多元世界ヒロインズ 作:ころろこ
「はえ~……」
「ほぅ」
「これは……凄いですね」
「いや……凄いてか、もはや別世界だろ」
その後、昼となりご飯を食べ終わるとそのまま合流を果たす。
共に食堂で食べていた為に、時間よりも早くなったが問題はない。
今回は、ダンジョンに入る必要もないので安全な場所であろう、叶馬達の拠点となっている女子寮の部屋にて『どこでもラブホ』内に移動する。
それから、とある一室に通されて水晶体に触れば、あっと言う間に『別荘』に辿り着く。
ある程度の説明を受けて、通された瞬間に辺りは一変した。
無機質な最低限の家具が置かれた部屋から、さんさんと光の当たる青空の下へと放り出されたのだ。
耳を澄ませば、近くの海から押し寄せる波の音、その上を薙いで行く海鳥の声。
着地した場所は浜辺であり、少し遠くを見れば白い大きな建物が見える。
その更に後ろには山脈が目に見えた。
「別荘って言うから大きな家の中を思い浮かべてたけど……これは泳げるね!」
「そう……ですね?」
「……砂浜か、足の鍛錬に走るか」
「お供します!旦那様」
「さらさらして、ます」
「異世界、です」
「あれ……すげー驚いてるの俺と静香だけか?」
そんな場所に通された叶馬一行は、それぞれの感想を述べ大多数が楽しそうにした。
麻衣は遊ぶ気満々で、叶馬と沙姫は修行を思い浮かべ、双子の姉妹は興味深そうに砂を掬っていた。
純粋に困惑してるのは、比較的常識人の誠一と
「どこまで広がってるんだ?」
「あー……聞いた話だと日本の面積と同じ位らしい」
「らしいって……本物の異世界じゃねーか」
取り敢えず、場所を移動しようという事で京之助を先導に歩き出す。
その間に誠一が、気になる事を聞いてみるもその度に頭の中の常識が崩れ去っていく。
『別荘』内を探索してみると案外にも広く、更に言えば徐々に空間が広がっていってるとダ・ヴィンチ達から京之助は報告を受けていた。
天才たちとは違い、凡人である京之助は『すげー新しい世界作ったのか』程度であるも件の天才達は大慌てである。
今では常に此方の『世界』に来ては、あれやこれやと調査に忙しそうであった。
「何か出来ちゃったらしい」
「そんな、でき婚じゃねーんだから……てかウミネコとか居るけど、どっかから連れてきたのか?」
「元々は生物とかも創造するつもりはなかったんだけど、素材にした物が物で自然と増えてたってさ」
「なにそれ……こわ」
「えっ……じゃ、海に危険な生物とか居るの?」
「今の所は、現実とさほど変わらない……いや、トリコの世界の生物が居たし危ないか?」
「何がいるって?」
海で泳ごうとしていた麻衣は、その話を聞いて残念そうな声を出す。
流石の麻衣でも、何が出るか分からない海には入らないと言う常識があったらしい。
「あぁ……泳ぐのは一応この付近の海域には結界張ってあるし、問題はないと思うぞ」
「本当?」
「ほら、あの薄っすら見える透明な壁があるだろ?あれから先は行けない様になってるし、来れない様になってる」
「なら、問題なし?」
「危険はないだろうよ」
そう言われて、海の向こう側にある結界を見てみると、その先から何やら大きな触手のような足が何本か空に向かって伸びているのが見えた。
その大きさは、遠くでありながら叶馬達も大きいと確認できるほどのものである。
「麻衣、遠くには泳ぎに行くなよ」
「うん……浅瀬で遊ぶことにする」
「食えるのだろうか?」
「食える。けど……あれは頭もいいしコミュニケーション取れるから食わない方がいいぞ」
そういって京之助は、前に交流をした時を思い出す。
あの生物は大きな蛸であり、手振り身振りであるがある程度の交流が可能だ。
度々魚などをくれる代わりにダ・ヴィンチが木で作った適当な遊び道具を持ち去って行く程度で危険性は少なかった。
そうとは知らず、最初の邂逅で足を一本切り落としてしまったが、何とか交流を持って互いに親しい関係となれる。
ちなみに切った足はそのまま頂いて普通に食べた。
「入る前に説明をした通りで、ここでの一日は外での一時間だ。一度入れば此方の世界で一日経たないと出れないから気を付けろよ」
「まじで便利だよね。一日で何日も休めるとかちょー欲しいんだけど」
「……」
「こればかりは譲るのは無理だな。材料が材料だし、そう簡単に作れる物じゃない」
「それもそうか」
「買い取るにしても、値段がやばそう」
