多元世界ヒロインズ 作:ころろこ
「おー……これが『別荘』?」
「そうだ」
ダ・ヴィンチがやって来てから数日が経ち、四月もようやく終わりゴールデンウィークに突入する。
この学園とは言え、長期の休みはしっかりと設定されており、ゴールデンウィークは大型連休として学生達にも与えられる。
そんな学園内の生徒達が浮かれている中、京之助はと言えばエヴァ達が合作で作り出した『別荘』こと『EVANGELINE'S RESORT』を眺めていた。
「時間の流れが違うんだっけ?」
「そうだな。此方の時間で一時間が別荘内では一日になっている」
この『別荘』は大きな水晶体で出来ており、この中にある大きな空間へと侵入する事が出来る魔法版の『どこでもラブホ』みたいなものである。
中は広く海から山と、もはや一つの世界を作り出したに等しい、とんでもアイテムだ。
更に言えば、エヴァの説明通りに時間の流れが違い、現実の一時間が中では二十四時間となっている。
「『どこでもラブホ』と組み合わせるとヤバい事にならない?」
「あぁ、『どこでもラブホ』は中に入った瞬間に戻れる能力を持っている。組み合わせたら……それこそ、何十年も過ごす事も可能だろう」
「まぁ、年取るのも早くなるし……何年も使わないだろうけど」
「そこは問題ない。カリオストロとダ・ヴィンチの協力の元、改造してあるからな」
「……マ?」
「本当だ。簡単に説明すると……この中に入った瞬間、本人の情報を元に『ホムンクルス』が作られて魂を其方に移すようにしてある。中で行動を行う体は『ホムンクルス』であるから老化など関係ない。本体はその間、現実の時間で眠っている様なものだ」
肉体を別に用意して、魂の身を其方に移すことによる老化防止。
更に言えば、肉体は鍛えられないが精神は鍛える事が可能なので魔力や経験を得る事が可能となっている。
「不老不死とかってどうなってんの?」
「即座にその部位を生成するようにして再現している。無論、老化を気にしないであれば本体のまま入場も可能だ。ホムンクルスによる老化防止は、あくまでホシノや琴子、ナルメア用の対策だな」
「便利だなー」
「ふっ……創作に出てくるような危ない材料がごろごろとあり、天才が三人も集まれば造れない物はないだろう」
確かに
京之助は、改めて天才は凄いなと凡人の感想を抱きながら、『別荘』を突っついた。
「入るか?」
「そうだね。中気になるし、入ろうか」
「それならば、手のひらを水晶にぴったりとくっ付けろ。入る時に『本人が入場する』と頭の中で思えばそれだけで本体で入れる」
「了解」
エヴァの言葉に従い、手のひらを当て『本人で』と願うと意識が薄れていき何処かに連れてかれるような感覚を味わう。
………
……
…
「それでアレってどうなったのー?」
「アレ?」
一年丙組の教室内で麻衣が、誠一にそう尋ねた。
「エヴァって子のことー」
「そう言えば、何の報告もありませんでしたね」
「イグザクトリー」
「あー……」
本来であれば、秘密の内容であり、教室内で話すようなことではない。
しかし、今の丙組は学園に入って最初の連休が近づいており、皆が皆浮かれている為に叶馬達の話を盗み聞きしているような人物はいなかった。
その事を誠一は辺りを見渡して、確認をしてから口を開く。
「聞きまわってみたら、何人か知ってる奴が居た」
「と言う事は……」
「名前、金髪、身長く低め、人形の様な容姿、吸血鬼、魔法使い……全部合ってたわ」
「漫画に登場する人物と一致ってわけ?」
「あぁ」
誠一が未だに信じられないとばかりの表情で、今まで得た情報から紡ぎ出される答えを話す。
「漫画のキャラクターかー……どうなってるのでしょうか?」
「何かのスキルかと思ったが……斉天大聖にそんな能力ないしな。いや……分身と変化の組み合わせか?」
「一人遊びってこと?それはそれで怖いんだけど」
「……俺と同じく『ショップ』で手に入れたとか?」
「あの部屋の事もあるし、もう一つ持っててもおかしくないか」
幾ら、ファンタジー要素満載の非現実的な学園に通っているとしても、創作のキャラクターが現実に登場するなど思いもしない上に信じられなかった。
