多元世界ヒロインズ 作:ころろこ
特にコメントありがたいです。
「ほぉ……ここがダンジョンか」
「そ……と言ってもこんな風にダンジョンらしいダンジョンは、九階までらしいけど」
あれから、一緒に生活をするにあたっての約束をカリオストロと幾つか取り決めた。
と言っても、皆が皆、好き勝手に生活をしているだけなので、邪魔をしないといったぐらいである。
「そこから先は?」
「オープンワールドらしい」
「おーぷんわーるど?」
「んー……ダンジョンの外みたいな広い世界」
「なるほどな」
そして、情報交換をしていると一つの問題が浮かび上がった。
と言うのもカリオストロは、こちらの世界に対して最低限以下の情報しか持っていなかったのだ。
エヴァや琴子が説明してくれたのだが、カードを通しての召喚の場合は最低限の知識を与えられる。
それに対して、カリオストロは自力でカードの情報を解き自前のゲートを作ってやって来た。
その為か、欠落した情報が多く言葉以外はカードの持ち主であるナルメアから聞いた知識であり、殆ど知らないと言っていいほどだ。
「まったく……こんな性質のダンジョンだとはな」
「ナルメアからは何も聞いてなかったの?」
「一応聞いていたんだが……『すっごくえろいの!』で分かる訳ないだろ」
そんなカリオストロは、ダンジョンを京之助と歩きながら憤る。
ダンジョンを見たいと言うので、レベルUP時の性欲上昇効果はいいのかと聞くと何だそれと言う具合であったのだ。
『ダンジョンでレベル上がると性欲上昇するから、俺とする事になるけどいいの?』
『……なんだそれ?』
その時は、互いに何言ってるんだこいつはと言った感じであった。
事情を話せば、カリオストロは憤慨するも情報収集を怠ったのは自分であったので、ぷりぷりと怒りながらもモンスターからドロップしたアイテムで性欲上昇を抑える薬を作り出す。
ゴブリンの媚薬などを調べ、その逆の成分を解析し薬を作り出す腕前は、まさに天才錬金術師である。
「流石に性交はする気ないからな。男と寝る趣味はねー」
「まぁ……そこは無理強いはしないから」
「性的交渉なしでお前の一番になってやる」
「無茶苦茶だなー。楽しみにしておくよ」
そう言って、ダンジョンの先を歩くカリオストロは、京之助を振り返って指差して宣言する。
カリオストロは理想の少女になっただけで、別に男性が好きな訳ではないのだ。
ただし、理想とする少女が自分なので、女性にも気がないのが彼女なのだが。
そんな気の強い彼女に京之助は笑って答えた。
エヴァと長い間、一緒にいたせいもあり、似ているカリオストロには親近感が湧くのだ。
それでも簡単に好きになってやるつもりはなかった。
「邪魔だ」
『GYABI!?』
会話をしていると、カリオストロの歩いている通路が開け、玄室に到着した。
その玄室にもモンスターが何体か存在しており、カリオストロの背中が通路から現れると襲い掛かる。
しかし、カリオストロが指を鳴らせば、それだけで地面から生えた数々の斧や槍といった武器がモンスター達を串刺しにした。
一度も見る事もなく、モンスターは光の粒となって消えていく。
「レベルは?」
「上がらないな。何体も倒しても上がらないということは……」
「他の人と違ってカードを通して来ていないからか、元の実力のままってことかな?」
「そうらしいな。『
「レベルを下げる気?」
「もっちろ~ん、レベルUP時の身体補正とかこの体での性欲上昇がどんな感じか、原理はどうなってるのかとか気になるしね!」
一瞬で猫を被り、カリオストロはくるくると回ってポーズを取った。
そんなカリオストロに、京之助は勿体ないと思う。
彼女の行為は、今までの力を全て捨てる行為である。
しかし、それを研究の為に捨てる覚悟を持っているのは、素直に賞賛できることでもあった。