「それはそうだろうよ。世界を一個買うとか幾らだって話だ」
そう言って、麻衣のおねだり的な視線を受けるも、それを京之助はスルーする。
流石に二個目を作れるほどの材料はなかった。
天才達が伝説的な物を幾つも使用した物であり、今回の『別荘』は特別仕様過ぎるのだ。
誰かに譲るなど、二個目を作るなど出来ようもない。
「たまになら使用してもいいから……ほら、そこのコテージが叶馬達の部屋な」
「え゛っ……俺達の部屋あるのか?」
「何処に寝泊まりする気だったんだよ」
そんな話をしながら歩いていると、白い大きな建物の足元にある家を京之助は指差した。
それは、一軒家を二つほどくっ付けたような建物であり、豪華な作りとなっていた。
大きなリビングからは海の眺めを見れるように大きなガラス張りとなっており、その前には木造のスペースがあり、そこにはパラソルと寝そべる事が出来る椅子が幾つかそなえ付けられている。
「いいのか?」
「まぁ……適当に作った物だし『本人も好きに使っていいよ』って言ってた」
「本人も……エヴァンジェリンさんでしょうか?」
「この別荘を作れるほどだし、この位は魔法で出来るってか?」
「その魔法も使えるようにならないかな?てか、この別荘を作れるほどになりたい」
「……ふむ?」
エヴァ達と合流する前に、叶馬達が泊まる場所を紹介する。
最低限の言葉しか言わなかった京之助に対して、誠一達はエヴァンジェリンの事かと勘違いし、その中で叶馬だけが建物を見て首を傾げる。
「これ鍵な」
「全部一緒か?」
「スペアキーも含めてだ。部屋のカギは、中にあるからどの部屋を誰が使うか決めて自分で管理してくれ」
家の前に近づくと、取り敢えず一番管理してくれるだろう誠一に家のカギを渡した。
そして、扉を開くと各々が興味津々と中へと入って行く。
「どこまで好きにしていい?」
「俺等は既に家あるし、やる。どこまでもお好きに……掃除とか食料調達は自分達でしてくれよ。そこまで面倒見ないぞ」
「助かる」
「わー……もうゴールデンウィーク中ずっとここでよくない?」
「それでもいいですが、時間とここでの暮らしを考えると……ずっとは」
「年をとり、ます」
「あっと言う間におばーちゃん、です」
「そっか」
「とりま、一時間ほどしたら迎え来るから……それまで休むなり、探索するなりお好きに」
それだけ言うと、楽しそうに家の中を探索しに行く女性陣を尻目に京之助が去って行く。
「……どう思うよ。叶馬」
「どうとは?」
「いや……だってなぁ。詫びにしてもやり過ぎじゃね?恩を返され過ぎてこっちが返さなくちゃいけなくなりそうだ」
あまりにも盛大な詫びに誠一は、これから先の事を考えて顔を青くさせた。
確かに殺されたりしそうにはなったが未遂であり、実際に行われたわけではない。
外の世界なら未遂だけでも警察沙汰であり、それを隠ぺいすると言う形であれば理解は出来た。
しかし、この学園のダンジョン内であれば、他のパーティーを殺すも襲うも好き勝手し放題である。
何しろ、死んだところで記憶を失って外に放り出されるだけなのだ。
警察のけの字どころか、学園側も捜査も何もしない黙認状態である。
「ふむ……とは言えだ。静香達を抑える事が俺達に可能だろうか」
「……無理か」
少しばかり叶馬も考えるも、遠い目をして女性陣を見る。
先ほどまで誠一側であったであろう、冷静な静香も今は目を輝かせて楽しそうに部屋を物色していた。
外ではゴールデンウィークの大型連休、その休みに連れて来られた場所は、海の近い素敵なコテージである。
高校生である静香達の心が、怪しいと思うよりも嬉しいやら楽しそうに傾くのもしょうがない。
「俺達、完全に取り込まれてるよな」
「致し方なし。何よりも、邪気は感じないのだ。素直に受け取ってもいいのでは?」
「そういうがな……本当に信じてもいいのか?」
何処まで行っても、相手の本心が見えず。
或いは、見えていてもここまでの善意を信じ切る事が誠一には難しかった。
「取り敢えず、俺達も部屋を見よう」
「そうだな。こうなれば、何処までも付き合ってやる!」
「誠一!すっごい!ここテレビ見れるよ!」
「まじか」
「なんと……この世界のローカルな番組が見れるだろうか」
結局は何処までいっても答えるが分かる訳もなく、今を楽しもうとなった。
そして、麻衣の一言に叶馬と誠一は顔を合わせてリビングへと急いだ。