「私達も漫画か何かのキャラクターだったりして」
「麻衣、SANチェック1d100を振ってください」
「や……そのノリ分かんないって」
「あー……そこら辺を考え出すとマジでSANチェックもんだし、考えない方向で」
「そうですよね。創作であれば、今までの行動が全て決められていたものとなりますし」
麻衣と叶馬は、自分達について特に考えず暢気にしているが、誠一と静香は少しばかり顔を青ざめてその話題を打ち切る。
「取り敢えず……アイツから誘いまちかね。修行場所を用意してるって言ってたし」
「……噂をすればだな」
「あん?」
今後の話として、話の中心である京之助本人からの接触を待つこととなった。
この話はそれでお終いで、他のクラスメイト達と同じように連休中の話をしようとした時である。
叶馬が意味深に教室と廊下を繋ぐ扉を見た。
「わー……来ちゃったね」
「うむ……遊びの誘いだろう」
「違うと思います」
「あー……何で教室に来るのかな。悪目立ちするだろうが……って連絡も取れねーし、確実に居るであろう教室が無難か」
暫くすると、開かれていた教室の扉辺りに京之助が姿を現した。
京之助と言えば、教室内を見渡して叶馬達を見つけると、扉を数度叩いて来客を知らせる。
そうすれば、教室内の生徒達の視線が一斉に扉付近に居る京之助を見つめた。
「ありゃー……静まりかえっちゃった」
「叶馬さんが何かやらかした時の様ですね」
「遺憾である」
「いや、合ってんだろ」
「遺憾である」
先ほどまでうるさいほどに騒いでいた生徒達はぴたりと石の様に固まった。
まるで肉食動物に突然出会ってしまい、気付かれない様に願うような状態だ。
そんな教室内であるが、京之助は気にもせず『お邪魔します』とだけ言うとずかずかと入って行く。
「よぉ」
「うむ」
「あー……準備出来たのか?」
「うん、出来たから時間空いてる日教えてくれ」
「そっちの都合は?」
「いつでも、今日の放課後でもいいぞ」
京之助と叶馬は互いに手をあげて相手を歓迎する。
そこには気安さがあって和やかなのだが、それを見ている生徒達には緊張が走った。
まるで世紀末が訪れたような表情となる。
「……どうする?」
「私は今日がいいと思う。明日から連休だし、時間あるの今日だけでしょ」
「そうですね。連休中となると何処に居るのかも分からなくなりますし」
「今日でいいと思う」
この学園ではスマホなどの便利な物はなく、学園手帳の機能もスレッドを立てるだけと連絡をとる手段がない。
なので、この学園で何処どこに何時に集まるかを、口頭で約束しなければならない。
平日であれば、午前中は大抵教室に居る為に約束しやすいが、連休となれば連絡が取りづらくなる。
特に京之助の場合は寮にも戻らず、『どこでもラブホ』内に住んでいる為に尚更に行方不明になりやすかった。
「今日の放課後で大丈夫だ」
「そうか、十三時になったら食堂で会おうか。どうせ食事はそこで取るだろうし」
「……承知した」
約束を交わすと叶馬がニヤっと凶悪な表情で笑い、教室内の温度が幾分か下がる。
叶馬が嬉しそうに笑うとオーラが吹き出し、その周りに居た可哀想な生徒達は、顔を真っ青にさせ体をがくがくと震わせた。
誠一や麻衣、叶馬に心酔している静香でさえ、この叶馬には顔を青くさせるも京之助だけはそれを真正面から受けきる。
それどころか、受け入れて薄ら笑いすら浮かべる余裕さえあった。
「そんじゃなー」
「うむ、楽しみにしている」
用も済み、京之助は軽く手を上げるとその場を去って行く。
そんな彼を見て、教室内では息をするのを忘れていた生徒の何人かが、必死に空気を吸う。
「嬉しいのは分かるけど、加減しろ馬鹿」
「うん?」
「あー……そうか、今日化け物同士がぶつかるのかー」
「化け物とは?」
「練習場が一日で壊れないといいのですが……借金がどれぐらいになるか」
「借金?」
教室内の生徒の様子を見て苦言する誠一と、今日行われるであろう仕合いに嫌そうな表情となる麻衣、その仕合いにより想定されるであろう被害額を計算し静香は遠い目で何処かを見る。
そんな三人の話に叶馬本人だけがついていけなかった。