多元世界ヒロインズ 作:ころろこ
「満喫しているようで何より」
「あはは……すまん」
「いや、別に構わねーよ。好きにしろって言ったのはこっちだし」
あれから数時間ほどが経ち、叶馬達も落ち着いた頃だろうと迎えに行く。
すると其処には休日を全力で楽しむ叶馬達の姿があった。
静香と麻衣の二人は海の中に入りビーチボールで遊び、双子は何故か居るナルメアと共に砂浜でお城を作っている。
叶馬と沙姫は海を全力で泳ぎ遊び、誠一はビーチチェアに座り込み休んでいた。
「……てか、エヴァンジェリンだけじゃなかったのな」
「まー……何人か居る。好きに過ごして貰ってるし、会ったら仲良くしてくれや」
「おー」
「手を出したらぶっ殺すけどな!」
「……おー」
双子とお城を作っているナルメアが、トンネルを作ろうと屈むと大きな胸が強調される。
そんな様子を見ていた誠一は、最初こそ嬉しそうであるも直ぐに視線を逸らす。
京之助の言葉はカラカラと笑い冗談に聞こえるも、周りの吹き出すオーラは正直であった。
性よりも生である。
「決闘かっ!」
「はやっ!怖い!」
そんなオーラが浮き出せば、先ほどまで沖を目指して泳いでいた叶馬が、
それを目撃してしまった誠一は哀れにもSAN値が削れてしまう。
「そっちが良ければやろうぜ」
「承知した」
「……まじでやるのな。俺はこのまま何事もなく休日を過ごしたかった」
京之助自身、こいつと今から戦うの?本当に?と思ってしまうが約束は約束である。
先程の奇天烈な行動により、少しばかり戦意を失うがしょうがない事だと思う。
更に言えば、叶馬の元に集まって来た皆は、沙姫以外は『え?このまま遊ばない?』と言った雰囲気である。
………
……
…
「うはー……たっけぇ」
「怖いんだけど……」
「「た、たかすぎます!」」
「落ちたら終わりですね」
「でも十分に広いので思う存分戦えそうです!」
戦意の塊と化した叶馬を誠一達がどうにかできる筈もなく、結局は休息を中断し、言われるがまま京之助に着いて行った。
着いて行くと『ワープゲート』と呼んでいる地面に何かしらの呪文が書かれた場所から、一瞬にして何やら大きな塔の様な場所の頂上へと連れて行かれる。
頂上だと分かったのは、柵も何もない端から下を見ればそうなっていたからだ。
端から目を放し、辺りを見渡せば頂上は平べったく、何もない広い円形の広場となっている事が分かる。
更に言えば隣に並んだ塔へと続く橋があり、其方の方は大きな豪邸の様な建物があり、其処が京之助達の住処なのだと考えられた。
「ふ……何時でも」
「武器もスキルも自由、落ちたら一発負け、気を失っても負け、後で話すけど……死んでも問題はない」
「そうか、全力で行こう!」
「話がはえー……まぁ、いいや。やろうや」
広場の中央で互いに三メートルほど離れた位置に陣取り、京之助が小さな声で『アデアット』と言い、『如意金箍棒』を取り出すと構えた。
それに対して叶馬もスキルの『アイテムボックス』から武器である『餓鬼王棍棒』を取り出して構える。
叶馬は両手で持った『餓鬼王棍棒』を頭の上で構え、京之助は腰を落とし、ビリヤードのキューを構えるような仕草だ。
「しっ!」
「うぉぉぉぉおおお!」
勝負の始まりの合図は何もなく、互いに互いが同じ瞬間に動き始まった。
それと同時に一緒に着いて来たナルメアを除けば、誠一達に見えたはこの瞬間だけである。
動いたと思った次の瞬間には、轟音と共に二人の距離が一瞬で零となり鍔迫り合いの状況になっていた。
そして、叶馬が吹き飛ばされた。
「ぬぐぐっー!」
ぶつかり合った瞬間の互いの力の差は同じ位であった。
但し、京之助の方が速く、二打目を撃ち込まれたせいで吹き飛ばされる。
それでも直撃を受けずに、『餓鬼王棍棒』で受け止めたのは流石としか言いようがない。
