に入るや否や、傷がなかったかのように消えていく、エヴァの吸血鬼による不老不死の効果だ。
京之助も同様で斉天大聖の不老不死の効果で回復が行われていく、エヴァよりも効果が遅いのは、十全に職業を使いこなせていない為だろう。
「そもそも銃の扱いとか知らん」
「撃っても当たらないとかクソゲー、ハワイで父親から銃の扱いを教わってたりしてない?」
「両親は過保護だったので」
「素人が玄人七人に勝てってのが土台無理な話だ」
「しかも『どこでもラブホ』内に入るとリタイヤ判定になるっぽいんだよな。全てが最初からやり直しだ」
「武器の性能はこっちの方が上なんだがな」
既に何度も京之助とエヴァはこのレイドクエストに挑んでは逃げ帰っている。
と言うのもこのレイドクエストは特殊過ぎるのだ。
壱・能力、スキルの使用を禁止
弐・武器や防具の持ち込みを禁止
参・身体能力は男女関係なしに決められた値となる
肆・人体の強度は敵味方関係なく普通の一般人と同じものとなる
伍・一度レイドクエストから離脱した場合、最初からやり直しとなる※死に戻りも同じ判定かも?
「今分かってるだけでこれだからね。相手は死んでも気にせず、こっちは一発死んだらアウトだ」
「人数が足りん」
「と言っても不老不死でもない私が参加しても」
「絶対やめて。俺達は怪我を負ってもここに戻ってくれば直ぐに回復出来るけど、
ダンジョン内部で体の傷などが修復されるのは、ダンジョンからの脱出、レイドクエストでの死に戻りが上げられる。
京之助とエヴァは職業が職業な為に、こうして上記の二つ以外の方法で回復を行えているのだ。
そんな特殊技能を持っていない琴子が怪我を負えば、死に戻り確定である。
同じく、技能を持っていないホシノも一発で終わりで京之助は手伝ってもらう気はなかった。
「京之助の場合は死んでも魂魄結晶を回収出来れば問題はない。しかし、私達が死んだ場合は不明だ」
「同じように魂魄結晶を落とすのか、最悪の場合はロストだからな。試すわけにもいかないし」
「更に言えばレイドクエストからの脱出方法が不明と」
「死んだら駄目なダンジョンで、レベル関係なしに死ぬ確率があるレイドとかやってらんねー!」
三人は唸りながらも攻略法はないかと考える。
「有利な事と言えば、離脱後のリスタート位置が此方も敵も元に戻る事ですね。あと敵は記憶もリセットで此方は記憶のリセットはなし」
「動きを覚えれば、罠には嵌める事が出来るか」
「覚えゲーかー……」
琴子は二人から聞いた廃墟の情報を元にして紙に地図を書き込む。
そして、スタート時に相手から撃ち込まれた弾丸から、敵の最初の位置を憶測で示す。
「あとは……有効かもしれない手が二つーー」
「なるほど」
「あー……盲点だった」
装備からどんな罠を張るべきか、何処に張るべきか、その後はと作戦は詰められていく。
休息の時間に余裕はあるが、食事の事を考えると備蓄は心許ない。
結局は、備蓄が尽きる前での時間との勝負となった。
そんな三人をホシノは静かに見守り、分身の京之助が問題ないとばかりに頭を優しく撫でた。
………
……
…
「いそげーっ!」
改めてドアを潜り抜けると相も変わらず再スタートとなっていた。
すぐさまに京之助とエヴァの二人は、近くの狭い通路へと逃げ込んだ。
この通路は敵の射線と視線を同時にカット出来、攪乱するのに向いていると分かっている。
二人は通路に逃げ込むと互いに別方向の木の扉を蹴破り、二手に分かれる。
それぞれが家の中に入ると、直ぐに部屋の窓から脱出し、何度もそれを行いつつも最終的には合流を果たす。
「あーもう、銃の組み立てをする事になるとは」
「落ち着け、まだ敵の影はない」
こうまでして時間を作ったのは、折り畳み式のスナイパーライフルの組み立てに時間が欲しかったからである。
拳銃二つよりも射程が長くスコープが付いているスナイパーライフルが、二人の切り札だ。
