多元世界ヒロインズ 作:ころろこ
――穿界迷宮『YGGDRASILL』接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『
一日目を終えて、二日目も連続して京之助達はダンジョンに潜っている。
普通であればダンジョン内に連続して潜る事はなく、休息の時間を取るのだが、京之助は『どこでもラブホ』の力のお陰で休憩時間を無限に作る事が出来るので好きな時に潜っていた。
『
「っ!!」
呪文の詠唱により、京之助の体が光、契約が施された。
エヴァの魔力が京之助の体の内を巡り身体能力の強化が行われていく。
何時もであれば、持ち上げるだけで精一杯である武器の棒は両手で持てば何とか振れる位になった。
「おぉぉぉ!!」
「GYAGA!?」
「GYABE!!」
歯を喰いしばり、渾身の力を持って横に振れば、棒に当たったゴブリンはべきべきと骨が砕ける嫌な音を立て吹き飛ばされ、地面に転がった。
迫撃する為に京之助も其方に視線を向けるも、体が棒の重さにより追い付かない。
それが何ともどかしい事か、歯が割れそうになり、腕の血管も切れそうになるほどの力を振り出しても二撃目を繰り出せなかった。
「止まれ。ぼーや、迫撃の必要はない……それはもう終わってる」
「んぁ?……まじか、つぁー……疲れた」
見ればゴブリンはくの字に折れ曲がり、光となって消えていく。
『
普通の領域の何倍も強いのだが、あっさりである。
「あぁ……、レベル上がって、エヴァの強化も乗ったのに……一振りでこれか」
「良くやってる方だ」
「くそー……何なんだこのくそ重い棒は」
寝ころびながら嘆く京之助に、エヴァは心の底からそう思った。
『
武器の性能で言えば上位であり、この付近のモンスターでは受け止める事すら出来なかった。
それでも人の持つような重さでなく、武器としては十分な性能である。
「どうする。後は私がやるか?」
「ごめん、これ以上振れないから休ませて」
「フフッ……あぁ、任された」
寝転がったままの京之助の頭をエヴァは自分の太ももの上に乗せた。
そして、京之助のおでこに手を乗せるとちょっとした魔法を発動させて、熱くなっている体を冷やしてやる。
冷やされた京之助は気持ち良さげに微睡み、余計な力が抜けた。
最後にもう片方の手で指を鳴らせば、他の通路からやって来たゴブリンが氷漬けとなる。
「あ……レベル上がった」
「ほぅ……丁度こっちはSPが減った所だ。これからのレベルを上げる為にも集中出来るようにしておかないとな」
「エヴァも慣れたよな」
「なんだ。ぼーやは私とするのは嫌か?」
「いや、すげー嬉しい大好き。やってる最中に血を吸われ過ぎるのは死にそうだから加減して欲しいけど」
「む……そうか、少しは抑えるか」
京之助とて男であり、エヴァ見たいな可愛い子とするのは嫌でないし、好きである。
但し、血と精の両方を吸われると言うのは本気できつい事であった。
本来であれば底なしの精力になる筈が、三、四回戦位で果ててしまうほどに。
「……そんなにか?」
「俺の血はそんなに美味いの?」
そう言うもすぐに撤回したがるエヴァに京之助は不思議に思う。
それ程までに自分の血は美味い物なのだろうかと。
「美味いと言うのもあるが……安心するんだ」
「ん?」
「血を吸われる事に恐れもなく、魅了や洗脳でもない……自ら吸わせてくれると言う安心感だ」
「あぁ……なるほど、まぁ、今断ったがな!!」
「揚げ足を取るな。それにぼーやの話は加減の話だろうに」
カラカラと笑う京之助にエヴァはため息を付いて頬を引っ張る。
何とも気持ち良く頬は伸びた。
ダンジョン内の危険伴う場所であったが、二人は気にせずのんびりであった。
「あ?」
「ん?」
そんなのんびりとした空気であったが、突如終わりを迎えた。
京之助とエヴァは同時にその存在に気が付く、先ほどゴブリンを氷漬けにした通路とは逆の方から足音が聞こえたのだ。
それはゴブリンの物でもコボルトの物でもなく、人間の靴の音であった。
「あー……ダンジョン解禁の二日目か」
「誰か知ってるのか?」
「うん、まぁ……楽しすぎて忘れてた。主人公達だわ」
「関係はどうする?」
「そうだなー」
………
……
…
「なんか寒くない?」
「まじか……この先は玄室だろ?何かのトラップか?それともボスモンスターとか?」
異常に気付いたのは、主人公パーティーの麻衣であった。
通路を歩いて次の玄室に向かっている最中に冷気を感じたのだ。
その言葉を聞いて現在『いのちをだいじに』を作戦としている誠一が辺りを見渡す。
「レベルも上がってる事ですし、大抵の敵であればその……」
「むっ?」
「あぁ……まぁ、叶馬がいるしな」
「ひき肉にしちゃいそう」
「……」
そんな彼を落ち着かせるのは静香である。
今までの経験と常識を破壊する人が居ると力説し、誠一と麻衣は思った事を素直に口にした。
ある意味で信頼の言葉であったのだが、当の主人公は『いや、出来ないし。しない。遺憾である』と少し不服そうである。
「……」
「叶馬さん?」
「……まじ?」
