多元世界ヒロインズ 作:ころろこ
特にコメントありがたいです。
「運がいいのか、時空圧差が強いレイドクエストだったみたいですね」
「まさか……一日も経ってないとは、お陰で変な目で見られずに済むけど」
レイドクエストから脱出後、ダンジョン内部の時間経過で外へと出ると直ぐに日にちを確認した。
ダンジョンやレイドクエストには、時空圧差と言うものがある。
ダンジョンに奥深く進むごとに、地上との時間の流れに差が出来るのだ。
その差がどの位であったのかを京之助達は確認したところ、幸いにもレイドクエストを受けた日とまったく同じであった。
「さて、それでは大事な話があります」
「うん?」
「お金がありません」
「……」
「今回の事で食べ物の備蓄はほぼなくなり、日用雑貨品も買わなければいけません。この学園で買える物は大概高額となります。計算した所、貯金含め零ですね」
「わー……」
琴子が、家計簿と書かれたノートを手で叩き、現状を伝えてくる。
残念ながらレイドクエスト内では、モンスターを倒しても経験値もドロップ品もない。
更に言えば、今回の報酬はカードのみであり、金銭に関わる事は皆無であった。
少しばかり増えたお金が、すぐに零となり、それを見た京之助は力なく項垂れる。
「幸いにもレイドクエストを受ける前に拾ったドロップ品がありますので、売れば零ではありませんが……」
「くっ……」
京之助は家計簿を手に取り、何度も見直しては項垂れる。
どれだけ見ようと零は零で何も変わりはしない。
「時間もありませんし、次の稼ぎは明日ですね」
「稼ぎが悪くてごめんよ」
「いえいえ、十分あると思いますよ?一年生でここまで稼ぐ人もいらっしゃらないでしょう。今回購入する物で食べ物は一週間は持ちますし、雑貨類は暫くは必要なくなります」
自分の甲斐性のなさにしょぼーんとしていると、琴子に慰められた。
「それに、明日は効率良く稼げる方法を伝授しますので」
「そんな方法があるの!?」
「あります。もしかしたら、経験値的にもかなり美味しいかも知れません。残念ながら、今日は時間が足りませんので明日にしましょう」
「了解」
「それじゃ、買い出しお願いしますね?」
「お、おう……」
そう言うと、琴子は長いリストを京之助に渡した。
その長さを見て京之助は、顔を青ざめる。
「一応言っておきますが、即日で必要な物は食べ物だけで……他のは後日でいいですからね?」
「あーそういうことね。今日中に買い漁らないといけないのかと思ったわ」
「流石にそんな事をさせませんよ」
京之助がほっとすると、琴子は心外だと頬を膨らませた。
「了解、時間を戻して買い出しに行ってきます」
「えぇ……食べ物だけは本当にお願いしますね?」
「分かってる」
琴子との話を終えた京之助は、ゲームに夢中になっているエヴァとホシノにも声を掛けてから学園へと戻って行った。
余談であるが、エヴァに一緒に行くかと聞くも、即座にいいところだから行かないと言われて落ち込んだ。
………
……
…
「あっ」
「うん?」
一文無しになりそうになった次の日、京之助はふらふらと校舎内を彷徨っていた。
と言うのもダンジョンで稼ぐ前に『
取りに来たはいいが、丁度人が居ない時に来てしまったのか、お店は閉まっており人の気配もしない。
そんな訳で『
発見と言うよりも、誠一がこちらを見て声を上げたので気付いたのだ。
「よぉ」
「……あぁ、どうも」
このまま去って行ってもいいのだが、原作が何処まで進んでいるのかの確認を含めて、少しばかりお話をする事にした。
ずかずかと遠慮なく近づくと、誠一の顔が真っ青になっていくのが良く分かる。
それを見て、京之助は『そんなに警戒しなくても』と思ったが、自分の行動を見返せばそれも無理はないかと思った。
何しろ、相手からしたら何も分からない謎の相手なのだ。
更に言えば、自分達の秘密を知っている要注意人物である。
「ここいい?」
「……どうぞ」
「うん、遠慮なく」
それだけ聞くと誠一の隣に京之助は座り込んだ。
そして、暫くの間だけ沈黙してのんびりとした。
すると、何やら特別教室棟の方が騒がしく、何か事件か事故が起きたのだと分かった。
ガスマスクと防護服を着た人や、担架で運ばれていく人を見ると相当な規模である。
「トラブルかねー」
「かも知れない」
「規模的にそっちの誰かさんが起こした可能性ない?」
「あー……ありそうだわ」
この学園では、大概のトラブルはトラブルに入らない。
他の学校では大惨事であっても、ここでは些細なトラブルで済ます事が良くあるのだ。
逆に言えば、ここで騒ぎとなるトラブルはかなり大きなもので、それを起こす人物はと言うと一人しか居ない。
京之助は誠一に話しかけながらも、今日のトラブルについて考える。
原作のどの辺りだったかなと、記憶の底を漁った。
「爆発事故っぽいな……爆発ねぇ?」
「ぜってー……叶馬だ」
「苦労するね。おたく」
「はぁ……」
現状で言えば、誠一が叶馬パーティーの知識者である。
情報集めから、今後の行き先まで全てを細かくまとめ上げているのが、誠一であった。
そして、そんな彼に気遣う事もなく天然でやらかすのが叶馬である。