何よりも性能が良く連射も可能である。
「来たなっ」
「こっちも出来た」
窓から、その辺の家から取った鏡の破片で外を見ていたエヴァが、敵の影を発見した。
ここまで前回も体験した通りである。
京之助は、スナイパーライフルをエヴァに渡して、そのまま隣の家の窓へと飛び移った。
この家を最初の拠点にしたのは、ここにある。
隣の家と近く、二階の窓から隣へと移る事が容易であるのだ。
「ほいっと」
「!!」
エヴァも移り終わると同時に、京之助はポケットに入れていた適当な物を元居た部屋の中へと投げた。
投げれば、階段からゆっくりと上がって来た敵が大きめの音を立てて下へと降りる。
手榴弾と勘違いし、あるいは慎重に行動した結果、相手は下がると言う事を知っているからこその動きだ。
これで窓の方から迫撃される時間を減らす事が出来た。
「こっちだ」
「あいよー」
京之助が一階に降りると其処は、エヴァの発煙弾により煙まみれになっていた。
二階から迫撃は防いだが、隣同士と近い為に一階から普通に襲撃が来るのだ。
出来る限り、敵から一番遠くの窓から出ると二人して一目散に逃げだす。
ここまでの全てが何度もやり直した結果に基づいた計算である。
………
……
…
「変な奴等だ」
「どうした?」
京之助とエヴァを追っている敵の一人、禿頭の男は二人の行動に首を傾げた。
「銃の扱いは素人、身のこなしは戦闘に対して手慣れてる。動きがスムーズなのも気になる」
「あぁ……確かに既に決まっているとばかりに動いてるな」
筋骨たくましい大男が、言われて気付いたとばかりに頷いた。
「新兵を囮にして……か」
「可能性はあるな。他の敵が居ないとも限らない。さらに慎重に行くぞ」
禿頭の男がそう言うと、周りに居た、六人の男は皆頷いた。
一人は、背が一番低い男。
一人は、口の周り中髭の男。
一人は、筋骨たくましい男。
一人は、帽子を深くかぶった男。
一人は、痩せて長身の男。
一人は、大きなリュックサックを背負った男。
最後の一人が、禿頭の男。
この計七人が京之助とエヴァの敵であった。
男達は全員が五十を過ぎた外見であり、着ている服はあて布と継ぎ接ぎだらけの同じ服を着ている。
唯一違いがあるとすれば、禿頭の男のみが右腰に
「こっちに足が続いている」
二人の足跡を見つけたのは、帽子を深くかぶった男だ。
普通では分からないほどの浅い足跡であるが、この男は見つける事が出来た。
仲間にそれを知らせると、静かに追って行く。
「ちっ……細かい路地が多い地域だ」
「左右に繋がっている道に十分に注意しろ」
「あぁ……でもここは知ってないと行き止まりな場所もかなり多い、追い込めばそれで終わるぞ」
そんな話をしていると、帽子を深くかぶった男が不意にぴたりと足を止めた。
左手拳を肩の高さで結び、他の六人は足を止めて間隔を少し開けると、それぞれが担当の方位を警戒する。
「足跡が一つ減った」
「別れたのか?」
「……いや、かすかに足跡が深くなっている。これは抱きかかえて移動したな」
そう言うと、一歩、また一歩と慎重に足跡の続く路地裏へと入っていく。
まだ足跡は続いている、まだ足跡は続いている、まだ……足跡が浅くなった。
「くっ!」
「待ち伏せか?」
「……にしても下手な射撃だ」
足跡が浅くなったのは、丁度十字路となっている場所で、右側は他の道にも通じている、左側は家の窓もなく完全な袋小路ーー。
そんな場所で目の前の方向から銃弾が飛んできたとなると。
「右っ……!」
帽子を深くかぶった男が瞬時にそう判断して、体を右の通路へと向けた。
前の射撃こそ囮で本当の狙いは、ここで別れた女の子の方が右の通路から撃ち逃げると読んだのだ。
七人を一撃で殺す事など大規模な爆発物以外で出来る訳もなく、袋小路には居ないと踏んだのだがーー
『外れだ。左だ』