「さてと……今度はお前の戦いを見せてくれ。職業や身体補正込みで一般人がどのくらい強くなるのか見てみたい」
「あいよ……『
猫被りを止めて真剣な目で見つめるカリオストロに京之助は頷き、己の武器を取り出した。
呼べば、空中に魔法陣が描かれて一本の棒が現れる。
「それが『
「持つ気?」
「試しにな」
地面に置くとカリオストロが、あれやこれと触ったり、持ち上げようとしたり、興味深げに眺める。
「……これを持ってる?確かに身体つきは筋肉質でしっかりとしているが、到底持てる筋力量はしていない。筋肉の質自体が変化しているのか……いやレベルの補正と言うからには、魔法や気の力での増幅タイプ?」
「……」
「よし、部屋に戻ったら実験に協力しろ。取り敢えず皮と血を取って……いや、その前に実験に必要な機材を揃えるのが先か」
先ほどの猫被りが嘘のように静まり、真剣な目に楽し気な表情でそう言ってくる。
それを見て京之助は素直に頷いた。
「そんじゃ……実験の為に戦闘データでも取りに行こうか」
「!えへっ、カリオストロと楽し~実験をしよっ☆」
………
……
…
「ふっ!」
「……」
次の玄室では、京之助が宣言通り戦っていた。
相手は犬よりも大きいブラッドドックや、梟の頭に熊の体を持つオウルベアなどだ。
普通であれば一般人では倒せそうにない相手に、京之助は無双していた。
重い如意棒を軽く振り回し、それが当たる度に敵が爆散する。
もはや戦いではなく、ただの作業であった。
「まぁ……それだけの重量物をその速度で振り当てれば、そうなるな」
「そうなんだよね。お陰で戦いという戦いは、エヴァ以外だと殆ど経験したことがなくて」
「なるほどな」
敵をあっさりと全滅させ、京之助は苦笑しながら頷く。
残念ながら、京之助の戦闘という戦闘は最初のゴブリンだけであり、その後は無双のゲームをしている感じになってしまっていた。
お陰で経験が圧倒的に足りていない事が最近の悩みとなっている。
敵の攻撃を受けてもレベルの補正などにより、ひっかき傷程度、更に言えば斉天大聖の不老不死の効果で即座に治ってしまうのだ。
唯一の戦闘経験がエヴァとの組手なのだが、エヴァの場合は搦め手や魔法が多く、肉体的な接近戦とはいかない。
圧倒的に京之助とぶつかり合える相手が居なかった。
「今なら叶馬の気持ちがよく分かるわ」
「叶馬?」
「そっか、そこら辺の知識もないのか……この世界の元となった創作の主人公。雷神の血を引く現雷神様」
原作では、ことある毎に叶馬が戦う相手を探し、それでハチャメチャをして笑っていたが、同じような状況になってしまうと気持ちが理解出来てしまう。
自分の力を思いっきり振るいたい、それを受け止めて欲しい、殴り返してほしいと。
「カリオストロは接近戦得意?」
「オレ様を巻き込むな」
念のために聞いてみるも、カリオストロは嫌そうな顔をして一歩後ろに引いてしまう。
それを見て京之助は、残念そうに苦笑するもそれ以上は尋ねなかった。
「そんなに対人戦をしたいなら、分身とやればいーじゃねーか。出来るんだろ?分身」
「……なるほど」
そんな残念そうな京之助の為に……ではないが、カリオストロはこともなげに提案をした。
それに対して京之助は、足を止めて考えてみると、確かに出来そうである。
「カリオストロって回復技を使えたよね?」
「あぁ…リーンフォースか、確かに使えるけど……まさか早速戦うのか?」
「エヴァとかに話を通してからだけどね」
………
……
…
「まじで何なんだ」
「あわわわ……また揺れたんですけどー!」
「か、界門守護者でしょうか?」
「……だ、大丈夫でしょうか?お姉様」
京之助達と同じ階層で、叶馬達が一か所に集まり怯えていた。
彼らは、新しい階層に今日到達したばかりであり、何度か敵と戦い自分達が戦って行けると調子づいていた矢先であった。
行き成りダンジョンが震えだし、何処からか大きな物が激突しているような音が鳴り響きだしたのだ。