痺れる手にどんどんと端に追いやられる体。
直ぐに状況を把握し、叶馬は足に力を込めて落ちまいと急ブレーキをかける。
しかし、それでも止まらない。
『餓鬼王棍棒』を地面に刺して杭としようにも、二人の全力の戦闘を受け止める設計な為か丈夫過ぎて刺さらなかった。
摩擦により靴のゴムが悲鳴のような音を立て、『餓鬼王棍棒』がガガガガッと音を立てても止まってくれないのだ。
それもその筈だ。力は人外でも体重は人の領域内なのだから。
「うぉぉぉぉぉ!!『
「まじ?」
叶馬は、ずっとこの瞬間を楽しみにしていたのだ。
リングアウトでの決着など望んではいない。
叶馬は『このまま終わってたまるか』と吠えるように己の鎧に付加されている効果を発揮させた。
この鎧は特別な物で素の状態で百キロの重さを持ち『
今まで怖さもあり使用していなかったが、この時ばかりは躊躇なく使用した。
何しろ、このまま終わらせようと三打目を撃ち込んできた京之助が見えていたからだ。
「ぬぐっ!」
「っ!」
スキルが発動した瞬間、ズンっと今までに感じた事もない重圧が叶馬を襲う。
そんな中でも何とか『餓鬼王棍棒』で京之助の最速の突きを受け止める。
今度は十トンの重さもあり、突きを受け止めても吹き飛ばされなかった。
むしろ、京之助の方が衝撃が跳ね返って来て手が痺れる。
「くっ……負けは……しない。もっとだ……もっともっと!」
「まじか」
叶馬はそのまま真っ直ぐ京之助を見据えて一歩一歩重い足取りで前へと進む。
それを京之助が四方八方から攻撃を繰り出して、リングアウトを狙う。
「はぁ……はぁ……戻って来たぞ。マイフレンド」
「うへー……」
結局の所、荒い息をつきながらも叶馬は中心へと戻って来た。
ダメージの具合的には叶馬が圧倒的に負けているが、気迫では京之助が押されていた。
「まぁ、しゃーなしだ」
「うむっ!」
そして、最初の様に互いに構えなおすと、今度こそ戦いが始まった。
………
……
…
二人の戦いは柔と剛であった。
重さのない京之助は攻撃を受けた瞬間、先ほどの叶馬の様になってしまう為に正面から受けずに受け流す。
持ち前の速さと技で巧みに打ち込み続ける。
叶馬と言えば、重さと力に割合を振って動いていた。
重さにより相手の攻撃を受け止めても問題がない為に、大胆に動く事が出来る。
広場の中心を叶馬が陣取り、その周りを京之助がくるくると回る様に動いていた。
「やばい……意味が分からない」
「これ……流れ弾で当たったら即死じゃね?」
「……叶馬さん」
そんな二人に対して誠一達は足が竦んでいた。
何しろ、二人の動きは全く見えない上に轟音と振動が何度も襲って来るのだ。
一発一発が致命傷の攻撃となっている。
「大丈夫。お姉さんが攻撃を受け流すから」
「まじで感謝っす!」
「ありがとう!」
「今度は私も稽古を付けて頂ければ!」
それでも被害がないのは、ナルメアのお陰である。
最初こそ、のほほんとした頭に角の生えた小さなお姉さんといった感じであったのだが、戦闘が始まればこれ以上に頼りがいがある人はいないと言うほどであった。
叶馬のスキルの雷の余波も持っていた刀で上手く流し込み、被害がない。
これには、誠一達には感謝しかなく、沙姫に至っては同じ刀を使う者として尊敬すら抱く。
「あがっ?」
「ヒットだ」
そんな状況の中、試合が大きく動いたのは、互いにヒットを許してはならず、膠着しそうな最中であった。
行き成り、京之助が止まったかと思うとその場で体を不自然に膠着させたのちに痙攣させながら倒れた。
びくびくと体が動き、力も入らず言う事も効かないようだ。
「くっぉがっ……!」
「むぅ……これでも意識を飛ばせないか」
しばし痙攣をさせた後に、京之助はぎこちなくもそのまま立ち上がる。