「がっ!」
「なっ!!」
銃弾が飛んできたのは袋小路の左の道からであった。
鋭く飛んで来たスナイパーライフルの銃弾は、帽子を深くかぶった男の胸へと吸い込まれていく。
これは避けようもなく、被弾して男は倒れ込んだ。
放たれた銃弾は、一発でなく全ての銃弾を短時間で使い切る強引な連射であった。
そのお陰もあり、前方を警戒していた筋骨たくましい男にも複数の銃弾が当たり、その中の一つが運悪く頭に当たって吹き飛んだ。
「要警戒!俺ともう一人で袋小路に居る敵を叩くっ!」
「おうよ!」
禿頭の男は、帽子を深くかぶった男も助からない事を悟り、すぐさまに敵を叩くよう指示を出す。
一人の男は、言われた通りに前方を警戒し物陰となる木箱の後ろを陣取った。
残りの二人は一人が後ろを、もう一人が右の路地を警戒する。
禿頭の男と背が一番低い男は、慎重に左の路地裏を鏡を使って見る。
するとそこには人影が隠れる事が出来る荷物が一つあり、それ以外は何もない場所であった。
「……」
禿頭の男が頷いて手を上げれば、横に居た背が一番低い男がピンを抜いた手榴弾を荷物に投げ込む。
そして、その手榴弾は無慈悲にも爆発した。
「やったか?」
「飛んで来た場所からしても間違いはない筈だ」
「あっ……?」
爆発によって起こった土煙が晴れ、通路の様子を見て男達は困惑した。
と言うのも、そこには荷物が散乱するばかりで人影の一つもなかったのだ。
「馬鹿な!どこから撃ったってんだ!」
「くそっ……右通路からの射撃だったのか?それとも上か?」
「どっちも違うな……奴等はこの通路から撃ったんだ。見ろ」
まさかの展開に狼狽える男達を尻目に、禿頭の男は路地に転がっていた『銃身が折れ曲がった折り畳み式のスナイパーライフル』を指差す。
「どうやって移動したんだ?」
「くそっ……せめて銃身が折れてなければ」
「敵を絶対に取ってやる!」
確かに敵が居た痕跡に、男達は困惑しつつも殉職した仲間を嘆き、仲間の身に付けていたペンダントを取り出す。
それは小さな星形の物であり、それを仲間の代わりに持つと、敵討ちをすると決意した。
残りの人数は七人から五人へと変わり、戦意と警戒心が高まった。
………
……
…
『カードに戻したらどうなるのでしょうか?』
『うん?』
事の始まりは琴子が、そう聞いた事である。
『レイド中に一人が居なくなった場合は、再スタートなのかそのまま継続なのか。エヴァさんをカードに戻したらどういった判定になるのでしょうかと』
『あー……盲点だった。確かに戻せるか』
『一度も戻った事がなかったな』
今までは二人で帰還していたが、一人だけ帰還した場合の判定はまったくもって分からなかった。
再スタートか継続か、京之助からしたらエヴァがモンスターカードだと言う認識も薄く、カードに戻すと言う事を思い付きもしていない。
『もしも……カードに戻しても継続なのであれば、奇襲が可能となります』
『と言うと?』
『袋小路や逃げ場のない場所での潜伏奇襲。本来であれば死兵の特攻ですが、カードに戻せるなら』
『奇襲後にカードに戻して退却か』
『何度も通じる手ではないですが、一回か二回程度であれば行けるかと』
と言う作戦を前もって考えていたのだ。
『
「ふぅ……成功したようだな」
「エヴァは、問題ない?」
「ふむ……初めてカードに戻ったが、どこも異常はない様だ。しかし、持っていた武器等は没収、新しく配布もないみたいだな」
「前もって武器の類を預かってたのは僥倖か」
「スナイパーライフル一丁は勿体なかったがな」
「しょうがないだろ?素人の俺等が確実に当てられるのが、あれだけ何だし」
二つある内の一つを失う事となったが、それに引き換えて敵の二人を持って行けたのは上等な結果である。
銃素人の京之助とエヴァが戦うには、この奇襲などの作戦をちまちまとやって行くしか勝ち目はなかった。