これには、調子に乗っていた叶馬達もごめんなさい!と謝る勢いで、叶馬達は真剣に辺りを見渡し警戒しなおす。
「あ、あらぶって、ます」
「き、きけんかも、です」
「この先だ……はて、知っている気配がする」
怯える誠一達を尻目に叶馬は、ただ一人で音と震源地の場所を探していく。
現在彼らがいる場所は大きな玄室であり、そこから四つの通路に分かれている。
一つ一つを覗き込み、一つの通路の奥から知っている気配を感じ取った。
「京之助?」
「え……まて、まて、叶馬!何でそこでそいつの名前を出すんだ」
「うげー……あの人が震源地なわけ?」
叶馬が覚えている限りで、この気配に近い人物を探って一人の名前をあげた。
そうすれば、誠一と麻衣のコンビは嫌そうな表情となる。
「あの人ですか……」
「きょうのすけ……あの、『
「そうだ。マイフレンドの京之助だ」
静香と新しく叶馬のパーティーに加入した沙姫が、叶馬の呟きでその姿を思い出す。
身長は高く、眠そうな目つきで長い黒髪の毛を後ろで尻尾の様に一結びにしている。
そんな風貌と共に剣呑な雰囲気を醸し出していた。
似た者同士なのか、気が合うのか、クラスの人達に避けられている叶馬に対しても普通に接する事が出来る珍しい人物だ。
叶馬が勝手に友達認定していたが、静香の脳内では知っている限りでは二回しか会ったことがない人物である。
そんなに親しい間柄には見えなかった。
「行こう」
「いや、行くなや。何で不思議そうにするの!?あいつが震源地だとして、これだけ続くってことはだーー」
「強敵が待っている。マイフレンドのピンチだな」
それだけ言うと、叶馬は持ち武器の『
それを止めたのは、誠一である。
「そうなんだけど!……そぉ、あいつがピンチになる強敵に俺らが助けに入っても邪魔なだけだろ?」
「むぅ」
死にたくはないし、全滅の可能性もあると必死に叶馬を止めた。
これには、叶馬も足を止め考え始めた。
考え始めるも、視線は通路の奥と誠一達を交互に見て、行きたそうにしている。
「……少しだけ確認しにいくのはどうでしょうか?もし、助けに入れるなら助けて、無理であれば即撤退で」
「……あいつに借りを作れたら確かにいいけどなぁ」
「えー行くの?」
「い、行きましょう!強敵と戦ってみたいです!」
静香は叶馬を止めるのは無理だと悟った。
自分達を残して、一人で行く可能性もあり、それを止める為にそう提案する。
ちょこっとだけ覗いて無理なら逃げればいいのだ。
その事を提案すれば、誠一や沙姫の気持ちが其方へと傾いた。
唯一嫌がってるのは麻衣と隅っこで体を丸めて怯える双子の海春と夏海だけである。
しかし、パーティーの半数以上が様子を見に行くとなれば、嫌とは言ってられない。
結局はしぶしぶと楽し気な叶馬の後ろに並んで、叶馬を盾にしながら着いていくほかなかった。
「ねぇ、誠一?」
「……なんだ。麻衣」
「謝って」
「ごめん……まじでごめん!」
「ね、姉様……これ駄目です!即撤退です!」
「……っ!」
「「ど、どうかお鎮まりにっ!!」」
揺れ動くダンジョンの通路をゆっくりと進んでいくと、次第に音と振動が大きくなっていく。
遂に玄室まで辿り着き、中を覗こうとした時であった。
その通路から玄室へと伸びる壁に、一人の人間が叩きつけられるのを目撃する。
高めの身長に、長い黒髪を後ろで一結びにして尻尾のようにしている少年。
そんな彼が、壁に叩きつけられて目の前で消えてしまったのだ。
「なるほど」
そして、消えた少年の元に歩いて来た人物が一人。
先ほどの少年とまったく一緒の姿の少年が、通路で固まっている叶馬達に気付き、視線を向ける。
その少年の目は、激しく燃え上がるような真っ赤な目で、獲物を見つけた時の様な獰猛な笑みで叶馬を見た。
「よぉ……また会ったな」
「然りっ!」
そして、叶馬もまた同じような笑みで少年ーー京之助を見返した。