「……それで何の用事だ?」
「
「いや……何で俺が知ってると?」
「仲いいでしょ?特に叶馬の奴があのちっこい先輩の事、気に入ってるし」
「……」
そこまで会話を続けると、誠一の目が鋭くなり、チラチラと京之助の動向を見守る様になった。
「別にチャチャ入れる気ないし、好きにしてって感じだから」
「その割には、こっちの事情に詳しすぎね?」
「何の情報も仕入れずにいるには怖すぎる集団だしね」
「……否定できねー」
「はっはっは」
なるべく穏やかに適当な事をでっち上げながらも会話を続ける。
と言っても気になる集団と言うのは間違いではない。
実際に何も情報を知らずに進んでいくと、知らずの内に巻き込まれる可能性もあり、見守るほかないのだ。
「こっちとしては、おたくらとはほどほどの距離で、敵対なしでいたいと思ってるのよ」
「……本当だろうな?」
「うん、ダンジョン攻略を楽しみつつ、安全にこの学園卒業が目標だ」
「……なら、少しばかりこっちにも情報くれない?」
「んー……」
「そっちの情報探っても、何も出てこなすぎて怖いんだけど」
誠一の提案に、どうしようかと悩む。
別段、チート能力に関しては知られてもいいとは思っていた。
敵対するなら兎も角、現状においてはそんな気はない。
他の人物なら絶対に教えないが、彼らの性格などについては原作を読んでいたので知っている。
悪人ではなく、善人であり、悪用する可能性は限りなく低い。
そもそもエヴァ達については、原作にロストした人間がカード化し、それを使役していた描写があるのでその設定を利用すればいいだけである。
『どこでもラブホ』もダンジョン内に時折現れるショップで貰ったことにすれば納得してくれるだろう。
現に叶馬が、それで二つのチート能力を授かっている。
問題はないはずだと考えた。
「そうだなー……エヴァについてはロストが関係してるとだけ言っとくわ」
「っ!……ロスト、そこ関係か」
あまり謎過ぎても警戒を深く呼び込むだけなので、それらしく説明をしておくことにした。
ロストした生徒がとあるスキルなどでモンスターカード化し、それを文官が使役出来る。
今の京之助達と似たり寄ったりなので、全部が全部嘘ではない。
「ロストについて、この学園では禁句だ。分かるだろ?俺が黙っていろと言った理由が」
「……あの子はロストした筈の生徒だった?或いは、ロストから復帰する方法が?」
「色々とあんのよ、色々とね。あと、忠告しとくけどロストに対して調べる時は特に注意しとけ、学園から目を付けられるぞ」
「……」
それらしい情報を与えれば、誠一は真面目な顔で考え出した。
彼の頭の中では、今回の情報と自分の持つ知識の擦り合わせが行われている。
何せ、ダンジョンに潜る以上ロストと無縁とは言い切れないのだ。
何かしらの事故などで、仲間や自分がそうなった場合に対しての対処法が必須である。
「……」
「悪いけど、今の俺達の仲じゃここまでだ」
「……はぁ、まぁ期待以上の収穫だしいいけど」
焦らしてみると意外にも、誠一は引いてくれた。
どうも渡した情報は、彼にとって満足いくものであったらしい。
彼の中では、京之助はロスト生徒とつるむ奴となった。
正確には、文官の立ち位置なのだが、今わざわざ言うものでもないので黙る。
本当の事を教えるのは、もっと後でいいだろう。
と言うよりも、誠一達はエヴァを見てもピンと来なかったが、他のメンバーと会えばバレる可能性は高い。
何せ、この世界だと前世の世界と同じような漫画やゲーム、小説が出ているのだ。
勿論、『ネギま』も普通に書店で売っていた。
漫画好きだったりすれば、分かってしまうだろうと京之助は思っている。
唯一ないのは、この世界の元となったハイスクールハックアンドスラッシュだけだ。
「ところでー……叶馬って青姦好きなん?」
「……まじ、それな」
「じ、事情がある」
そこまで話を終えると京之助は後ろを向いた。
するとそこには、生垣から顔を出している叶馬が居た。
ご丁寧にもアンアンパンパンパンと言う、何をしているのか分かる効果音付きである。
何時気付いたかと言えば、誠一に気付いた時である。
近づくと、生垣から顔を出してる叶馬が居たが、あまりの異様さにスルーした。
ベンチに座ってる誠一の後ろで青姦してるとか、どんなシチュエーションである。
謎過ぎて触れるのが怖すぎた。
「最初異様過ぎて話しかけるの怖かったんだけど」
「うん……気付いた時、俺も怖かったわ」
「恐らく誤解が……!」
何かを言おうとした叶馬は、そのまま何も言わずに急に生垣の中に頭が消えて行った。
その代わりにボサついたロングヘアの女子生徒が顔を出す。
「……借用中」
「明日までに返して貰えれば」
「
「……蜜柑ちゃんが戻ってるかな」
「依頼品取りに行きますね」
「ん」
会話はそれで終わり、にゅっと出て来た顔はまたにゅっと消えて行った。
そして、またもや、あんあんぱんぱんとエッチな効果音が聞こえてくる。
「うんじゃ……行くわ」
「おぅ……てか、俺も留まりたくはないわ」
結局、京之助と誠一の二人は揃ってベンチから立ち上がると、手を軽く上げて別方向に歩いて行った。