口も上手く動かず、何を喋っているのかが分からない。
「なにが?」
「んー……あの子……叶馬くんだっけ?あの子が体に電気を纏ったみたい」
「うわー……今度から触れるのよそうかな」
「確かに雷神見習いでしたし……そう言う事も出来るとは思いますが」
「……本気で殺す気か」
「か、完全な荒魂状態です!」
「せ、制御できてません!」
互いに攻撃手段が接近である以上、相手に触れなければいけない。
そこを叶馬は上手くついたのだ。
元々雷神の血を引いており、職業も『雷神見習い』で電気の扱いや耐性が出来ている。
故に自分に流し込むことにより、カウンターとして機能させた。
「はぁ……そうだった。放出させるだけがて……手じゃないか」
「……凄いな。短時間でそこまで回復するのか」
「まぁ……な。で……でも痛いしうけ、受けたくないな」
今までの形勢が逆転した。
先ほどまでは叶馬の方がダメージが大きかったが、この一撃で京之助の方が上回った。
更に言えば、この先、遠距離攻撃が無ければ京之助の攻撃方法がなくなったも当然である。
さて、どうしようかと体の回復を優先しつつ京之助は相手の動きを観察し考え込んだ。
考えられる攻撃方法は『身外身』を『地煞七十二変化』で物に変化させて投げるコンボである。
残念ながら乾坤圏は、攻撃手段の乏しいダヴィンチちゃんにあげてしまっていた。
丁度アームからロケットパンチを撃てる為に、入れたら攻撃力が上がるのではと思いついたからだ。
「あっ……良い事思いついた」
「むっ……何か遠距離手段が?」
「いや~?さっきのはイラついたから直接ぶん殴る!」
「こいっ……受けて立ち、全力で打ち負かす!」
ふととある事を考え付いて試す事にした。
とある漫画で同じようなシチュエーションがあった事を思い出したのだ。
試したことはないが、どうせ試合なのだ。
更に言えば先ほどの攻撃は凄まじく痛く、もの凄く癪に障った。
どうしても叶馬を驚かせてやりたくなったのだ。
「ほいっと!」
「なっ!武器を!?」
そうと考え付けば、すぐさま行動を開始する。
まずは、手元にあった『如意金箍棒』を相手に投げつけて虚をつき隙を作った。
投げた武器は簡単に叶馬に撃ち落とされるがそれでいい。
「『地煞七十二変化』!からのーー!!」
「は?」
「はっはっは!これは受けた事ないだろ!」
京之助はその隙を使って自分の体を『地煞七十二変化』にてとある変化をさせた。
そして京之助は、両手を勢いよく前に突き出した後に反動を利用して自分の後ろへと手を伸ばす。
すると本来であれば腕の長さしか伸びない筈の腕がぐんぐんと後ろに下がって行く。
『ゴムゴムのーーー!!』
「っ!」
ある一定の距離で伸びきった腕が、ゴムの性質により前方に居た叶馬へと勢いよく反動を持って打ち出された。
それは某海賊漫画の主人公の技の一つであった。
その漫画は不思議な実を食べて、全身が『ゴム人間』になった主人公の話。
相手は全身が雷とかす実を食べた敵で、そんな敵に対して『ゴム人間』は無双を果たす。
京之助は『地煞七十二変化』を用いて己の体を『ゴム人間』に変化させたのだ。
「参った。そこまで出来るのか」
『ガトリング!!!』
前に打ち出した手が反動にて後ろに、後ろに下がった腕は更に腕力と反動で前にーー。
その繰り返しにより、無数の拳が叶馬を襲った。
叶馬が体に電気を帯電させていようが関係ない『ゴム人間』なのだから。
「っ!うぉぉぉぉ!!!!」
目の前には、反動と斉天大聖の腕力が籠った拳の壁。
受け流すにも受け止めるのも、今の叶馬には出来なかった。
それでも最後まで抗い、ダメ元で何度も雷を纏い、何度も『餓鬼王棍棒』で撃ち落とす。
しかし、『ゴム人間』には電気も打撃も効かない。
最後には何も出来ずに、叶馬はそのまま拳を受けて吹き飛び動かなくなった。