幼馴染のツノを触りたい 作:ツノ角
幼馴染のツノを触りたい。
そんな欲求が小さい頃からずっとあった。
藍色の髪の隙間から伸びている滑らかで艶やかに怪しく光る紫色の一対のツノ。
頂点は丸みを帯びつつ根元に近づくにつれて徐々に太くなっていく様は、まるで芸術品のようだった。
そんなツノを持つ悪魔族の幼馴染に対して俺は、『触らせて欲しい』という言葉が言えなかった。
というか言えるわけがなかった。
初めて出会った頃の彼女は、元気溌剌男勝りのリーダー気質でそんな子のツノを触らせて欲しいなんて言った日にはどんな目に遭うか分からなくて言えず。
成長して学校に入る頃には男女でなんとなくグループも分かれて来るからなんとなく言い出しづらくなって言えず。
現在に至ってはネットで『ツノ持ち 触っていいか』なんて調べてみたら『好感度による きもい』なんて検索結果が出てしまう始末。もしこれで聞いて断られたら気まずくて一生顔合わせらんなくなるだろうが!! と枕をベッドに投げつけたのも最近のこと。
そんな俺の想いを知らない幼馴染―――リャンは、オジさんとオバさんが泊まりの用事で居ないからと昼飯を食べに隣であるウチへと遊びに来ていた。
「ねー、お腹すいたー」
リビングのソファに仰向けで寝転がりスマホを弄りつつそんなコトを言う彼女は、短パンに半袖というめちゃくちゃラフな格好でまるで自分の家の如く寛いでいる。
それに対して台所に立っている俺は、冷蔵庫の中身を確認しながら返事をする。
「んな急に来て言われてもなぁ」
内心、学校では仲の良いグループが違うため喋ることのないリャンのラフな姿にドキドキしながらも平静を装いつつ昼飯を考える。
えーっと今ある材料から考えると……。
「なんもないや。カップ麺でいい?」
ウチの両親も不在であり妹も友達と遊びに行っているため、わざわざ来てもらってなんだけどコチラの家にも何もなかった。
そんな背景がありつつの妥協案であるカップ麺。
振り返りつつ言った提案を聞いたリャンは寝転がった体勢のまま顔だけ上げると、ぱっちりと大きな赤い瞳で俺を見つめつつ口を開く。
「とんこつなら良いよー」
軽く言われたリクエストに答えるため戸棚を確認すれば丁度とんこつが二つあった。
それを手に取り机へと置くと電気ケトルへと水を入れていく。
「丁度あったから作るわ」
「りょー」
リラックスしきっている様子のリャンの顔はスマホに隠れて見えないものの、短パンから伸びる彼女の白い足が裸足で来ているため爪先まで隠すコトなく曝け出されている。
悪魔族といえば昔は黒い肌が大半を占めていたらしいものの現代では各種族の血と混ざりあったためか白い肌など他の色の肌を持つ者も多い。
リャンも悪魔族と天使族とのハーフのためか昔から夏でも肌が焼けるコトなく白かった。
小さい頃は足なんて見ても何とも思わなかったのに……俺の心は薄汚れちまったんだ。
一人勝手に落ち込みながらも沸いたお湯をカップ麺へと注ぎ入れ時間を待つ。
それまでは互いに何を喋るでもなくスマホをいじった。なんというか話せば別に気まずくないものの積極的に話すかと言うとそうではない、みたいな微妙な距離感が今の俺とリャンの関係だった。
「時間だぞ」
「はーい」
返事をしながら立ち上がったリャンが向かいの席に着くのを待ってから食べ始める。
夜更かししてる時に小腹が空いて夜食として食べてるから特に思うところもなく食べ進める俺に対して、肩の辺りで切り揃えられている藍色の髪を耳にかけてラーメンを食べるリャンの姿は非常に可愛らしい。
湯気があがってほんのり湿っているあの角とか擦ったら良い音なりそう。なんなら俺が濡らしてタオルで拭き上げたい。
「ん、なに?」
「えあ? いや、なにも? 久しぶりに一緒に食べるなと思っただけ」
つい見すぎてリャンから声をかけられたものの何とか言い訳を口にしつつラーメンを啜る。
そんな俺の誤魔化すための言い訳を聞いたリャンは、なぜか一瞬黙ったもののすぐに学校で見せるような笑みを浮かべる。
「なに〜? ルイってば、私と一緒にご飯食べたかったんだ?」
「は、はぁ? ちが……」
揶揄うように言われた言葉に対して咄嗟に反論しようとした頭に急ブレーキがかかる。
角を触らせて欲しい相手に対して『違うに決まってんだろ! 誰がお前と!』なんて言ってしまえば好感度が下がるのは明白。ここは恥を忍んででも本心を伝えつつ好感度を稼ぐべきだ。
否定の言葉が出かかった口を進路変更させて内容を変える?
「……わないけど? そうだけど、何か? 俺はリャンと一緒にご飯食べたかったけど?」
「……へ?」
言い終わるやいなやラーメンを啜って誤魔化す。
気持ちいつもより音を立てて啜ってリビングの静寂をなるべくかき消せるように頑張る。
口に出したはいいけどめちゃくちゃ恥ずかしかった。なんだこれ。初めてこんなに顔熱いんだけど。どうなってんの俺の顔。こんなんでいつかツノ触らせて欲しいとか言えんのか。
なんて俺が考えている間に。
「ヘーソッカソッカー」
と、どこかカタコトにも聞こえるような声で返事をした後、ラーメンを食べるのに集中しだしてしまった。
一体どんな表情で言ったのか、食べているのか俺にはもう見るコトができなかった。
◆
ラーメンを食べ終えた後、片付けをした俺は椅子に座ったままスマホを弄ってるリャンへと確認のために声をかける。
「そういや晩飯はどうすんの? ウチで食うなら序でに作るけど」
昼飯は散々な結果になったものの晩飯なら妹も親も同席するため場が変になることもない。
親は言わずもがな妹もリャンのことは小さい頃から姉のように慕っているし懐いている。
どうも俺が居ない時に二人で遊んだりもしてるらしいし……。
「食べたーい。あと泊めてー」
言いつつ机の上に上半身を投げ出してだらけ始めたリャンの姿に苦笑しつつ、スマホを開いて家族に連絡する。
するとすぐに両親からは了承と日用品についての買い出しの追加メモが送られてきた。
妹からはまだ来ないもののどうせ了承だろうと予想してリャンに伝える。
「泊まって良いってさ」
「やったー! 子供の頃以来だねー! ミナちゃんは何時ごろ帰って来るの?」
返事を聞いて両手を上げて喜びを表現したリャンの口から出た妹の名に対して、普段の帰宅時間を思い出しながら答える。
「いつも通りなら夕方くらいかな? 今日は友達と遊び行ってるから分かんねーけど」
「ふーん」
聞きながらスマホを弄るリャンのツノを見て唾を飲み込みながらもなんとか目を逸らし、財布を手に取るとそのまま扉へと向かう。
「じゃ、ちょっと買い出し行って来るから。誰か来ても出なくていーよ」
「はーい」
机にだらけたまま片手を上げて返事をしたリャンの姿に、学校とのギャップを感じつつも小さい頃とそこまで変わってないことに安心しつつ外へと出た。
誤字報告ありがとうございます。