「うぇー……」
そんな日常と変わらない様な和気あいあいと歩いていると、叶馬がぴたりと止まり、無言のままアイテムボックスから先ほど手に入れた『棍棒』と言う名の鉄の塊を取り出す。
それに驚いたのは他の三人だ。
叶馬はそんな三人に口の前に一本指立て、静かにするように伝えた。
今までダンジョンを歩いていたが、こんなにも真剣な彼を三人は見た事がない。
それを意味するのは、真剣にならなければならない相手がこの先に居るという事だ。
「……逃げない?」
「追われたら終わりだ。容易い相手ではない」
「あぁー……全て上手く行くと思ったらこれかよ」
「とにかくやれる事をやりましょう」
取り敢えず、全員で覚悟を決めてじりじりとゆっくりと足を一歩一歩進める。
静かに感づかれない様に、どうせ戦うなら
「……人じゃん」
「生徒ですね?ここに居るという事は先輩でしょうか?」
そんな緊張気味に玄室の入口に着くも、相手には既に来る事がバレており、奇襲は失敗した。
玄室に居た京之助とエヴァの視線はぴったりと叶馬達の方を向いていたのだ。
しかし、奇襲は失敗したものの、其処に居た敵と思っていた
と言うのも玄室に居た京之助達は先ほどから姿勢を一切合切変えていないからだ。
つまりは京之助は寝転がり、エヴァはそんな彼の頭を太腿の上に乗せている。
緊張のきの字もない二人だからこそ、静香と麻衣の二人は緊張が解けたのだ。
「……っ!」
「まじかよ。いつか会うと思ったけどここでかよ!」
逆に男子の二人は別の感情が心を支配していた。
叶馬は一目見て相手を強敵と判断したが故に楽し気に、誠一は情報を集め回っていたが故に表情を引き吊らせる。
「ほぅ……あいつか」
「そそ、強そうでしょ」
そんな四人を気にする事無く、京之助とエヴァは主人公の叶馬の印象を話し合っていた。
「誠一……知っているのか?」
「まーな……と言いたいところだけど、知ってんのは男子の方だけだ。一年辛組のお前みたいな奴だ」
「なるほど……インドア派のコミュ症か」
「何でそーなんだよ。お前みたいにやべー奴って意味だ」
「……遺憾である」
叶馬と誠一もまた二人に対しての話をする。
誠一としては十分にやべー奴だと教えたかったのだが、叶馬の奇抜な言動に虚を突かれて気が抜けてしまった。
頭をがりがりと搔きむしり、どう伝えようかと悩みだす。
「二人共どうしたの?」
「えっと……叶馬さん?」
「お前らも緊張を持て、緊張を」
「えー……だって危なくなさそうじゃん。男の人は怖いけど。女の子は可愛いし、お人形さんみたいだよ?あんな子に懐かれてるなら悪い人じゃないって」
「一応敵意みたいなのは感じませんし、男の人は叶馬さんに似たような雰囲気ですし」
そう言って麻衣はエヴァを指差し、誠一に訴えかける。
指を指されているエヴァ達は気にする事無く、おいでおいでと手招きしていた。
「ほら、おいでって」
「おい、麻衣、静香」
「何よ」
「あっちの通路見てみ」
「えー……え?」
「……っ」
誠一にそう言われて素直に逆にある通路を見て、二人は言葉を失う。
薄暗い為、集中して見ようとしなければ気付かなかっただろう。
誠一の言った場所には、綺麗なゴブリンの氷像があったのだ。
「あはは……ごめんね。ふ、二人の仲を邪魔するのもわ、悪いし」
「ほ、ほら……叶馬さんも邪魔は、何で向かってくんですか!?」
「強敵とお見受けする。一戦交え申したい」
「あーもうっ……一回止まれ!落ち着け!」
麻衣は全力で拒否し、静香は叶馬の暴走を抑え、誠一は頭を抱えた。
何とも個性的な四人であり、騒がしいパーティーである。
「なー見てると楽しいだろ?」
「……まぁな。どっかの女子中学生共みたいだ」
「あー……」
「気にするな」
そんな四人を見ながら京之助とエヴァは立ち上がる。
「ふぅ……休憩終わり、悪いけど行くわ」
「……ふんっ」
「それと俺等、特に女の子の事は上に報告しないでくれると助かる。そうでないとこっちも
「なっ……!」
「殴り合いは見事だったよ」
叶馬達が後ろから攻撃する気がない事を知っている為、遠慮なく後ろを向いて京之助達は立ち去る。
その際に手をひらひらと振りながら、京之助がとんでもない事を口にした。
エヴァが指を鳴らすと、通路を塞いでいたゴブリンの氷像が砕け、光の粒となり京之助達の行く先を開ける。
「ちょっ……っ!だ~~!!あれ見られてたのかよ!いっちゃん知られたく奴に秘密握られてる!」
「えぇ……あの子、可愛いのにこわっ!指でぱっちんってぱっちんで氷が砕けて!」
「不覚でしたね。まさか見られていたとは……」
「むぅ……気配はなかったのだが?一体どこで……」
既に薄暗い通路の先に消えていった京之助達に四人が四人共に騒ぎ出す。
もちろん、京之助達は叶馬と誠一の殴り合いの喧嘩を見ていない。
単純に原作知識を利用して、上と繋がっている誠一に対して、エヴァの事を口止めをしただけである。
それを知る由もない四人は、暫くの間、あーでもない、こーでもないと話し合った。
こうして主人公パーティーの初めての邂逅は『謎の強い二組』という印象で終わった。